女性が主流の会社への就職・性転のへきれき新作

女性が主流の会社への就職桜沢ゆうの性転のへきれきシリーズ新作小説「女性が主流の会社への就職」(玲菜の場合)を1月1日に出版しました。

主人公は入社するまでプロモクリエイト社が女性が主流の会社とは知りませんでした。新入社員60人のうち、玲菜(主人公の男性)を含む総合職3人、一般職3人がFPU部門に配属されました。FPUは総員30名ですが玲菜は「白一点」です。

玲菜は配属されるまではFPU部門長にも特別にひいきされていると感じていましたが、職場では同期の総合職2人は名刺を持たせてもらえたのに玲菜はもらえませんでした。

職場の会議でも玲菜は途中で退席させられ、お茶を入れるよう命令されます。総合職どうしでも玲菜だけは特別扱いで、同期社員にコピーやお茶出し、使い走りを指示される毎日が始まります。

この小説の見どころは同期の総合職女性2人が玲菜を奪い合う話です。2人には共通点がありますが性格は正反対、愛し方も違います。家族の状況や世界観も異なり、2人の対比は見ごたえがあります。

最終的に玲菜は2人のうちどちらと結びつくことになるのでしょうか・・・。

 

 

第1章 新入社員

今日は僕の運命が決まる日だ。

そういうのは大げさすぎるだろうか。今日は入社研修の2日目。午後から人事部長の総括の後で新入社員の配属部署が発表になる。華やかでクリエイティブな仕事がしたいからこの会社に入社したのに万一経理部にでも配属されたりしたら予定が狂ってしまう。

僕が入社したのはプロモクリエイトという準大手の広告代理店だ。新感覚の企画を次々に提案して急成長している会社だった。今年の新卒採用は60人で大手に引けを取らない人数だ。60人の内訳は総合職36人と一般職24人。総合職のうち男子は12人、女子は24人で、一般職は全員が女性だから、新入社員の中で男子は5人に1人という、超売り手市場だ。

広告代理店の中でプロモクリエイトを選んだのは、女性比率が高く、男子社員はモテモテでハーレム状態を楽しめそうだからではない。正直なところ、十数社の広告代理店に応募して僕に内定を出してくれた企業がプロモクリエイトだけだったからだ。トップの電通、博報堂は僕なんか全くお呼びで無いという雰囲気だったが、中位以下からも結構冷たくあしらわれた。

一流とは呼べない私立大学の経済学部を卒業予定だった僕は、まともに対応してくれる段階まで進むのが一苦労で、人事担当者との個別面接の段階でアウトになった。正式には後日お祈りメールで断りが届くのだが、僕の場合は面接の際にもらうコメントやアドバイスを聞いて不採用と分かった。

「覇気がない。」
「根性が見えない。」
「ライバルを蹴落としてでも前進するという気迫が感じられない。」
「体育会系でない。アピールできる活動歴もない。」
「男性らしい力強さが感じられない。」

最も失礼だと感じたのはマスコミ系の中堅の広告代理店だった。女性の人事担当者が出てきて開口一番「君、身長と体重は?」と聞かれた。「162.7センチ48キロです。」と答えたところ、「ふーっ」とため息をついて、「OLなら理想的な数値だけど。」と言われ、後はまともに質問もしてもらえなかった。身長・体重で選考するなら受付票に記入欄を作るべきだ。そうすれば、こんな不愉快な面接のために来る必要も無かったのにと思った。

その点、プロモクリエイトの場合は採用ウェブサイトであらゆる情報を記入するようになっており、極めて合理的だった。身長、体重の他に男女とも肩幅、胸囲(バスト、アンダーバスト)、ウェスト、股下、足、頭囲、首回りまで記入欄があるのには驚いた。写真は前、左斜め前、左横、右斜め前、右横、全身像が3つの角度と、合計8枚の画像をスマホで撮ってアップロードするようになっていた。好きな本、雑誌を10冊ずつ。好きな男優・女優を10名ずつ、最近見た映画を10本、過去数年に気に入ったテレビドラマを10本、等々、応募者のプロフィールが露わになるほどの圧倒的多数の項目に記入するようになっていた。

質問項目が多すぎて面倒なので応募は後回しにしていたが、ほぼ全社からお祈りメールが届いた時点で記入して送信しておいたところ、3日後に面接のための出頭要請メールが届いた。人事担当者との10分ほどの懇談の後で人事部長との数分間の面接があり、次に社長を含む役員面接があってその場で内定をもらった。社長を含め面接相手は全員女性だった。

学生を問い詰めたり試したりする口調は全く無く、穏やかで甘い雰囲気の面接だった。こんなに楽に内定をもらって大丈夫なのだろうかと心配になったほどだ。入社研修の休み時間に、隣り合わせた2、3人の女性にその話をしたところ、「私の面接は厳しい質問を次から次へと浴びせかけられて冷や汗をかいたわ。」とか「あの面接は今でも夢に見るほど厳しかった。」と言っていたので、人によって事情が異なるということが分かった。

そんな経緯もあって、僕は入社初日からプロモクリエイトへの愛社精神に溢れていた。入社研修は、広告代理店とは何をするところか、という話から始まって、さまざまなケーススタディーやグループディスカッションを実施したが、ディスカッションには複数のユニット長が加わっていた。プロモクリエイトは分野・テーマによって数名から数十名のビジネスユニットがあり、各ユニットの「ユニット長」が役員会の直下に位置する。事実上、ユニット長は社長の直接の指令の下で即断即決することができ、自分のユニットの従業員に対して絶大な人事権限を持っているのだそうだユニット長は一般的な尺度だと部長と課長の中間というところだが、権限や機能からすると、社長直結の分社長といえる。

後で分かったことだが、社内研修はスカウト会議を兼ねており、ユニット長がディスカッションなどを通して自分のユニットにとって役立ちそうな新入社員を選ぶ場として重要な位置を占めているとのことだった。

人事部長からの総括の後で、予定表には書かれていなかった社長のスピーチがあったので僕たちは緊張した。

「私は大企業でOLをして結婚退職し出産した後、2人の子供を育てながら広告代理店を立ち上げました。女性が女性らしさを生かしながら女性のライフスタイルの中で自己表現できる会社がプロモクリエイトです。」

男性を軽視するスピーチだなと感じた僕たち男子社員がお互いに顔を見合わせたことに気づいて、社長が一言付け加えた。

「勿論、男性にも不利はありません。常識や既成概念にとらわれず、男性でもやる気があれば女性のように個性を生かすチャンスが与えられる会社、それがプロモクリエイトです。」

それでも若干、女性が主役のようにも聞こえたが、この程度なら許容範囲だ。

「今年は実験的に各ユニットに過剰採用を促しました。例えば2名増員したいユニットは3名採用するわけです。但し、それは試験採用であり、3ヶ月後の6月末に3名のうち2名だけが正式採用されます。なでしこジャパンでも同じですが、競争により組織の緊張感と向上が得られます。正式採用されなかった1名は2軍落ちということになるでしょう。」

新入社員全員はお互いに顔を見合わせて震えあがった。総合職36名のうち生き残れるのは24名ということになる。他社の入社面接で「ライバルを蹴落としてでも」と言われたのを思い出した。プロモクリエイトの採用面接は僕にとって蜂蜜のように甘い面接だったが、結局僕は他社以上に厳しい非情な会社に入ってしまったのだった。

社長のスピーチの後、一人一人の名前が呼ばれて辞令を手渡された。

僕は「有村玲菜」と社長に呼ばれて「はい」と答えて辞令を受け取りに行った。周囲からクスクスと笑い声がした。レナと聞いて女性を想像したのに男性だったので笑っているのだ。僕は子供の時から名前を呼ばれる際に笑われることには慣れていた。

「私の姪にはレオという男性的な名前の子がいるわ。有村さんはレナという名前に負けない美しい男性だから恥ずかしがることは無いわよ。」
社長がニコニコしながら僕に辞令を渡した。

辞令には「フィーメイル・プロダクツ・ユニット総合職試験採用」と記されていた。

辞令の配布後、ユニットごとに集合した。FPUと表示された場所には「ユニット長:坂口七恵」という名札を付けたアラフォーの長身の女性が立っていた。ディスカッションで一度同席した女性だったが、物静かで優しい中に「デキル」というオーラを漂わせた人物だ。坂口の周囲に、私服の女子2名、一般職の制服の2名と僕の合計5人が集合した。

「FPUユニット長の坂口です。FPUは当社の中でも3年連続で売り上げ成長率トップスリーに入っている元気なユニットです。フィーメイル・プロダクツ・ユニット、すなわち女性向け商品のアドバタイジング企画を提供する部門だけど、女性向けといってもランジェリーとか生理ナプキンなどの女性専用分野じゃなくて、例えば女性を主なターゲットにしたお菓子とか、女子会に向いたレストランとか、男性も対象となる幅広い商品が対象です。そういう意味で女性だけの感覚で物事を捉えることによる弊害を防ごうと考えて、初めて男性を試験採用しました。有村玲菜さん、30人中で”白一点”だけど気遅れせずに頑張ってね。」

僕は「はい、頑張ります。よろしくお願いします。」とお辞儀したが、僕以外の全員が女性と聞いて戸惑った。売り手市場とかハーレムなどと言ってはしゃいでいられる状況ではなさそうだ。

坂口ユニット長は説明を続けた。

「FPUには6つのチームがあります。

ヘルス・アンド・ビューティ・ケア
ウェッディング・アンド・スペシャル・オケイジョンズ
フード
ファッション
リビング
ワーキング・ライフ
一応、対象商品によってチームの名前を決めていますが、厳密な分類ではありません。例えば化粧品とサプリメントとランジェリーを販売するお客様の場合、1,3,4のどのチームがアプローチしてもよいわけです。つまりチーム同士もライバル関係です。チーム間の交通整理は私が行います。

総合職の松岡亜希子さん、芹沢由紀奈さん、有村玲菜さんは3名ともFPU-1、すなわちヘルス・アンド・ビューティ・ケアチーム、略称ヘルス・チームの所属となります。三木リーダーの下でお互いに切磋琢磨してください。一般職の吉岡亜也さんはファッション・チーム、水原沙希さんはフード・チームへの配属です。」

総合職は3人ともヘルス・チームの所属と聞いて3人はライバル同士の露骨な視線を交わした。社長が言っていたように3人のうち1人は6月末で篩い落とされるのだから、まさに真剣勝負だ。

「いいわね、この緊張感。プロモクリエイトの女性はこうやって競争の中で強くなっていくのよ。」

何故女性のことしか言わないんだろう、と怪訝な目で坂口ユニット長を見上げたら、「男性もね」と付け足しのように言われた。ユニットの従業員30人のうち29人が女性だから、女性向けの発言になりがちなのは仕方ないが、今後しょっちゅうこんな思いをすることになるのだろうか。

その時、人事部の担当者からアナウンスがあった。
「各ユニットは適宜ダイニング・フロアに移動してください。」

ダイニング・フロアとは最上階にある交流スペースで昼食時は社内食堂、夜間は居酒屋的に使用されており、パーティなどにも活用されているそうだ。

「軽く飲みながら自己紹介でもしましょう。」
坂口ユニット長についてエレベーターで最上階に行った。

「皆、とりあえず生ビールで良いかな?亜也ちゃん、沙希ちゃん、生ビールの中を6つと枝豆とナッツを買って来て。」
坂口ユニット長は吉岡亜也にID兼用の社内デビット・カードを渡した。亜也と沙希の2人では持てないだろうと思い、僕も一緒にカウンターに行き、3人で生ビールを両手に持って席に戻った。その後、亜也が枝豆とナッツを取りに行った。

「気が利くのね、玲菜ちゃん。一般職の2人に頼んだのに。」
坂口ユニット長が僕を笑顔で見て褒めてくれた。3分の2の生き残り競争に先行したような気がした。

「ご両親がどうして玲菜ちゃんに女の子の名前をつけたのか、経緯は知ってる?」
僕にとってユニット長のこの質問はしょっちゅう聞かれる事なので、無難な答えをいつも準備している。

「父がアメリカ出張の際に、レナード・バースタイン指揮のニューヨークフィルの公演を聞きに行って感動したので、レナードの略でレナという名前にしたそうです。」

「お父さまはクラシックがお好きなのね。」
亜也が僕に好意的な視線を向けながら言って、沙希も「いいわね」と言った。

松岡亜希子が悪戯っぽい表情で口を挟んだ。
「レナードは語源的にはレオナルドだから略すならレオになるわ。レナというのは元々エレナかヘレナの省略形だから100%女性の名前よ。晶子や恵子と同じぐらい女性的な名前だわ。」

「それ、本当なの?」
レナード・バーンスタイン説にケチをつけられたのは初めてだった。自分の名前がエレナかヘレナと同じだと言われてショックだった。エレナ、ヘレナが女の名前ということぐらいは僕も知っている。

「顔やスタイルと似あう名前だからいいじゃないの。」
芦沢由紀奈が言って4人がクスッと笑った。僕は芦沢に軽い敵意を感じた。

「玲菜ちゃんの身長と体重はどのくらい?」
坂口ユニット長にストレートに聞かれたので答えざるを得ない。小柄な男性にとって皆の前で身長を言わされるのは最も恥ずかしいことの一つなのに、意外に無神経な人だなだと思った。

「162.7センチ、48キロです。」

「勝った、私は162.8センチよ。」と亜也がガッツポーズをした。

「私は162.3センチ。体重は内緒だけど。私たち3人はわずか5ミリの範囲に収まってるのね。」と沙希。

「私は171だけど、松岡さんは私より高いわね。芦沢さんは私と同じぐらいかな。」
坂口ユニット長は亜也、沙希と僕をファーストネームでちゃん付けで呼ぶのに、なぜ松岡亜希子と芦沢由紀奈だけを苗字で呼ぶのか疑問だ。

「174です。」松岡がうつむき加減に言った。女性としては身長が高すぎることが恥ずかしいのだろうか。

「私は170です。」と芦沢が言った。

「対外折衝の多い私たちにとって長身であることは武器になるわ。顧客側でも、特に管理職は男性が多いから、こちらが小柄だとつい甘く見られちゃう。」

「では、玲菜ちゃんは大変ですね。」
芦沢が薄ら笑いを浮かべながら言って、僕を見下すような表情を向けた。芦沢は3人に1人の誰を集中的に蹴落とすか、ターゲットを絞ったのだと思った。

「私たちはチームで動くから、人それぞれ個性を生かせばよいのよ。ねえ、玲菜ちゃん。」
坂口ユニット長は僕の肩に手を置いてやさしく言った直後に「オット、いけない。肩を触るとセクハラになるんだったわ。」
と笑った。他の4人の女性も一緒に可笑しそうに笑っていた。

「玲菜ちゃんが加入したから、各チームのリーダーにコンプライアンスの徹底をリマインドしておかなくちゃ。色々大変だわ。」
坂口ユニット長に悪意が無いことは分かっているが、そんな発言自体が僕にとってはセクハラと同じぐらい居心地が悪いものだと気付かないのだろうか。

坂口ユニット長と芦沢のビールのジョッキが空になった。ユニット長は僕にデビット・カードを渡して「ビール2つね」と言った。どうして僕なんだろう、と不満だったが、僕はカウンターでビールを買ってきて、ユニット長と芦沢の前に置いた。

ユニット長は「サンキュー」と言ってジョッキに口をつけた。芦沢は「ありがとう、怜奈ちゃん。」と、ちゃん付けでわざとらしくお礼を言った。

それから、松岡から初めて左回りに、ひとりひとりが簡単に自己紹介をした。「プロモクリエイトを志望した理由も説明してね。」と坂口ユニット長から言われて、松岡は広告代理業の使命と役割という点でプロモクリエイトのコンセプトが自分の考えに最も近かったからだと答えた。しっかりした考えを持っていて立派な発言ができる人物だなと感心した。

芦沢はエラが張っていてお世辞にも女性らしいとは言えない顔だ。坂口ユニット長、松岡、芦沢の長身女性3人の中で身長は一番低いが、骨格が太いので最も大柄に見えた。プロモクリエイトを志望したのは過去3年の成長率が業界トップクラスだからということだった。言葉の端々に攻撃的なガッツが見える重戦車のような人物だ。

亜也と沙希は聡明な女性らしさを備えた美人で、2人と同じ部に配属される僕は相当ついている。どちらにアタックすべきか、迷うところだ。

僕は就職活動で他の企業から全部落とされた後、プロモクリエイトの面接で内定をもらった経緯を面白おかしく話した。僕の話を面白そうに聞いていたのはユニット長と亜也、沙希の3人だけで、松岡と芦沢は時々顔をしかめていた。特に芦沢は何度も面談を重ねた結果やっと採用されたようだった。

開始が早かったので懇談会がお開きになったのは午後7時だった。

「よし、カラオケでも行くか。」
坂口ユニット長が言いだして、僕たち5人は断るわけにもいかないので、ついて行った。松岡と芦沢はユニット長の両側に密着して、広告代理業務について難しいことを話しながら前を歩いている。僕は亜也と沙希と一緒に好きなテレビドラマについて楽しくおしゃべりしながら数メートル後ろをついて行った。カラオケに着くとユニット長は奥の隅に座り、僕は隣に座らされた。ユニット長は先ほど肩を触ってセクハラ注意について発言したばかりなのに、お酒が回っていて、僕の肩に手を回して時々太腿にも手を置きながら、僕の趣味とか家族関係などパーソナルなことを色々聞いて来た。何度もデュエットを一緒にさせられて、僕はまるでユニット長付きのコンパニオンのようだった。

カラオケを出たのは9時半だった。

「玲菜ちゃんは私が送っていくから。」

「まだ早いですから電車で帰らせてください。」と断ったが、坂口ユニット長はタクシーを拾って僕を押し込んだ。松岡と芦沢は勿論、亜也と沙希も呆れたような、非難の混じった視線を僕に向けた。僕は電車で帰りたいのに、どうして非難の目を向けられなければならないのか、割り切れない気持ちだった。しかし、坂口ユニット長が僕を特別にひいきしてくれているのは確実であり、6月末の生き残りのためには、男であることをある程度武器にするのも辞さない覚悟が必要だと思った。

 

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「女性が主流の会社への就職・性転のへきれき新作」への2件のフィードバック

  1. 社会での男女の立場が対等になりつつある現代、この小説を読んで性別に関係なく実力があるものが権力を握る時代もそう遠くはないように思えてきました。
    企業の経営者がレズビアンの場合、自分の身辺もレズビアンまたはそれに同調する人が多数を占めるかもしれません、そんな企業でレズビアンの女性を軽視したり蔑んだ男性は左遷させられたり退職させられる可能性もあります。
    また企業で権力を握った女性は、家庭では夫に従順に仕えることより、やすらぎを求めて小柄で可愛い男性を女性化して妻や愛人として養うほうが自然なのかもしれません。
    ですからこの小説は、近い将来の話として楽しく読ませて頂きました。特に男性の「喜び組」は女性が主流の会社がリアルに表現されて圧倒されました。本当に素晴らしい発想です。
    ただし、3分の2までは、緊張感があって素晴らしい小説でしたが、最後の3分の1は矛盾が多く納得できませんでしたので、疑問点をまとめてみました。

    ペットとか子猫ちゃんという言葉が頻繁にでてきますが、立場がいまいちはっきりしない。妻とか愛人とかはっきりした立場のほうが分かりやすい。

    松岡亜希子と君原凛のセクシャリティが理解できませんでした。
    松岡亜希子がストレートで君原凛がFTMということで最後に結ばれますが、松岡は「頑固で制服以外のスカートは絶対にはかなかったから」や「一切家事をしないズボラな人間だし、気も荒いし、いい加減だぞ。」とFTMの感覚です。
    「私は女だけじゃなく男も欲しいと思ったら自分のものにしてきたの。」と言っていて、受身であるはずのストレートの女性でしょうか?
    君原は「正直なところ、160センチ代前半の細身で小顔な子が一番好きなの。そして顔が美しくて性格が可愛いことが絶対条件。
    そんな男性は滅多にいないから、これまでは女性で代用してきたの。私は女の子には不自由しなかった。
    玲菜ちゃんそっくりな子を何人か抱いたわ、そして捨てた。
    「レズのセックスは好きよ。オーガズムも得られるわ。でも、抱いた後で虚しくなるの。私は男性じゃなきゃダメみたい。」と言っていて、FTMでしょうか?
    また熾烈な玲菜争奪戦のライバル同士が急に男女の関係になるのも不自然です。

    芦沢由紀奈は、あまり登場しない(FPUにいながらBQTの案件にも参加していない)し魅力的な女性とは描かれていない(美人ではないし松岡や君原に能力で劣り田淵啓子から忠告されて玲菜に優しくなった)のに最後になぜ主人公と結ばれるのかが不明です。ここで興奮が一瞬に冷めました。また芦沢由紀奈はレズビアンでもないのに、女となった玲菜を愛せますか?

    芦沢由紀奈は本当に妊娠しているのだろうか?(泥酔状態で男性の機能が働きますか?又セックスしたことも覚えていないなんて?)

    策略家の坂口ユニット長が、最愛の玲菜を簡単に新人の芦沢由紀奈に渡すとは考えられない。ユニット長の権限であの手この手で玲菜を奪い返すでしょう。
    「男の子たちの運命はユニット長の気分次第で決まるというわけよ。」と怖い存在です。

    MTF小説シリーズ「性転のへきれき」に推理小説のような意外性を読者は求めていないと思います。
    意外性を求めて矛盾した終わり方よりも、坂口のような美しく聡明な素晴らしい(15歳年上で支配的な)女性と結ばれるラストのほうが読者に感動を与えると私は思います。

    私はこの小説の続編を勝手に想像しています。
    「芦沢とセックスしたことを覚えていない」という玲菜の言葉に疑惑を抱いた坂口は調査で芦沢の想像妊娠に気付きます。
    芦沢はこの件で坂口から一般職に降格されたことで自ら退職してしまいます。
    玲菜を取り戻した坂口は正式にプロポーズして「結婚式」や「ハネムーン」や「新婚初夜(坂口は膣形成した玲菜の処女を奪います)」や「新婚生活」を美しく甘く描きます。
    坂口の妻となった玲菜は、従順で幸せな妻として愛する坂口をたてて家庭をまもります(松岡と君原の玲菜争奪戦は、玲菜を自分好みの女にするための坂口が計画した芝居とは知らずに)が、モデルの仕事は続けています。
    ところで松岡と君原のカップルは破局を迎えます(当然ですねお互いに家事をやらないし家庭的ではありませんからね)。
    松岡と君原は共謀して吉岡亜也と水原沙希をレズビアンの世界に引きずり込み自分達の彼女にしてしまいます。
    夫である坂口七恵と妻である坂口玲菜の間には代理出産で女の赤ちゃんが出来ます。ママとなった玲菜は育児に追われモデルの仕事をやめて専業主婦になります——
    などなどこんな素敵な続編があったら楽しいだろうね!

    MTF小説シリーズ「性転のへきれき」にFTMはあまり入れないほうがいいのでは?MTFもFTMも重い題材なので、小説の主旨が曖昧になってしまう。
    もし入れるなら、君原のような女性を主人公として別の小説にしたらどうでしょう?
    中山可穂さんの小説「深爪」は、人妻を奪う女性(レズビアンのタチ)・家を出る人妻(レズビアンのネコ)・女性に妻を寝取られた夫(MTF)の3人の視点で書かれた3部作で出来ていて、小説の曖昧さを全く感じません。

    そして純粋な恋愛小説も描いてほしい。中山可穂さんの小説「感情教育」「マラケシュ心中」のように美しく激しく、でも彼女の小説は女性と女性の恋愛小説です。
    桜沢ゆうさんには、元男性(MTF)と女性の純粋な恋愛小説も描いてほしい(ラブストーリーかおりの場合は最後は男性と結婚してしまい、律子との恋は何だったのかいまいち分かりにくい)。
    youtubeでも、女性と女性、元男性(MTF)と元男性(MTF)、元男性(MTF)と元女性(FTM)、はよく映像が投稿されていますが、元男性(MTF)と女性はあまり見たことがありません。男性がMTFと分かった時点で、女性のほうから離れていくようですね。ただし妻がレズビアンだった場合は、女性になった元夫と家庭で過ごしている映像が少し投稿されています。
    桜沢ゆうさんの小説は、元男性と女性のレズビアンラブがテーマだからこそ希少で素晴らしくおもしろい。
    今後のご活躍をお祈りします。

    1. 水無月小夜さま

      コメントに1週間も気づかず大変失礼いたしました。エンディングで誰と結びつくかプロットを決めずに書いていたのですが、玲菜の気持ちとして子育て願望に走ってしまいました。最近赤ちゃんを見ると可愛くて仕方ないので・・・。やはり坂口ユニット長と結びつくのが怖くても自然だったのかも知れません。

      主人公がMTFのサスペンスやラノベBL、純愛ものも書きたいという気持ちがあって、性転のへきれきの軸足がぶれて曖昧になるのはいけませんね。コメントを頂いて反省しました。執筆中(45%段階)の「ハンサムすぎる友人」のプロットは相手の女性が事故で死ぬことになっていたのですが、もう一度考えてみます。並行して書いている「偽装のカップル」はプロットを変えられそうにありません・・・。

      私自身が色々迷っている時期でしたので本当に参考になりました。心からお礼申し上げます。

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