新作「世界維新」が出版されました | 性転のへきれき

「世界維新」が出版されました

桜沢ゆうの小説「世界維新(女性が全てを支配する日)」が発売されました。

この小説は「女性が全てを支配する日」(2016.1出版)をWITノベルコンテストに応募する目的で再構成した作品です。原作と比較すると、序章が削除された等、構成は大きく異なりますが、ストーリー自体は原作とほぼ同じですので原作を購入済みの方は、「世界維新」を購入されないようお勧めします。キンドル・アンリミテッドの会員の方は是非「世界維新」をダウンロードしてあの興奮をもう一度味わっていただければ幸いです。

***

静岡県のサッカー少年でチームのエースだった杉村美瑠久は準決勝の前半に得点を上げるが、その直後にアタックした際に出血して中途退場する。病院での診断は美瑠久の人生に根本的な変化をもたらす。

その一年後、中東での紛争で使用された「ある兵器」が予期せぬ変化を遂げ、数週間のうちに地球の人口の約50%に「外観では分からない小さな変化」をもたらす。その変化は数か月の間に世界を静かに、自然に、そして不可逆的に変革するのだった。

***

これは杉村美瑠久が少年から大人になるまでの生活的視点を通して「世界維新」と、はかなく美しい恋を描くSFエンターテインメント小説です。



世界維新
第一章 ある男子の初経

僕の名前は杉村美瑠久。静岡県の小学生だ。

僕が住んでいるのは人口十万人以上の立派な「市」で、僕の家は駅から歩いて数分の商店街にあった。僕は三人きょうだいの長男だった。長男といっても二才年上の姉が、二才下に妹がいる。子供の時から大事にされて育った。

家の近所には神社があり、神社の境内が子供たちの遊び場になっていた。幼稚園の頃に、近所の小学生たちが神社でサッカーの真似事をして遊んでいるのを、仲間に入れて欲しいと憧れながら見ていた。小学校に上がると「オマケ」としてサッカーに加えてくれるようになり、僕はサッカーに夢中になった。神社の境内は狭いのでサッカーといっても練習程度しかできず、マンツーマンでボールを取り合ったり、一人で石壁にキックして遊ぶ毎日だった。

小学校三年に上がった時に、学校のサッカー部に入部した。ボール・キープが上手で多彩な足技を持っている上に生まれつき敏捷だった僕は、めきめきと頭角を現し、小三なのに高学年の試合に出してもらえるようになった。勉強もできたのでクラスではスターだった。元々小柄なうえに三月生まれの僕は小一の時からずっとクラスで小さい方から三、四番目だったが、女子は誰でも僕の近くに来たがった。

小五になると自他ともに認めるチームのエース・ストライカーになった。小柄で女の子のように優しい顔なのに、試合では他校からキラー・マシンのミルクと恐れられた。ミルクというのは僕の名前のカタカナ表記だ。本名は美瑠久だが字が難しいので、出場選手のリストには「みるく」とか「ミルク」などと書かれることが多かった。小六になってサッカー部のキャプテンになった時、美と瑠に重点を置いて「ビル」と呼ばせようとしたが、下級生しか従わなかった。その下級生さえ、一週間もすると「ミルクさん」に戻ってしまった。

転機が訪れたのは小六の秋の県大会だった。僕たちのチームは順調に勝ち上がって準決勝に進んだ。その日のグラウンドは県営の球場だった。準決勝の相手は優勝候補の小学校で、小学生なのに派手で大人っぽい感じのプレイヤーが揃っていた。僕が前半終了五分前にヘッディングを決めた時、僕たちの小学校の応援団(六割が女子でその半分以上が僕の親衛隊だった)からワーッ、キャーッと歓声が上がった。

僕はVサインをしてセンターラインまで下がったが相手がセンターサークルから蹴ったボールをめがけて相手のフォワードにアタックした時、太ももに熱いものが走る感触があった。前半の終了まではあと二分。僕は気にせずにプレーを続けたが、主審が笛を吹いてプレーをストップさせた。主審が近づいてきて「大丈夫か」と僕に聞いた。「別に……」と答えたが、主審が僕の脚の付け根の辺りを指さして「出血してるぞ」と言った。白のサッカーパンツの股の辺りが真っ赤に染まっていた。

監督の先生が駆け寄った。僕は地面に寝かされて、先生がサッカーパンツを下げて中を覗いた。先生は「こりゃあ駄目だ」と言って、主審に「選手を交代します」と告げた。「先生、大丈夫です」と僕は言ったが強引に外に出された。試合は十人のままで再開し、間もなく前半が終わった。

応援席から「美瑠久!」と叫ぶ心配そうな女子たちの声が掛けられる中、たまたま応援に来ていた保健室の女の先生が下りてきて駆け寄った。

「どこの怪我ですか? 救急車を呼びますか?」

「いや、救急ではありません。すみませんが先生が病院に連れて行って頂けますか?」

「分かりました。学校の近くの整形外科に連れて行けばよいですね」

「いえ、整形外科ではなく、泌尿器科か婦人科に」

「婦人科はないでしょう。この子は男の子ですよ」

監督は女先生の耳元で短い説明をした。女先生の顔から血の気が引いた。女先生は僕のパンツを少し引き下げて中を見てから「本当ですね」とため息をついた。

「何も心配ないのよ。誰にでも起きることだから」

先生は僕の肩を優しく抱いてくれて駐車場まで行った。先生の運転する車が隣の学区にある大きな婦人科病院の駐車場に入ったので僕は当惑した。それは僕たちサッカー部員が「ピンクの病院」と呼んでいる、病院らしくない外観の建物で、僕たちには一生無縁なはずの場所だった。

「先生、他の病院にしましょうよ。こんなところに男子が来たら変な目で見られますから」

女先生は僕の言葉を無視して受付を済ませた。待合室に座っている人は例外なく全員が女性だった。

「先生、恥ずかしいです」
僕は女先生ににじり寄って俯いていた。

女先生は僕の耳元で言った。

「何も恥ずかしくないわよ。気が付かない? 誰もあなたのことを見ていないでしょう。そう思って鏡を見れば分かると思うけど、あなたの顔はとても女の子らしいわ。男の子みたいにショートカットにしたサッカー少女だと思われてるのよ」

小さい時から親戚や近所の大人から女の子のように可愛い顔だと言われる度に傷ついてきた。サッカーを始めたのは自分の男らしさをアピールしたかったからかもしれない。先生に抗議しようかと思ったが、他人が僕を見てそう思うのなら、反論しても始まらない気がして思いとどまった。

「杉村美瑠久さん、四番の診察室にお入りください」

女先生に付き添われて診察室に入った。小柄な若い女医が笑顔で僕に「こんにちわ、可愛いお名前ね」と言ってから仰向けにベッドに寝かされた。短パンとパンツを膝まで下ろされ、血が出ているらしい場所を冷たいガーゼのようなもので拭かれた。僕がベッドから首を少し起こして見ると、女医は右手に薄い手袋をはめてその付近の皮膚を押したり引っ張ったりして検査しているようだった。

「月経血ですね。外陰唇の入り口の外側の皮膚が巻き込まれるように癒着して陰嚢のように見えていたのが、初経がきっかけとなって一部剥離したのだと思います。少し広げてみましょう」

短パンとパンツを脱いでM字に開脚するように言われた。

「ちょっと痛いかもしれないけど我慢してね」
もうすぐ僕を襲うであろう激痛に備えて歯を食いしばった。

「サリチル酸ワセリン軟膏をお願い」
女医はナースから受け取った軟膏を指につけて僕の傷口の部分に塗り込み、指を突っ込んで傷口を押し広げた。

「ギャーッ」という叫びを準備していたが、ヌルッと傷口が裂けた感触があった。「イテテ」という小さな声が出てきただけだった。脚の付け根に生暖かい感触がしたので恐る恐る首を持ち上げて見たところ、おちんちんの上下が数センチ縦に裂けてドロッとした赤黒い血が出ていた。腐ったような嫌な臭いがした。

「膣洗浄しておきましょうね」

傷口を広げられ、その中に何度か液体を注入され、経験したことのない奇妙な感触をお腹の中に感じた。

「美瑠久ちゃん、最近オシッコをした時に、パンツが濡れたことはなかった?」
誰にも言えずに内緒にしていたことを突然女医に言い当てられて顔が真っ赤になった。

「はい、朝起きてすぐオシッコをしたら、ちょろちょろとしか出なくて。それなのにパンツがビショビショになっていました」

「その後のオシッコはどうしたの?」

「パンツを濡らすのが怖かったので、大便のふりをして座ってしました」

「お尻全体が濡れてなかった?」

「はい……」

女医は女先生に診察の結果を説明した。

「外陰唇の癒着は完全に剥がしました。クリトリスと外陰唇もきれいに分離させることが出来ました。肥大したクリトリスの中央に何らかの尿路が出来ていたものと考えられますが、本来の尿道口が解放されましたからもう大丈夫です。クリトリスは放置すれば徐々に小さくなって正常化する可能性がありますので、しばらく様子を見て、必要なら手術で小さくすればよろしいでしょう」

「つまり、診断結果としては……」

女先生は女医の言葉を待った。

「現時点であえて病名を付けるとすれば陰核肥大ですが、大げさに考える必要はありません。それより初経を祝ってあげてください」

「ということは、半陰陽というか、いわゆるインターセックスなのですね」

「いえいえ。美瑠久さんには男性の要素は全くなくて、百%女性です。出生時に性別を誤認されていただけです。一応、確定診断のためにCTを撮って卵巣と子宮の状況を確認しておきましょう。少しお待ちいただくかもしれませんが」

僕は二人の会話を唖然として聞いていた。要するに、僕は女子なのにガイインシンというものが癒着していたので、男子と間違えられていたのが、癒着が剥がれて「正常」に戻ったということのようだ。おチンチンと思っていたものは、放っておけば小さくなるだろうと言っていた。まさか、僕が女子だったなんて、冗談にしてはきつすぎる。でも、卵巣と子宮を確認すると言っていた。本当に卵巣と子宮が見つかったら女だということになるのだろうか……。

CT検査室の前の長椅子に座って待っていた所に母が駆け付けた。母は僕の短パンが血で真っ赤になっているのを見て心配そうにしていたが、女先生から診察結果の説明を聞いて真っ青になった。母は検査室の近くのトイレに僕を連れて行ってパンツを引き下げた。

「本当だわ。美瑠久は女の子なのに息子だと思い込んでいたのね。気付かなくてごめん。母親失格だわ」

「お母さん、そんなこと言わないで。お母さんのせいじゃないよ」

「それより、こんな血だらけの短パンをはかせておけないわ。ナプキンもしておかないとね」

検査室の前の長椅子に戻ってから、母は女先生に「近くに、しまむらがありましたから生理用ショーツと、着替えを買ってきます。ナプキンも買ってきますから、すみませんが留守の間よろしくお願いします」と言って、駐車場へ走った。

しばらくして僕の順番が来た。僕は脱衣室で検査着に着替えてCTの台に横たわった。テレビで見たことのある大きな機械に乗せられて緊張したが、何事もなく検査は終わった。CTの部屋を出ると、母が着替え室で待っていて、生理用ナプキンを張り付けた生理用ショーツをはかされ、夏だというのにその上に毛糸のパンツをはかされた。それは脚が出る部分にフリルがついているピンク色のパンツで、僕は必死で抵抗したが「生理中はお尻を冷やしては駄目」と強引にはかされた。

ピンクの毛糸のパンツをはいている姿は母に見られるのも恥ずかしかった。僕はとにかく毛糸のパンツを早く隠そうと短パンに足を通した。

「待ちなさい。新しい毛糸のパンツに血が付くじゃないの」

母は脱衣かごの中の僕の衣類をポリ袋に入れて硬く縛った。

「これを着なさい」

母から渡された赤い七分袖のシャツを着ると、首の後ろにボタンとリボンがついていることに気付いた。

「なんだよ、これ女物みたいだよ」

僕が脱ごうとしてシャツの裾に手をかけると、と母は「それでいいのよ」と言って、僕の手を払いのけた。

「さあ、これをはくのよ」
母に渡されたのは真っ赤なプリーツスカートだった。

「バ、バカ言わないでよ。こんなのはけるかよ」

「夏だけどお尻が冷えないように膝丈にしといたわ」

「お母さん、お願い。短パン返して」

母に懇願したが「生理の時はスカートの方がいいの。これ、常識よ」と言って譲らない。

その時、看護師さんが脱衣室を覗いて「次の患者さんから苦情が出ているので早く着替えを済ませて下さい」と叱られた。

「外で待ってるわよ」

母は僕にスカートを押し付けて脱衣室の外に出てしまった。

僕はやむを得ずそのスカートをはいて、右のホックを留めて脱衣室を出た。

検査室の前の長椅子に座っていた母が駆け寄ってきた。

「バカじゃないの? スカートの前後が逆よ。ホックがあるのが左!」

母は僕が履いているスカートをグルリと回した。僕はそれまで、スカートに前後があるとは知らなかった。

検査室で言われた通り四番の診察室まで歩き、受付ボックスにフォルダーを置いて待合椅子に座った。女物のシャツにスカートという姿を人目に晒してしまった。もし知っている人に見られたらお終いだ。

名前を呼ばれて母と一緒に診察室に入った。

「お子さんは健康そのものですからご心配はいりませんよ」
と女医は母を安心させた。女医はキーボードとマウスを起用に扱ってモニターにCTの画像を写しだし、断面画像を動かした。

「これが卵巣ですよ。そしてここが子宮、そしてこの子宮口から先が膣です。若くて健康な女性の身体のCTを見るのは楽しいですね。美瑠久ちゃん、ベッドに仰向けになってね。スカートをめくるわよ。あら、可愛い毛糸のパンツを買ってもらったのね。生理の時にはお腹を冷やさないことが大事よ」

女医は僕の毛糸のパンツと生理用ショーツを足首まで下ろして、おチンチンの部分をむき出しにした。

「お母さん、こちらをご覧ください。少し赤くなっていますが、この部分がこういう風に癒着していたわけです」
女医は両手の指で傷口の左右の皮膚を中央に引き寄せた。

「初経が引き金になってこの部分に剥離が生じて月経血が漏れたんです。既に剥離しやすい状態になっていましたので、薬品の助けを借りて剥離させ、外陰唇の内側、内陰唇から膣にかけて洗浄しておきました。肥大化していたクリトリスは既に委縮し始めているようですから、放置しておけば普通の大きさに戻る可能性が大ですので様子を見ましょう」

「手術はしないんですか? お薬は?」

「現状、やや陰核肥大ですが健康体です。薬は生理痛がひどくない限り不要です」

「この子の性別はどうなるのでしょうか」

「染色体検査の結果が出次第、診断書を書きますので、それを持って戸籍課に相談に行ってください。先ほど学校の先生からも質問を受けましたが、半陰陽ではなく、完全な女性の身体なのに、出生時に男性と誤認されたままになっているわけですから、早く訂正するのがお嬢さんのためだと思います」

お嬢さん、と言われて頭をガーンと殴られた気がした。

「二週間後に経過をチェックしますので、予約を入れましょう。FISH法での染色体の検査結果が届くのに十日ほどかかりますので、その時に診断書を出せると思います」

母は手帳を見ながら二週間後の診察の予約を取った。

「美瑠久ちゃん、おめでとう。今日から大人の女性になったのよ」

女医さんにおめでとうと言われて反射的に「ありがとうございます」と答えたが、何もおめでたいことではなかった。僕は奈落の底に突き落とされた。

帰りにスーパーで買い物をしたが、僕は助手席に座って待つことにした。まさかスカート姿でスーパーの中に入って行けるはずがない。

外から顔を見られないように、リクライニングを倒して寝て待った。その時、窓をコンコンと叩く音がした。窓の外にはサッカー部の仲間が五人立って、覗き込んでいた。

「おい、美瑠久。窓を開けろ」

暑いのを我慢して窓を閉めていたのに気づかれてしまったのだった。

「喜べ、一対ゼロで勝ったぞ。お前の入れた一点を守り切ったんだ。来週の土曜日は決勝だ。ところでお前、女だったんだってな。だからスカートをはいてるのか。監督から聞いたよ。決勝はお前抜きで戦うことになるだろうって」

僕はリクライニングを起こして五人の仲間と顔を突き合わせた。皆、僕のスカートを興味深そうに見ている。

「病院で調べたけど健康だと言われたよ。何も悪いところは無いんだ。だから決勝は一緒に頑張ろうな」

「監督が言ってたけど大会規約で女子は出られないんだって。だから、お前の出番はもう無いよ。中学に入ってから女子サッカー部で頑張れ」

「そんな……」

「お前、今日が初めての月経なんだってな。この間、男子の特別授業で習ったやつだろ、初経とかいうアレだな。お赤飯を炊いてお祝いするんだろう。おめでとう」

残りの四人の仲間が口を合わせて、「美瑠久、初経おめでとう」と言ったところを、駐車場に居たオバサンたちが聞いて笑っていた。僕は恥ずかしくて両手で顔を覆った。そこに母が帰って来た。

「あ、杉村君のお母さん。今日は杉村君が前半に得点した後に退場しましたが、その一点を守りきって決勝に進みました。それから、監督から聞きましたけど、初経、おめでとうございました」

「あら、皆さん知っていたのね。女の子になっても美瑠久と仲良くしてやってね」

五人の仲間は「はい」と大きな声で答えて立ち去った。

「どうしよう、スカートをはいているところを見られちゃった」

「監督さんがしゃべったみたいね。前半に起きたことがハーフタイムに応援席の人たちに伝わったんだわ。インパクトのある話題だから、サッカーに来ていた人にはきっと全員伝わってるわよ。よかったじゃない、説明の手間が省けて。月曜日はスカートで登校しなさい」

「じょじょじょ、冗談じゃないよ」

家に帰ると姉の美咲が僕を見て飛んできた。

「美瑠久、女の子になったのね。私、妹がもう一人欲しいと思っていたかったから丁度良かったわ」

「そうよ。美瑠久は女の子だったことが分かったのよ」

母が真顔で言って僕が顔を真っ赤にして黙っていたので、美咲は、自分が言ったことが全くの的外れではなかったと悟った。美咲は僕のスカートをめくって毛糸のパンツと生理用のショーツを下ろし、ナプキンに血がついていることを確認した。

「う、うっそー。私とおんなじ! でも、クリトリスが少し大きすぎるんじゃないかな?」

「美咲、美瑠久の気持ちを考えて言葉を慎みなさい。美瑠久が泣きそうな顔をしてるじゃない。美瑠久のクリトリスはこれから段々腫れが引いて、普通の大きさになるから手術も必要ないとお医者さんが言ってたわよ」

妹の美幸が二階から降りてきて驚いた様子で叫んだ。
「お兄ちゃんがスカートはいてる! 仮装大会か何かがあるの?」

「美瑠久は女の子だったことが分かったの。だからお兄ちゃんじゃなくてお姉ちゃんになったのよ」

「嫌だなあ。サッカー部のエースの美瑠久の妹だと自慢できなくなる」
と美幸はしょげていた。

「美瑠久、サッカー場から直接病院に行ったんでしょう。汗臭いからお風呂に入りなさい」

僕はとぼとぼと浴室まで歩いて行ってスカート、毛糸のパンツとTシャツを脱ぎ、最後に生理用のショーツを脱いだ。また血がついていたナプキンをショーツから剥がして洗濯機の横のごみ箱に捨てた。お風呂を出たら新しいナプキンが必要だ。

「お母さーん」
と呼ぶと母が来た。

「あのね、ナプキンの新しいのはあるかな」
小さな声で聞いた。

「美瑠久がお風呂に入っている間に持ってきておいてあげる。汚れたのはちゃんとトイレに捨てたの?」

「ううん、ここに捨てたけど」

「美瑠久、ナプキンを捨てて良いところは一ヶ所だけよ。それに、こうやって内側に丸めるの」

母は厳しい顔をして叱るような口調で僕に言って、トイレの便座の後ろの黄色いプラスティックケースを指さした。以前からそのプラスティックケースの存在には気付いていたが、何の入れ物なのか今まで知らなかった。

シャンプーをしてから、スポンジにボディーソープを付けて身体中を丁寧に洗った。昨日まで普通の男子だったのに、突然立ちしょんもできなくなった。おチンチンとはこんなものだと思い込んでいたし、他の男子のおチンチンと同じだと思っていた。癒着が剥離したらしいが、今はそのおチンチンは割れ目の間から洩れ出た小さな突起物になってしまって、見る影もない。これでは誰が見てもおチンチンとは呼べないのは確かだった。

スポンジで胸を擦るときには注意が必要だった。ひと月ほど前から乳首をスポンジで擦るとチクチクしていた。乳首が一センチほど前に飛び出して、小さなトンガリ帽子を胸に伏せたような形になっている。前から押すと飛び上がるほど痛い。今日の試合でもボールを胸でトラップした時には痛みのため顔をしかめた。

これはきっと月経と関係があるのに違いないと、本能的に感じた。おチンチンだったものが段々と萎むのと並行して、お乳が段々前に尖って来るのかもしれない。どうしよう、と焦りで胸が苦しくなる。姉の美咲の胸も母のように大きくなって、前にツンと突き出ている。ああ、僕も姉と同じような胸になってしまうんだ。絶望に襲われて涙が出た。泣きじゃくりながらシャワーをして浴室を出た。

バスタオルで身体を拭くと、畳んだショーツの上に母が新しいナプキンを置いてくれていた。Tシャツを着て、毛糸のパンツとスカートをはいた。二階の僕の部屋に行くと、母がタンスから僕の衣類を全部出して、二つの大きいごみ袋が一杯になっていた。

「うちは三人娘になってしまったから男の子の服はもう要らないわ」

母はそう言ってごみ袋の端を括り、階下に持って行ったが、すぐに段ボール箱を抱えて戻って来た。

「これは美咲には小さくなった服よ。美幸が大きくなる時のために取っておいたけど、早く役に立ってよかったわ」

母は僕を立たせ、服を一つ一つ取り出してサイズをチェックしては僕のタンスに入れた。こんな女の子っぽいチャラチャラした服やひらひらのワンピースを、本気でこの僕に着せようというのだろうか。その段ボール箱が空っぽになると、もう一度階下の物置に段ボール箱を取りに行った。美咲がこんなに沢山洋服を持っていたとは驚いた。

「下着は明日一緒に買いに行こうね。昨日まで気が付かなかったけど、乳首が大分出て来てたのね。服が擦れると痛いでしょう。明日スポーツブラを買ってあげるわ」

「ブブブ、ブラだなんて……。ねえ、お母さん。学校にはしばらく僕の服を着て行って、皆の反応を見ながら少しずつ暖色系のシャツを増やしていきたいんだけど」

いつも母のご機嫌を取るときの口調でねだってみた。

「もし美瑠久がお母さんの言うことを全部聞いて、月曜の朝まで良い子にしていたら、このキュロットをはくのを許してあげる。言うことを聞かない場合は、このミニのワンピースにするわよ」

「どっちにしてもスカートじゃないか」

「よくごらんなさい。股がズボンみたいになってるでしょう。これをキュロットというのよ」

「僕の目にはスカートにしか見えないよ……」

***

夕方、父がゴルフから帰ってきて、「優勝したぞ、この商品を見ろ」と意気揚々とリビングルームに入って来た。美咲と美幸ともう一人スカートをはいた子がテレビを見ているのに気付いて、「お友達が来てたのか、いらっしゃい」と僕たちに向かって言った。母が台所から「ちょっと、あなた。大事な話があるから聞いてちょうだい」と父に声をかけた。父は「なんだ、大事な話って」と言いながら台所に行ったが、しばらくして「な、な、なにーっ!」と素っ頓狂な声を上げた。「あなた、落ち着いて」という母の声が聞こえた。

「ごはんよ」
母の声を聞いて、僕たちはテレビのスイッチを切って食卓に座った。

手を洗い終えた父が食卓のいつもの席にドシリと座った。僕は父の顔を見るのが怖くて下を向いていた。

母がお茶碗にご飯をよそっていた。いつもなら父に真っ先に出すのに、今日はまず僕の目の前にお茶碗を置いてくれた。それは赤飯だった。全員のご飯が配られたのを見てから、父が「え、えへん」と咳払いした。

「今日は美瑠久に初経があったと聞いた。美瑠久が大人になった……いや、そのう、大人の女性になった目出度い日だ。家族一緒に心から祝おう。おめでとう、美瑠久」

僕が女性になったという事実を父が平然と受け入れたことに驚いた。そして心から感謝した。

こうして僕は杉村家の次女になった。


続きを読みたい方はこちらをクリック!


 

★ 未発表作品に関する情報はTwitterで発信します! ★
カテゴリー: お知らせ, 非リアル系(SFを含む)TS小説

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

本ウェブサイトはMixHostのサーバーに引っ越してSSL化を完了し、保護された https:// サイトになりました。詳細はこちらをご覧ください。


ラブトランス~大好きな彼を夢中にさせる方法~


願いが叶う・心願成就



プロフィール
Contact Form
お問い合わせはこちらから
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ  にほんブログ村 小説ブログへ  人気日記BLOG