桜沢ゆうの性転のへきれきシリーズの小説「女性上位の広告代理店」(旧タイトル:女性が主流の会社への就職)のご紹介です。
主人公は入社するまでプロモクリエイト社が女性が主流の会社とは知りませんでした。新入社員60人のうち、玲菜(主人公の男性)を含む総合職3人、一般職3人がFPU部門に配属されました。FPUは総員30名ですが玲菜は「白一点」です。
玲菜は配属されるまではFPU部門長にも特別にひいきされていると感じていましたが、職場では同期の総合職2人は名刺を持たせてもらえたのに玲菜はもらえませんでした。
職場の会議でも玲菜は途中で退席させられ、お茶を入れるよう命令されます。総合職どうしでも玲菜だけは特別扱いで、同期社員にコピーやお茶出し、使い走りを指示される毎日が始まります。
この小説の見どころは同期の総合職女性2人が玲菜を奪い合う話です。2人には共通点がありますが性格は正反対、愛し方も違います。家族の状況や世界観も異なり、2人の対比は見ごたえがあります。
最終的に玲菜は2人のうちどちらと結びつくことになるのでしょうか?
これは性転のへきれきTS文庫、日英TS文庫、その他の桜沢ゆうの出版物を紹介するHPと桜沢ゆうのブログを兼ねたサイトです。桜沢ゆうは千葉県在住の作家で、1997年に処女作「性転のへきれき(ひろみの場合)」を出版して以来創作活動を続けており、数多くのロマンス小説、ファンタジー小説、サスペンス小説、ソフトSF小説などを出版しています。作品の多くは性同一性障害、性転換のテーマを扱っています。小説の分類としてはTS小説が多く、その他は純文学となります。
社会での男女の立場が対等になりつつある現代、この小説を読んで性別に関係なく実力があるものが権力を握る時代もそう遠くはないように思えてきました。
企業の経営者がレズビアンの場合、自分の身辺もレズビアンまたはそれに同調する人が多数を占めるかもしれません、そんな企業でレズビアンの女性を軽視したり蔑んだ男性は左遷させられたり退職させられる可能性もあります。
また企業で権力を握った女性は、家庭では夫に従順に仕えることより、やすらぎを求めて小柄で可愛い男性を女性化して妻や愛人として養うほうが自然なのかもしれません。
ですからこの小説は、近い将来の話として楽しく読ませて頂きました。特に男性の「喜び組」は女性が主流の会社がリアルに表現されて圧倒されました。本当に素晴らしい発想です。
ただし、3分の2までは、緊張感があって素晴らしい小説でしたが、最後の3分の1は矛盾が多く納得できませんでしたので、疑問点をまとめてみました。
ペットとか子猫ちゃんという言葉が頻繁にでてきますが、立場がいまいちはっきりしない。妻とか愛人とかはっきりした立場のほうが分かりやすい。
松岡亜希子と君原凛のセクシャリティが理解できませんでした。
松岡亜希子がストレートで君原凛がFTMということで最後に結ばれますが、松岡は「頑固で制服以外のスカートは絶対にはかなかったから」や「一切家事をしないズボラな人間だし、気も荒いし、いい加減だぞ。」とFTMの感覚です。
「私は女だけじゃなく男も欲しいと思ったら自分のものにしてきたの。」と言っていて、受身であるはずのストレートの女性でしょうか?
君原は「正直なところ、160センチ代前半の細身で小顔な子が一番好きなの。そして顔が美しくて性格が可愛いことが絶対条件。
そんな男性は滅多にいないから、これまでは女性で代用してきたの。私は女の子には不自由しなかった。
玲菜ちゃんそっくりな子を何人か抱いたわ、そして捨てた。
「レズのセックスは好きよ。オーガズムも得られるわ。でも、抱いた後で虚しくなるの。私は男性じゃなきゃダメみたい。」と言っていて、FTMでしょうか?
また熾烈な玲菜争奪戦のライバル同士が急に男女の関係になるのも不自然です。
芦沢由紀奈は、あまり登場しない(FPUにいながらBQTの案件にも参加していない)し魅力的な女性とは描かれていない(美人ではないし松岡や君原に能力で劣り田淵啓子から忠告されて玲菜に優しくなった)のに最後になぜ主人公と結ばれるのかが不明です。ここで興奮が一瞬に冷めました。また芦沢由紀奈はレズビアンでもないのに、女となった玲菜を愛せますか?
芦沢由紀奈は本当に妊娠しているのだろうか?(泥酔状態で男性の機能が働きますか?又セックスしたことも覚えていないなんて?)
策略家の坂口ユニット長が、最愛の玲菜を簡単に新人の芦沢由紀奈に渡すとは考えられない。ユニット長の権限であの手この手で玲菜を奪い返すでしょう。
「男の子たちの運命はユニット長の気分次第で決まるというわけよ。」と怖い存在です。
MTF小説シリーズ「性転のへきれき」に推理小説のような意外性を読者は求めていないと思います。
意外性を求めて矛盾した終わり方よりも、坂口のような美しく聡明な素晴らしい(15歳年上で支配的な)女性と結ばれるラストのほうが読者に感動を与えると私は思います。
私はこの小説の続編を勝手に想像しています。
「芦沢とセックスしたことを覚えていない」という玲菜の言葉に疑惑を抱いた坂口は調査で芦沢の想像妊娠に気付きます。
芦沢はこの件で坂口から一般職に降格されたことで自ら退職してしまいます。
玲菜を取り戻した坂口は正式にプロポーズして「結婚式」や「ハネムーン」や「新婚初夜(坂口は膣形成した玲菜の処女を奪います)」や「新婚生活」を美しく甘く描きます。
坂口の妻となった玲菜は、従順で幸せな妻として愛する坂口をたてて家庭をまもります(松岡と君原の玲菜争奪戦は、玲菜を自分好みの女にするための坂口が計画した芝居とは知らずに)が、モデルの仕事は続けています。
ところで松岡と君原のカップルは破局を迎えます(当然ですねお互いに家事をやらないし家庭的ではありませんからね)。
松岡と君原は共謀して吉岡亜也と水原沙希をレズビアンの世界に引きずり込み自分達の彼女にしてしまいます。
夫である坂口七恵と妻である坂口玲菜の間には代理出産で女の赤ちゃんが出来ます。ママとなった玲菜は育児に追われモデルの仕事をやめて専業主婦になります——
などなどこんな素敵な続編があったら楽しいだろうね!
MTF小説シリーズ「性転のへきれき」にFTMはあまり入れないほうがいいのでは?MTFもFTMも重い題材なので、小説の主旨が曖昧になってしまう。
もし入れるなら、君原のような女性を主人公として別の小説にしたらどうでしょう?
中山可穂さんの小説「深爪」は、人妻を奪う女性(レズビアンのタチ)・家を出る人妻(レズビアンのネコ)・女性に妻を寝取られた夫(MTF)の3人の視点で書かれた3部作で出来ていて、小説の曖昧さを全く感じません。
そして純粋な恋愛小説も描いてほしい。中山可穂さんの小説「感情教育」「マラケシュ心中」のように美しく激しく、でも彼女の小説は女性と女性の恋愛小説です。
桜沢ゆうさんには、元男性(MTF)と女性の純粋な恋愛小説も描いてほしい(ラブストーリーかおりの場合は最後は男性と結婚してしまい、律子との恋は何だったのかいまいち分かりにくい)。
youtubeでも、女性と女性、元男性(MTF)と元男性(MTF)、元男性(MTF)と元女性(FTM)、はよく映像が投稿されていますが、元男性(MTF)と女性はあまり見たことがありません。男性がMTFと分かった時点で、女性のほうから離れていくようですね。ただし妻がレズビアンだった場合は、女性になった元夫と家庭で過ごしている映像が少し投稿されています。
桜沢ゆうさんの小説は、元男性と女性のレズビアンラブがテーマだからこそ希少で素晴らしくおもしろい。
今後のご活躍をお祈りします。
水無月小夜さま
コメントに1週間も気づかず大変失礼いたしました。エンディングで誰と結びつくかプロットを決めずに書いていたのですが、玲菜の気持ちとして子育て願望に走ってしまいました。最近赤ちゃんを見ると可愛くて仕方ないので・・・。やはり坂口ユニット長と結びつくのが怖くても自然だったのかも知れません。
主人公がMTFのサスペンスやラノベBL、純愛ものも書きたいという気持ちがあって、性転のへきれきの軸足がぶれて曖昧になるのはいけませんね。コメントを頂いて反省しました。執筆中(45%段階)の「ハンサムすぎる友人」のプロットは相手の女性が事故で死ぬことになっていたのですが、もう一度考えてみます。並行して書いている「偽装のカップル」はプロットを変えられそうにありません・・・。
私自身が色々迷っている時期でしたので本当に参考になりました。心からお礼申し上げます。