中学の入学式の朝、母が「ごはんですよ」と僕を起こしに来ました。
昨夜、ベッドの横にズボンとカッターシャツと下着を置いて寝たはずなのに見当たりません。
「お母さん、今日着る服をここに出しておいたのがなくなってるんだけど」
すると母が壁のハンガーを指さしました。
「ここに掛けてあるのを着なさい」
そこにはセーラー服が掛かっていました。
「お母さん、それ、お姉ちゃんの中学の時の制服じゃないか」
「そうよ。今日から毎日この制服で学校に行くのよ」
「僕、男の子だよ」
「今日から女の子になりなさい」
僕は母が冗談を言っているのだと思って、タンスの中から別の服を取り出そうとするとタンスは空っぽになっていました。
「男の子の服は要らなくなったから全部捨てたわ。今日からお姉ちゃんのお古を着るのよ」
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これはTS小説の最もクラシカルで甘美なパターンです。
男子が女子の制服を着せられて女子中学生、女子高校生として登校することになる小説は、男子サラリーマンが一般職の制服でOLとして働く小説と並んで、常に人気が高い領域です。
性転のへきれきTS文庫でこのカテゴリーに属する小説は8作品です。シンプルかつストレートに「今日からあなたは女の子よ」と言われて女子の制服を着させられるのはスイッチと制服はジェンダーレス、フェイク動画で窮地に追いやられて女子高生になるのがフェイク女子高生、深い家族愛により自らを犠牲にする感動的なHLAの絆、星空の下で女子高生(大学浪人)として衝撃の2週間を送るのが公園のオカマ、標高1200メートルの山中の全寮制の高校で女子として3年間を過ごすのが性別という名のセレンディピティ、小学校6年の時に大事なものを犬に食いちぎられたのが性を失った少年、そして耐震性データ偽造事件の責任を取って辞職した父親とのダブルで女の子になるよう追いやられるM度の高い衝撃の小説、逆転父母です。
いずれも一度読むと何度でも読み返したくなる小説ですが、私自身があえて2つだけ選ぶとしたら公園のオカマと性別という名のセレンディピティになるでしょうか……。このカテゴリーは数は8作品しかありませんがかなり充実しているので、いずれの小説も是非お読みいただきたいと思います。
フェイク女子高生
高校生の修平はSNSにフェイク動画を流されてクラスから総スカンを食らう。ホームルームで潔白を訴えてその場は収まったが、悪意の偽ツイートによって親が学校に呼び出される事態に。修平は転校を余儀なくされる。
制服はジェンダーレス
主人公は中学3年の卒業式を終えて帰宅すると、母から父と離婚したことを知らされる。主人公は私立高校への進学が決まっており授業料だけは父が払うが、それ以外の衣食住の費用は母が働いて工面するという内容の離婚協議が成立していた。専業主婦だった母は法律事務所に事務員として就職するが、母子家庭の経済事情は厳しく、母から驚くべき無理難題を押し付けられる。
性別という名のセレンディピティ:今日から女の子になりなさい
主人公の水上真央は両親の離婚を機に全寮制の栗山セレンディピティ国際学校に入学し、予想もつかない出来事に次から次へと遭遇する。奥鬼怒山系の美しい大自然の中で性別とは何かを模索する高校生活が始まる。
HLAの絆:僕は父を救うためなら男でなくなってもいい
夫婦と息子二人のごく普通のサラリーマン家庭。子供が中1と小3の時にアメリカ駐在から帰国した家族は幸せな生活を送っていた。次男が中2の時に一緒に風呂に入っていた父親は次男から体の変調を指摘される。翌日クリニックに行って診察を受けた結果、精密検査のために大病院へ。父親は即入院、手術となった。命はとりとめたものの重大なハンディを抱えて苦しむ父親を家族が支える。それにも関わらず自殺未遂……。家族が一緒に困難を乗り越える姿を描いた愛のドラマ。
スイッチ
サッカー部のエースの小笠原は女子にモテモテ。調子に乗りすぎて、先生から集合がかかった時にも気づかずに女子とのおしゃべりに夢中になっていたら、先生から「お前は女子かっ!」と怒鳴られ、翌日からは女子の制服で学校に来いと言われた。小笠原はセンスの良い冗談でその場を凌ごうとするが、それが却って裏目に出る。小笠原のおしゃべりの相手は成績が学年トップの夕子だったが夕子が「私も同罪です。小笠原君を罰するなら私も罰してください」と名乗り出て、「小笠原君が女子になるなら私は男子になります」と主張したのだった。「それならそうしろ」と言われて二人は家に帰るが、先生はどうも本気なようだったと心配になる。涙なしには読めないシリアスなラブストーリー。
公園のオカマ:今日から女の子になりなさい
主人公は大学1年生の秋野。親友の有田が公園で巨大なオカマと遭遇する。秋野はオカマが公園の駐車場で車中泊をしていると主張し、主人公と一緒に見に行くが、オカマにつかまって車中泊旅行に同行することになる。
逆転父母:今日から女子中生になりなさい
耐震性データ偽造事件の責任を取って辞職した枕崎薫は、社会的批判や損害賠償が家族に及ぶことを回避するため、離婚して全資産を妻に譲渡した。無職・無一文となった枕崎薫は、妻の家に居候させてもらう身となる。その日を境に、枕崎薫と葉山有希子(元妻)の関係は180度変わるのだった。父と息子ダブルのリアルなTS長編小説。
性を失った少年
小6の時に不幸な事故によって男性のシンボルを失った俊樹は、それを隠して通学するが、立って用が足せなくなった身体で隠し通すことは不可能だった。その秘密は男子の間にあっという間に知れ渡り、俊樹は深い疎外感を味わう。そんな俊樹にとっての救いは義理の姉になった洋子だった。俊樹と同級生たちの心の変化や、俊樹が中学、女子高、女子大に進み運命の人と結婚するまでの心と身体の変化がリアルに描かれる、性転のへきれきらしい淡くてシリアスなエンターテインメント作品。
これは性転のへきれきTS文庫、日英TS文庫、その他の桜沢ゆうの出版物を紹介するHPと桜沢ゆうのブログを兼ねたサイトです。桜沢ゆうは千葉県在住の作家で、1997年に処女作「性転のへきれき(ひろみの場合)」を出版して以来創作活動を続けており、数多くのロマンス小説、ファンタジー小説、サスペンス小説、ソフトSF小説などを出版しています。作品の多くは性同一性障害、性転換のテーマを扱っています。小説の分類としてはTS小説が多く、その他は純文学となります。