「痴漢冤罪」は面白くて役に立つ王道TS小説

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桜沢ゆうの性転のへきれきTS文庫の新作小説「置換冤罪」が出版されました。

6月12日の夜、東西線の満員電車の中で「この人、痴漢です」と言われた主人公の苦悩と約40日間の苦闘を描いたTSサスペンス犯罪もの長編小説です。もし自分が痴漢事件に巻き込まれたら?日本で痴漢事件がどのように扱われるか、警察・検察での取り扱いや、弁護士の起用について正しい知識を持たずに満員電車に乗る男性は、武器を持たずに戦場に行く兵士と同じです。本書を繰り返し読んで、主人公と一緒に痴漢冤罪事件を体験することをお勧めします。但し、本書の主人公のやり方をそのまま真似すべきかどうかについてはご自分でよく考えていただくべきかと存じます。

「痴漢冤罪」の主人公は大手企業から内定をもらったばかりの男子大学生です。重役との懇談会を終えて帰宅する地下鉄東西線の電車の中で「この人、痴漢です!」と声を上げられて西葛西駅のホームに引っ張り降ろされます。

主人公はたまたま「痴漢冤罪SOS特約」付きの弁護士費用保険に入っており、アプリを起動してSOSを発信すると、現場近くの刑事弁護士が駆けつけてくれて、冤罪を晴らす手助けをしてくれます。

主人公は自分の行動履歴を示すためにスマホにGoogle Mapの履歴画面を表示して弁護士に手渡しますが、弁護士は手慣れた手つきでスマホを操作し、Amazon Kindleのアプリを開いて主人公が桜沢ゆうの「採用面接」という電子書籍を購入していたことをチラッと覗き見します。主人公は「採用面接」を就活用の手引書と間違えて購入したと言い訳します。その非常に優秀な弁護士が主人公の置かれた状況を判断し、痴漢冤罪を晴らすための作戦を立ててくれます。

性転のへきれきTS文庫の読者にここまで言えば、弁護士が立てた作戦はあらかた想像がつくことと思います。しかし、その作戦の内容を知った上で読んでも「痴漢冤罪」は十分にお楽しみいただける小説です。

小説の中で地下鉄東西線の電車内での痴漢事件(冤罪を含む)が3回発生します。3回とも同じ警察署が絡んでくるのですが、一見似通っていても全く異なる3つのケースについて、法律的観点も交えて詳述しているのでご参考になると思います。特に読者の中で満員電車で通勤している方にとって参考になる話が満載です。万一不幸にして冤罪を受け、警察に連れて行かれた場合にどうすべきか、本書を読んで準備されることをお勧めします。残念ながら本書と同じ作戦を授けてくれる弁護士はそう沢山はいないと思いますが……。

「痴漢冤罪」を書いたきっかけ

この小説を書き始めたのは、ジャパン少額短期保険株式会社が発売した「男を守る弁護士保険・女を守る弁護士保険」という保険が、すごい勢いで契約者を獲得しているというニュースを見たことがきっかけでした。

被害者になった場合でも加害者になった場合でも、弁護士費用が300万円まで、法律相談費用が10万円まで、個人賠償責任が1000万円まで付保されるという保険のようです。それだけなら、こんなに注目を集めなかったのではないかと思いますが、保険がヒットした最大の理由は「痴漢冤罪ヘルプコール」という特典が付いているからだったようです。

満員電車で通勤する男性は常に痴漢の恐怖に怯えていると言われます。痴漢の恐怖と言っても、ホモの男性や凶暴な肉食女性から痴漢されることが怖いのではなく、痴漢するつもりなど全くないのに、間違えて犯人にされたり、あるいは示談金などを目的として意図的に痴漢犯人に仕立て上げられるのではないかという恐怖に怯えているのです。

日本の刑事事件は起訴された場合99.9パーセントが有罪になるそうです。痴漢事件で怖いのは「疑わしきは罰せず」という原則が往々にして無視されるということです。本来は被害者、警察、検察が被害を立証できなければ推定無罪の法原則により罪に問われないはずですが、痴漢事件の場合は被害者の申し立てに、検察が適当な色を付けるだけで、裁判官は「痴漢行為があったと合理的に判断できる」などといって有罪判決を出すという、信じられないことが日本では日常茶飯事として起きているようです。

結果的に、無実の男性を罪人に仕立て上げるのは警察です。電車から引き下ろされた被疑者は、被害者の女性、目撃者、周辺の協力者、あるいはその場に駆け付けた駅員によって。駅長室に連行されます。すると「私人による現行犯逮捕」が法律的に成立し、警官に現場で逮捕されたのと同じ状況になります。こうして現行犯逮捕された男性は警察に連れて行かれて拘留された状態で取り調べを受けます。丸3日間「証拠隠滅をさせないため」家族にも会わせてもらえません。

「私がやりました、ゴメンナサイ」と言えば、犯行の経緯が記された供述調書が作成され、署名させられます。速やかに身柄が送検されて、検察官の取調べを受けます。身体を触った程度の行為の場合、前歴がなく、反省していれば略式起訴となり、ほぼ自動的に罰金刑に処せられて釈放されるわけです。

問題は「私は無実です」と主張した場合です。警察では逮捕後48時間以内に送検すべく、厳しい取調べを行います。否認の姿勢を崩さなくても、やっていないという証拠を示せない限り、48時間後には送検されて、検察官から裁判所に「勾留請求」が提出されるようです。それから24時間以内に勾留判断が下され、検察官はそれから最長20日間、容疑者を拘束状態において、容疑者に口を割らせようとするのです。硬軟両様の地獄のような取調べが毎日続き、耳元で「罪を認めれば罰金刑で釈放されるから元の生活に戻れるよ」とささやかれると、精神力が強靭な人でも20日間もは持たないそうです。

痴漢冤罪の体験談を出版したり、世間に訴え続ける人たちは、48時間と24時間と20日間の合計で23日間もの試練を耐え抜いた極めて強靭な精神力の持ち主だと言えるでしょう。

さて、痴漢冤罪でホームに引きずりおろされた時点で、弁護士が駆けつけてくれるか、現場に来ない場合でも電話でアドバイスを受けられれば事情は大きく変わります。駅長室に連行されて「私人による現行犯逮捕」が成立しないようにすることが最も重要なのです。この小説のように、弁護士が身元が明らかで逃亡の恐れがないという主張をして、現場を立ち去ることができれば、現行犯逮捕ではなく、警察が被害者の訴えを聞いて捜査を開始し、通常の刑事事件と同様に、捜査の結果により逮捕状を請求するかどうかを判断します。一旦現行犯逮捕してしまうと48時間以内の送検というストップウォッチが起動して強引になりがちですが、捜査の結果確実に有罪に出来ると判断してから逮捕することになるので、ある程度慎重な対処が期待できるのです。

長々と説明しましたが、「男を守る弁護士保険・女を守る弁護士保険」の「痴漢冤罪ヘルプコール」という特典は、「この人、痴漢です」と言われた場合にスマホのアプリを操作するだけで保険会社から提携弁護士に一斉に緊急メールが送信され、すぐに弁護士から被疑者(保険契約者)に電話で連絡が入って状況に応じたアドバイスが受けられるというシステムのようです。現場で弁護士のアドバイスが得られるのと得られないのでは天と地ほどの違いになることがあるから、保険が人気を集めているのだと思います。

この小説に出て来る「痴漢冤罪SOS特約つきの保険」はジャパン少額短期保険株式会社の保険よりも更にサービスが良く、スマホのGPSデータにより近隣の弁護士が現場に急行してくれるという優れものです。その代り、現行犯逮捕を免れて現場を去ることができたら、その後の費用は保証されないという、保険らしくない保険(オマケが全てみたいな保険)になっています。ちなみにジャパン少額短期保険株式会社の保険の場合は、事件発生後48時間に発生した弁護士の相談料、接見費用(交通費などを含む)は、全額保険会社が払ってくれると販売ページに書いてありました。

現実問題として暇な弁護士がどこにでもいるわけではないので「すぐに弁護士が駆けつけてくれる痴漢冤罪SOS特約」というのは実現困難だと思いますが、せめてベストエフォート方式(すぐに行けそうな提携弁護士が居たら急行してくれる)でもできればよいのですが。

私の甥が電車通勤しているので、バカ売れという痴漢冤罪ヘルプコール付きの保険をプレゼントしてあげようかなと思い立ち、調べているうちにズルズルとはまってしまってこの小説を書くことにつながりました。毎朝毎晩満員電車で通勤する男性は本当に大変ですね。痴漢冤罪の恐怖から確実に逃れたい場合は、この小説の主人公、日暮波瑠の真似をすることも検討されてはいかがでしょうか?


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これは性転のへきれきTS文庫、日英TS文庫、その他の桜沢ゆうの出版物を紹介するHPと桜沢ゆうのブログを兼ねたサイトです。桜沢ゆうは千葉県在住の作家で、1997年に処女作「性転のへきれき(ひろみの場合)」を出版して以来創作活動を続けており、数多くのロマンス小説、ファンタジー小説、サスペンス小説、ソフトSF小説などを出版しています。作品の多くは性同一性障害、性転換のテーマを扱っています。小説の分類としてはTS小説が多く、その他は純文学となります。

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