性転のへきれき「ひろみの場合」突然の性転換:今日から女の子になりなさい

性転のへきれき「ひろみの場合」突然の性転換:今日から女の子になりなさいは1997年11月に「性転のへきれき・ひろみの場合」として電子出版されたオンラインTS小説の草分け的な作品です。2015年4月に第2部が追加され2倍余りの長さの小説として改訂出版されました。

実は初版の公開時点では既に第2部は半分以上書き進んでおり、書き終え次第、ひろみの場合の続編として出版する予定でした。ところが、並行して書いていた「かおりの場合」が先に完成してしまい、ひろみの場合の続編は日の目を見ないまま、10数年間眠っていたのです。

第1部は痔の手術を受けるつもりだった主人公が、性転換手術の患者と取り違えられて性転換されてしまうというお話しです。

第2部は性転換手術の直前に怖くなって病院を逃げ出し、取り違えの原因を作った張本人に関するお話です。

自分の意志とは無関係に、間違って性転換させられた普通の男子大学生と、必死にアルバイトをして貯めたお金で性転換手術を受けようとしながら、手術直前に怖くなって逃げ出した男子大学生の2人のうち、どちらが幸せになるのでしょうか。

性転換手術で女性になり結婚してくれる男性も現れた場合、子供を授かるにはどうすればよいのでしょうか。そんなことを考えながら読まれればお楽しみいただけると思います。

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「ひろみの場合」の初版は性転のへきれきシリーズの第1作として1997年11月にネコミケ(Nekomike)というオンライン出版サイトで公開されました。今はアマゾンを筆頭に電子書籍を出版するサイトが数多く存在しますが、当時はオンライン出版は一般的ではなく、ネコミケは(2003年ごろ閉鎖されたと思いますが)オンライン出版の創世記に重要な足跡を残したパイオニアの一つでした。ネコミケとは世界最大の同人誌即売会であるコミックマーケット(通称コミケ)のネット版という意味でネット・コミケを短縮した命名であり、ミケネコをもじった呼称ではなかったようです。

ひろみの場合に続いて、かおりの場合、由香の場合、洋子の場合、えりの場合、と毎年1作のペースで公開しましたが、その後10年余りの個人的事情による休筆期間を経て、2014年11月に「ユキの場合(よじれた戸籍)」を出版し復帰させていただきました。続いて2015年3月には、手術以外の方法で性転換が起きる初めての作品「美玖の場合(雷に打たれた女)」を出版しました。

休筆していた間も性転のへきれきのウェブサイトは維持されていましたので性同一性障害というテーマにご興味のある方の間で知名度は維持されていたようです。

1997年11月 ひろみの場合「突然の性転換」
1999年 3月 かおりの場合「ラブストーリー」
2000年11月 由香の場合「夫婦スイッチ」
2002年12月 洋子の場合「香港の娼婦」
2003年11月 えりの場合「あなただけが好きだった」
2014年11月 ユキの場合「よじれた戸籍」
2015年 3月 美玖の場合「雷に打たれた女」

ひろみの場合は私の処女作で、今読み返すと素人っぽい感じがして恥ずかしい気持ちになります。また、聞きかじりの情報で書いた小説ですので、実際の手術などのプロセスとは異なる記述が散見されます。それでも公開当時の1997年には性転換小説のカテゴリーのオンライン小説は非常にわずかしかなく、1冊1000円で出版すると「飛ぶように」売れたという記憶があります。ネコミケの担当の方から「こんなに売れる小説を自分も読んでみたい」とのご連絡を頂き、解凍パスワードをお送りしたことがなつかしく思い出されます。

当時、オンライン性転換小説として有名だったのは、先駆者の前橋莉乃さん(立石洋一さん)の作品群で、私も何作か購入して読ませていただきました。前橋莉乃さんの作品は性転換小説というより女装小説に近いものが多く、当時性転換を自分の課題として考える読者にとっての希少なよりどころとして性転のへきれきが大事にされたのだと思います。

ひろみの場合の初版を最近読まれた方は、ひろみが脱毛する際に、高周波脱毛が施術されている事に驚かれたのではないかと思います。執筆当時は脱毛というと高周波脱毛が最も進んだ技術でした。レーザー脱毛技術は1996年に米国で開発されたばかりで、1997年は日本に第1号機が輸入された年でした。

調べてみると、米国のグロスマン博士がルビーレーザーによる脱毛に成功したのが1996年、FDAがレーザー脱毛を認可したのが1999年で、日本にはそれに先立つ1997年にアレキサンドライトレーザーの脱毛器が輸入されました。2000年ごろには永久脱毛というとレーザーが常識になっていましたが、ひろみの場合が執筆された1990年代後半の時点では永久脱毛というと電気針で毛根をひとつずつ処理することを意味していたのです。

2000年には顔面脱毛の年間通し価格が25万円にまで下がっていました。わずか数年の間にそれほど爆発的に普及したのは、レーザー脱毛の効果が素晴らしかったからだと思いますが、それにしても科学技術の進歩とは凄いものですね。

1997年から2015年までの間に、脱毛技術や、世相の細かい点に色々変動があったわけですが、それよりも大切なのは、性同一性障害という問題に関して一般社会で認識されるようになり、不十分ながら理解の芽がめばえ始め、戸籍の変更が可能になったという点です。

世間の認識の変化という点では、2001年10月から2002年3月にTBS系で放映された三年B組金八先生で上戸彩さんが鶴本直という性同一性障害の少女(FTM)を演じたことが、効果的な加速要因になったと感じています。

ひろみの場合が書かれた1997年の日本はその4年も前であり、性同一性障害という単語も知られておらず、性転換というと、誰でも真っ先にカルーセル麻紀さんとモロッコを連想した時代でした。

「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が施行され、特定の要件を満たせば家庭裁判所の審判によって戸籍上の性別記載を変更できるようになったのは2004年7月のことですので、1997年の日本は性同一性障害者にとっては夜明け前どころか漆黒の闇の中という時代だったのです。

性同一性障害に苦しむ多くの人たち、ご家族や支援者の必死の努力の結果起きた社会変化は本当に劇的なものであり、勿論まだ不十分な点は多々ありますが、当事者にとっては明治維新に比肩するというのは大げさですが信じられないほどの改善が実現されたと言えると思います。

第2版を編集していて痛感したのですが、ひろみの場合を書いたころの日本の男性社会は、今とは比較にならないほど横暴で、その後の10数年で大きな好ましい変化がありました。その変化の恩恵はMTFの性同一性障害者も部分的に享受できたと感じます。

この種の根本的な制度変革に関して、日本は欧米先進国に大きく遅れるのが普通です。幸いなことにMTFの性別変更については、現時点ではさほど欧米の後塵を拝する立場にはなっていないと思います。欧米先進国の場合は他の性的マイノリティと合流してLGBT(レズ、バイセクシュアル、ゲイ、トランスジェンダー)が共同歩調をとる流れが強まり、特に社会的影響がより重大な同性婚がLGBTの先頭に立った感があります。

心も身体も社会生活も静かに女性(男性)として認識されることを渇望するMTF、FTMの立場からすると、特に外観上も男性同士のカップルが正式に結婚する動きと共同で活動することは相当な精神的抵抗があると思います。

しかし、そんな狭量な考え方が、日本の社会全体の改革の障害になるのも確かであり、自分とは異なるマイノリティについても、私たちは置き去りにしない心構えが必要と思います。

今回の第2版の出版にあたっては脱毛方法をレーザーに書き換え、看護婦を看護師に修正しました。その他、明らかに不自然と気づく点については、2015年時点での実態に合わせて表現を変えました。細かく見ていくと、修正すべき場所は非常に多く、上述の通り性転換に関する社会常識や認識が劇的に変化しているので、全てを現在の基準に合わせて修正するのは不可能に近いことがわかりました。

結局、100%正確な考証をすると、ひろみの場合は成り立たなくなることを実感し、明らかに時代錯誤と感じる部分だけに修正をとどめることにしました。

ひろみの場合は、性転換小説が希少な時代に、そんな性転換への単純な願望が素直に表現され支持された「草の根性転換小説の古典」とお考えの上で気楽にお読みいただければ幸いです。


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