ユキの場合 第7章

第7章

 

叔父の家に帰ってホッとすると、急に腹に差し込みが来てトイレに駆け込んだ。それは激しい下痢で、便といえないような大量の水分が爆発するように排出された。血の気が引くのを感じたが、十分も腰掛けていると、すっきりしてきた。

「裕貴、大丈夫か。」
叔父がドアの外から心配げに声をかけてくれた。

「すみません。もう大丈夫です。」

トイレから出て、浴室に入りシャワーを浴びた。下痢の飛沫で下半身が汚れたような気がしたからだ。
昨日もそうだったが、下痢の元凶が補整下着であるのは確かだった。しかし、女らしく見せるためには明日からも着続ける必要があるので、下着一式を洗濯しておこうと思った。

乾燥機能付きの自動洗濯機の水量を最小にセットして、スイッチを入れた。

仕方なく、赤のワンピースをそのまま素肌の上に着た。

胸の詰め物が無くなってスカスカしたが、鏡を見ると、さほど不自然ではないのでほっとした。

「すみません。お先にシャワーさせていただきました。今、お風呂にお湯を入れてますからお待ち下さい。」

「おい、大丈夫か。昨日もそうだったが、さっきは顔色が青くなっていて心配したぞ。」

気遣ってくれることが嬉しい。
「写真館の下着がお腹を締め付けてるからと思うんですけど。」

「今、外してるのか。そういえばペチャパイになってるな。」
叔父の視線が私の胸元に注がれる。

「洗濯してるところなんです。下着は余分が無いので。」

「ペチャパイの裕貴はいつもより華奢で、却って女っぽさが増した感じがするよ。下着のことは気がつかなくてすまんな。明日買いに行こう。」

浴槽にお湯が入るまで、一緒にソファーに座ってテレビを見た。その時、叔父が思い出したように立ち上がり、寝室から白い封筒を取ってきた。

「保さんと最後にあったとき、これを裕貴が大学を卒業するときに渡すように言われてたんだ。少し早いが渡しておく。」

その白い封筒には「裕貴へ」と書かれていた。裏面には封がしてあって、左下に高原保と書かれていた。

「お父さんからわたしへの手紙があったんですね。」

ドキドキしながら封を開くとプリンタで印字された2枚の事務用紙が出てきた。

一枚には、大阪市内にある病院の住所と医師の名前が書かれていた。

もう一枚には、インターネット上に置かれたテキストファイルのアドレスが書かれていた。
用紙の表裏を見直したが、それ以外には何も書かれてなかった。

「何だろう、これは。」
叔父も頭をひねっていた。

「そうだ、多分これは保さんが言っていた医者仲間のことだろう。裕貴のことは、大阪にいる友人の医者が事情をわかっているから、自分の死後はその人に診てもらったらいいとか言っていた。その医者の名前も言わないうちに焼け死んでしまったので、わしもすっかり忘れていた。」
と叔父が言った。

「このインターネットのアドレスに父からの手紙がアップロードされてるかも知れません。ちょっと見てみますね。」
私はスマホにインターネットのアドレスをインプットした。

「保さんは、なんでそんな、ややこしいことをしたんだろう。」
叔父はいぶかしげに言って、風呂に入りに行った。

インターネット上に置かれたそのテキストファイルは、確かに父から私に宛てられた手紙だった。

「裕貴へ、

お前がこの手紙を見る頃には、私はこの世にはいないだろう。私は末期のガンに冒されており、既に全身に転移していて治療の可能性はない。早期発見していれば手術で直ったかもしれないが、気づいたときにはもう遅かった。医者の身でありながら誠に不覚だった。

お前が、合法的に戸籍を女性に変えてから約2年が過ぎたはずだ。お前が大学入試準備に必死だった頃に手続きを開始して、大学2年の2月に晴れて私の娘になったのだ。

「高原裕貴は女性だが生まれつき外性器が肥大し、陰茎と見間違えていた。高校に上がった後に、この間違いに気づき、精神的にも男性としての生活には強い違和感を感じていた。性の違和感に耐えられなくなり、高校を出て、東京の大学に行くのを良い機会として、女性性器の再形成手術を行い、戸籍も本来あるべき性に変更したいと決意した。」
これが手続きの際の説明だ。

勿論、医者である私にとって、手続きに必要な診断書やデータを準備することは困難ではなかったし、出頭が必要な手続きについては、金を使って別の女性を身代わりにした。

将来、戸籍抄本や住民票が必要になったときに、お前はその事実を知ることになるだろう。

私の死後、お前が戸籍の変更に気づいても、簡単に手続きをして戸籍を男性に戻せないように、義弘叔父さんと結婚してもらった。男の子だったお前を知っている義弘叔父さんはさすがに尻込みしたが、事業が失敗して取り立てに追われていたので引き受けてくれた。

私はもう長くない。余命は長く見積もっても3ヶ月だが、死を待つつもりはない。自らの手で、医院兼自宅と一緒に焼失するつもりだ。全ての記録や証拠とともに灰になるのだ。全財産を義弘叔父さんに相続する旨の公正証書を作った。その際、お前が相続放棄に同意した書類を作って、お前の実印を捺印してある。従って、火災保険金や私の全財産は唯一の肉親である義弘叔父さんが相続することになる。数億円の上の方というところだ。すなわち、お前は義弘叔父さんの妻でいる限り、何一つ不自由の無い人生を送ることができる。

しかし、義弘叔父さんと離婚をすれば、お前には一円も残らない。無一文のまま、バツイチの女性としてひとりで生活するか、あるいは自分で裁判を起こして性の変更を勝ち取り、貧相な男性として生活するか、いずれかの道を選ばねばならない。

男性として生活するといっても、お前は中学に入ってすぐ左右の睾丸を失っており、男性としての第二次性徴を経験していない体では、仮に戸籍を男性に変更できたとしても、まともな人生を送るのは期待薄だ。それに、結婚と離婚の記録がある成人女性の戸籍を男性に変更するというのは、一般女性が性転換するのと同様、非常にハードルが高いはずだ。

そうそう、睾丸について説明しておかねばならない。

美津子の連れ子として、小学校5年で私の子となったお前は、私になついてくれなかった。当初はお前に気に入ってもらおうと思って、お風呂に一緒に入ったり、忙しいのに暇を作ってキャッチボールをしたり、私なりに色々努力した。しかし、お前はいつも汚いものを見るような目で私を見て、私を避けようとしていた。キャッチボールは極度に下手で、何度教えても速いボールを投げられず、まるで女の子のような投げ方だった。本が好きで、私の目に触れない場所で文学全集を読むばかりだった。

中学に入ってから、お前は長髪にした。私が髪を切れというと、極端に反発して、暴言を吐いた。お前はあの時何を言ったかを覚えているか?思い出したくもないが、私は死んでも忘れない。あの時のお前の目も決して忘れない。あの時、私は切れた。それまで我慢していたことがばかばかしくなった。あれ以来、私はお前を憎んだ。

お前が、ますます美津子に似てきたことも、却ってお前に対する嫌悪をかき立てた。私が世界で唯一人心から愛している美津子にそっくりの顔をしたお前は長髪にするとますます似てきたのだ。おまけに、お前は女みたいで、いつも私をさげすむような目で見た。私がお前を叱ると、美津子がかばった。お前の存在の何もかもが気に入らなかった。

お前が中学に入ったとき、美津子が死んだ。私はあまりのショックで気が狂いそうだった。全てがむなしく生きていく気力もなくなりそうだった。酒を浴びるほど飲んで、目の前に美津子そっくりの顔をしたお前を見つけた時、私はお前を一瞬いとおしく思ったが、次の瞬間に極度の嫌悪を覚えた。

その頃チャンスがやってきた。お前は咽頭炎をこじらせたのか、左の睾丸に菌が回って腫れ上がり、高熱を出した。悪魔のような考えが私の頭に浮かび、私はそれを実行した。お前の両方の睾丸を摘出して、シリコンのボールに置き換えたのだ。お前に男性としての第二次性徴をおこさないようにすれば、いつまでも美津子に似たままにしておけるだろう。私は美津子のレプリカを保存し、同時にお前に仕返しをすることができる。

その結果、お前は殆ど声変わりもせず、子供のような骨格のままで、身長もあまり伸びなかった。

高校に上がったころ、ビタミン剤と偽って女性ホルモンを数ヶ月飲ませてみた。2、3ヶ月で胸がふくらみ始めたが、お前はひた隠しにしていて相談にこなかった。私はお前の変化を入念に観察していたが、3ヶ月あまり過ぎると、体全体が明らかに丸みを帯び、第二次性徴が本格的に出始めた。やっとお前が相談に来たので、ホルモンバランスの乱れによる乳房肥大症と診断を下し、女性ホルモンの投与をやめた。つまり、普通のビタミン剤に入れ替えたんだ。

女性ホルモンの投与をやめると徐々に女性的形質が退潮していき、高校を出るころには乳房の膨らみも服の上からは殆どわからなくなった。

お前が大学に入った直後、2年分のビタミン剤を送って、毎日飲むように言っておいた。実際には女性ホルモンの錠剤だ。もし、言うことを聞いて毎日飲んでいれば、既に義弘叔父さんの妻として相応しい肉体になっているはずだ。シリコンの睾丸の大きさは変わらないが、陰茎は小指よりも小さくなっているだろうから、早くシリコンの玉を抜いてもらい、その後、折を見て膣形成手術を受ければいい。

もし、私の言いつけを聞かず、ビタミン剤を飲んでいなければ、まだ子供のような体のままでいるかもしれない。でも遅くない。今からでもホルモン療法をやれば、お前は戸籍に相応しい体型を得ることができる。男性ホルモンを投与すれば体毛も生えてきて筋肉質になることは可能だが、もう骨格は大きくならないから、小柄で貧弱で小指大の陰茎を持った男性にしかなれないだろう。

義弘叔父さんが美津子を好きだったことは気づいていた。お前が美津子のレプリカのような外見を心して維持すれば、義弘叔父さんはお前のことを大事にしてくれるかも知れない。お前に美津子のレプリカとして生きる機会をプレゼントできて、私はあらゆる意味で愉快にこの世におさらばできる。

遠慮無く私を憎んでくれ。

義父より」

読んでいて驚愕と怒りが繰り返し私を襲い、震えがとまらなくなった。最後に絶望が残り、私はその場に座り込んで呆然となった。

「何が書いてあるんだ。」

風呂から上がった叔父が、私の手から携帯を取り上げた。

「お願い、見ないで。」

叔父から携帯を取り返そうとすがる私を払いのけて、叔父は書斎に入り鍵を掛けてしまった。

「見ないで、見ないで。」
私は書斎のドアを叩いて懇願したが、叔父は返事をしなかった。

中学に入ったばかりのころに去勢されていたなんて。

私の睾丸はとっくに取り去られて、シリコンボールに置き換えられていたというのか。信じられない。信じたくない。しかし、小学校時代には私より小さかった友人たちがどんどん大きくなり、声が太くなっていくのに、私一人が取り残されていった、あの恥ずかしさは心から消えない。

友人たちが射精のことを話していた時、私は何度も経験があるかのようなフリをして話に加わらなければならなかった。初めのうちは
「そのうち出来るようになるだろう」
と思っていた。しばらくすると、自分はその能力が無いように生まれついてしまったのではないだろうか、と不安に思うようになった。最近はほぼあきらめていたが、美沙にもそのことを打ち明ける勇気はなかった。

自分には生殖能力が全くないということが決定的事実になってしまった。それどころか、私は男性としての第二次性徴が始まらないうちに睾丸を失い、逆に女性ホルモンを長期間投与されていたというのだ。

高校時代に女性的な体の特徴を見られて恥ずかしい思いをしたことは何度もあった。必死で隠しながら男性的に振る舞っていたとは、今となってはピエロのような人生だ。

おまけに、父は私の身代わりを雇うという手の込んだことまでして、私の戸籍を変えたというのだ。

全て父の企んだことだったのかと思うと、心の奥底から怒りがこみ上げた。私が父をずっと好きになれなかったのは確かだが、ここまでの仕返しをされるほど、あからさまな憎悪を抱かれていたということが分かって本当にショックだった。

私にとっては、母が他所の男性と仲良くしていることが嫌だったのだ。私は母を取られたくなかった。その気持ちが伝わった結果、こんなことになったとすれば、自業自得かも知れない。

大学に入ってから父が送ってくれたビタミン剤は、時々しか飲まなかった。高校時代に乳房が大きくなったころに飲んでいたビタミン剤と見かけが同じだったので、何となく怖かったのだ。疲れたり、風邪気味だったり、何となく飲みたかったりした時だけ飲んでいた。

ここ数か月は就職活動や試験から来るストレスのため、殆ど毎日飲んでいる。高校時代ほどではないが、乳房がかなり膨らんでしまった。美沙には夏以降裸を見せたことはないが「最近女っぽくなったんじゃない。」と言われたことがある。

一度女性として結婚してしまうと、戸籍を男性に戻すのが難しくなるというのは本当なのだろうか。裁判をするとか書いてあるが、父が悪意で勝手に女性への変更手続きをしてしまったことは、この手紙によって証明できるのだから、届け出だけで手続きを取り消してもらえるのではないだろうか。

とにかく叔父さんの配偶者のままではどうしようもないので、やはり離婚届を出すことが第一歩だろう。我慢して、叔父さんの奥さんとして、一生女性のフリをして暮らすなどということは論外だ。

去勢のことを美沙に知られたらどうしよう。戸籍が女性になっていたことがわかっただけでも美沙のお父さんからあんな風に言われたのに、10年も前に去勢されていたことが分かったら、きっと美沙は私を相手にしてくれなくなるだろう。

しばらくして叔父が書斎から戻って携帯を私の手に返した。

私は敵意を込めた目を叔父に向けた。

「可哀想な子だ。わしが守ってやるから心配するな。」
叔父は嫌がる私を強く抱きしめた。

叔父の意外な出方に私はひるんだ。

「ひどいことをするやつだ、保は。まだ子供だったお前に仕返しするために男の証を手術で取ってしまうなんて。わしは全く知らなかったんだ。言われるままに籍を入れさせただけなんだ。結果的に保のたくらみに加担することになってしまってすまなかった。」
叔父は左手で私を胸に抱きしめたまま、右手で私の髪をなで続けた。

私は声を出して泣いた。悲しくて、くやしくて、涙が出続けた。

「わしが守ってやるから。わしが守ってやるから。」

叔父は私の髪をなでながら優しく繰り返した。

叔父に対する敵意が消えていった。結局、諸悪の根源は父であり、お金に困っていた叔父の弱みにつけ込んで、私を妻として入籍させたわけだ。叔父は私を陥れるための陰謀に加担したというよりは、母に似た私を気に入って、こんなに優しくしてくれているのではないか。

「おじちゃん、おじちゃん。」
私は泣きながら叔父の胸にしがみついた。

「おじちゃん、じゃないだろう。裕貴はわしの最愛の妻なんだから。」

「あなた、あなた。」
泣くことだけが私の苦悩を和らげられてくれるような気がした。

叔父は私を抱きしめたまま後ずさって、ソファに腰を下ろした。私は叔父の左腕に頭を抱きかかえられる体制で、顔を叔父の胸に埋めたままソファに横たえられた。

そして、
「あなた、あなた。」
と、泣きじゃくり続けた。

「いい子だ。わしが守ってやるから、何も心配することはないんだ。」
叔父は右手で私の髪から太ももまでをゆっくりとなで続けた。

「あなた、あなた。」
とゆっくりと繰り返しているうちに、私を支配していた苦悩の重しが消えてしまって、「あなた」という言葉を発することが、あたかも歌を歌っているかのように自分を良い気持ちにしてくれた。ある瞬間、叔父の右手のストロークが腰からお尻を通過したとき、突然きらびやかなしびれが腰から太ももを襲い、太ももが激しく鳥肌だったのを感じ、息が止まりそうになった。右手の次のストロークが通り過ぎたとき、私の喉から
「ああっ。」
という声が漏れた。さらに次のストロークで、へそから脇腹にかけての筋肉がぴくぴくと震え、大きい声を出してしまった。

叔父は私の太ももが鳥肌立ったことを感知して、まずふくらはぎに右手を這わせ、鳥肌がふくらはぎまで広がったことを確認すると、スカートの中に手を差し入れるともなく、少しずつ太ももの奥へと、下からのストロークを上げてきた。リズミカルに這う叔父の右手は、太もものしびれを上へ上へと押し上げ、そのうち頭が電気刺激に包まれたようになった。

叔父は恍惚とした私の体を回転させて後ろから抱きかかえるようにして、私の首筋にキッスを滑らせた。太ももをなでられたときよりももっと強くて熱いしびれが走った。叔父の両手は私の両胸をつかんで、もみ上げるように捏ねた。ワンピースの上から、私のへその横から脇にかけて両掌でさすり上げ、その両掌をそのまま乳房を持ち上げようとするように前に滑らせる動きを開始した。何度目かの動きで私の体は自由を奪われ、首筋を這う唇と、体の側面をこすり上げる掌の動きの中に意識が飛翔していくのを感じた。

次の瞬間、私はアヌスに叔父の屹立した逸物がぐいぐいと侵入してくるのを意識し、痛みと、驚きと、味わったことのない感覚によって意識を取り戻していた。いつの間にワンピースが取り払われたのか、全く記憶はなかった。確かなことは、ソファーに座った叔父に芯を貫かれた全裸の私が後ろから抱きかかえられているという事実だった。

叔父の両手は私の胸の膨らみをしごき上げるようにして、私の体を上下動させた。乳首が固くなって、叔父の掌がこするたびに乳首が悲鳴を上げた。アヌスが段々熱くなり、ついに頭のてっぺんまで火照るようになったとき、叔父が声を出して私の中ではじけた。私も再び気が遠くなった。

次に意識が戻ったのは叔父のベッドの中で、私は全裸の叔父の腕枕で寝ていた。叔父の体臭に混じって、今まで臭ったことのない酸っぱい臭いがする。これが精液の臭いなんだろうか。

10年近前に去勢されたことで、私にとって一生無縁になったはずの精液というものと、こんな形で対面することになるなんて・・・・

今、生まれて初めて、母以外の人と素っ裸で体を寄せ合っている。それは男性で、その人の腕と精液の臭いに抱きかかえられて横たわっている。私はその男性の胸にしがみついて泣き、愛撫を拒みもせずに受け入れたのだ。そして、どんな形にせよ、これは私にとって生まれて初めてのセックスだった。

そんなばかな。今私が目にして、肌に感じていることは紛れもない現実だが、小説か何か非現実の世界の中で起きている他人事のように思える。もう、どうだっていい。私は10年近くも前に男ではなくなっていたのに、シリコンの睾丸を後生大事にぶら下げ、それを知らずに普通の男のように振る舞おうと、滑稽な努力を続けていたピエロなのだから。もう、自分なんて、どうなってもいいんだ。

そんな投げやりな思いが眠りを誘って、いつしか深い眠りに落ちていた。

翌朝、私は叔父がトイレに起きようとする気配で目が覚めた。
カーテンの外には朝の日差しがあった。

一瞬、自分はどこにいるんだろうと思った。すぐ目の前にある毛むくじゃらの両足が、ベッドの横に立つ全裸の男性のものだと認識するのに2、3秒かかった。両足の付け根に屹立した男根を見て、昨夜の記憶が怒濤のように甦り、思わず赤面してしまった。

「白いすべすべした肌で、ほんまに綺麗な体をしとるなあ。」
素直に賛美してくれる叔父の声で、さらに赤面した。

「一緒にシャワーしよう。」
叔父はとまどう私の肩を抱えるようにして、浴室に入った。

私は、髪にも精液がついているような気がして、それが嫌でシャンプーした。

叔父は両手の指を立てて私の髪を首筋から上に向かって梳くようにシャンプーしてくれた。

だんだん気持ちよくなって思わず「ああっ」と上を向いた時に叔父が唇を合わせてきた。

私は両手で叔父を突き放そうとしたが、力が入らず、石鹸のついた私の掌は叔父の胸から滑ってしまい、叔父と胸を合わせる格好になってしまった。叔父の屹立した逸物は私の下腹を突き、上方に滑って私のへそからみぞおちにはまるような位置で落ち着いた。

叔父の十本の指と唇のリズムに呼応して私の体が上下すると、腹部に密着した叔父の逸物と両睾丸が私の腹部の感じやすい所を責め立てた。

はからずも頭の中が白くなった。次の瞬間、目が覚めたときから感じていた尿意が解放され、私は小便を漏らしてしまった。排尿の快感と恥ずかしさが加わって、私の頭は快感の中で大混乱状態になっていた。

「裕貴、裕貴、くわえてくれ。」
叔父が突然私の口を自分の逸物の位置まで下げ、口にねじ込んだ。

「たのむ、しゃぶってくれ。もうすぐ出そうだ。尺八やってくれ。」
叔父は手で私の頭を前後左右に動かした。叔父の長い逸物が喉を突いて、オエッと吐きそうになるが、叔父は容赦せず、自分の手の代わりに私の首から上をあたかも機械のように使ってオナニーをしているようなものだった。

「舌を使ってくれ、そうだ、ああ、来る、来たっ。」
叔父は何度か「うう」という声を出しながら、不思議な味の粘液を私の口の中にまき散らした。昨夜覚えた独特の臭気が鼻を突いた。

「お前は本当に絶品だ。世界一の女房だ。」

叔父が私を立たせて強く抱きしめた拍子に、私は口の中の精液を飲み込んでしまった。叔父はそれに気づいて勝ち誇ったような笑顔を浮かべた。
「可愛いのう。大事にしてやるからのう。」

叔父はシャワーで軽く体を流して風呂場から出て行った。

私はタオルに石鹸をつけて体の隅から隅まで綺麗にした。

私は混乱していた。男性の逸物を受け入れたり、精液を飲み込んだり、本来考えられないことを平気でしている、させられている自分が、不思議だった。自分ではない、誰か別の人がそうしているかのような気がしていた。

嫌悪感は無いといったら嘘になるが、それほど強烈な嫌悪感というより、羞恥心に似た感情だったが、予期してなかった様々な快感の記憶が、マイナスの感情を中和していた。

愛情とまではいかないが、少なくとも私は叔父が、どちらかといえば自分にとって好ましい味方と感じ始めていた。

風呂場を出て、乾燥機の中で乾いていた下着をつけて、一昨日と同じ紺色のドレスを着た。昨日の朝の手順を思い出しながら薄く化粧をした。今日は一回でうまくいった。

「そうだ、父の手紙のことは美沙にも見せよう。」

手紙に書かれていたことは、できれば美沙には隠しておきたいことが殆どだった。特に、去勢されていたという事実を知らせると、美沙との結婚の可能性は完全に無くなる。でも仮に美沙をだまして結婚できたとしても、結婚後に全ての嘘はばれてしまう。そうすれば私は美沙も深く傷つけることになるだろう。

やはり美沙には隠しておけない。父からの手紙は、そのまま美沙にも読んでもらおう。

私は美沙に携帯でメールを書いた。

「美沙、大変なことがわかってしまったんだ。父が僕に手紙を残していたことがわかった。手紙といってもインターネット上に残されたテキストファイルをダウンロードしたものだ。読んだら美沙は僕を軽蔑するかも知れない。でも隠せることではないと決心した。裕貴。」

送信ボタンを押しかけたが、押せなかった。美沙を永遠に失うことが怖かった。いずれ知られることになるとは思うが、今は止めておこう。私はこの原稿を下書きとして保存した。

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