2018 原作開発プロジェクト 応募作品「未来が見える少女」 | 性転のへきれき

2018 原作開発プロジェクト 応募作品「未来が見える少女」

桜沢ゆうの新作小説「未来が見える少女」が出版されました。前作の「エキストラ」に続き 2018 原作開発プロジェクトに応募するため「五万文字、テーマは映画」という制約の中で書いた小説です。

主人公の深沢芽依は女子高生です。私が書いた小説で主人公が女性なのは「危険な誘惑」だけでした。「危険な誘惑」も主人公を男性にしたMTF版を後で出版したという経緯があります。

「未来が見える少女」にはMTF版はありません。TSは主人公ではなく、別の登場人物に起きますが、第三章に起きるので、読んでのお楽しみということでお願いします。

未来予知能力を身につけた女子高生はひょんなことから国際情勢に翻弄されることになるのですが、一応SF小説とも言えるし、リアル系TS小説でもあり、どのカテゴリーに入れるべきかは読者の方がご判断ください。



未来が見える少女

第一章 落ちるドングリ

部活が終わっての帰り道、公園の遊歩道を歩いていたら何かが頭に落ちて来た。

痛くは無かった。

コツン、ではなく、ポトンという感じで頭に当たった。

何だったのだろう?

その時、風が吹いて何かがパラパラと落ちて来た。ひとつではなく、二つ、三つ。

足元に転がったのはドングリだった。

二、三日前から急に冷え込んだからだろうか、風が吹いて熟したドングリが木から落ちて来たのだ。

足元を注意してみると沢山のドングリが散らばっている。遊歩道の舗装された部分には少なくて道路の端っこの、土との境の部分に沢山のドングリが転がっていた。雨水が道路わきへと流れるように、ドングリも高い所から低い所に転がったのだろう。

よく見ると、木製の高級家具のような光沢のあるドングリは少数派で、土ほこりで汚れたり、割れ目が入って腐りかけのドングリが多い。

「ドングリって美味しいのよ」
田舎の叔母が言っていたのを思い出した。

「シイの実ならそのまま食べられるし、それ以外のドングリはアクを抜いて食べるの」
そう思って見回すと美味しそうなドングリが沢山あった。

でも、きたない!

例え何回も洗ったとしても、犬がオシッコをする道端に落ちているものを食べることは私にはできない。

そうだ! ドングリが地面に落ちる前に手で受け止めればいいんだ!
それは突拍子もない発想かもしれない。ポケットを落ちて来るドングリで一杯にするには何時間もかかるのではないだろうか?

いや、そんな後ろ向きな姿勢からは何も生まれない。とにかくやってみよう。

さっき風が吹いた時にパラパラと落ちる音がした辺りに行って歩行者の通行の邪魔にならない場所に立った。木の枝を見上げて、落ちてきたら受け止めようと精神集中した。

一、二、三、四、五、六……

十一まで数えた時に小さな黒いものがスーッと落ちて来てポトリと地面に落ちた。

速い! 思ったよりはるかに速いスピードで落下した。

イチローのような動体視力があればドングリが止まって見えるかもしれないし、サッと手を動かしてつかみ取るのも不可能ではないだろうが、私には無理かもしれない……。

数秒後にもう一つ、更に十数秒後にまとめて数個落ちて来た。

さすがに速いが、だんだん「球筋」が見えるようになってきた。

数分間見ていると、一瞬だが目の数十センチ前にドングリが止まって見えた。よし、これなら捕れるかもしれない。私の動体視力はイチロー並みなのだろうか?!

次に落ちて来たドングリをさっと手でつかもうとしたが、間に合わなかった。脳が視覚からの情報を受けて手に「動け」いう指令を出し、実際に手が動くまでにはタイムラグがあるのだ。そして手を動かすスピードの問題もある。

やはり一介の女子高生がイチローにかなうはずがない。

でも私はあきらめずに次のドングリを待った。

段々手の動きが俊敏になった。しかし、私の手はドングリが落ちた直後に虚しく空を切り続けた。

やっぱり、私には無理なんだ……。

そう思うと、ふぅーっと力が抜けた。自分が持っている動体視力と瞬発力を最大限に絞り出そうと極度に張りつめていた緊張状態が解けた。

気が付くと、何気なく動かした右手が落下してきたドングリをキャッチしていた。

なんだ、できるじゃない!

次に落ちて来たドングリは左手で捕った。簡単だった。

それまでは落ちて来るドングリをできるだけ高い所で見つけようとして必死で上の方を見ていたのだが、先ほどから目の前に止まった状態のドングリが、実際に落ちて来る前に見えるようになっていた。それを手で横からはたくようにして掴めばいい。

手の中のドングリをスカートのポケットに入れた。
それから後は簡単だった。手の届く範囲に落ちて来るドングリは全て難なくキャッチできた。いや、「全て」というのは言い過ぎだった。ほぼ同時に落ちて来るドングリの数が二個なら右手と左手で一個ずつ捕れるが、三つ以上だと無理だった。

半時間ほどで制服のスカートのポケットがドングリで一杯になった。

気が付くと陽が落ちかけて、辺りが暗くなっていた。

いけない、早く帰ろう。

公園で木から落ちて来るドングリを空中で採取していた女子高生が痴漢に遭う。それではシャレにならない。友達から一生「ドングリ」と呼ばれることになる。私はポケットからドングリが飛び出さないように手で押さえながら、家まで走って帰った。

***

「遅かったわね。またどこかで道草を食っていたの?」
母がニンジンの皮をむく手を止めて私を迎えた。

「私は犬のオシッコがかかった道端の草なんて食べないわよ」

「今のは座布団一枚あげてもいいわ。あらっ、ポケットが膨らんでいるわね。制服のスカートのポケットにむやみに物を入れちゃダメよ。プリーツの形が崩れるから」

「そうよね。制服のスカートの左右にポケットがあればバランスがとれるんだけど……。今日は大事なものが入ってるの。ママにも見せてあげる」

私はシンクの上の棚から手鍋を取って、ポケットの中のドングリを全部入れた。

「まあ、汚い! 女の子が土の上に落ちていたものを洗わずにお鍋の中に入れるなんて信じられない」

「おあいにくさま。この中に落ちていたドングリはひとつもないわ。落ちてくるところを空中で掴んで取ったものばかりよ」

「芽依ったら、よくそんな作り話を思いつくわね」

「本当だってば! 嘘と思うのなら、明日一緒に公園に行って実演してあげる」

「動いている物をさっとつかみ取るなんて、宮本武蔵じゃあるまいし」

「誰、それ? 野球選手? イチローよりもすごいの?」

「宮本武蔵を知らないの? 巌流島で佐々木小次郎と決闘した、江戸時代の剣豪よ。ご飯を食べているときにハエがうるさく飛び回っていたのを、空中でお箸で挟んだのよ。そして何事も無かったかのように食べ続けた」

「ムカつく! 超フケツな人ね。私ならそんなお箸は洗剤でゴシゴシ洗っても二度と使えないわ」

「江戸時代の話よ。男の人だから仕方ないわ」

「いくら有名な剣士でもそんな男にキスされたら耐えられない」

「話を逸らさないで。やってみれば分かるけど、飛んでいるハエを空中でお箸で掴むというのは誰にでもできることじゃないわよ」

「ふーん、確かにそうかも。ハエってすごく速いスピードで飛ぶものね。動体視力の問題というより、いくら速くお箸を動かしても追っつかないわ。多分その宮本武蔵とかいう不潔な男には、次の瞬間に空中でハエが止まる姿が見えたのよ」

「宮本武蔵には未来を予知する能力があったというわけ? 芽依らしい仮説ね」

「ちょっと違うのよね。未来を予知するというほどのものじゃなくて、動いている物の次の瞬間の姿が止まって見えるの。だからそこにお箸を持っていくと簡単に掴める。私もそうやってドングリを捕ったのよ」

「芽依に悪気があってウソを言ってるんじゃないことをママは分っているけど、ヨソの人にそんなことを言うと芽依には虚言癖があると思われるわよ」

「ハァ? 信じないの? 見てよ、このドングリ。全然ホコリがついていなくて、ツヤがあるでしょう? もし落ちているのを拾ったのなら、実とハカマの間に土やホコリがついていると思わない? 落ちていたドングリを水で洗ったとしたら濡れているはず」

「ホントだ! 芽依の言う通りだわ。お鍋の中のドングリは全部が同じように新しくて、木から手で摘み取ったみたいだわ」

「ほら、私が本当のことを言っていたことが分かったでしょう?」

「早く着替えてらっしゃい。ベランダでポケットを裏返しにして、木くずとかが残っていないようにきれいにするのよ」

母が認めたのはドングリが粒ぞろいで汚れていないということだけだった。次の瞬間を見る力を私が持っていると信じたわけではないのだ。

大人ってどうしてこんなに頭が固いのだろう? 私も自分の隠れた能力に気づいたのは偶然だった。緊張がふと緩んだ時に、それまで息を潜めていた能力が出てきたのだ。もしあの時に「見えるはずはない」と思って見過ごしていたら、私は一生自分の能力に気づかなかっただろう。

私のDNAの半分は母から来ているのだから、母にも同じ能力があるかもしれないのに……。

宮本武蔵という男性は、剣の道を究める修行の中で、きっと偶然ある瞬間に自分の能力に気づいたのだと思う。対戦相手の次の瞬間の剣先が見えれば、相手を倒すのは簡単だ。だから勝ち続けて生き残り、剣豪と呼ばれるまでになったのではないだろうか。

イチローには残念ながらその能力は無さそうだ。動体視力と卓越した身体能力、それに経験値を重ねてあれほどの実績を残しているのだ。

多分、偉大な王貞治さんを含む野球選手には、宮本武蔵や私と同じ能力は無かったはずだ。もしあれば、バッティングはティーの上に乗せたボールを叩くのと同じぐらい簡単だから、打率が三割や四割で収まるはずがない。待てよ、ボールを楽に打てても打球が内野手の守備範囲内に飛んだり、外野まで飛球が行っても外野手が捕ればアウトだから、五割、六割もの打率は難しいんだろうか……。

私は自分の部屋に行って、スチーマーのスイッチを入れてから制服のスカートをハンガーに吊るし、ウェストがゴムのロングスカートに履き替えた。

スチーマーを手に持ってプリーツがシワになっている部分に集中的にスチームを浴びせる。毎日二、三分の作業だが、母がそのためにスチーマーを買ってくれて、スイッチを入れれば一分後には使えるように置いてある。私が毎日シワの無いスカートで学校に通えるのはこのスチーマーのお陰だ。

明日も公園でドングリを集めようかな。能力を研ぎ澄ます訓練のためにはそれもいいかもしれないが、王貞治さんやイチロー選手さえ授からなかったほどの超能力を、ドングリ集めにしか使わないというのは宝の持ち腐れだ。他に使い道は無いだろうか?

野球選手になるのはどうだろう?

高校野球連盟は石器時代のような脳ミソで凝り固まっていて、女子が選手になることを認めていないが、プロ野球は女性にも門戸を開いていると聞いたことがある。確か、クラスの男子が読んでいたマンガに女性のピッチャーが出ていた。

私が実際に野球をしたのは体育の授業だけで、それもソフトボールだが、中学時代に父と一緒にテレビで野球を見るのが好きだったので、野球にはうるさい。止まっているボールなら私でも打てるようになるはずだ。

しかし、私の目には止まっているボールでも、実際には時速百数十キロで動いているのだから、私の力で打っても前に飛ばないかもしれない。振る度にバットに当たっても、ボールがチョロチョロと転がるだけなら、観客から失笑を買うだけだ。

それにデッドボールが問題だ。次の瞬間に胸を直撃するボールが見えたとしても、俊敏に身体を動かしてボールをよけることが出来るだろうか? バットを胸の前にサッと持ってきてバントをすることぐらいならできるかもしれないが……。

強いボールを投げる力が無いのも私の弱点だ。ということは守備は無理だ。パリーグには指名打者制度があるが、普通、指名打者はホームランバッターだ。弱いゴロしか打てない私は指名打者としては使ってもらえないだろう。

野球の始球式で女優が投げるのをテレビで何度か見た。ノーバウンドでキャッチャーに届くとアナウンサーが大げさに褒める。長身女優の菜々緒が始球式でノーバウンド投球をする動画をユーチューブで見て、女性としてはカッコいいと思ったけれど、プロの野球選手と比べるとまるで子供の投球だった。

私は小さい時から体育は得意で足も速いし、身長も女子の平均より高いが、残念なことにパワーが無い。やはりスポーツ選手になることは、選択肢から外した方がいいだろう。

ベッドに寝転がって超能力を活かす方法について脳ミソを絞ったが、グッドアイデアは浮かんでこなかった。

「あっ、ドングリの事を忘れていた」

スマホでドングリの調理方法について調べた。シイの実以外のドングリは皮をむいて数日間天日干しした後、ミキサーで粉砕したものを水に漬けてアクを抜くという、面倒な処理をする必要があることが分かった。

「ドングリなんて食べなくても百均でムキ栗を買う方が賢いかも」

ひとり言を言いながら台所に行った。

「ママ、私のドングリはどこ?」

「玄関に置いたわ。見てきてごらん」

玄関に行くと、クリスタルグラスにドングリを盛り付けて棚の上に置いてあった。秋の訪れを感じさせる、さりげないオブジェだった。

「ママの超能力の方がずっと素敵だわ」

私は自分の負けを認めた。


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カテゴリー: お知らせ, リアル系TS小説

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