「支配する女」は「女性上司の妻になった男」を読んだ方は購入しないでください

「支配する女」が出版されました。

これは2016年2月に出版された「女性上司の妻になった男」をベースにした本であり、ストーリーは原作と同じですので、原作を読んだ方は購入されないようお願い致します。

Kindle Unlimitedの会員の方は是非もう一度読んであの時の感動を再体験されることをお勧めいたします!

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主人公の名前は本郷咲良、営業部門に勤務している入社二年目の社員です。本郷の上司の小芝課長代理は学生時代にミス東京の一位を惜しくも逃した長身美女で、三十五才になっても独身で彼氏がいる形跡はありません。実はレズだと言う噂が流れたことがありますが事実無根のようです。

十二才も年上ですが本郷は小芝課長代理に秘かに憧れていました。ある日の夕方、小芝のお供で客先訪問をした帰り道、本郷は小芝から「頼みたいことがある」と言われて食事に誘われます。レストランで頼みごとを聞いて本郷は自分の耳が信じられませんでした。

「明日、富山から両親が上京するの。本郷君に私のフィアンセとして両親に会って欲しいのよ」

小芝の両親との面談は、本郷の人生の軌道を大きく変えることになるのでした。

支配する女

第一章 美しすぎる上司

 うちの会社には七不思議がある。
その一つは公式の七不思議で社長が今年の抱負として年始に披露したものだ。二十年前の創立以来、うちの会社が赤字になったことは三回だけだが、赤字の翌年は必ず記録的な黒字を達成したそうだ。「これは当社の七不思議であり、業界では都市伝説とも言われている」と社長は胸を張って全社員を鼓舞した。社員の二十人に十九人は「なあんだ、つまんない」と思ったはずだが表情には出さずに黙って聞いていた。
七不思議の中でも非公式な不思議には結構興味深いものがある。その代表が僕が所属する部の小芝怜央(こしばれお)に関する不思議だった。小芝は超一流大学卒で学生時代にミス東京の一位を惜しくも逃したことがあるスーパー美女だ。バドミントンでインターハイに出たというから、まさに文武両道といえる。三十五才になっても独身で浮いた噂は全く無いし、過去に社内外に彼氏がいた形跡も無いらしい。百七十三センチの長身でもあり、男性が気後れして声をかけにくいという不利があるのかもしれないが、性格は明るくサッパリとしていて非の打ち所がない。しかも営業成績は群を抜いており、TOEICも九百二十点で、近々最年少で課長かニューヨークの部長になるのではないかと噂されている。
小芝怜央にはレズビアン説も流れていた。性格の良い美人に男っ気が無い原因としてレズビアン説には説得力があるが、小芝が女性と付き合っているとか、うちの会社の女子社員が小芝に誘われたという形跡は全くない。
運輸管理部の吉澤美津子という三十代前半の女性が「忘年会の後で小芝さんとカラオケに行った時に肩に手を回されてドキッとしたことがあったわ。小芝さんってレズっ気があるんじゃないかしら」と言っているのがレズビアン説の発信源らしい。しかし吉澤美津子はBLコミックのファンで長身美女に憧れている亜流腐女子という噂がある。吉澤の顔と名前が結びつく人は「あれは吉澤さんが夢を語っているだけだ。小芝さんがレズなら他の女性を誘うだろう」と言っている。レズビアン説がガセであることはうちの部の人なら誰でも分かっていた。
僕はそんな清廉潔白な小芝が課長代理をしている海外営業第二課の入社二年目の総合職社員だ。小芝のアシスタントのような立場であり、去年までは社内で勉強をしながらもっぱら電話番をしていたが、二年目になって小芝の客先訪問にも連れて行ってもらえるようになった。
「本郷君、良かったわね。頑張って行って来てね」
僕が初めて小芝に連れられて客先訪問することになった時、小芝と同期入社で海外営業第二課の一般職をしている柳原浅子に励まされた。柳原はうちの課でお姉さんというよりはお母さんのような存在で、僕は入社した時からずっと柳原に可愛がられている。
営業第二課の総合職は五十才の温厚な能上課長、小芝課長代理、二十八才の毒島五郎、二年目で二十三才の僕と、四月に入社したばかりの藤丘慶子の五名だ。藤丘慶子は一浪で十月生まれだから実年齢は僕より五ヶ月上だ。小芝と同じ超一流大学卒で小芝並みの長身だ。中学から高校にかけて親の転勤の関係でニューヨークに住んでいたらしく英語力は小芝にも負けないらしい。慶子は一年上の僕に対して少なくとも表面的には敬意を払って敬語で話してくれるが、小芝が僕と慶子を連れて客先を訪問する時とか、エレベーターに三人で乗ったり、立ち話をする時には、十センチも身長が高い小芝と慶子が僕の頭越しに話をするので僕は居たたまれない気持ちになることが多い。
ある日、小芝と僕の二人で午後四時に渋谷の客先を訪問し、五時半ごろに客先のオフィスを出た。小芝が「今日は帰社せずに、直帰しようか」と僕に言ってから課長にその旨電話した。
「本郷君、これから空いてる? たまには晩メシでもご馳走するわ」
「はいっ、ありがとうございます」
上司と言っても小芝はミス東京クラスの抜群の美人だ。そんな女性と一対一で食事できるなんて夢ではないかと思った。
小芝が連れて行ってくれたのはイタリアン風のワインレストランだった。
赤のハウスワインのデカンタと「今日のお勧めアンティパスト」がテーブルに届いて、とりあえず乾杯した。仕事を離れて向かい合う小芝には普段とは違う魅力が感じられて、何も言葉を交わさなくても胸がドキドキした。
「本郷君、今日は折り入ってキミに相談があるの。個人的なことなんだけど聞いてくれる?」
突然そんなことを言われて天にも昇る気持ちだった。
「何でしょう。小芝さんから個人的な相談を受けるなんて光栄です。ご遠慮なくおっしゃってください」
「ありがとう。じゃあ、言い難いけど言うわね。実は、明日、富山から両親が上京するの。本郷君に私のフィアンセとして両親に会って欲しいのよ」
僕は驚きの余り椅子からずれ落ちそうになった。頭に血が上って、こめかみにドクドクと脈が打つのが感じられた。
「も、もしかして、それはプロポーズなんでしょうか」
僕は胸の高鳴りを押さえながら小芝の目を見て聞いた。小芝は僕の真剣な表情に気づき、大きな目で僕を見た。徐々に小芝の表情が緩んできて微笑を湛えた表情になった。次の瞬間、小芝は「プッ」と吹き出した。
「ごめん。説明不足だったわね。プロポーズじゃないのよ。実は、私の両親は私が三五才になっても彼氏の気配もないことを心配して時々見合い写真を送って来るんだけど、私が全く興味を示さないから、私はレズじゃないかと心配しているのよ。しょっちゅう電話がかかって来てうるさくて仕方ないの。だから、本郷君が去年入社してから付き合い始めて、最近結婚の約束をしたということにして両親に紹介したいのよ。ね、いいでしょう?」
「小芝さんの婚約者の役なら光栄ですけど、本当に僕なんかで良いんですか? もっと年齢が近くて、背の高い人じゃないと、ご両親も本気にしないと思いますけど」
「私は昔から年下で可愛い系の男子が好きで、両親もそれはよく分かっているのよ。だから両親が送ってくる見合いの話も、その手の男性が多いんだけど、レベルが低すぎてお話しにならないの。レベルが数段違う本郷君を両親に見せれば、私が何故これまでの見合いを断ってきたが一目瞭然だから、当分静かになると思うわ」
「レベルが数段違うだなんて……」
僕は恥ずかしさと誇らしさで自分の顔が紅潮するのが分かった。
「やってくれるのね?」
元気に「はい」と答えて大きく頷いた。テレビドラマや小説の世界なら、こんな経緯で婚約者の代役を引き受けた場合には、それがキッカケで恋が芽生えたり、結婚することになるというのが最もよくあるパターンだ。僕にもチャンスが回って来たぞ、と思った。
小芝はテーブルの上で僕の両手を掴んで「ありがとう、恩に着るわ」と言った。
会社では駆け出しの僕が、十二歳も年上のエリート上司と恋に落ちる、ということには若干の不安要因が残ることが否定できない。普通に考えると僕と小芝ではどう見ても恋人同士として釣り合わない。身長は小芝の方が十センチも大きい。もし僕たちが付き合っていることが会社の人に知られたら逆転カップルと噂されるのは確実で、僕は婦唱夫随願望とか、専業主夫志望とか、倒錯チビなどと言われて後ろ指を指されるのがオチだ。結婚しても僕が小芝にタメ口をきくことは考えられないから、一生敬語で話すことになるだろう。でも僕は耐えられる。背の高い女性は僕の憧れだし、こんな美人と一緒になれれば実家の両親や高校時代の友達に対しても自慢できる。
小芝と一緒の夢のような時間はあっという間に過ぎた。
「両親とはこのレストランで集合する約束なの。一緒に来るところを見せたいから、先に私のアパートに来てくれる? 私のアパートで一緒に入念なリハーサルをしておきたいから、午前十時ごろ来てくれるとありがたいわ。土曜日に早起きさせて申し訳ないけど十時でもいいかな?」
「勿論です。午前七時でも八時でも大丈夫ですよ」
「じゃあ十時に来てね。私のアパートの場所はグーグルマップのリンクを送っておくわね」
小芝が勘定を済ませてくれた。女性と食事をして全額払ってもらうのは生まれて初めてだった。いくら収入に二倍の開きがあっても、一緒に食事をして小芝に払ってもらっていいのだろうか? でも小芝は自分が払うのが当たり前のように振舞っていた。もしこの話が発展して今度は恋人としてデートをしようということになったら、少なくとも割り勘で払いたいと意思表示をすべきかなと思った。
満たされた気持ちでアパートに帰り、翌日の仮想デートを楽しみにしながら眠りについた。


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