ユキの場合 第10章 | 性転のへきれき

ユキの場合 第10章

第10章

 

葬儀は午前11時からだ。

昨日と同じ喪服でホテルを出た。早めに行って昨夜のおばさんたちから話しかけられるのが嫌なので、手前の喫茶店で時間をつぶしてから、定刻5分前にセレモニーホールに着くようにした。

「高橋君、やっぱり高橋君ね。」
セレモニーホールの入り口近くで呼び止められた。それは近藤和子だった。

「すごくきれいになったわね。ご近所の佐久間さんから昨夜電話がかかってきて話を聞いたの。信じられなかったけど、とにかく自分の目で確かめてみようと思って待ってたのよ。」

「そ、そうなの。ねえ、頼むからこのことは誰にもしゃべらないで。」
私は近藤和子に懇願した。

「本当は女だってことを隠しておきたいというわけなの。」

「そりゃそうだよ。もしこの話が広まったら誰にも会えなくなるから。」

「どうしてなの。男子のフリをしてたことぐらい、みんな許してくれるわよ。それに、結婚したんでしょう。同期では吉浦君ができちゃった結婚したけど、女子ではあんたが第一号よ。みんなでお祝いしなくっちゃ。」

「でも、みんなの前にスカートはいて現れるわけにはいかないよ。」

「スカートでも全然不自然なんて思わないわ。高校時代、胸が膨らんでいたし声変わりもしてないから、本当は女性じゃないかって噂もあったもの。あんたは隠そうとしていたみたいだけど、胸が膨らんでいることは女子は全員知ってたわよ。なあんだ、やっぱりそうだったんだ、って思うだけよ。」

「ショックだな、今そんなことを言われるなんて。」

「それに、結婚した人妻が男装してたら、それこそ変じゃない。男子に会うのが恥ずかしいのなら、今度女子だけで3年C組のミニ同窓会をアレンジしてあげるわ。」

「そ、そんなの恥ずかしいよ。とにかく、お願いだからみんなにはまだ内緒にしといて。あ、葬式が始まるから行かなくっちゃ。」

「今度、いつ会える。後で電話してね。」
和子は私に電話番号とメールアドレスを書いた紙切れを渡した。

「電話くれなかったら、みんなに言いふらすんだから。」
和子はいたずらっぽく言った。

私はセレモニーホールに逃げ込んだ。

「最悪の事態になってしまいました。わたしはもう、男として世間に顔向けできません。」
叔父にだけ聞こえる声で言った。

これからどうしたらいいんだろう。私は途方にくれて、一人うつむいてすすり泣いた。
「和子は半陰陽の話をすっかり信じきっています。それに、高校時代にもわたしが女性だって噂が流れてたから、スカートはいてても誰も不自然に思わないだろうって。この話が女子全員に伝わるのは時間の問題です。次に会う時には女子から同性として扱われてしまいます。もう、死んでしまいたいです。」

叔父は私の肩に優しく手を回して言った。
「わしにまかせとけ。わしがなんとかしてやるから。」

私は絶望して泣いた。涙が止まった後も、葬儀の間ずっとうなだれていた。

葬儀の間、泣いていたのは私だけかも知れない。あたかも自分の葬儀に参列しているかのような空虚な時間が過ぎた。


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カテゴリー: ユキの場合
ユキの場合 第10章” への1件のコメント
  1. s.s より:

    第11章今日の何時頃アップされるのかなあ、この前は深夜と朝では、内容が変わっていました、今晩が楽しみです。

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