津波に飲まれた性別(幽かな友人・私を愛した幽霊)

また3.11がやってきました。2011年3月11日、私は都内の企業のオフィスで働いていました。震災発生から一時間ほどで全員に退社命令が出て、交通機関が動いていないようだったので私は千葉県内の自宅を目指して歩きました。インディペンデンスデイの映画のように黙々と歩く群衆の一人として、寒風吹きすさぶ江戸川の土手を歩いた思い出は今も鮮明です。ヒールがあって底が滑る革靴だったのも不運で、靴擦れはするし、市川辺りで脚が動かなくなりました。結局日が変わる前に集合住宅の10階にある自宅に着いたら、タンスも食器棚も本棚も倒れてガラスが散乱、テレビも画面がグシャッと壊れていて素足を踏み入れる場所もなく……。それが私の3.11の思い出です。

「幽かな友人(私を愛した幽霊)」は3.11を題材にした小説です。去年の7月に書いたのでお盆と絡めてコワーイTSホラー小説にしようと思って着手しましたが、出来上がった作品は(性別の交錯や異性装がありますが)一般的なMTF-TS小説ではなく、ホラー小説というよりは時々背筋にしびれが走るロマンス小説になりました。出版当初には「迎え盆の日に小学校6年の同窓会に開催されたが、自分以外の出席者は死んだはずの友達ばかりだったのでゾーッとした」という幽霊談を前面に出して荒涼とした感じの表紙にしたのですが、どうもそんなプレゼンテーションが一般受けしなかったようで、販売冊数が性転のへきれきTS文庫の平均以下にとどまりました。

私としては、色んな意味で自分のルーツに触れる舞台設定で心を込めて書いた作品であり、性転のへきれきTS文庫の中で最も好きな小説の一つです。今年の3.11を目の前にして「幽霊」を最前列から控えの位置に下げて、「性別の交錯と異性装をテーマにした千葉と福島を結ぶ3.11関連の小説」として定義づけしなおすことにしました。表紙画像も明るい思い出のシーンに合わせてみました。

まだの方には「津波に飲まれた性別(幽かな友人・私を愛した幽霊)」を是非お読みいただきたいと存じます。

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「津波に飲まれた性別(幽かな友人・私を愛した幽霊)」は前作「お気に召すまま」を出版した後で、お盆に一人で出歩くのが怖くなるような小説を書こうと思い立って書き始めた小説です。気持ちが乗った結果、予定より早く仕上がり、お盆の時期に合わせた発売にはなりませんでした。

主人公の静香は小学校六年の終わりに両親を事故で失い、山梨の祖父母に引き取られ、祖母の養子になって一人息子のようにして育てられます。

千葉の大学に進学した静香は、夏休みの直前に小学校の六年三組の同窓会通知のメールを受け取ります。静香はその時初めて自分が福島県の小学校に通っていたことを認識します。静香の記憶からは山梨に来るまでのことが完全に欠落していたのです。

その小学校は福島県北部にあることが分かりました。全く覚えていない友達に会うことに不安を抱きながら同窓会に行き、会場である母校の理科室で20人のクラスメートと懐かしい再会を果たします。

同窓会の翌日、山梨の実家に帰った静香は祖父母から驚くべき事実を告げられます。


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