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フェイク女子高生【立ち読みページ】

フェイク女子高生

第一章 クッキーが招いた厄災

by 桜沢ゆう

 

僕は大企業に勤める父と専業主婦の母との間に生まれ、一人っ子として何不自由なく育った。小学校では秀才と呼ばれ、中学に上がってからも成績は中の上だった。男子中学だったが仲の良い友達も何人か居て、毎日学校に行くのが楽しかったという記憶がある。

親が期待したトップクラスの高校には届かず、その下のクラスの私立高校に合格した。

同じ高校に進学した友人は学年全体で五人しかいなかったが、僕は世渡りが下手な方ではなく、いじめを避けるコツも分かっていたので、適当に友達を作ってそこそこ快適な高校生活を送っていた。

高校二年の夏休み明けの火曜日、同じクラスの男子二人からディズニーランドに行こうと誘われた。山上と北浦は二年から同じクラスになり、一学期は時々話をする程度の仲だった。山上は何となく粗暴さが付きまとう苦手なタイプだったが、誘われて断るのはまずいという気がしたので、誘いに乗ることにした。日曜日の午前七時に駅に集合することになった。

大事なことを忘れていたことに気付いたのは翌日の水曜日だった。一年から同じクラスだった水原早希から「日曜日は十二時に来てね」と言われて、日曜日が早希の誕生日だったことを思い出した。早希は親友というほどではないがずっと仲良くしていて、早希の自宅での誕生会に出席することは夏休み前に約束していたのだ。

山上にディズニーランド行きを断るのにちょうどいい理由ができたと思った。

「山上君、非常に申し訳ないんだけど、日曜日に先約があったのを忘れていたんだ。だからディズニーランドには行けなくなった」

「昨日は気乗りしなさそうな様子だったから、一瞬本当に来るのかなと不安を感じたのが、その通りになった。嫌ならその場で断るべきだろう」

「誤解だ。嫌なんかじゃないよ。実は夏休み前に水原早希の誕生日に行く約束をしていたのに、この日曜日が誕生日だと言うことを忘れていたんだ」

「中条と男どうしの約束をしたのが間違っていた。どうせ中条の中身は女子だから、女子との友達付き合いの方が大事なんだろう」

「そんなんじゃないって。きっとこの埋め合わせはするから勘弁してくれよ」

当時の僕はごく普通の男子であり、将来自分がスカートをはいて生活する日が来るとは夢にも思っていなかった。

「ふんっ」と言って山上は私に背を向けた。後味が悪かったが、一応それで片付いたと思っていた。

日曜日に早希の家に行った時に、山上とのダブルブッキングの失敗談をして『どうせ中条の中身は女子だから』とイヤミを言われたという話をした。

僕以外に加里奈、沙也加と奈菜の三人が誕生会に来ていたが、早希と顔を見合わせて心配そうな表情で口々に「大丈夫かなあ」と言ったので僕は不安になった。

「それって本当に軽いイヤミなの? 男子の感覚はよく分からないけど、もし私が女子から『どうせあんたの中身は男よ』と言われたら、軽いイヤミだとはとても思えないわよ」
と早希が言った。

「山上君は腕力も強そうだし、にらまれたらまずいんじゃない? 改めて謝罪をするとか、何か手を打っておいた方がいいわよ」
と加里奈。

「あっ、そうだ。このクッキーを使うといいわ。ママが沢山焼いてくれたから、包んであげる。それをお土産に差し出して謝れば山上君も気を許すんじゃないかな」

早希は棚に置いてあったピンク色の缶を持ってきて、中のキャンディーをお皿に出し、その可愛い缶にクッキーを詰め、赤いリボンを結んでくれた。

「本当に良いの? これ、僕が自分で取っておきたいほど可愛いんだけど」

「ちゃんと山上君にあげなきゃダメよ。言っとくけど、私からもらったクッキーを中条君が山上君にあげるのであって、絶対に私から山上君へのプレゼントだと誤解されないように気を付けてね」

「それはさすがにまずいよね!」
と僕が言うと四人の女子は声を合わせて笑った。山上は自分が女にモテるタイプだと思い込んでいるが、少なくともこの四人に好かれていないのは確かだ。僕は密かな優越感を覚えた。

***

月曜日の昼休みに山上と北浦が廊下を歩いているのを見つけて追いついた。

「昨日は山上君たちに迷惑をかけて本当に悪かった。これ、早希の家でもらってきたクッキーなんだけど、お詫びに受け取ってくれる?」

僕は山上にキャンディーの缶を差し出した。北浦が不愉快そうな顔になったので軽視されたと思ったのだろうかと心配になった。北浦はスマホをポケットから取り出して何故か僕に向けてシャッターを切った。

山上は僕からクッキーの缶を受け取り、赤いリボンを解きながら低い声で独り言のようにつぶやいた。。

「そうか。水原さんの家に来ていた女子たちに、俺から何と言われたかをしゃべったんだな」

山上が何を言っているのか理解できないまま、山上がクッキーを食べるのをぽかんと口を開けて待っていた。山上はクッキーを一枚口に入れてから、二枚のクッキーを右手の中で握りつぶした。

「えっ? 力を入れたら粉々になっちゃうよ」

僕が言い終わらないうちに、山上は右手を僕の頭の上に持って行って粉々に割れたクッキーを髪の毛に振りかけた。

「どうして……」

「このクッキー、うまいな。中条からのプレゼントとしてもらっておくよ」
と山上が言って二人は立ち去った。

僕はショックで呆然となったが、廊下の端に先生の姿が目に入ったので、トイレに駆けて行った。トイレの手洗い場で髪の毛からクッキーの粉を払い落として教室に戻った。

***

五時限目の後の休み時間にトイレの手前で早希と加里奈に出会った。

「中条君、山上君にクッキーを渡した?」

「うん、昼休みに渡したよ。その場で食べて、美味しいと言ってた」
クッキーの粉を頭に振りかけられたことは言わなかった。誰に聞かれるか分からないし、早希に無用な心配をかけたくなかったからだ。

「許してもらえてよかったわね」

「うん、ありがとう。早希のお陰だよ」

山上と北浦が心から許してくれたとは思えなかったが、一応この件は片がついたつもりだった。

***

異変に気付いたのは翌日の水曜日の昼休みだった。僕は普段、笹岡、水谷、永井と四人で弁当を食べているのだが、僕がいつもの席に座ろうとすると笹岡に言われた。

「あ、その席、ふさがってるから」

「えっ? 誰かここに来るの?」

「まあな。他の場所で食べてくれ」

僕は水谷と永井に救いを求める視線を送ったが、無視された。何が起きたのか分からなかった。笹岡に嫌われるようなことをした記憶はなかった。いや、もし気づかないうちに笹岡を怒らせたとしても、水谷と永井が同調して僕を排斥するとは思えない。

合点がいかないまま自分の席に戻って一人で弁当を食べた。一人で弁当を食べるのは久しぶりだった。周囲を見渡すとガリ勉で有名な西岡が教科書を読みながら弁当を食べているのと、友達が居なさそうな女子が二人自分の席で弁当を隠すようにうつむいているのが見えた。

食べ終えてトイレに行くときに笹岡たちが見えたが、僕のいつもの席は空席のままだった。やはり僕は仲間外れにされたようだ。

その日、六時限目が終わって下校する時に、クラスの他の男子が僕を見る目がよそよそしいことに気付いた。視線が合うと逸らされるし、話しかけようとして近づくと逃げられた。

笹岡たちから排斥されたのと同じ理由なのかもしれないが、全く心当たりはないし、何が起きたのか全く分からなかった。これはイジメなのだろうか? 僕自身がイジメにあったことは一度も無いので、本当にイジメなのかどうか判断できなかった。

敵意を招いたとしたら山上と北浦だけしか考えられない。クッキーを渡して謝っただけでは許してもらえなかったのだろうか。しかし、山上と北浦が他の男子に働きかけて僕をイジメるように仕向けられるとは思えない。僕は愛想がよくて誰にでも柔らかな態度で接しているつもりだし、少なくとも山上や北浦よりは人気も信用もあるはずなのに……。

それが一過性の現象であることを祈りながら帰宅した。

***

木曜日の朝、教室に入ると、全員から露骨な嫌悪の視線を浴びた。昨日は僕が視線を向けると目を背けられたが、今日は露骨な嫌悪の目を向けられて僕が視線を逸らすしかなくなった。僕に対する本格的なイジメが始まったことを否応なく認識させられた。

イジメを受ける側がどれほど無力なのかを思い知った。一時限目の後でトイレで水谷と永井に遭遇した時、二人は汚いものを見るような目で僕を見て接触を避けようとした。

「水谷君、永井君、教えてくれない? 僕が何か気に入らないことをしたかな?」

二人は「キモッ」と言って僕から視線を逸らして小走りにトイレから出て行った。

昼休みになると、僕の居場所はなくなった。昨日までは嫌悪の視線は男子に限られていたが、今日は女子も僕の方を見て小声で悪口を言っているように感じられた。一人で弁当を食べてから、早希と加里奈が他の二人の女子と一緒に弁当を食べているところに行って、早希に
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
と声をかけた。

早希は周囲の女子の視線を気にしながらバツが悪そうな表情で言った。
「今は忙しいからまた後で」

早希の表情に、僕に対する嫌悪感は感じられなかった。他の女子の手前、今は言えないが、イジメの理由は早希から聞き出せそうだ。

授業が終わると、早希はちらちらと僕の方を見ながら教室を出て行った。僕は少し遅れて学校を出て、早希を追いかけた。校門を出てしばらく歩いたところで早希を追い越し、次の角を曲がった奥まった木陰に入った。

予想通り早希が僕の後を追って木陰に来た。

「来てくれてありがとう。何があったのか教えてくれない?」

早希はスマホを操作して僕に渡した。

「これよ、見て」

それはSNSにアップロードされた動画で、僕がクッキーが入ったピンクの缶を笹岡に差し出すところが映っていた。笹岡が赤いリボンを解いて缶のふたを開け、クッキーを一枚取り出して口に入れる。更に二枚を取り出して右手で握りつぶしている。僕はポカンと口を開けて笹岡を見上げ「えっ? 力を入れたら粉々になっちゃうよ」と力のない声で言う。山上が右手を僕の頭の上に持って行ってクッキーの粉を髪の上に落とす。「どうして?」悲しそうな表情で僕が言うと山上が「このクッキー、うまいな。中条からのプレゼントとしてもらっておくよ」と言ったところで動画は終わっていた。あの時、北浦が撮った動画だ。

「中条君、山上君に何と言ってクッキーを渡したの?」

「迷惑をかけて悪かったと謝って、早希の家でもらってきたクッキーをお詫びに受け取ってほしいと言って渡したよ。日曜日に言われた通り、早希さんから山上君へのプレゼントだと誤解されないように注意したつもりだったんだけど……」

「動画のメッセージ欄にはそんな風には書いてないわよ。読んで」

「A君が廊下を歩いていると、突然F君が現れてリボンを付けたピンクの缶を差し出した。
『A君、スキです。僕と付き合ってください!』
A君は返事代わりにクッキーを握りつぶしてF君の頭に振りかけた。
ああ、美しい青春!」

「バカバカしいパロディーだ。まさか、早希まで本気にしてるんじゃないよね?!」

「私と加里奈、沙也加、奈菜はクッキーの事情を知ってるから、こんなの嘘だと思いたいわよ。でも、この動画を見ると、中条君が山上君にコクったように見えるのよね……。勿論、私は本気にしてないわよ」

「他の女子三人も同じだろう? あのクッキーは僕が山上君たちに謝るために持たせてくれたってことを四人が皆に言ってくれたら、誤解が解けるのに!」

「実は沙也加と奈菜が動画を見た時に近くに北浦君が居たから、クッキーはディズニーに行けなかったお詫びとして中条君が私の家から持ち帰ったものだから告白に使うはずがないと言ったのよ。そうしたら北浦君から『いい加減なことを言いふらしたら、お前たちのどちらかが中条に頼んで山上に渡したことになるかもしれないぞ』みたいなことを言われて脅されたの。だから二人ともビビってる」

「じゃあ加里奈は?」

「加里奈は中条君が以前から山上君を好きだったかもしれないと思ってるみたい。中条君は性格も女子っぽいから山上君みたいな男子に憧れていたんだろうなって」

「そんなバカな……早希、助けて!」

「私は明日から機会があるたびに『中条君が山上君たちにディズニーの約束をすっぽかしたお詫びを言う時に渡すプレゼントとして誕生会のクッキーを缶に入れて持って帰らせた』とクラスの人に言ってあげる。北浦君は怖いけど、それは約束する。でもね、私がそう言えば中条君がクッキーをどこから手に入れたかは証明できるけど、中条君が山上君に告らなかったという証拠にはならないわよ。その点は中条君が山上君や北浦君と話をつけるしかないと思う」

「僕は男だよ。それに、どうしてよりによって山上君に告らなきゃならないって言うんだよ……。でも、早希を責めても仕方ないよね。分かった。僕、あの二人ときっちり対決する。決闘をして死んでも仕方ない。ホモだと思われてシカトされる生活を送るぐらいなら死んだ方がマシだから」

「頑張って……」

「悪いけど、その動画のリンクを送ってくれる?」

「それはできない。中条君にリンクを送りそうなのは私ぐらいだと思われているから。自分で探して。じゃあ私、帰る」

早希は小走りで立ち去った。

僕と一緒にいたことを知られると早希に迷惑がかかるかもしれないと思って、わざと遠回りして家に帰った。

頭の中で明日山上や北浦に詰め寄るシーンを思い浮かべた。彼らは明らかな悪意を持って攻撃を仕掛けて来たのだから、今までのように低姿勢で接しても埒は空かない。毅然として二人に挑まねば、と思った。

家に帰るとスマホで北浦が投稿した動画を探した。北浦という投稿者名、山上、中条、告る、などのキーワードで検索したが動画は見つからなかった。SNSに以下の多くの動画が投稿されているかを実感して気が遠くなる思いだった。早希は誰かから動画のリンクを受け取るか、特別なハッシュタグを教わるかしてあの動画を開くことができたのだ。一人でやみくもに探しても到達できるはずがない。しかし、あの動画の内容は僕の頭の中にきっちりと収められている。

夕食は好物の豚カツだったが、胸につかえて中々喉を通らなかった。母は僕がお代わりを欲しがることを見越して準備してくれていたようだったが、僕は何とか自分のものを食べ終えるのに必死だった。

両親に胸の内をぶちまけて相談したいという衝動に駆られたが思いとどまった。ホモなどという不名誉な言いがかりをつけられたことを家族に知られたくなかったし、もし話し始めたら家族の前で大泣きしてしまうことが目に見えていたからだ。明日、山上たちと対決して自分で決着をつけようと心に決めた。

 


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