2018 原作開発プロジェクト 応募作品「エキストラ」

2017Amazon・よしもと原作開発プロジェクトで「採用面接」が優秀賞を受賞しましたが、その快感が忘れられず、2018年2月末締め切りのAmazon・よしもと原作開発プロジェクトに応募するために「エキストラ」を書きました。今回は「映画」に関するテーマというのが応募規定になっており、しかも五万文字以内という規制が入っています。私の長編小説(980円のもの)は十万字以上なので、その半分になります。書いてみると半分の字数でストーリーを収めるのは困難を伴いましたが、校閲でバサバサとぜい肉を切り落として五万文字に収めました。

題名から想像できる通り、主人公は彼女と一緒に映画のエキストラに応募します。主人公が大ファンである若手女優が出演する映画だからです。エキストラに行ってみると、大勢のエキストラの中から十数名の特別エキストラが選ばれることになり、主人公と彼女も選ばれます。ところが、実際の撮影時にNGが出て役を外され、ガッカリするのですが、撮影後に監督に呼び出されて、驚くべきオファーを受けることになります。

そのオファーとは?

最後まで息をつかせないハプニングの連続です。どうぞお楽しみください。



第一章 エキストラ

僕の名前は水沢詩音。千葉市にある大学の一年生で早瀬美玖の大ファンだ。インスタグラム、ツイッターとオフィシャルブログは常時フォローしており、早瀬美玖の事なら誰よりもよく知っているつもりだ。
木曜日の昼休みに学食で僕の彼女の長尾幸子に言われた。
「詩音、映画のエキストラの募集にはもう申し込んだ?」
「何のこと?」
「知らないの? 早瀬美玖のことは完全フォローしてると自慢していたくせに。杉内数馬と早瀬美玖の共演で『黄色い蕾』という映画を撮っていることは知ってるでしょう? 今週末の撮影に高校生のエキストラが足りなくなって、緊急募集しているらしいわ。私は杉内数馬からのツイートを見て知ったところよ」
僕と幸子は付き合っていることを公言する仲だが、幸子が杉内数馬に、僕が早瀬美玖に憧れることについては許容するという合意が成立している。
「行く行く! 早瀬美玖の映画に共演できるんだったら、僕、何でもする」
「共演と言ってもエキストラだから、ほんの二、三秒映るだけよ。それに、早瀬美玖の撮影と同じ現場で撮るとは限らないから、エキストラに行っても早瀬美玖本人を近くで見られるとは限らないわ」
「最悪の場合でも『僕は早瀬美玖と同じ映画に出演した』と孫子の代まで語り継ぐことができる」
「発想がナイーブね。私は杉内数馬を近くで見られるならエキストラをやってもいいけど、そうじゃなきゃ行きたくないわ」
「そんなこと言わないで一緒に行こうよ!」
「ま、詩音の頼みならむげには断れないわね。じゃあ、申し込むわ。応募申込ページのリンクを送ってあげる」
幸子からのリンクの着信とほぼ同時に早瀬美玖のツイート通知がポップアップした。

「【拡散希望】撮影中の『黄色い蕾』でエキストラさんが足りなくなったみたい。緊急募集中だからヨロシクネ! 詳しくはこちら」
そのリンクをクリックすると幸子から届いたリンクと同じページが開いた。

エキストラ急募
■作品名:黄色い蕾
■監督:魚沼腰光
■主演:早瀬美玖 X 杉内数馬
■募集内容:高校生に見える男女十名から二十名程度。
■撮影場所:江戸川堤防(JR市川駅より徒歩二十五分、バス送迎あり)
■撮影日時:十一月二十五日(土) 午前八時から日没まで
■待遇内容:出演料、交通費、食事代は出ません。小さな謝礼品を差し上げます。
■応募要領:yuszjp@gmail.comあてに「エキストラ希望」という題で住所、氏名、携帯電話番号、年齢、職業(学校名と学年)、身長、体重を記入し、顔写真(メール記入と同時に自撮りしたもの、アプリ使用禁止)を添付したメールをお送りください。二十四時間以内に結果を返信します。

――えっ、バイト料なしかよ! 交通費も自己負担とはケチだな……。
エキストラに応募するのは始めてだったが、出演料がゼロで交通費も出ないとは知らなかった。まあ、早瀬美玖を十メートル以内で一分間見ることができるなら、一日分のバイト代を払ってでもエキストラになってもいいと思った。
もう一つ面白いと思ったのはメール記入時に自撮りした顔写真を添付、それもアプリの使用を禁止するという点だった。これなら、確かに普段通りの素顔が分かる。女の子が美人になるアプリやメイク・アプリを使うことも禁止するというのも理に適っている。
僕は早速スマホを右斜め上にかざして自撮りした。それは幸子から教わった、僕が最もカッコよく写る角度だった。その画像を添付してエキストラ希望のメールを送信した。
僕と幸子は応募メールをほぼ同時に送信し「結果の返信が届いたらLINEで連絡するね」と言って別れた。
午後の美術史学の講義が終わってスマホを見ると「エキストラご応募の件」というメールが入っており、ドキドキしながらクリックすると採用されたとの知らせだった。幸子に連絡すると、幸子にも同じ内容のメールが届いたとのことだった。
その次の講義は心理学だったが、顔に見覚えがある女性が隣の席に座っていたので「僕、早瀬美玖が出演する映画に出ることになったんだよ」と話しかけた。
「えっ、オーディションを受けたの?」
「まさか。今日、緊急募集に応募したら、OKのメールが来たんだ」
「なあんだ、エキストラか。『映画に出る』というのはちょっと言い過ぎじゃない?ところで、あんた誰?」
「水沢詩音、国際コミュニケーション学科の一年だけど」
「ああ、どこかで見かけたことがある気がしたわ。これって、ナンパじゃないわよね?」
「ち、違うよ。僕、彼女がいるから……」
「あっそう。私は英米語学科一年の宮田節子よ。水沢君は早瀬美玖のファンなんだね。どんな映画のエキストラ?」
「『黄色い蕾』という映画で、早瀬美玖は高校生の役だよ。共演は杉内数馬だから学園恋愛ものじゃないかと思うんだけど、ストーリーは発表されていないんだ」
「早瀬美玖と杉内数馬という配役だけで観客を集めようという安易なラブコメなのかもね」
「違うよ! 早瀬美玖は可愛いだけじゃなくて女優としての演技力も抜群なんだよ! そんな安易な映画なら出演を引き受けたりしないよ」
「分かった分かった。ムキにならないで」
心理学の講義が始まったので宮田節子との会話はそこまでで終わった。
講義が終わった後、大学構内で会う人ごとに「早瀬美玖の映画にエキストラで出演することになった」と言いまくった。社交辞令で「よかったね、おめでとう」と言ってくれる人は多かったが、僕が期待していた「羨ましい」という感じの反応は得られなかった。うちの大学は四人に三人が女子なので「杉内数馬の映画」と言えば、もっとポジティブな反応があったかもしれないが、僕のプライドとして、杉内数馬をネタに友達の関心を集める気はなかった。
翌日の金曜日の朝、参加要領がメールで届いた。集合場所はJR市川駅から徒歩二十五分の撮影場所に自分で行くか、市川駅近くの指定場所でバスにピックアップしてもらうかのいずれかということで、地図のリンクが示されていた。服装は出来る限り高校の制服、不可能な場合は高校生らしい服装、と書いてあった。
僕の高校の制服は福島の実家に置いてあり、今から送ってもらっても間に合わないので、ジーンズパンツにセーターを着て行くことにした。幸子は高校の制服で来ると言っていた。
土曜日の午前七時半、紺の上着にプリーツスカート姿の長尾幸子と市川駅の改札で落ち合い、指定場所に行くと、既に二、三十人が集まっていた。高校の制服を着ている人が四分の三程度、他は僕と同じようなラフな服装だったが、ひいき目に見ても二十代後半にしか見えない人も混じっていた。
バスが間もなく来て、僕は幸子と一緒にバスに乗った。
普段はスリムパンツのボーイッシュな服装が多い幸子だが、今日は別人に見えた。膝が隠れる長さのプリーツスカートをはいている幸子は、僕が高校時代に秘かに憧れていた吉田美香を思い出させた。高校時代にタイムスリップしたような気がして、バスが揺れて幸子と肩が触れ合うたびに鼓動が高まった。
幸子とは入学直後の学内の飲み会で知り合った。同じクラスの男子から『参加予定者十二人のうち男子は二、三人だからキャバクラ状態だぞ』と言って誘われ、実際に行ってみたら男子は僕を含めて三人だったので『やったあ、キャバクラだ!』と胸が高鳴った。
ところが、女子にはキャバ嬢役で来たという意識の人は一人もいなかった。僕以外の男子二人も押しが強いタイプではなく、女子の話題でガンガン盛り上がる中、僕たちは控えめに話を合わせるか、女子からの質問には防戦一方だった。
元々女子の方が口数が多いが、特に弁の立つ女子が二、三人居て、その人たちが中心になって、時々僕たちが耳の付け根まで真っ赤になるような質問を浴びせかけられた。確かにキャバクラ状態の飲み会だったが、僕たち三人はキャバ嬢の側の立場になってしまった。
可愛い女の子を探して仲良くなるつもりで言ったのに、女子の外観を鑑賞したり評価するどころではなく、女子たちから評価される方の立場に置かれて、委縮した。
自分が女子から見ていじりやすいタイプだと自覚したのは、その飲み会が初めてだった。というのは、他の二人の男子を合わせたよりも多くの質問が僕に浴びせかけられたし、他の二人は僕ほど真っ赤にはなっていなかったからだ。
僕が女子たちの質問にたじたじとして立ち往生しかけると、決まって幸子が助け舟になるような発言をしてくれた。それが、僕が幸子を意識したきっかけだった。もしあの飲み会に幸子がいなかったら、と思うと今でも冷汗が出る。
その飲み会以降、僕は大学構内で幸子を見かけると近づくようになった。そこにオアシスがあるような気がしたからだ。もし幸子が相当なブスでも同じような間柄になっただろうと思う。美醜とは全く関係のない理由で、僕は幸子を選んだのだった。
今、女子高生姿の幸子を見て、もう一つの出会いが始まったと実感した。この女子高生は顔も、スタイルも、雰囲気も最高だ。同じクラスだったら、一目で恋に陥っただろうと思う。自分の彼女がこれほどの美人だったことが分かってラッキーだと思った。
バスは十分ほどで目的地に着いた。
バスを降りると、係員に誘導されて土手の方に歩いて行った。
驚いたことに、そこには既に四、五十人の高校生風の人たちが集まっていた。バスで来たのが約四十人だから、エキストラの数は全部で八、九十名ということになる。
「歩いて来た人が大勢いたのね。近所に住んでいる高校生がこぞって応募したのかもしれないわ」
「募集広告には『十名から二十名程度』と書いてあったから、早瀬美玖が僕を見てくれるかもしれないと思ったのに、百人近くも居たら、絶対気づいてくれないよね。ガッカリだ」
「例え十人でも、早瀬美玖の方から意識してエキストラの顔を見たり覚えたりするはずがないでしょ。詩音の方から早瀬美玖の実物を見られるだけで御の字よ。それにしても杉内数馬と早瀬美玖の姿が見えないわよね」
僕はさっきから必死で探していたが、早瀬美玖らしい姿はどこにも見当たらなかった。
「エキストラの皆さん、こちらにお集まりください」
メガホンを持った男性と、二、三人のスタッフが立っていた。僕たちはその人たちの辺りへと移動した。
「本日はボランティア・エキストラに応募していただきありがとうございました。私は助監督の森と申します。募集広告に『小さな謝礼品を差し上げる』と書きましたが、これから配布します。謝礼品はこのカードです」
助監督は名刺のようなカードを持った手を頭の上にかざした。
「プレゼントは早瀬美玖と杉内数馬のスマホ待ち受け画面用の画像です。カードにプリントされたQRコードを読み取ってダウンロードしてください」
僕は「やったあ」と思った。周囲からは喜びの声と「たったそれだけかよ」とがっかりした声が入り混じって聞えた。
「皆さんは『その他大勢』の役になりますが、同級生の役で若干名のエキストラが必要なので、まず一次選考させていただきます」
――もし選ばれたら早瀬美玖のすぐ近くに行ける!
周囲の人たちも僕と同じことを考え、ざわついた。
「ここに一列に並んで、謝礼品のカードを受け取ってください。その際に、指名された人は、この辺りに残ってください。一次選考で残った人の中から若干名を最終的に指名させていただきます」
助監督の前に列ができ、僕と幸子は真ん中より少し後ろに並んだ。一人一人にカードが手渡され、何人かに一人が「はい、あなた」と言われて助監督の左側に残り、指名されなかった人は落胆した表情で元居た場所に戻って行った。
僕らの番が近づいた。見ていると助監督一人の判断で選んでいるのではなく、助監督の左側に立っている四十絡みの男性、右側の三十才前後の女性が言葉を交わして選んでいるようだ。
一次選考には気軽に選ばれても、二次選考は厳しいだろうから、仮に残ってもぬか喜びはできないなと思った。
僕の番が来た。心臓がパンクしそうなほど音を立てている。
助監督の前に立ってカードを受け取った。左側の男性が「いいね」と言って、右側の女性も「OK」と言った。助監督から「キミ、残って」と言われて、僕は一次選考を通った人たちの群れに加わった。
僕の後に並んでいた幸子もOKをもらって、僕の所に来た。
「やったね!」とハイタッチした。
最後の人がカードを受け取り、八、九十人のエキストラたちは、幸せな表情の約二十人と、がっかりした表情の六、七十人の二つの群れに分かれた。
助監督の指示で、男女に分かれて身長順に横一列に整列した。男子は十一名で僕は小さい方から二人目だった。女子は九名で、合計二十人が一次選考を通過したことになる。
女子の列の背の高い方から順に審査が開始された。審査といっても、一人当たり十秒ほどの目視だけの審査だ。助監督たち三人は殆ど言葉を交わさずに目配せで合意に達するようで、「一歩前に出てください」と言われた人は「はい」と表情を輝かせて足を踏み出した。
残念ながら幸子は一歩前に出るようには言われなかった。女子で選ばれたのは三名だけだった。
男子は僕の番が来るまでに既に五人が選ばれてしまったので、多分ダメだろうと思った。幸子が落ちて僕だけ受かるよりは、一緒に落ちた方がいいかもしれないと思った。
予想通り、僕は選ばれなかった。
「最終選考が完了しました。一歩前に出た八名の方は、一般エキストラの方へとお戻りください。残った男女六名ずつ、合計十二名の方は篠塚さんの指示に従って、更衣室に行ってください」
一歩前に出ていた八人は気の毒なほど落胆した表情でその他大勢の群れへと戻って行った。
「どうして一歩下がらせなかったんだろう? 一歩前に出ろと言われたら誰だって合格したと思うよね。期待させておいて梯子を外すようなやり方はよくないよ」
と、もし幸子が横にいれば僕は言うはずだった。
助監督が「篠塚さん」と呼んだのは横に立っていたアラサーの女性のことで、僕たち十二名は篠塚の後について歩いた。僕と幸子は自然に一緒になって並んで歩いた。友達どうしで来て二人とも最終選考に残ったのは僕たちだけのようだった。
篠塚に連れて行かれた「更衣室」は簡易テントで設営された男女別の小屋で、僕たち男性六人は紺色のジャージーの上下を手渡されて着替えた。
幸子たち六人の女子はえんじ色のジャージー姿で更衣室から出てきた。高校時代にタイムスリップしたような妙な気持ちになった。
「それでは皆さん、これから撮影現場にご案内します。杉内数馬さんと早瀬美玖さんが所属するリズムダンス・チームが、荒川区予選に出場するシーンです。近隣の高校生たちがラフな格好で観戦しています。皆さんは、杉内数馬さんたちの前にパフォーマンスを終えた、他校の生徒たちです。杉内数馬さんたちが並んでいる横に帰って来てすれ違うシーンを撮影します。すれ違いざまに杉内数馬さん、早瀬美玖さんの方を見ないように、自然に前を向いて歩いてください」
エキストラの中から一次選考を経て十二名が選ばれたのが、たった数秒のすれ違いのシーンのためだと分かってがっかりした。まあ、一瞬とはいえ早瀬美玖と数十センチの距離まで接近できる。一般エキストラは十メートル以内に近づくことはできないだろうから、確かに選ばれただけの価値はあるのだが……。
撮影場所まで歩いて行くと、一般エキストラたちは審査員席に近い土手に集まっていた。助監督が一般エキストラの前に立ち、メガホンで「私が左手を上げたら歓声を上げてください」などと言って練習させているところだった。
そこから二、三十メートル離れた場所に出場者の出入り口があり、僕たち十二人はパフォーマンスを終えて出場者出口まで戻る練習を四、五回させられた。しばらくすると、更衣室の方向から杉内数馬、早瀬美玖を含む十名がジャージー姿で歩いて来た。
一般エキストラたちから大歓声が上がった。助監督に言われて歓声の練習をしていた時とは違う、本物の歓声だった。
早瀬美玖たちは僕たちのすぐ近くを通って出場者出入り口まで歩いて行き、スタッフの指示に従って整列した。
監督が早瀬美玖達に指示をして、リハーサルが始まった。カメラは右斜め前の方向から十人を狙っている。
「テイク・ワン」
という声が掛かり、撮影がスタートした。出場を待つ十人の生徒たちの緊張した表情をカメラが捕らえる。
何度か撮り直しをしてOKが出た。次は僕たちが帰って来てすれ違うシーンだ。僕たちはグラウンドから出場者出入り口を目指して歩き、杉内数馬たちの右側を通ってすれ違う。
僕は今まで杉内数馬には全く興味が無かったが、実際に大スターを目の前にすると胸がドキドキした。
「デカッ!」
こんなに背が高かったのか……。すれ違う時に、思わず杉内数馬の顔を見上げた。
「カーット!」
と監督が声を上げた。
「そこの小柄な男子! すれ違いざまにスターの顔を見るな!」
僕のせいだった。僕は監督に「すみません」とお辞儀をして、グラウンドの方へと引き返した。
二回目の撮影が始まった。巨大な杉内数馬の顔を見上げずに通り過ぎたが、早瀬美玖の横を通る時、ついチラッと見てしまった。早瀬美玖の左ひじと僕の左ひじの距離はほんの十センチほどだった。今まで生きていてよかったと思った。
「カーット! 撮り直しだ! さっきと同じ小柄な男子、すれちがいざまに早瀬美玖の顔を見ただろう!」
僕は「すみませんでした」と深くお辞儀をして謝った。
三回目の撮影になり、さすがの僕もまっすぐ前を向いてスターたちの横を通り過ぎた。
「さっきの小柄な男子を抜きで撮り直しだ」
「僕、今度は誰の顔も見ませんでしたよ!」
「男女五人ずつの十名にして撮り直す。女子は前から三番目の人、抜けてくれ」
それは長尾幸子の事だった。結局、四回目は僕と幸子が抜けて撮り直し、一発でOKになった。
「バカ、詩音が杉内数馬と早瀬美玖の顔を見たお陰で、私まで除外されちゃったじゃないの。あーあ、十二人に選ばれなけば観衆役で映画に出られたのに、全く映らなくなったのよ。どうしてくれるの!」
「ゴメン、でも、三回目の時にはまっすぐ前を向いて歩いたんだけどなあ……」
幸子の剣幕に、僕はすっかりしょげて涙目でうつむいた。
「泣くな! 男でしょう。まあ、杉内数馬を至近距離で見られたから、それでよしということにしてあげる。詩音も憧れの早瀬美玖と会えてよかったじゃない」
「幸子、ありがとう。大好き」
と僕は幸子の手を握った。
出入り口のシーンの撮影が終わり、僕は他の十人からの冷ややかな視線を意識しながら、グラウンドでの撮影風景を見学した。
十人のパフォーマンスが見られると楽しみにして見学していたが、グラウンドでの短いシーンを幾つか撮っただけで、撮影は終了した。近くにいたスタッフに幸子が質問した結果、リズムダンスのパフォーマンス自体はまとめて撮影済みだと分かった。
助監督がマイクでエキストラたちにアナウンスした。
「エキストラの皆さま、本日はご協力ありがとうございました。市川駅までのバスは三十分後に発車します。皆さま、お気をつけてお帰り下さい」
「じゃあ、僕たちも着替えてバスに乗ろうか」
篠塚について更衣室に行こうとしたところ、監督からメガホンで呼び止められた。
「ちょっと、キミたち! NG三回の小柄な男子と、そこの女子、ちょっと待ってくれ」
――撮影から外しただけでは気が済まずに、説教をするつもりなのだろうか……。
「監督、お言葉ですが、NGは二回だけですよ。三回目はちゃんとやったのに、どうしてダメだったんですか?」
「失礼した。キミが言う通りNGは二回だ」
「それに、皆の前で『小柄な男子』と三回も言うのは失礼だと思いますけど」
「どうして? 『小柄な』とは『悪い』とか『劣った』という意味なのかね? 『可愛い』とか『好ましい』という意味でもあり得るぞ」
「屁理屈みたいに聞こえますけど……」
「キミたち二人に話があるんだ。ちょっと時間をもらえないか?」
「でも、市川駅行きのバスが三十分後に出るので、それに遅れないようにお願いします」
「もし遅れたら車で送るよ」
監督は、森助監督に声をかけ、僕と幸子を含めた四人で、更衣室の近くの大型ワゴン車に入ってドアを閉めた。
「森君が言った通りだった。この二人なら代役に使えるぞ」
「そうでしょう! 本当にグッドタイミングでした」
「さっきカメラアングルで確かめたが、思った以上にいい感じだった」
「代役って何のことですか?」
「実は『ある問題』が起きて、役者二人が降板することになったんだ。その問題の詳細は明日になるまで言えないが、キミたち二人は降板する役者と似ているから白羽の矢を立てたんだ」
「私たち、映画デビューできるんですか!?」
「その通りだ! といってもセリフは少ないが、印象に残る登場人物だ。引き受けてくれるね?」
僕は天にも昇る気持ちだった。何と、早瀬美玖と映画で共演するチャンスが巡ってきたのだ!


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