ユキの場合 第2章 | 性転のへきれき

ユキの場合 第2章

第2章

 

品川発の夜行バスが徳島県三好市池田町に到着したのは翌日の午前8時だった。美沙がインターネットで三好市役所のアクセスマップを調べてあったので、市役所まで徒歩で行って近くの喫茶店で9時過ぎまで時間をつぶした。

戸籍や住民票に関する窓口は市民課だ。証明交付申請書の本籍の欄には、現在の戸籍上の筆頭者であるはずの高原義弘の住所を記入した。申請者欄に高原裕貴と書いたが続柄の欄に長男と書こうとしてペンが止まった。もし興信所の言うように女性になっていたら、不審に思われて拒絶されるかもしれないと思ったからだ。
「ねえ、ちょっと外に出ようよ。」
「どうして。」
「いいから、ちょっと。」
私は美沙の手を引っ張って町役場から出た。
「続柄をどう書いたらいいだろう。」
「長女と書く方がいいんじゃないかな。」
「もし戸籍が男性のままだったら、変質者と思われちゃうよ。」
「じゃあ、続柄をブランクにして出そうよ。もし聞かれたら長女って言ったらどうかな。」
「その場合は美沙が高原裕貴のふりをするの?でも、身分証明書が必要って書いてあるよ。」
「そうか。裕貴は何か身分証明書を持ってるの。」
「学生証ぐらいかな。生年月日も入ってるし、うちの学生証には性別は書いていないから。」
「ちょっと見せて。」
私は財布から学生証を取りだして美沙に渡した。
「この写真なら髪も長いし女性といっても通るわね。」
「入学したばかりの頃の写真だし、ほんとに子供みたいだったから。」
「今と同じに見えるけど。そうだ、コートを脱ぎなさい。」
「どうするの。」
「とにかく脱ぎなさいよ。」
美沙も自分のコートを脱いで私に渡した。
「さあ、コートを取っ替えるのよ。」
「いやだよ、ピンクのコートなんか。」
「いいからとにかく着てみて。」
半ば強制的に美沙のコートを試着させられた。
「最高。続柄欄に長女と書いてこの学生証を渡せば大丈夫。」
「もし男性の戸籍だったらどうするんだよ。」
「そしたら逃げ出して、二、三日後にもう一度くればいいのよ。さあ行きましょう。」
「こんな格好、人に見られたくないよ。」
「池田町に知ってる人がいるの?」
「池田町は徳島県だけど、讃岐山脈の向こうの坂出の実家までは40㎞ちょっとしかないんだよ。すぐそこの猪鼻峠を越えると知っている人がうようよしてるよ。」
「じゃあ、対策を打ってあげるわ。」
というと、美沙はハンドバッグからコンパクトを取り出して、いきなり私の頬をパフした。
「よ、よせよ。友達に見られたら一生笑い物だよ。」
「ばかね。素顔で女物のコートを着てれば裕貴って分かるかも知れないから、むしろお化粧してる方が安全じゃない。」
と言いながら、私が混乱しているスキに私の頬にハケで紅をはたき、手早く口紅を塗った。私は深呼吸して市役所に入り直し、窓口に申請書と学生証を出し、美沙と並んで窓口の前の椅子に座った。
二分ほどして窓口の男性が私の方を見て言った。
「高原さん、ちょっと申請書に間違いがありますね。」

やばい、私は立ち上がって、逃げ道をさがそうと後ろを振り向いた。でも良かった。やっぱり男性のままだったんだ。ほっとした気持ちの方が大きかった。私が逃げ出す前に窓口の男性が続けて言った。
「でも、単純記入ミスということでこちらで直しましたから。」
「あ、ありがとうございます。」
とっさに言って、料金を払い、逃げ出すように市役所を飛び出した。あの役場の男性は高原裕貴が男性なのに女装したとわかったからニヤニヤしてたんだ。言いふらされたらどうしよう。顔から火がでるほど恥ずかしかった。
「どうしてくれるんだよ、二度と池田には来れないよ。早く帰ろう。」
「まあ、とにかく戸籍謄本を見せて。」
元来たバス停の方向に歩き出した私を追いかけながら、美沙は戸籍謄本を読んですっとんきょうな声を上げた。
「なんですって。」
私は立ち止まって美沙の方を向いた。
「どうしたんだよ。とにかく早くどこかで化粧をふき取って、コートを取り替えてくれよ。」
「その必要は無いみたい。」
「どういうことだよ。」
「複雑すぎてわたしもわからないわ。」
「なんだよ。僕にも見せてよ。」
「待って。どこか落ち着けるところで一緒に見ましょう。」
美沙は役場に引き返す方向にすたすた歩きはじめて、役場の中の自動販売機の横にある椅子に座った。
「ここなら大丈夫よ。」
「いやだよ、僕を変質者としてさらしものにするつもりか。」
「いいから座りなさい。」
と言って、美沙は戸籍謄本を開いた。
私はそれを見て目を疑った。
高原裕貴は高原義弘70才の配偶者となっていた。
「なんてこった。」
「興信所の調査は部分的に正しかったのよ。ただ、お父さんの叔父さんの養女になったんじゃなくて、2年前に叔父さんと結婚して妻になったわけね。」
「どうしよう。」
「とにかく、ここでは裕貴は女性なのよ。しかも人妻。」
「とんでもないよ。これから窓口に訴えてくる。」
「ばかねえ。笑い物にされるだけよ。どうしたらいいか、よく考えましょう。」
「早く化粧を落としてコートを替えてよ。」
「黙りなさい。」
うろたえる私の横で、美沙は真剣な目をしてしばらく考え込んでいた。
「そう、これしかないわ。まず、裕貴が人妻ではわたしも困るし、その点を解消するのが先決問題よ。だから、離婚届の用紙をもらってから、叔父さんに判子を押させること、それを一番急がないと。その後で戸籍の訂正の手続きをしましょう。」
美沙の言うとおりだ。市民課の受付に戻って色々な用紙を置いてある棚を探したが離婚届の用紙は見つからなかった。美沙が窓口の人から用紙をもらってくれた。

★ 未発表作品に関する情報はTwitterで発信します! ★
カテゴリー: ユキの場合

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

本ウェブサイトはMixHostのサーバーに引っ越してSSL化を完了し、保護された https:// サイトになりました。詳細はこちらをご覧ください。


ラブトランス~大好きな彼を夢中にさせる方法~


願いが叶う・心願成就



プロフィール
Contact Form
お問い合わせはこちらから
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ  にほんブログ村 小説ブログへ  人気日記BLOG