ユキの場合 第14章 | 性転のへきれき

ユキの場合 第14章

第14章 キューピッド

サイゼリヤへは昨夜の飲み会と同じ服装で出かけた。

「そんな派手な格好をして、これからパーティにでも行くの?」
と開口一番、美沙に冷やかされた。

「昨日の飲み会にどんな服で行ったかを美沙に見てもらいたくって。」

「そのシチュエーションで、普通の女には出来ないファッションね。」

「やっぱり。そうも思ったけど、敵の攻撃をそらすためにあえて赤ワンピを選んだのよ。メイクもばっちりで。」

「で、結果はどうだったの。」

「楽勝。変なことは全く言われなかったし、当たり前のように受け入れてくれた感じよ。おごってくれてアパートまで送ってくれたし、女って最高!」

「それはよかったね。」

「でも予想してなかったことを頼まれたの。」

私は美沙に昨夜のことを話した。

「そう来たか。」
美沙はしばらく考え込んだ。

「野上君と畑中君なら背も高いし結構男らしくてイケメンだし、あんたの友達ってことで信用もできるわね。でも、わたしはあんたとしか本気で付き合ってこなかったから、いきなり全然違うタイプから申し込まれるとなると緊張しちゃうわ。」

「それ、背が低くて男らしくなくてブサイクな彼氏と付き合ってたという意味かしら。」
と意地悪な質問をした。

「あっ、ごめん。わたしは自分より小さい人って結構好きなの知ってるでしょう。男臭くなくって、かわいい顔の彼氏だったのよ。」

美沙は男性だったころの私に対しては命令口調で失礼なこともズバズバと言っていたが、女性どうしだと相手を尊重して気遣った口調になる傾向があるように思う。美沙と付き合うなら女性になった方が快適かもしれない。

「じゃあ、こう提案しといて。野上君と畑中君、わたしとあんたの4人でディズニーランドに行くの。費用はあちら持ち。ディズニーではどちらを選ぶとか選ばないとか深刻な話は一切禁止で、4人で楽しくデートするの。デートの翌日以降に、わたしがどちらと付き合って欲しいか、それともお断りするかを返事する。」

「いやよ。美沙に憧れている二人の男性とのデートに一緒に行くなんて惨めよ。」

「頼むわ。わたしにとっても凄く勇気のいるデートなのよ。本気でわたしのためを考えてくれる親友が横にいてくれて、冷静な目でアドバイスしてくれたらどんなに助かるかしら。一生のお願い。」

美沙に一生のお願いと言われると断れない。

「それにディズニー・デートは初めてでしょ。」

「美沙と2回も行ったじゃないのよ。」

「女の子としてディズニーランドにデートに連れて行ってもらうのと男子として行くのでは180度違うと思う。すっごく楽しいからびっくりすると思うわ。着ていく洋服も選んであげる。」

なんだかうきうきしてきて快諾し、その場で永井に電話して美沙の条件を告げた。わたしたちの都合の良い日をいくつか言っておいた。しばらくして永井から電話があり、3日後の土曜日の午前8時に舞浜駅で待ち合わせすることが決まった。

「これから空いてる?」
美沙が聞いた。勿論空いている。

「社会人になると着るものが違ってくるから整理しているところなの。もう着なくなった洋服も沢山あるから、うちに来て欲しいものを選んで。あんたの方が小さいから、わたしが高校入学以降に買った服はそのままか、多少の手直しで着られるはずよ。」

「えっ、いいの。」

「どうせ捨てることになるから、あんたが着てくれるとうれしいな。わたしが着ているのを見て気に入っていた服もあったじゃない。水色のノースリーブのワンピとか。」

「あの可愛いやつ?」

「そうよ。全部あんたにあげる。」

「夢みたい。」

「今度ディズニーランドに行くときに着せたいやつもあるから、それも今日持って帰って。」

ファッションセンスの良い美沙が4年間着ていた色々な服は、ほとんど全部大好きだった。大好きな人の服をもらって自分が着られると思うとドキドキして頬がほてってきた。

私は喜び勇んで美沙について行った。

松岡家は閑静な住宅街の立派な一戸建てだ。何度か遊びに行ったことがありお母さんにも面識がある。
美沙が玄関のドアを開けると、お母さんが気づいて出てきた。

「裕貴よ。可愛くなったでしょう。」

「本当に高原さんなの。全然わからなかったわ。このたびは大変だったわね。」

「ありがとうございます。美沙さんには本当にお世話になっています。」

「ママ、昨日話した通り、わたしの洋服を持って帰ってもらおうと思って来てもらったの。」

「そう、ちょうどよかったわ。片付けなきゃならないと思っていたところだから。」

美沙の部屋は3.6mもの幅がある作り付けのクローゼット付きの10畳の明るい洋室だ。デスクとベッドの間には広いスペースがある。クローゼットは冬物が右側に、夏物が左側にあり、左右90㎝ずつはコートや丈の長いワンピースが掛けられるようになっている。中央部の180㎝は上段がハンガーで、下段がタンスだ。ハンガースペースの上が3.6m幅の棚になっていて、洋服の箱などを置けるようになっている。

「うらやましいわ。1年中の洋服を掛けてもまだ余裕があるスペースね。」

「中2で165㎝になって、それ以降少ししか伸びていないから、中2以降の服は殆ど捨てずに掛かったまま。このうちの半分は100%着る可能性が無いから全部あげてもいいし、残りの洋服も半分は殆ど着ないから、本当にキープしたい服はこのうちの4分の1ぐらいかな。」

「ほんと、美沙が着ているところを見たことのない服も沢山あるわね。」

「今167㎝のわたしにピタリの服はあんたには大きすぎるのが多いはずだね。160ちょっとだっけ?」
と、私と胸を合わせるように立った美沙が言った。

「163よ。」

「4センチ差ってことはないわよ。背伸びしてせいぜい162じゃないかな。」
といって、美沙は私を壁に押し付けるように立って、私の頭のてっぺんに手のひらを置き、自分の眉の上の高さしかないことを確かめた。
「ほら、こんなに違う。」

「いじわる。去年の身体測定の結果は162.5だったから163と言ったのよ。」

「必死で背を伸ばして162.5なら、わたしの基準でいうと161ね。わたしより6センチもチビなのか。」
と言いながら、美沙は一番小さそうなコーデュロイのえんじ色で大きな白いえりの付いたワンピースを取り出した。

「中2の春のピアノの発表会のために作ったワンピースよ。着てみなさい。」

「悪いけど、小学生の女の子みたいなの恥ずかしくて着られない。」

「とにかく着て見せなさい。」
美沙は私の着ている赤ワンピの背中のジッパーをおろしてワンピースを引きおろし、私は下着だけにされてしまった。

「相当上げ底ね。」
といってブラの下から胸を持ち上げる動作をしてから、えんじ色のワンピースを私にかぶせ、背中のジッパーを上まであげた。

「胸が少しきつそうだけど、普通のブラに変えたらちょうどよさそうね。」
といって、私の両肩を手で持って、全身大の鏡の前に移動させた。

「ほら、似合うじゃん。長めの膝丈で良家のお嬢様みたい。」

長身の美沙の前に中学2年の妹が立っているようだった。

「でも、こんなに子供っぽいの、着る機会はないと思う。」

「服は色々持っていた方が便利なものよ。とにかく、わたしは絶対に着られるわけないから、今日からこれはあなたのもの。さあ、次いこうか。」
といって、次は上の棚からピンクのツーピーススーツの入った箱を取り出した。

「これも中2の春。思いっきり大人っぽい洋服を着たくて両親にねだって買ってもらったもの。結局、一回しか着ないうちに腰が入らなくなっちゃった。高かったから、ママにいまでもイヤミを言われるわ。」

ウェストが少しきつめだが腰回りはちょうどよい。色がピンクで滑稽に見えないだろうかと思ったが、鏡の中の自分に驚くほど似合っていた。

思わず、
「可愛い。」
と言ってしまった。

「はいはい、あんたは可愛いよ。」
と美沙は言って、中高校時代のワンピース、スカート、チュニック、と次々に私に着せて、
「はい、これもあんたのもの。」
と言って積み上げていった。

スカートでロング系のものは私が着るとマキシ丈になってしまい、着る機会が少なそうだ。
パンツやキュロットは、
「まだあんたの体型には似合わないからスカートだけにしなさい。」
といって、美沙がくれなかった。

「もう少し女性らしい体つきになってから自分で買えばいいわ。」

「うん、そうする。」

美沙の洋服は自分では簡単に買えない高価そうな服が多かった。「あんたのもの」といって積み上げられた洋服は段ボール二箱分にもなった。買った時の値段でいうと200万円は下らないだろう。

「こっちの箱にはセーター、ブラウス、パジャマから下着まで、着古したものを中心に、捨てるものを詰め込んであるから、悪いけど、使えそうなものだけチェックして、あとは捨ててくれる?」
といって、大きいサイズの段ボール箱を一箱出してきた。

「最後に、今度のディズニーの服装を決めてあげる。」
といって、美沙がタンスを物色した。

「女の子にとってディズニーが一番難しいのよ。ディズニーランドは広いし男の子に疲れた顔を見せるのが別れる原因No.1と言われているから、スニーカーとか、ペッタンコの可愛くない靴しかはけないという制約があるの。男子はプリーツスカートを好む確率が高いらしいけど、ディズニーランドは風が強いことも多いし、冬にプリーツだとお腹まで冷えちゃうから、プリーツは履きにくい。ロングスカートでは歩きにくい。結局、パンツやキュロットが都合いいけど、パンツでは可愛さをだせないし、キュロットはこの季節は寒すぎるでしょ。」

これまで美沙とディズニーランドに行った際、美沙がそこまで考えて服装を選んでいるとは夢にも思わなかった。

「160ちょっとしかないあんたが、ペタンコの靴しか履けない、しかも女性的な服しか選べないという事情がある。そこを可愛く見せるにはどうするか、というのは相当な難問なのよね。」
ぶつぶつ勝手なことを言って私を不安にさせながら美沙が出してきたのは、厚いニットで浅黄色に花柄の模様の入った裾がしぼんだ形のワンピースで、腰回りが膨らんでいるが裾の部分数センチがタイトな濃い茶色の帯になっている。自分の肩にあてると股下15センチぐらいしかない。両手を上げるとパンティが見えそうだ。

「こんなウルトラミニスカートなんて恥ずかしくて着られないわ。それに寒いし。」

「これはコクーンシルエットのチュニックワンピースというのよ。コクーンっていうのは英語でカイコなどの繭のこと。繭のような形でしょ。長めのチュニックをワンピースとして着るというイメージよ。」

「チャラチャラしたギャルみたいじゃないの。」

「何言ってんの。これは一流ブランドでギャルには手が届かない大人ファッションなんだから。いくらしたと思う?」

「ギャルには買えないっていうことは、1万円以上?」

「7万円。」

「この、長すぎるダボダボのセーターの裾を絞ったようなのが7万円もするの?それにしても短くて寒そう。」

「素足で行けとは言ってないでしょう。」
と美沙は言って、先ほどの古着の段ボール箱を開き、奥の方から黒の厚手のタイツを2枚引っ張り出した。

「下はタイツを二枚重ね着するのよ。上半身も、この箱の中にヒートテックの下着が何枚か入ってるから、2,3枚重ね着しなさい。」

タイツを二枚重ねて履き、ニットのコクーンのワンピを着て鏡の前に立つと、今まで見た自分の姿とは違うイメージの自然でキュートな女性が写っていた。意外に大人っぽい。

「ほらね。わたしの描いていた通りのイメージね。」
と美沙が自慢そうに言い、赤系統のショールを取り出して私の首周りにルースに巻いた。

「このショールは買ったばかりだけど、少し派手だからディズニーに一緒に来てくれるお礼にプレゼントするわ。」

「もうひとつ、靴はこれ。厚手のストッキング2枚でちょうど合うんじゃないかな。履いてみて。」

赤の紐靴で、底の厚みは5㎜もあるだろうか。

「一見、ヒールの厚みがありそうに見えて、実はゼロという、背の高い女が背を低く見せるための靴よ。あんたはいつも底の厚い靴のソールの中に100円ショップで買ったウレタンヒールを入れて7~8センチはサバをよんでたから、わたしがこの靴を履くと、あんたの方が少し背が高く見えてたのよ。知らなかった?」

「ウレタンヒールを入れてたこと、知ってたの?」

「この部屋に裸足で来たら実際の身長なんて丸わかりでしょ。」

「そうだったんだ。」

「野上君も里中君も180センチ程度ありそうだし、わたしもこれからは背が低く見える靴なんて必要なくなるわ。」

「わたしだって、背が低く見える靴なんていらない。」

「男子には小柄な女の子が好きな人が結構多いのよ。150あるかないかのアイドルが持てたりするでしょ。156~158クラスのやや小柄な感じの子が一番持てるかも知れないわ。あんたなら3センチマイナスにサバをよめば、そのクラスの競争に参加できるんだから、この靴、値打ちがあるわよ。」

「いくら靴でごまかしても、157センチしか無い女と同じ大きさには見えないよ。」

「わたしから見ると160ちょっとのあんたと157、8の由美はそんなに変わらないわよ。自分の背は高めに感じるからあんたは錯覚してるかも知れないけどね。それに180㎝の男性から見ると、157と160ちょっとなら全く同じ大きさに見えるのよ、知らなかった?」

「へえ、そうなんだ。でも急に小さくされたみたいでなんだか嫌だな。」

「わたしにとっては羨ましくもあるわ。167だと、大きい部類でしか戦えないからね。」

とんとん、とドアをノックして、美沙のお母さんが入ってきた。
「もうそろそろ片付きそう?夕飯の支度ができたから、高原さんも食べていってね。あとで主人がアパートまでお送りすると言ってるから。」

「松岡専務が帰ってらっしゃったんですか?」

「ちょうどよかったわね。段ボール三箱を乗せてわたしも一緒に送っていくわ。」と、美沙。

トイレを借りてお化粧を直し、ダイニングルームに行った。

「高原君か、事情は美沙から聞いたよ。いやあ、それにしても見違えたな。」

「このたびはご迷惑をおかけして本当に申し訳ございませんでした。美沙さんにもつらい思いをさせてしまって。」

「あら、つらい思いなんて、したかしら。わたしほどの美人なら彼氏なんて幾らでもできるけど、一生の親友は簡単に手に入らないから。」

「おやおや、凄い自信だな。」

なごやかな夕食の時間が過ぎ、私は美沙の女友達として松岡家に受け入れてもらうことができた。

いつだったか、私にも同じような幸せな家族だんらんの経験があった。それは遠い遠い昔のことだ。将来、奥様の立場でこんな幸せな家庭を作ることができればどんなにいいだろう。でも夫は体躯は立派だが70才の老人で、私が32才になる10年後には80才になってしまう。私が子供のいる家庭を持つには養子をもらえばいいのだろうか。これからどうすれば幸せになれるのだろう・・・。

松岡専務と美沙に送られて、アパートの部屋に戻った。

「ディズニーランド、楽しみだな。」

大好きな美沙が着ていた服が山のように入った段ボール箱を開けると、今度はこの服を自分が着ても良いんだという興奮が胸にこみ上げてきた。夢みたいだ。そして、松岡家の幸せの余韻が、一人アパートの部屋の真ん中で座り込んだ私を襲い、悲しくて、涙が止まらなくなってしまった。


性転のへきれき「ユキの場合」はAmazonでよじれた戸籍という題名で出版されました。購入はこちらをクリック!


カテゴリー: ユキの場合

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*



プロフィール
Contact Form
お問い合わせはこちらから
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ  にほんブログ村 小説ブログへ  人気日記BLOG  

本ウェブサイトはMixHostのサーバーに引っ越してSSL化を完了し、保護された https:// サイトになりました。詳細はこちらをご覧ください。