ユキの場合 第18章 | 性転のへきれき

ユキの場合 第18章

第18章 失ったもの

手術後6日目の朝、菅沼先生の回診の際に初めて膣洗浄をした。

お尻の下にステンレスのお皿をあて膣の詰め物が取り除かれた。消毒液のボトルからシュッシュッと冷たい液を何度も吹き付けながら、浣腸のような大きな注射器も使って、膣の奥まで洗浄した。

冷たい液体が膣の中にシューッと入ると、肛門に氷を入れられたような感触が、肛門のずっと奥のようにも感じられ、すぐ膣の入り口であるようにも感じられる、未知の場所でヒンヤリとする。

「痛かったら声を出してください。」
菅沼先生が指で膣の中をこねまくって触診した。あまり痛みは感じなかったが、触られたことのない場所を指で触られると、どうしてもアッとかウッとか声がでてしまう。

最後に冷たいロートのような金具を膣口にあてて中をのぞき込んだ。看護師二人も膣を覗きこめる場所に立っていて、とても恥ずかしい。

その間ずっと尿道にカテーテルが刺さったままの状態なのでなおさら恥ずかしい。

「我ながら芸術品というところかな。」
と自慢げに看護師たちに言って、看護師たちが笑った。

「高原さん、順調ですよ。」
とお尻の方から鏡を当てて、患部を見せてくれた。

「きれいに仕上がったでしょう。」
と言われたが、私は肛門のような穴がオシッコの穴のすぐ下にできた姿を頭に描いていたのに、思いもかけないグロテスクな姿を見て、
「えっ、これが。」
と絶句した。

小学校のころ、病気の犬が赤い腸の見え隠れする内臓のような肛門を出して歩いているのを見て吐きそうになったことを思い出した。

「腫れが引けば誰に見せても気づかない外見になります。」
と満足そうに言った。

今日から点滴を外すことを看護師に確認して、先生は出ていった。

後で容子が来た時、
「ほんとうに治るんでしょうか?」
と涙ながらに聞いた。

「え、何のこと?」
と容子。

「わたしのあそこ、すごくグロテスクじゃないでしょうか?腫れが引いたら、少しマシになりますか?」

「見たことがなかったのね。」
アハハと声を出して笑った。

「少し腫れてるだけで、あれが標準的な女性の陰部よ。腫れが引いたら、わたしのと一緒よ。まったく同じ。」

「うそでしょう?」

「今夜は夜勤だから、どうしても信じられないということなら見せに来てあげてもいいけど・・・。でも見つかったら怒られるから、代わりに、あとで図鑑か何かの写真を見せてあげるわ。」
と言われた。

しばらくして、容子が解剖学の本を持ってきて見せてくれた。先ほど見たグロテスクなものと生き写しの画像だ。

「せっかく手に入れた大切な女性器なんだから、グロテスクなんていうとばちが当たるわよ。」
と言われた。

今日からベッドの上で体を動かしてもよいので、電動ベッドの背を起こしてテレビを見たり、容子がどこかから持ってきてくれたファッション雑誌を見ながら過ごした。

食事もお粥だったが、自分の手で箸やスプーンを使って食べることができることが嬉しかった。

午後、主人が見舞いに来た。
「元気そうな顔をしとるな。よかったよかった。」
と言うのを聞いて、本当に元気になったような気持ちになった。

主人の視線が尿器につながる管に注がれたことに気付いた。
「点滴が今朝終わったのよ。でも、まだオシッコも管から垂れ流しだし、恥ずかしいわ。」

「いつ取ってもらえるんだ。」

「わからないけど、もうしばらくかかかるみたい。」

「もう少しの辛抱だよ。」
と言いながら、鞄から一通の封筒取り出して私に手渡した。

「これがわしからのお祝いじゃ。」
中には戸籍謄本が入っていた。

「金庫に保管していた離婚届を出してきた。これでお前は自由の身じゃ。」

「なんですって。」
私は驚きと混乱で気が狂いそうになった。

義弘と夫婦として生きていこうと考え始めていたのに、私に一言も言わずに離婚届を出すなんてひどすぎる。

「なぜそんなひどいことをするの。あなたまでわたしを捨ててしまうなんて。」
私は泣き伏した。

もう主人と呼べなくなった義弘が右手を私の肩に置いて言った。
「お前はわしにとって世界中で一番好きで大切な人じゃ。わし自身より遥かに大事だと思うとる。お前をずっと妻と呼べるなら、こんな幸せなことはない。」

「しかし、もう一度じっくり考えてみた。お前は知らないうちに戸籍を女に変えられて、わしの嫁にさせられた。こんなひどい話はない。わしも70じゃから、今は元気でもいつどうなるか分からん。お前に介護だけの人生を送らせたくない。」

「しかし、わしはお前を幸せにしたいし、手放したくない。そこでじゃ、お前を養女にさせてほしい。そうすれば相続の問題もない。わしの持っているものは全てお前のものじゃ。東京で好きなことに挑戦したらええ。但し、盆と正月には帰ってきてほしい。」

義弘の気持ちはよく分かったが、私は失ったものの大きさに震えていた。70才といっても義弘は男らしい体躯をしていて、私を抱いてくれたこともある。短い期間だが寛大で頼りになる夫として、私の逃げ場になってくれた。

友人に対して「主人が」と言うときには、静かな誇りと優越感が持てた。そんな大事なものが一瞬にして消えてしまった。抱いてもらえる人ももういない。

「叔父ちゃん、大好きだったのに、ひどい、ひどい。」
と私は泣き続けた。

「わしも大好きじゃ。大好きどうし、父親と娘として一生仲良くしていこう。」

「養子縁組の書類を作ってもらってきたからここに署名してくれ。念のためこちらの委任状にも名前を書いてくれ。」

私は涙ながらいくつかの書類に名前を記入した。

叔父が自販機からお茶を買ってきて、お見舞いの「千寿庵の餡わらび」をほんの味見程度にかじらせてもらい、残りは義弘が食べた。

「せっかく買ってきてくれたのにごめんね。まだお粥が始まったばかりなの。」

それから、父娘として話をした。

特に意味のある話は何もしなかったが、不思議に気持ちが落ち着いてきた。

義弘が帰るときには、
「お父さん、どうもありがとう。」
と言えた。義弘は満面の笑みを浮かべて病室を去った。

カテゴリー: ユキの場合, リアル系TS小説

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