性転のへきれきTS文庫の新作、お気に召すまま(副題:異性の異性は同性?)が出版されました。
主人公は本条夏樹18歳で、千葉市の大学の1年生です。物語は10月上旬に始まります。
クラスの男子にとって女子ランキングNo.1と言えば篠原由梨で、夏樹の憧れの女性ですが、言葉を交わしたことはありませんでした。
由梨は慶子、明美といつも一緒に居るのですが、ある日、夏樹は明美から学食に呼び出されます。「由梨が夏樹と話がしたいと言っている。」行って見ると、頼みたいことがあるので、その日の夕方に家に来て欲しいと言われます。
夏樹が喜び勇んで由梨の家に行くと、由梨からある頼みごとをされます。夏樹はそれを快諾するのですが、よく聞いてみると、簡単なことではないことが分かり、夏樹は承諾を撤回します。
結果的に、夏樹はその年のクリスマスから新年まで軽井沢の奥で過ごすことになるのですが……。
「お気に召すまま」は夏樹、由梨、慶子、明美の4人の18~19歳の心躍る体験と交流を描いた長編TS小説です。
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この小説の「お気に召すまま」というタイトルはシェイクスピアの最高傑作から来ています。男装したロザリンドとロザリンドが心を寄せる男性オーランドー(ロザリンドを一目見て相思相愛になったばかりなのに、男装したロザリンドとは気づかずに男性として接する)とのやりとりが見どころになっています。登場人物は男性(オーランドー)と男装した女性(ロザリンド)であり、それほどドキドキさせる状況ではないはずなのですが、当時(西暦1600年ごろ)の観客にとっては倒錯的な性的高揚を誘われる場面でした。
それは、ロザリンドを演じていたのが女性ではなく美少年(若い男性)だったからです。17, 18世紀の英国では歌舞伎と同じように男性が女性役を演じており、観客は第一幕のロザリンド(スカートをはいた女性)を演じているのが若く美しい男性であると意識しながら観劇していたのです。
そのロザリンドが第2幕では男装をしてギャニミードという男性に扮して登場します。観客から見ると「女性役を演じている美少年が、男性のふりをして、恋愛対象の男性とやりとりをする」という二重倒錯状況になるわけです。しかもギャニミードに扮したロザリンドは、オーランドーから恋の悩みを聞き出し、解決策として自分を恋人に見立てて口説く練習をすればよいと提案し、オーランドーが男性相手に口説きの練習をする様子が描かれます。
私は以前から、シェイクスピア時代の観客が「お気に召すまま」を見た時の「男~女~男~女」の二段階異性装のシチュエーションを小説にしたいと思っており、いくつかのあらすじを温めていましたが、今回その第一弾を書くことができました。
シェイクスピアの「お気に召すまま」と異なる点は女に扮した時の恋愛対象が本物の男性ではなく男装した女性だということであり、さらにもう一つの性倒錯が上乗せされているということです。
機会があればシェイクスピア的な王道(女として恋していた男性の前に男装して現れて、気づかれずに男対男で付き合い、最終章では女性として現れてめでたしめでたしとなる)の小説も書いてみたいものです。
これは性転のへきれきTS文庫、日英TS文庫、その他の桜沢ゆうの出版物を紹介するHPと桜沢ゆうのブログを兼ねたサイトです。桜沢ゆうは千葉県在住の作家で、1997年に処女作「性転のへきれき(ひろみの場合)」を出版して以来創作活動を続けており、数多くのロマンス小説、ファンタジー小説、サスペンス小説、ソフトSF小説などを出版しています。作品の多くは性同一性障害、性転換のテーマを扱っています。小説の分類としてはTS小説が多く、その他は純文学となります。