舞台女優の秘密:主演女優の交通事故で代役に指名されたのは若手男優だった

桜沢ゆうの新作「舞台女優の秘密」が日英TS文庫の11番目の小説として出版されました。

原作は約1週間前に出版された英語小説”As You Like It”で「舞台女優の秘密」はその日本語版です。TS小説には違いないのですが、かなりシリアスな大人のロマンス小説であり、主人公の17歳から36歳までの波乱に満ちた生涯が描かれた作品です。

主人公は町の小さな劇団に所属して舞台俳優を目指す17歳の高校生マックスです。マックスは同じ高校に1年前に転校してきたアイリスと付き合っています。

マックスが所属する劇団はシェイクスピア劇が専門です。その町はストラットフォード・アポン・エイヴォン。そう、シェイクスピアの生まれ故郷として有名な町です。

マックスはまだまともな役を貰ったことが無く、次回上演される「お気に召すまま」という劇でも、「よくても配役だろう」と思っています。ところが、配役の発表の日にはびっくり!タッチストーンの役が与えられたのです。タッチストーンは公爵から追放されたロザリンド(ヒロイン)とその従妹のシーリアのお供をしてアーデンの森へに行くの逃避行に同行する道化師で、セリフの多い重要な役です。

マックスは大喜びで練習に励み、マックスは、劇団の練習が終わった後も、一人で残って遅くまで練習します。一人なので、ロザリンド、シーリア、タッチストーンの三人分のセリフを一人芝居形式で練習をしているところを監督に見られ、演技能力を認められます。

公演直前にリハーサルが行われます。ところが、主演女優が交通事故で入院!代役が用意されていたのですが、実際にやらせてみると悲惨な演技で、監督たちは真っ青になります。その時、監督がマックスの一人芝居を思い出し、「お前、ちょっとロザリンドのセリフをしゃべってみてくれ」と言われ、渋々ロザリンドのパートを皆の前でやってみせます。

「素晴らしい、今回の公演のロザリンド役はマックスにやってもらう」

監督に言われて「僕、男なんですけど」と抵抗するのですが……

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大学生の主人公が軽井沢のホテルにウェイトレスのバイトに行くTS小説を「お気に召すまま(副題:異性の異性は同性?)」というタイトルで出版したのは、今年の6月末でした。その小説はシェイクスピア劇とは何の関係も無かったのですが、男性が女性のフリをしている時に別の男性と恋に落ちるという、「二重異性装」の状況にかこつけてシェイクスピア劇の題を借りて「お気に召すまま」という題名にしました。

その後、シェイクスピアの「お気に召すまま」に深く絡んだ英語小説を書いてしまい、7月17日に「As You Liket It」というタイトルで出版しました。結果的に自分でも気に入る小説になったので日本語でも出版しようと思い立ち、急きょ日本語版を書きました。それが本書です。しかし「お気に召すまま」というタイトルは軽井沢ウェイトレスの小説に使用済みなので、困ったことになったと思いました。

結局、ストーリーの内容に適した題にするしかないということで、「舞台女優の秘密」というタイトルで出版することにしました。

この物語の主人公はシェイクスピア劇「お気に召すまま」の役者として道化を演じるはずが、主演女優の交通事故により代役としてヒロインのロザリンドを演じることになります。

「お気に召すまま」のストーリーに合わせて、主人公がオーランドー(主役)を演じている男性と私生活でも恋に陥り、その男性から望まれて性転換をしてめでたしめでたし、二人は幸せな人生を送りました、というのが、当たり前のTS小説の筋書きなのですが、私生活での恋人をオーランドーにしなかったのが、我ながらいい考えだったと思います。

日本語版で苦労したのはシェイクスピア劇の翻訳です。「舞台女優の秘密」には主人公、オスカー、ブレイクがシェイクスピア劇のセリフを言うシーンが3ヶ所ほどあります。英語版の小説にそのシーンを書くにはシェイクスピアの原文をそのまま引用すればよいのですが、著作権は著作者の死後70年間有効ですので、日本語訳についてはまだ著作権が残っています。(丁寧に探せば、既に著作権が切れた古い訳本が見つかるかもしれません)

結局、私は引用部分を自分で日本語訳しなければなりませんでした。(その翻訳部分は私の死後70年間、私の著作権が有効です!)

どこかで書きましたが日本語と英語は文章構造が異なり、単語も一対一では対応しない(意味が重なっている単語もある、という程度に考えた方がいい)ので、正確な翻訳は困難です。しかし、自分が著作権を持つ英語小説を自分で翻訳するのは簡単です。意訳すればよいし、より分かりやすく、面白くするために文章を挿入したり変更するのも「私の自由」だからです。

でも、シェイクスピア劇をいい加減に翻訳することは許されません。著作権の観点では問題は無いのですが、シェイクスピア劇は人類の宝であり、私にとってシェイクスピアは世界最高の芸術家ですので、自分としてベストな翻訳をしなければならないと思うからです。

ところが、シェイクスピア劇を日本語訳するのは困難ではなく不可能です。何故かと言うと、シェイクスピア劇の大部分は韻文で成り立っており、厳選された単語を並べて一言一言が機知に富むやりとりになっています。韻文とは、日本語で言うと「ダジャレ」であり、シェイクスピア劇の中のやり取りとは、最高のお笑い芸人がテンポよくダジャレの掛け合いをしているようなものです。テレビの「笑点」という落語家の掛け合いの番組がありますが、「笑点」を見ていて共通点を感じることもあります。

日本語のダジャレを英訳できないように、英語のダジャレを日本語に訳すのは不可能です。すなわちシェイクスピア劇は、原文とはかけ離れた意訳しかできないのです。

ただ、シェイクスピア劇の解説書は豊富に存在しており、現代英語訳本もパブリックドメインのものが手に入りますから、内容を理解するのは簡単です。

本作品中に出てくるロメオとジュリエットの出会いのシーンのやり取りは、映画でも必ず出る部分ですので、ご存知の方も多いと思います。日本語版を書きながらシェイクスピア劇の素晴らしさを再認識し、そのうちにロメオとジュリエットを題材にしたTS小説を書いてみたいと思った次第です。

【追記】「舞台女優の秘密」の2020年4月改訂版には英語版の全文が付録として収載されています。


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