MTFのTS小説は基本的に男性(元男性)の視点と感性で描かれます。LGBTのうちLGBは自分が男女どちらが好きかという性的志向の問題で、TすなわちMTFを含むトランスジェンダーの性的志向はどちらもあり得ます。高校まで男子として通ったMTFの人(重度の性同一性障害の人からMTFの傾向がある人まで含める)は初恋の相手が女子である場合が多いと思います。
ところが、それまで男性と性的な交わりを持つことなど考えられなかった人でも、身体の女性化が始まり女性として生活するようになると、かなりの割合で男性に恋愛感情を抱き男性との結婚を夢見るようになるのは不思議なことです。性同一性障害の生物学的男性は脳の構造が解剖学的に女性に近いという説が有力ですが、それなのに性的志向が女性から男性に変化する人が多いのは不可解です。人間は社会に適合し性別による役割の違いを受け入れたいと望む傾向が強く、そしてMTFとは社会的に女性の役割を演じたいという願望でもあるからではないかと思います。
さて、性転のへきれきTS文庫の基本は主人公「僕」の第一人称で、生物学的男性である「僕」の視点、性感と感性で描きます。「僕」は望む望まないにかかわらず何らかの事情で女性化へと追いやられるというTSストーリーが大多数を占めています。元々MTFの傾向がなかった(少なくとも自覚していなかった)主人公の場合が多いので、主人公のメインの相手役が女性となる小説の方が、男性と結びつく(いわゆるBL-TS)より多いです。集計したことはありませんが、おそらく8:2程度でしょうか?
主人公の相手役が女性の場合、主人公が女性化した後は女性どうしの関係になります。MTFの側はそれでいいのですが、女性から見て、元々美少年系の男子だと思って付き合っていた人が女どうしになってしまうと、引き続き恋愛の対象になるのか? それは非常に疑問です。もしレズビアンの女性だとすると、そもそも最初から美少年を相手にするかどうかが疑問です。
とにかく、世間に存在するMTFのTS小説の大半と同様、性転のへきれきTS文庫(及び日英TS文庫)の小説ではMTF(生物学的男性)の立場でものを見て女性の気持ちを勝手に解釈している状況です。それがいわゆる「MTFレズビアン小説」の実態だと思います。
話が長くなりましたが、ここにご紹介する4作品は、MTFとレズビアン女性との関係を、MTFではなくレズビアン女性の第一人称「私」でレズビアン女性の視点と性感、感性で描いた真正「レズビアンMTF小説」です。これらはいずれも日英TS文庫の小説です。
禁断のインスピレーションで初めて支配的な女性「私」の第一人称で相手役の男性を女性化させるストーリーを小説にしました。
女性がMTFの人を好きになる場合、その女性はレズビアンなのか、それともノーマルなのかということは難しい質問です。そもそもレズビアンの女性がMTFを好きになるのかどうか、非常に疑問です。タチの女性は弱く美しく従順なネコを好きになるのが普通であり、現実世界ではMTFはそんなネコに勝てるほど弱く美しくないのが普通です。
その点を突き詰める試みとして「レズビアンMTF三部作」を手がけました。あの頃の私はおてんばだった、恋のセレンディピティ、最後の障壁の3作品です。主人公はレズビアンの傾向を多かれ少なかれ有する独立性の高い女性として「私」の第一人称で語ります。MTFの登場人物は、相手役または重要な第三者となります。従来の作品と異なるのは、徹底的に「私」の立場を大切にして主人公の女性の考え、感情、感性を大事にして書いたということです。
如何にユニークな試みかということを説明するために長々と書いてしまいましたが、TS小説の作家がどんなことを考えているか、一端をおわかりいただけたでしょうか? 4小説のリストを短い説明付きで記載します。題名をクリックするとその小説の説明ページに移動し、試読をクリックするとその小説の試読ページに直接飛ぶことができます。
レズビアン女性の相手役としてMTF(元男性)が登場する小説
- あの頃の私はおてんばだった 試読
北インドの貧しい農家の娘として生まれ男権社会の辛酸を嘗め尽くしたアーバは2人目のレズの恋人の中に本当の愛を見出す。 - 恋のセレンディピティ 試読
女弁護士シルヴィアが「女性による女性のための探偵事務所」の看板弁護士として数奇で心躍る「事件」を経験する。シルヴィアは14歳の初恋体験がトラウマとなっており、女弁護士やアシスタントの女性と肉体関係を持っている。 - 最後の障壁 試読
レズビアンMTF三部作の最後の作品。主人公の女性の女子高時代の親友トリシュナ(生物学的男性)が重要な役割を果たす。 - 禁断のインスピレーション 試読
主人公はテオと言う名前の卒業間近のイギリス人男子高校生だがストーリーは34歳の女流作家アリシアの第一人称で書かれており、アリシアの視点でテオが女性化する様子が描かれる。アリシアは17年前にレイプされ、恋人だった女友達を失った暗い過去がある。その女友達と似たテオに出会って二人の間に恋が芽生える。
これは性転のへきれきTS文庫、日英TS文庫、その他の桜沢ゆうの出版物を紹介するHPと桜沢ゆうのブログを兼ねたサイトです。桜沢ゆうは千葉県在住の作家で、1997年に処女作「性転のへきれき(ひろみの場合)」を出版して以来創作活動を続けており、数多くのロマンス小説、ファンタジー小説、サスペンス小説、ソフトSF小説などを出版しています。作品の多くは性同一性障害、性転換のテーマを扱っています。小説の分類としてはTS小説が多く、その他は純文学となります。