ユキの場合 第20章 | 性転のへきれき

ユキの場合 第20章

第20章 腹心の友との仲直り

一夜明けた8日目の朝の回診でついに尿道からカテーテルが抜かれた。これでパイプが一本もつながっていない自由な体に戻った。

もう病人じゃないという気分になり、体にもさらに活力が出てきて、朝の2時間の苦行も泣かずに切り抜けると、美沙と話をしたいという強い衝動に取りつかれた。

義弘から離婚されて養女になるということも話して相談したい。

この4年間、困ったことや悩みがあると必ず美沙と話してきた。美沙はまだ怒っているだろうか。当然だろう。恩知らずの泥棒猫と呼ばれて殴られてから、まだ12日ほどしか経っていない。

美沙が冷静なときに申し開きすれば、私に悪意がなかったことは分かってくれると思うが、自分にお見合いを申し込んできた男性を親友に誘惑されて負けたのだから、私とよりを戻すことは美沙のプライドが許さないかもしれない。

どんな絶望的な状況であろうとも、美沙は私にとって決してあきらめることのできない大切な存在だ。私は勇気を振り絞って美沙に長いメールを書いた。

ディズニーの朝からの私の気持ちと、私の目から見て何が起きたのかを詳しく説明した。野上さんとは一生会わないし口もきかないと約束し、美沙が私にとってどんなに大切かを表現できる限りの言葉で書いて、許しを乞うた。

きっと、美沙はこのメールを無視するだろう。それでもいい。来週もう一度、自分の気持ちを書いた手紙を出そう。何度でも謝って許してもらおう。

美沙からずっと無視される状況を頭に思い描いて、一人涙ぐんでいると、携帯電話が鳴った。美沙だ。

「美沙、美沙なのね。」

「ユキ、久しぶりね。手術はうまくいった?」
美沙の声は普段に増して明るく、何のわだかまりも感じられなかった。

「美沙、許してくれるの?」
涙ながらに聞いた。

「ごめんごめん。わたしの方こそ見苦しいことをして。殴ったの、痛かったでしょう。」

「あんなの何でもないし。何とも思ってないわ。」

「殴ったわたしも死ぬほど落ち込んだけど、その後スゴいことになって、ユキに連絡するのをすっかり忘れてたの。」

「すっかり忘れるなんてひどい。一体何があったの?」

「わたし、結婚が決まったの。」

「な、な、なんですって。」
私は驚きのあまりベッドから落ちそうになった。

野上に振られたショックで、誰とでもいいからお見合いして結婚して見返してやろうという愚行に走ろうとしているのではないか、という心配が頭をよぎった。

「そりゃ、驚くでしょうね。わたしが一番びっくりしているんだから。でも、何もかもユキのおかげよ。ユキや野上君たちとディズニーランドに行ってなかったら、こんなにうまくは行かなかったわ。」

あっけにとられる私を相手に美沙が滔々と語ったのは、次のような話だった。

「あんたを殴って家に帰ってから、寝込んじゃったの。考える気力もないし、何も喉を通らなくて、廃人みたいだった。

心配した母がすごく優しくしてくれて、わたし、母に何もかも打ち明けたの。

意外?あら、わたし、小さいころから母には何でもしゃべるのよ。だから、母はあんたのこと何でも知ってるわよ。

母に説明していて分かったわ。わたしは裕貴としか本気で付き合ったことがなかったから、野上君みたいなタイプの男性と腕を組んだりして、ワイルドで新鮮だからドキドキして舞い上がった。

その野上君に振られたのはショックだったけど、一番ショックだったのは、駆け出し女のあんたがわたしの教えたとおりに可愛い子ぶったぐらいで、このわたしが負けたことだって気づいた。負けず嫌いのわたしのプライドがズタズタになったのよ。

わたしが負けただけなのに、あんたを殴って絶交を言い渡すなんて、最低の女よね。取り返しのつかないことをしてしまった。母の胸でワンワン泣いたわ。

そうしたら母が
「高原さんは謝れば必ず許してくれるわ。」
って保証してくれたの。
「高原さんは美沙のことを誰よりもよく知ってるから、必ず美沙の気持ちをわかってくれる。」って。

母の言葉で立ち直れたの。あんたが手術から戻ってきたら土下座してでも謝ろうと思った。

ちょうどその夜に父がお見合いの話を持って帰ったのよ。取引先のオーナー企業の社長の息子さんと会ってみないかって。その日に接待で飲んでいて意気投合したみたい。

土曜日にその社長さんと父がゴルフの約束があるから、ゴルフ場のレストランで気軽に会え といわれたの。お互いに気に入らなかったら断っても全然かまわないからって。写真も釣書もなくて、分かっているのは京大卒の29才ということだけ。だから気楽に会う気になれたの。

土曜日だから、丁度あんたの手術の日よ。父の車でゴルフ場に行って、レストランで4人で会ったの。父からは車の中でくぎを刺されたわ。京大卒で良家の息子なんだから、外見は父親から想像するとあまり期待できないけど多少のことなら我慢しろ、って。

それが会ってみたらモデルでもできそうなイケメンで、京大アメフト部のスタープレーヤーだったスポーツマン。それに、187センチもあるのよ。わたし、ひと目見て舞い上がったわ。

彼もわたしに一目ぼれだったみたいで、
「明日の日曜日にデートしましょう。どこでも美沙さんの行きたいところにお連れしますから。」
ということでわたしが後でメールすることになって、彼はそのままゴルフに行っちゃったの。

先方が運転手付きの車を用意してくれていて、わたしはひとりで家に帰ったの。車の中で考えて、デートの場所を指定したの。どこだと思う?

美術館?あんたがそう言うと思ったわ。

映画館?まさか、女子高生じゃあるまいし。

当てるのは無理ね。実は、ディズニーランドを指定したの。

何を着ていったと思う?コクーンのチュニックワンピ。あんたが着て野上君たちを誘惑したあのワンピよ。それに靴もペタンコスニーカー。あの日のあんたと100%同じ。

彼はごついトレッキングシューズを履いてたから、あの時の野上君とあんたより、もっと身長差が大きかった。だから、あんたの仕草を思いっきり真似して、コケティッシュに甘えまくったの。楽しかったわ。あんな気持ち、生まれてはじめて。「空を飛んでるみたい」と言ってたあんたの気持ちがよく分かった。

あんたみたいに彼の腕にぶら下がって、首を傾げてバカっぽく口を開けて見上げてたら言われたの。
「昨日は長身の美女に一目ぼれしたけど、美沙ちゃんって思ったより小さくて可愛いんだね。」

「どちらが好きか選んで」って聞くと、
「付き合いたいのは昨日の君で、結婚したいのは今日の君かな。いや、その逆かな。両方とも好きだから片方を選べと言われても無理だよ。」
って言った後、しばらく考え込んで、
「結婚は最高に可愛い今日の君に、今申し込ませてくれ。」
と言って、キスされたの。

あっという間の出来事だったけど、わたしが今まで想像したことのあるどんなプロポーズシーンよりも素敵だったわ。

ディズニーランドの帰りにラブホで結ばれて、二人とも翌朝一番に両親に報告したの。結婚しますって。

両親のびっくりした顔、面白かったわ。母はわたしが男の子に振られて、見返してやろうと結婚に走るんじゃないかって心配したみたい。

ユキもそう思ったって?失礼ね。野上君は魅力的だけどコドモよ。わたしの彼は遥かにマチュアーで、心から見上げるような存在よ。それに、180センチしかない野上君だとわたしが高いヒールを履くと数センチしか違わないから、対等みたいな感じでしんどいでしょ。

わたしの本性?勿論、彼を相手にする時のわたしが、生のわたしよ。隠れていた自分自身が解放されたのかも知れないわ。裕貴と付き合ってたわたしは、大好きな裕貴に合わせようとして自分を無理に変えていたのね、きっと。

ユキはいつ東京に帰るの?早くもっと話ししたいわ。」

私の悩みを打ち明けられるような雰囲気ではなく、そのまま電話を切った。

よかった。私は一番大切な人を失わなくて済んだんだ。

でも、私があんなに落ち込んでいたのに美沙は舞い上がって私に謝ることもすっかり忘れていたなんて、少し腹が立った。
「あんな一方的に謝るメールを書いて損しちゃった。」

しばらくして、美沙からディズニーランドで彼と撮ってもらったらしい写真がメールで届いた。大きなミニーのカチューシャをして、背伸びするようにして左手を彼の左肩に回し、彼が右手で美沙の腰を抱いている。美沙がそこらへんの女子高生みたいにキャーキャーと可愛い子ぶっている様子が伝わってくる写真だ。

ワンピの裾が上がって、もしタイツを履いていなかったらパンティーが丸見えだ。6センチ小さい私の体でも短すぎるあのワンピを長身の美沙が着るなんて、魂胆が見え見えだ。恥ずかしくないんだろうか。

だめだめ、美沙の策略にひっかかっちゃ。美沙は「三高」の彼氏を自慢すると同時に、
「私の方が美人だし、その気になればユキよりずっと可愛いのよ。」
ということを私に分からせたいのだ。

美沙の本性が見えた気がして、
「どうして4年間も付き合ってわからなかったんだろう。もし高原裕貴と結婚していたら、自分の本性を隠して一生を送るところだったんだわ。こうなって、本当に良かった。」
と思った。美沙のことが益々好きになった。

ベッドでピースした自分の写真を撮って、テキストなしで美沙に送っておいた。

カテゴリー: ユキの場合, リアル系TS小説

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