ユキの場合 第13章 | 性転のへきれき

ユキの場合 第13章

第13章 大学でのカミングアウト

翌日、美沙と待ち合わせて一緒に大学に行った。美沙は3月中旬に計画している学部の卒業パーティの世話役グループに入っているので会合が予定されていたが、私は学生課に行く以外に特に用はなかった。

届出を出すのは事務手続きに過ぎないが、事が事だけに恥ずかしい。だから美沙についてきてもらったのだ。

「結婚して戸籍が変わったので届けを出したいのですが。」
他にも学生が2,3人いたので、窓口の男性に小声で聞いた。

「これに記入して戸籍謄本を添えて提出してください。」
用紙をもらって記入した。

届出者の記入欄の性別に丸をつけるようになっていたが、変更事項の欄には本籍地、住所、氏名、配偶者の氏名しかなく、性別の変更届けの書式とはいえない。

私は、単に届出者の性別の女を丸で囲んで、戸籍の変更について記入した。

「これでよろしいでしょうか?」
書式と戸籍謄本を窓口の男性に差し出した。

男性はチェックして、
「あれっ」
と声を出した。

「2年も前に結婚して今頃届けるのは頂けないな。」

「すみません。苗字が変わらなかったので、つい出しそびれてしまいました。」

「まあ、何とかしときましょう。」
と言ってくれた。女性だとこんな場合に許してもらいやすいのかもしれない。

「あれっ」
窓口の男性が再び奇声を発した。

「登録データが男性になってる。うちは学生証に性別記載がないから誤記しても気づかないことがあるんだなあ。すぐに記録を訂正しときますよ。」

「よかった、卒業者名簿に男性と書かれなくって。」

「先生方も4年間誰もミスに気付かないなんてひどいよなあ。」

「いつもボーイッシュな服装だったし、マンモス大学だから誰も気に留めなかったんでしょうね。」
私がしゃべりすぎるのを心配した美沙に手を引っ張られて学生課の部屋を出た。

美沙は会合の時間が迫っていたので急いでいた。

「あんたも一緒に来なさい。良い機会かもしれないから。」

学部のパーティの美沙以外の世話役メンバーは何人か知っていたが特に親しい人はいない。

美沙と一緒に会合の場所に行った。会合といっても、主幹事の坂崎達也と、坂崎の彼女の吉岡由美が全体のアレンジを仕切っており、出欠確認表係の役割を引き受けていた美沙は進捗状況を坂崎に報告するだけのことだ。

「そちらの彼女、誰だっけ。」

「ユキちゃんよ。高原裕貴。わたしといつも一緒の子、知らない?」

「ごめん、学科が違うとわからなくって。でもこんな美人に4年間も気づかないなんて我ながら不覚だな。」
お世辞とはいえ吉岡由美の表情が一瞬不機嫌になった。

「松岡さんの友達に高原君っていう男子はいなかったっけ?」
と由美。

「この子、服装に全然興味なかったし最近まで化粧っ気ゼロでスカートはいてきたことなかったから男子と間違われても仕方ないわね。」

「じゃあ、やっぱりあの高原さんなんだ。」
と見下したような口調で由美がつぶやく。

「高原さんは2年前に結婚したのよ。ご主人がボーイッシュな女性が好きだから男の子みたいな恰好をしてたけど、最近おしゃれに目覚めたみたい。」

「人妻かあ、惜しいなあ。」
と坂崎が言って、由美の苛立ちに拍車をかけた。

そこに私と同じ学科の永井大介が入ってきた。
「お前、高原じゃないの。なんでそんな恰好してんだよ。」

「おしゃれして何が悪いのかしら。」
と私。

「美沙の前で女装してどうするんだ。」

「やっぱり永井君も高原さんのことを男子と思っていたの。わたしの彼氏と思ってたわけ?まいったわ。」
と美沙。

「お、おんななのか?」

「あたりまえでしょ。それも人妻よ。」

「冗談言うなよ。」

「親友のわたしが保証するわ。先々週、ご主人にも会ったけど、ラブラブよ。」

「お前たち二人は完全にできてると思ってたのになあ。」

「失礼ねえ。なんでわたしが女みたいな男と付き合わなきゃならないのよ。」

この言葉は少々グサッときた。

「でも高原、お前このあいだ男子トイレで見かけたよな。」

「わたしのことを男子と思っている人が多いことは自覚してたから、時々男子トイレは利用させてもらってたわ。」

「信じられない。」
と由美。

私の言うことの方が異常なのだが、由美からのあからさまな敵意を感じて腹が立った。

「主人はわたしが男の子みたいな恰好をするのが好きだったのに最近親戚の結婚式に出席した時のわたしのドレス姿を見て気に入ってからスカート以外許してもらえなくなったの。」
と「主人」に力点を置いて言った。

「へえ、ご主人さまの言いつけならなんでも従うんだ。」
由美が絡んで私の顔色が変わったのをまずいと感じた坂崎が強引に話題を変えてそれ以上険悪になるのを阻止した。

「女どうしは怖いよな。」
と他の人には聞こえないような小声で永井が美沙に言った。

打ち合わせは15分ほどで終わり私たちは大学を出た。

「全然シナリオと違う展開になってしまったけど、少なくとも永井君を始め今日あの部屋に居た数人は完全にあんたを女性と認識したわね。」

「うん。それに、永井君は付き合いが広いから、友達にしゃべってくれるのは間違いないわ。これで相当手間が省けそう。」

「そうね。」

「あの吉岡由美とかいうブス、どうしてわたしに対してツンケンしてたのかしら。」

「坂崎君があんたにお世辞を言ったからに決まってるじゃない。」

「そんなこと、わたしの責任じゃないでしょ。」

「好きな男性が他の女を褒めたら、敵と感じるのよ。そのうちあんたにも分かるようになるわ。」

「そんなの、わかりたくもない。」

「でも、あんたも由美に対して敵意丸出しだったわよ。まるでガキね。あの程度で敵を作ってたら、世の中の女の半分を敵に回すことになるわ。由美にはあんたからごめんなさいと言って修復しときなさい。由美は根に持つタイプだし、コネも広いから早く謝った方がいいよ。」

「もう、女って面倒くさい。」

「あんたこそ、相当面倒くさいわ。」

駅で美沙と別れてアパートに帰ったのは夕方だった。

夕食には野菜炒めでも作ろうかなと考えていた時、永井大介からメールが入った。
「今晩5~6人で飲み会をするけど出てこない?」
場所は隣の駅から近い居酒屋とのことだった。

「メンツは誰?」
と返すと、すぐに4名の男子の名前を書いた返信があった。永井を含めて5人だ。

今晩は美沙は用があるので誘うことはできない。何を聞かれるか予想がつくだけに5対1では腰が引ける。

「ごめん、今日は色々なことがあって疲れてるからパスさせて。」
と返信した。

30秒後に永井から電話がかかってきた。
「さっき5人で会った時に話したら、女として認識してなかったお詫びに5人で高原におごろう、という話になったんだ。変なことを言うやつがいたら俺が守ってやるから出て来いよ。」

夕食を作るのも面倒だし「俺が守ってやる」のひとことにも心を動かされてOKした。

お化粧が崩れてきていたので、昨日美沙に教えてもらって買ったクレンジングゲルで完全にメイクを落とし、シャワーを浴びてからお化粧しなおした。

バストアップブラを着けて、ドレッシーな真っ赤なワンピースを着た。以前の私とは全然別人のように見せる方が、攻撃をかわしやすいと思ったからだ。

男子トイレで見たとか、下世話な話題になった場合、こちらが女性らしく振舞うほど相手は突っ込みにくくなるはずだ。

ヒールが高めのパンプスで約束の場所に向かった。

駅まで5分しかないが人通りの少ない夜道で後ろから足音が近づくと緊張する。何かあったら靴を脱いで走ろう、と思いながら歩いた。

約束の時間に15分ほど遅れて居酒屋に着くと5人は既に飲み始めていた。

私が近づくのを見て私だと気づいたのは永井大介だけだった。
「悪い悪い。急に呼び出したのに来てくれてありがとう。」

以前なら15分遅れて行って「ありがとう」などと言われるわけがなく、女は得だなとうれしく思った。

他の4人は
「ヒュー」
と言って目を丸くした。

「本当に高原さんですか」
と野上が言った。

野上が私を「さん」づけで呼ぶのは可笑しいし、同級生に敬語を使うのは異常だ。

「だから言っただろう、見てもわからないって。」
永井が言うと、全員が「本当だ」とため息交じりにうめいた。

「人妻か、惜しいな。」

「なんで隠してたんだよ。」

「俺と付き合わない?」

それぞれにお世辞めいた言葉をかけてくれた。

赤のワンピースにしたのは大正解で、5人とも私を以前からの友人というよりは出会ったばかりの知らない女性のように少し距離を置いて接してくれたので、不愉快なことや困った質問はほとんどなかった。

少し飲んでから2年前に結婚したこと、夫は池田町に住んでいて、私が単身赴任のようにして大学を続けさせてくれていること、卒業してすぐ池田町に帰って主婦をするか、しばらく働くかは考え中であることなど、考えておいた通りに説明した。

「実は、今日お前を呼んだのは別の目的があったんだ。」
と永井が言い出した。

「美沙はお前とできていると俺たち全員信じ込んでいたから、SOLD OUTと思ってた。」

「そりゃ、そう思われても仕方ないぐらい親しくしてたわ。」

「ここにいる野上と畑中は美沙に憧れてたんだけど、お前というか高原君に気兼ねしてだな、手を出さなかった。」

「ふうん、そうなの。」

「そこでだ、お前と美沙が何でもなかったことが今日わかったわけだ。」

私は美沙を取られそうな気持がして内心穏やかではなかった。

「お前に頼みたいのは、そこらへんを美沙に説明して、野上と畑中が美沙と会える機会をセッティングしてほしいんだ。」

「いいけど、どうして直接申し込まないのよ。」

「突然二人からコクられたら美沙が引くかもしれないだろう。卒業も近いしワンチャンスしかない。親友のお前がアレンジしてくれたら、いい雰囲気で会うことができる。」

「高原さん、頼むよ。」
野上と畑中に頭を下げて頼まれた。

「わかったわ。協力してあげる。野上君と畑中君別々に2回の夕食をセッティングする感じでいいかしら。どちらを先にしようか。」

「そうだな。最悪一緒に会ってもいいよ。後で結果を聞くという形も面白い。」

「おいおい。」
と畑中。

「それは美沙次第だから、美沙の言うとおりに決めてくれ。」

「わかった。明日話してみるわ。」

「申し訳ない。恩に着るよ。」

私の話題で持ちきりになると予想していたのに、私を誘った主目的が美沙にデートを申し込むためだったとは拍子抜けだった。でも気持ちはわかる。美沙の魅力を一番よく知っているのは私だから。

「なんだ、わたしに夫と別れて付き合ってくれという話かと思ったら、取次ぎ役だったなんて、がっかりよ。」
酔った勢いで冗談を言う私。

「本当に申し込んでいいのか?さっきお前を見て、一瞬、美沙じゃなくてお前にしようかと思ったんだけど。」
と野上。

「美沙に言っとくわよ。」

「それだけは許してくれ。」

飲み会はお開きになり、同じ駅の矢島がアパートまで送ってくれた。夜遅くに一人で歩くのはいやだからタクシーに乗ろうかと考えていたのでほっとした。

今日の5人に関する限り、カミングアウトは完全に片付いた。美沙への申し込み役を頼まれたのが大きいが、やはりお化粧やファッションを工夫して過去の自分とは全く無関係な女性らしい女性として振舞うのが、敵の目をそらす最善の方法ということを再認識した。

帰宅してメイクを落としお風呂に入ってから美沙にメールした。

「今日、永井君、野上君、畑中君、矢島君、有本君の5人に誘われて飲み会に行きました。その件で美沙に話したいことがあるので明日お時間いただけます?」

「なかなかやるじゃん。11時半にサイゼリヤでどう?}

「了解!」

どっと疲れが押し寄せてあっというまに眠りについた。


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カテゴリー: ユキの場合

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