性転のへきれき新作「スイッチ」今日から女の子になりなさい!

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お待たせしました。桜沢ゆうの性転のへきれき新作小説の「スイッチ」というラブロマンスが出版されました。

サッカー部のエースの小笠原君は女子にモテモテ。調子に乗りすぎて、先生から集合がかかった時にも気づかずに女子とのおしゃべりの夢中になっていたら、先生から「お前は女子かっ!」と怒鳴られ、翌日からは女子の制服で学校に来いと言われてしまいました。

小笠原君はセンスの良い冗談でその場を凌ごうとするのですが、それが却って裏目に出てしまいます。小笠原君が一緒におしゃべりしていたのは成績が学年トップの夕子。先生は夕子まで叱るつもりはなかったようですが夕子が「私も同罪です。小笠原君を罰するなら私も罰してください。」と名乗り出て、「小笠原君が女子になるなら私は男子になります。」と主張したのです。

「それならそうしろ。」と言われて2人は家に帰るのですが、先生がどうも本気だったみたいなので小笠原君は夕子について来てもらって家に帰り、お母さんに相談します。お母さんは、夕子のお母さんにも相談した結果、「事は重大」と判断して4人で学校に行って先生と談判します。

その結果、お母さんたちは先生と予想外のことを合意し、夕子は喜びますが、小笠原君は背筋が寒くなるのでした。

ここまで読んでドタバタな感じのTSコメディーかな?と思われたでしょう。しかし、これは性転のへきれきの30作品の中でも最もシリアスなラブストーリーなのです。これ以上言うとネタバレになるので止めておきますが、涙なしには読めない作品ですので、ティッシュペーパーを用意してから読んでください。

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これは性転のへきれきTS文庫、日英TS文庫、その他の桜沢ゆうの出版物を紹介するHPと桜沢ゆうのブログを兼ねたサイトです。桜沢ゆうは千葉県在住の作家で、1997年に処女作「性転のへきれき(ひろみの場合)」を出版して以来創作活動を続けており、数多くのロマンス小説、ファンタジー小説、サスペンス小説、ソフトSF小説などを出版しています。作品の多くは性同一性障害、性転換のテーマを扱っています。小説の分類としてはTS小説が多く、その他は純文学となります。


第1章 スイッチ

僕の名前は小笠原拓馬。逍遥大学付属中学3年4組の生徒だ。3年生の2月というと普通の中学生は高校入試でヒーヒー言っているが、僕たちは相変わらず伸び伸びと部活にいそしんでいる。中高一貫校だから成績が悲劇的なほど悪くない限り、4月には逍遥高校の1年生になることができる。

うちのサッカー部は破竹の勢いだ。ライバル校は秋から3年生が入試準備に入って2年生中心の新体制に移行したが、うちのサッカー部の主力は3年生のままだ。中学の場合、3年生と2年生では経験と技量の違いだけでなく、体格が違いすぎるので2年生のチームと試合をしても負ける気がしない。平均すると中学生男子は身長が1年間に7センチ伸びるから、自分たちより7センチも小柄な選手たちと対戦することになる。楽なものだ。

もっとも、僕は中2の冬あたりで身長の伸びが止まってしまったようで、中3になって直ぐの身体測定で162センチだったのが10か月過ぎた今でもほぼそのままだった。中2までは平均より少し背が高かったのに、今ではチビの部類になってしまったので少し焦りを感じていた。それでも僕がサッカー部のエース・ストライカーであることには変わりがない。ゴール前でのヘッディングには長身の選手が有利だが、ゴールするために最も重要なのはキックの精度だ。ここぞというタイミングで狙った場所に蹴りこめれば点は入るのだ。

クラス担任の山本先生はサッカー部の顧問で、ソコソコ成績もよかった僕は先生から頼りにされ、そして可愛がられていた。山本先生は自分自身がサッカー部員だったころの尺度で僕たちを厳しく指導した。練習の態度が悪い生徒を見かければ頭を拳骨でコツンと叩いて叱りつけた。僕もチャラチャラしながらボールの後片付けをしていて「校庭10周!」と言われたことがあったし、頭をコツンと叩かれる程度のことは日常茶飯事だった。

でも頭にコブが出来るほど強く殴るわけでは無く、殴られた方も必ず反省すべき理由が分かっていたから、誰も文句は言わなかった。

僕の周りにはいつも女子が群がっていた記憶がある。サッカー部のエースとして知られていたし、外観的にも同級生の女子たちの好みに合ったのだろう。身長は低く、顔はいわゆるイケメンではなく、「ミス3年4組コンテストの陰の1位」と言われる美少年タイプだったからだ。女子は美人の同級生を敬遠するが、同性でない僕は敬遠される理由が無く、女子たちは僕と友達になりたがっていた。

一番の親友は長尾夕子という学年でも成績がトップの女子で、小学校1年から何度も同じクラスになり、一緒に付属中学の試験を受けて合格した、9年来の友人だった。夕子は小学校の時は僕よりずっと背が小さかったが、中学に入ってから急に背が伸びて、ついに僕と同じ背の高さになってしまった。夕子は男子並みのショートカットの髪型が好みで、遊びも僕たちと一緒に野山を駆け巡り、お城の石垣を登ったり、泥ダンゴを投げ合ったりと、危険なことをするのが好きだった。

しかし、夕子はいわゆるお転婆ではなく落ち着いた女の子だった。夕子は僕のことが大好きで、小2の時に「私、大人になったら小笠原君と結婚したい。」と言われたことがある。僕は「いいよ。」と答え、2人で指切りげんまんした。幼いころの淡い思い出だ。その後、夕子との間でその話が出たことはなく、夕子は忘れてしまっているのではないかと思う。僕と夕子の関係は彼と彼女というよりは「気の合う親友」というのが最も適切な表現だと思う。

3月も半ばを過ぎて中3生活が残り少なくなったある日の午後の体育の授業の時だった。その日の体育の題目はサッカーで、男女合同でゲーム形式の授業だった。サッカー部のエースの僕にとって女子との合同のサッカーのゲーム形式の授業というものは遊びのように感じられて、たがが緩んでいたのは確かだった。いつものように女子たちに取り囲まれて、僕は女子たちの真ん中で夕子と春休みの遊びの計画についてぺちゃくちゃとおしゃべりしていた。

先生から集合がかかり、男子は先生の前まで走って行って整列したのに、女子は緩慢な態度でブラブラと集合した。間合いの悪いことに、僕は先生の怒った表情に気づかず、集合してからも女子の真ん中で夕子とおしゃべりしていた。

「小笠原、何をしてる!」
先生から爆弾が落ちるまで、僕は自分の置かれた状況を認識していなかった。

「お前は女子かっ。」
同級生たちがどっと笑った。周囲を見回すと女子ばかりだった。全員が僕を見て笑っているので僕は少し調子に乗ってしまい、「実は女子になりたかったんです。」と言ってから、本来の位置に戻るべく、女子の間をかき分けて男子の列に行こうとした。

「動くな、そのままで良い。」
先生にどなられて、僕は仕方なく、女子の列に並んだ。

それからオフサイドとは何かについて先生の話があった。僕はオフサイドについて知っている女子は少ないのではないかと予想したが、殆どの女子がオフサイドを理解していたので、先生も拍子抜けだったようだ。その時僕は重大なミスを犯してしまった。調子に乗って「アタシタチだってオフサイドぐらいは知ってるわよね。」と女子の真似をして言って、皆の爆笑を取ったのだ。

その時、山本先生の顔が真っ赤になったので「マズイ!」と思ったが手遅れだった。僕は頭を何発も殴られるか、校庭10周は免れないだろうと思った。

「小笠原、望み通り、女子にしてやる。」
先生が突拍子も無い事を言い出したので僕は焦った。

「明日からは女子の制服で学校に来い。女子になって、心ゆくまで女子とおしゃべりすれば良い。」

先生がどこまで本気なのか全く読めなかった。同級生たちもシーンとなって先生の顔色を見ている。

「もうすぐ卒業ですから今更女子の制服を買うのも惜しいですし・・・。」
僕は懲りずに冗談モードから抜けきれないまま、しどろもどろに答えた。

「お前の2年上の姉ちゃんの制服があるだろう。もし明日スカートで来なかったら、逍遥高校への推薦は取り消すからな。」

僕はビビった。中高一貫でも、担任の教師が落第点を付けたら、逍遥高校には行けない。事実、何年か前に教師に刃向かった生徒が県外の高校に行った例があると聞いたことがあった。

「で、でも、先生。逍遥中学も逍遥高校もひとクラス男女20人ずつですから、もし僕が女子になったら男子19人と女子21人のクラスになってしまいますよ。何かと不都合じゃないでしょうか。」
僕は焦ってしまっていて、無意味なことをどもりながら言うのが精いっぱいだった。

「ハイ、先生。意見があります。」
サッとお手を上げたのは長尾夕子だった。

「なんだ、長尾。言ってみろ。」

「私が小笠原君を女子の中に引っ張り込んでおしゃべりに夢中になったのがいけなかったんです。小笠原君だけが罰せられるのは不公平です。私も処罰してください。」

先生は夕子の予期せぬ介入に不意打ちを食わされ、僕と夕子の顔を交互に睨みつけた。

「どう罰して欲しいんだ?」

「ハイ、小笠原君を女子にするのでしたら、私を男子にしてください。そうすれば男女20人ずつのバランスが維持できます。小笠原君と私は身長体重が同じですから、私たちが服を交換すれば済みます。」

夕子が真面目な顔をして先生を説得しようとしていることに驚いた。冗談で言っているのではないことが口調と表情でわかる。同級生たちがザワザワとし始めた。

「いいだろう。お前たち、スイッチしろ。明日から小笠原は女子、長尾は男子の制服で登校するんだ。」

「ま、待ってください。それは、いつまでですか?」

「当分の間だ。大学入試までに元に戻れると良いな。精進しろ。」
そう言って授業は終り、先生は教員室へと引き上げた。

「小笠原君、よろしくね。今から服を交換しようよ。」
夕子は僕の手を引っ張って教室に連れて行った。男子たちは体育館の更衣室に着替えに行った。

女子たちがキャーキャーと面白がって僕たちを取り巻き、僕は教室に連れ込まれた。

「さあ、早く脱ぎなさい。」

嫌がっている僕は夕子たちに体操服を脱がされてパンツ一丁になった。シャツとブラウス、スカート、ソックスを夕子たちに力ずくで着せられ、最後にジャケットを着せられた。夕子は「私は体育館に行って小笠原君の服を着てくるわ。」と言って部屋を出て行った。僕は夕子を追いかけて行きたかったが、この姿でクラスの男子が居る場所に行く勇気は無かった。女子たちは僕に構わず、体操服を脱いで着替え始めたので、僕は自分の席に顔を伏せて、女子たちを見ないようにしていた。

しばらくすると男子たちが戻って来た。僕の姿を見て「小笠原、お前やっぱり美人だな。女子になって正解だよ。」と囃し立てた。

「オイ、元気を出せよ。」
肩をポンと叩かれて、男子と思った生徒が夕子だったことに気づいた。夕子は颯爽とした感じで、小柄ながらイケメンの男子に見えた。

「こうなったんだから仕方ないだろう。楽しもうぜ。」
夕子は男子になりきっている。

「お前、そんな恰好をしてよく平気でいられるな。どうしてくれるんだ。さっき山本先生に叱られた時に夕子があんなことを言い出さなければ、僕が謝って許してもらえたはずだったのに。」
僕は夕子を見上げて責めた。

「往生際が悪いやつだな。先生は本気だったよ。目を見て分かった。とにかく、女子になったんだから、その言葉遣いを何とかしろ。」

先生が入って来てクラス委員が「起立」と叫んだ。皆に合わせて先生にお辞儀をして座った。スカートの中がスースーして裾が気になった。

山本先生は夕子と僕に対して特別な言葉はかけず、ホームルームはいつものように行われ、そして終わった。同級生たちは僕のことを忘れたかのように立ち上がって帰り始めた。

「オイ、小笠原、一緒に帰ろうぜ。」
夕子が誘いに来たので、僕は立ち上がって夕子の後を追った。こんな姿をして一人で学校を出て道を歩く勇気は無く、夕子が頼りだった。

「どうするんだよ、夕子。今日明日だけだったら我慢するけど、さっきの先生の剣幕だと高校もこのままで通わせられそうな感じだったよ。夕子はズボンをはいても似合うけど、スカートをはかされる僕の身になってくれよ。」

「お前、女子の言葉でしゃべらないんだったら、もう相手をしてやらないぞ。」

そう言われても、いきなり女言葉をしゃべれるはずがない。僕が黙っていたら夕子は怒った表情で足早に歩き始めた。

「待ってよ、夕子。」と僕は初めて女言葉で夕子に言った。

「俺は男子だぜ。長尾君と呼べよ。」

「長尾君、お願いだから、私の気持ちを分かってよ。」

「まあ、小笠原さんがちゃんとした態度で俺に話すのなら聞いてやってもいいけど。」
小笠原さんと呼ばれて胸をグサッと刺されたような妙な気持ちがした。

「こんな恰好で家に帰ったらママが腰を抜かすわよ。頼むから長尾君も一緒に来てママに説明して。お願い。」

夕子を連れて家に帰ると案の定、母が腰を抜かしそうになった。

「仮装行列の練習だったら仕方ないけど、そんな恰好で学校から帰ったらご近所の手前恥ずかしいじゃないの。」

「ママ、違うんだ。僕、明日からもスカートで登校しなきゃならなくなったんだ。」

「拓馬、気でも狂ったの?一体何があったのか説明しなさい。」

その時、姉の晶子と妹の由美子が帰宅して駆け寄って来た。

「やっぱり私たち姉妹の中で拓馬が一番美人だったのね。」と晶子が悔しそうに言った。

「お兄ちゃんがお姉ちゃんになっちゃうの?ちょっと残念な気もするけど、3人姉妹もいいかも。」と由美子。

「僕、頭の中が混乱しているから、長尾君から説明してくれない?」

「いいよ。」と言って、部屋の入り口で居づらそうにしていた夕子が母の前に来た。

「長尾君?どこかで見たような顔だけど・・・。」母はしばらく夕子を見ていたが、ハッとした顔になって「長尾夕子さんなの?」と夕子の顔を食い入るように見た。

「はい、そうです。実は今日、体育の時間にこんなことがあったんです。」
夕子は事の次第を母に詳しく説明した。

「先生は本気なのかしら?拓馬にお灸をすえただけじゃない?まさか拓馬がスカートのまま家に帰るとは思ってないんじゃないかな。」

「いいえ、先生は本気でした。高校も小笠原さんは女子、私は男子として進学することになります。」

「長尾さん、あなた、それで良いと思っているの?」

「私は前から男子になってみたかったので構いませんけど。」

「私は先生が本気じゃないと思うけど、あなたたちが本気にしているのなら困ったことね。長尾さんのお母さんとも相談した方が良さそうだわ。」

渋る夕子を母が説得して、僕たち3人は夕子の家まで歩いて行った。

「ちょっとここでお待ちください。私、先に母に説明してきますから。」
夕子は僕たちを玄関前で待たせて家の中に入って行ったが、5分ほどしてお母さんと一緒に出てきた。

「本当、小笠原君だわ。」
夕子のお母さんは僕の肩に手を置いて、嬉しそうに言った。
「以前から女の子にしたら可愛いだろうなとは思っていたのよ。予想以上に綺麗で可愛いわ。夕子とは大違い。」

「長尾さん、私はこの子たちの話を聞いて、先生が本気でそんなことを仰ったのかどうか懐疑的なんですけど、明日は拓馬にズボンをはかせて登校させても大丈夫でしょうか?」

「夕子の話だと先生は本気みたいですよ。でも、重大なことですから、親としてはすぐに学校に行って先生に聞きに行くのが良いと思います。」

「それもそうですね。じゃあ、今からご一緒しましょう。」

話が決まって、僕たち4人は学校を目指した。


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