ユキの場合 第17章 | 性転のへきれき

ユキの場合 第17章

第17章 性転換手術

一番大切なものを失くしてしまった。何もかも悔やまれたが、どうすることもできない。美沙からも野上からも大学の他の友達からも、そして東京からも逃げてしまいたいと思った。

バス会社に電話を入れて池田町行きの予約を翌日火曜日の夜に変更した。

手術が終わったら、池田町の夫の元に戻って専業主婦として静かに一生を送ろう。もう傷つくのはいやだ。

グレーのマキシ丈のワンピースにスニーカーをはいて、墓場に向かうような恰好で夜行バスに乗り、水曜日の朝、池田町に着くと、夫が迎えに来ていた。来てくれるとは思っていなかった。心に暖炉の火が灯った。

「わざわざ来てくださってどうもありがとう。」

「嫁はんが帰ってくるのに、あたりまえじゃ。こんな可愛い笑顔を見せてくれたら、迎えに来たかいもあったというもんじゃ。」

2週間ぶりの「帰宅」だが、今度は本当に自分の家という気がして、古い家具のひとつひとつに親しみを感じる。私はこの家で優しい夫に仕えて心穏やかにひっそりと暮らしていこう。

片っ端からお掃除や片付けものをしたり、家事を必死に楽しんで、頭の中を空っぽにしようとした。夫は少し心配そうに、でも満ち足りた顔で私を見ているようだった。

そんなふうに二日間が過ぎて、金曜日の朝に夫の運転で大阪の菅沼クリニックに向かった。淡路島での休憩を含めて4時間かかるが快適なドライブだ。

「不安だろうが、きっと大丈夫だ。」
と私を力づけようとして夫が言う。

「全然不安は感じてないわ。早くまともな体になってすっきりしたい。」

菅沼クリニックでは色々な検査をして翌日朝9時からの手術に備えた。

毛剃された後で、夕食の代わりに「ニフレック」という腸内洗浄剤の冷えた不味い液体を少しずつ2リットルも飲まされ、2時間かけて腸内が完全に空っぽになった。

手術の内容について菅沼先生から説明があった。膣形成術として最も一般的な「ペニス反転法」という方法は、私の場合ペニスが小さすぎるため無理で、大腸の一部分を切り取って膣壁として利用する「結腸転換法」という方法で移植するとのことだった。

ペニス反転法と比較して膣が癒着しにくく、十分な膣の深さが確保できる(巨根の男性と性交できる)という利点があり、また「ダイレーション」が軽減されるが、下腹部に帝王切開程度の切り傷が残るとのことだった。

ダイレーションという言葉は初耳だったので質問したところ、プラスティックの棒を毎日膣に突っ込んで癒着を防ぐ作業が手術後半年もの間必要になり、当初は痛いが慣れるとのこと。そんな面倒なことになるとは思ってもいなかったのでショックだった。

「絶頂では男性の射精の瞬間と同等の快感が得られ、絶頂後は男性だったときには味わえなかった快感が得られるようになりますよ。性的興奮の間には潤滑液も分泌されますから安心してください。」
と菅沼先生は不安の表情を見せた私を喜ばせようとして言ったが、そもそも女性としてセックスしたいという動機は皆無だったし、射精と同等の快感と言われても、射精の経験がないのでどんな快感なのか見当もつかなかった。潤滑液が分泌されるとは、お漏らしをするようになるということだろうか、と不安は高まるばかりだった。

翌朝、手術は全身麻酔で行われ、私にとってはあまりにもあっけなく終わった。目が覚めたのは夕方のようだったが、意識が朦朧としていて、すぐに眠ってしまった。

翌朝目が覚めると、身体から何本もの管が出ていて身動きが取れなかった。まだ朦朧としていて身体全体が重い。

手術前の説明の際、腸を切り取るので三日間は完全絶食で寝返りもしてはいけないと聞かされていたが、そんな食欲も気力もない。天井を見て眠ったり目が覚めたりを繰り返すだけだった。

三日目の朝は少し気持ちがしっかりしてきて
「よかった、まだ生きてた。」
と感じられるようになった。

「明日からジュースが飲めるようになるから楽しみにしててね。」
と看護師の容子が言ってくれた。

四日目の朝、看護師の容子が来て
「顔色が良くなったわね。じゃあ、ジュースを飲もうね。」
と言った。

コップ一杯の変な味の飲み物を飲まされた。

「尿口にカテーテルが差し込まれているから、オシッコのことは気にしなくていいのよ。」

陰茎が切り取られて陰茎に開いていた穴にカテーテルが差し込まれているんだろうか。陰嚢で膣を作るということはカテーテルを差し込んだ穴の下に膣の穴が開いているんだろうか?

「インターネットでもっと詳しく調べておけばよかった。」
勉強不足だったことを後悔した。

乳の大きさに悩んだ時に男女の性差には敏感になったが、却って性器の違いについては詳しく知ることを避けるようになってしまい、性知識が乏しいまま大人になってしまったのだ。

「原則として5日間は安静だから、今日明日はできるだけ上向きで動かないように寝ていてね。」
と、容子に言われたのでテレビを見ることは諦めて、一日中ぼおっと考え事をしていた。

点滴の中に痛み止めも入っているようで、痛みは感じない。

一日中眠っているような起きているような感じだった。

昼食、夕食として、朝よりもドロッとした、朝よりももっと不味いジュースをストローから飲んだ。

手術後5日目の朝、菅沼先生の回診の際に少しだけ手術の跡が見えた。

痛々しい傷口のような割れ目から、雑草が生えるようにカテーテルが出ていて、割れ目の向こうにはシーツが見える。つまり、ペニスと、もと陰嚢だったたるんだ皮膚が姿を消して、平面になった光景が見えた。
もちろん、それで当前なのだが、

「ああ、本当にやっちゃったんだ。」
と実感した。

食事は、スポーツジェリーのようなアルミパックに入った流動食をヘルパーさんが少しずつ口に注入して食べさせてくれた。まだ少しムカムカする感じはあるが、食欲が出てきて、次の食事が近づくと早く欲しいと感じた。

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カテゴリー: ユキの場合, リアル系TS小説

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