桜沢ゆうの 「第三の性への誘惑」は若い日本人ビジネスマンがインド出張中に、ふとしたことからヒジュラ(Hijra)の世界に足を踏み入れてしまうという小説です。ヒジュラの社会は、合理的で強固なヒエラルキーの元で、様々なルールや儀式によって成り立っています。
「第三の性への誘惑」はそのような社会の構造や儀式(とりわけ無麻酔のトランス状態で男性を捨てる儀式)に当事者として踏み込む意欲的な試みの小説で、取材・調査に長時間を費やした作品です。インドにヒジュラと呼ばれる女装した去勢男性の集団がいることは日本でも知られていますが、その詳細に関する書籍は数少なく謎でした。本書はヒジュラの社会にインサイダーとして踏み込み、当事者の視点で希有で壮大な体験を描いた長編TSロマンス・ファンタジー小説です。
第三の性とは何かご存知ですか?男性、女性と並ぶ、もう一つの性です。第三の性が戸籍で法制化されている国はまだ存在しないようですが、社会の習慣として明確に認知されている国が存在します。その代表がインドです。
インドにはHIJRA(ヒジュラ)というアウト・カースト(の一種)が存在し、その人口は数十万人~(多い推計では)百数十万人だそうです。インドの人口の0.1%に足りるか足りないかという数ですから、勿論少数派ではあります。
HIJRAは、生まれつきの両性具有(半陰陽)、生まれつき生殖能力の無い男性、外観的に普通でもインポの男性、そして男性として生まれたのに心が女性でどうしても女性として暮らしたい(性同一性障害の)人たちが、生まれついたカーストや親族を捨てて、HIJRAとして「生まれ変わる」のです。
最も多いのは最後の分類、すなわちどうしても女性になりたくて家族も地位も捨ててHIJRAになる人たちです。
カーストを離脱して、HIJRAのコミュニティに転籍する、すなわち「アウトカースト」として、学校で教わる4つのカースト(バラモン、クシャトリア、バイシャ、シュードラ)の最下層のシュードラ(奴隷)の更に下層として蔑まれているのがアウトカーストですが、HIJRAはアウトカーストの中でも最下層と扱われる売春婦と同列で、今なお貧しいインドの下層階級において、侮蔑・迫害・差別に晒される毎日を送っているそうです。
逆説的にいうと、日本と違って、何もかも捨てて、最貧民になる覚悟があれば、HIJRAとしてサリーやパンジャビドレスやスカートを身に着けて一生を送ることができるのです。
HIJRAに許される仕事は、①結婚祝いや、男子誕生の祝いに招かれたり押しかけて行って踊って祝いお布施をもらうこと、②毎日商店主を回って僅かなお布施をもらうこと、➂売春、と認識されており、それ以外の職業に着くのは至難の業だそうです。つまり、乞食か売春しか認められないのです。(最近は政府のマイノリティ保護政策により、役所の仕事で一定比率でマイノリティの雇用が義務付けられた場合など、極貧の生活から抜け出せるチャンスが開かれています。)
それでも、どうしても女性として生きたい人が毎年何万人もHIJRAになるということは、性同一性障害(MTF)の問題を抱えることがどれほど深刻なことであるかの証明とも言えるのではないでしょうか。
「第三の性への誘惑」では、若い日本人男性がインド出張中に、ふとしたことからHIJRAの世界に足を踏み込んでしまうという物語です。HIJRAの社会は、合理的で強固なヒエラルキーの元で、様々なルールや儀式によって成り立っています。
「第三の性への誘惑」はそのような社会の構造や儀式(とりわけ無麻酔のトランス状態で男性を捨てる儀式)に当事者として踏み込む意欲的な試みの小説で、取材・調査に長時間を費やした作品です。
【追記】2020年4月改訂版には「第三の性への誘惑」の英語版 Enchanted into the Third Genderの全文が付録として収載されています。
これは性転のへきれきTS文庫、日英TS文庫、その他の桜沢ゆうの出版物を紹介するHPと桜沢ゆうのブログを兼ねたサイトです。桜沢ゆうは千葉県在住の作家で、1997年に処女作「性転のへきれき(ひろみの場合)」を出版して以来創作活動を続けており、数多くのロマンス小説、ファンタジー小説、サスペンス小説、ソフトSF小説などを出版しています。作品の多くは性同一性障害、性転換のテーマを扱っています。小説の分類としてはTS小説が多く、その他は純文学となります。