性転のへきれき「えりの場合」ずっとあなたが好きだった:今日からOLになりなさいは2003年11月に「性転のへきれき・えりの場合」として電子出版された小説です。
エリート証券マンの渋沢には小説家という副業がありました。ある日読 者から受け取ったメールをきっかけに、渋沢は出世コースを外れて、とんでもない人生を歩み始めることになります。若くして副部長になったエリート証券マンが意思に反してOLにされてしまうという、普通では有り得ない 展開ですが非常にリアルなストーリーです。結婚式のフィナーレがひとつの見せ場になっています。
【追記】校閲していて痛感したことなのですが、主人公が心身ともに女性になった後も戸籍を男性のままにして、吉岡教授も自分の戸籍を女性のままで放置しているというストーリーを現代の読者が読むと「どうして戸籍の変更手続きをしないのだろう?」と疑問が湧くはずです。
今なら当然戸籍上の性別の変更を申請するシチュエーションですが、この小説を書いた2003年には性別変更は不可能だったのです。「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が施行され、特定の要件を満たせば家庭裁判所の審判によって戸籍上の性別記載を変更できるようになったのは2004年7月です。もし、同法令の施行がもっと早ければ、主人公は吉岡教授に紹介された時点で戸籍上も女性になっており、吉岡教授はとっくの昔に戸籍上も男性になっていたでしょう。
もしそうなら社会的性別が女性で戸籍が男性のえりが、社会的性別が男性で戸籍が女性の吉岡教授にこだわる必要は無く、吉岡教授も同様の状況だと考えられるので、この小説の終盤部分はかなり違ったものになっていたはずです。
この第5作目の小説を出版した後、約11年間の休筆期間がありました。その11年間に世界のセクシュアリティ問題は大きく進展し、日本でも目覚ましい変化が起きたわけです。
ちなみに、2003年11月の時点でLBGTという言葉は日本では知られていなかったと思います。より正確に言うと、欧米では1990年代に一般化した言葉なのですが、日本では性転のへきれきの第一作から第五作の執筆時点ではLGBという性的指向の問題と、Tという性同一性障害の問題は区別して論じられていたと記憶しています。「えりの場合」では主人公がTGと女装の違いを論じたことが転落のそもそもの始まりとなりました。そう考えると面白いことだと思います。
本当に10年というのは、世界も変わるし自分も変わる、長い期間ですね。10年後にどんな小説を書いているか、自分で考えるのも怖いです。
これは性転のへきれきTS文庫、日英TS文庫、その他の桜沢ゆうの出版物を紹介するHPと桜沢ゆうのブログを兼ねたサイトです。桜沢ゆうは千葉県在住の作家で、1997年に処女作「性転のへきれき(ひろみの場合)」を出版して以来創作活動を続けており、数多くのロマンス小説、ファンタジー小説、サスペンス小説、ソフトSF小説などを出版しています。作品の多くは性同一性障害、性転換のテーマを扱っています。小説の分類としてはTS小説が多く、その他は純文学となります。