新作「公園のオカマ」

「公園のオカマ」を出版しました。主人公は大学一年生の秋野ゆづる。大学の親友の有田が通学路にある公園で巨大なオカマを見たことが話の発端です。夏休み前のある日の早朝、同じオカマが公園の駐車場のハイエースに乗り込むのを見た有田は、そのオカマが公園の駐車場で車中泊していると考え、一緒に見に行こうと秋野を誘います。オカマを見るために早起きをすることには気乗り薄だった秋野でしたが、有田に説得されて、翌朝公園に行きます。有田の手違いのお陰で巨大なオカマに説教されることになった二人でしたが……。

発端は千葉県にある公園ですが、物語は福島県の天栄村、白河城、会津若松市、裏磐梯から米沢という南東北を舞台に展開します。

結構シリアスな面もある、リアル系TSエンターテインメント長編小説(約12万文字)をお楽しみください。



公園のオカマ

桜沢ゆう

 七月上旬の昼休み、いつものように有田とアマチュア無線研究会の部室で弁当を食べた。アマチュア無線研究会と言っても無線機があるわけではなく、免許も持っていない。部室を確保するために適当な名目で部を作っただけであり、僕と有田以外の部員は実質的に幽霊部員だった。

 有田小太郎は僕と同じ中学と高校を出て、この外語大に入学した親友だ。

 有田がふいに箸を置いて面白い話をし始めた。

「あ、忘れるところだった。今朝秋津公園でオカマを見たんだぞ」

「オカマなら高校のクラスにも一人いたよね」

「ああ、坂本のことか? あいつは確かにオネエっぽかったけど女子の制服を着て学校に来ていたわけじゃない。俺が見たのは本格的なオカマなんだ。スカートをはいて、ロン毛のかつらをつけて歩いているオッサンと、たった一メートルの距離ですれ違ったんだぞ」

「へえ、そうなんだ。オカマは毎日のようにテレビに出てくるけど、実物は見たことがないな。ゴツイ身体のオバサンじゃなくて、本当にオカマだったのか?」

「百八十センチ以上はある四十がらみのがっしりとした男がワンピース姿でハイヒールを履いて歩いていたんだぞ。誰が見ても一目でオカマだと分かるよ。こんな風に胸を突き出して歩いていたんだ。Gカップはある超デカパイだった」

「百八十でGカップというと、某国大統領の娘を思い起こさせるな」

「秋野は女性のサイズについて全くの無知だな。彼女がGカップというのはガセだ。俺が得た信頼できる情報によると、アンダーバストが七十四、トップバストが九十一・五のDカップだ。公園のオカマは俺の見立てではアンダーバストが九十五、トップバストが百二十のGカップだ。同じ百八十センチでも象とキリンほどに異なるのだよ、キミ」

「へえ、そうなんだ。詳しいんだね!」

「ボディーサイズの話はどうでもいいが、あのオカマの胸は明らかに作り物だった」

「豊胸してるってこと?」

「ブラジャーの中に発泡スチロールの三角錐を入れてる感じというか、全然ユラユラしなくて、胸に固定されている感じだった」

「へえ、よく見てるな。今度見つけたら写真を撮って見せてくれよ」

「よし、スマホに無音カメラのアプリをインストールしておこう」

 オカマの話はそれで終わり、有田との会話の話題には登らなくなった。

 しばらくして、夏休み直前の昼休みに「またオカマを見た」と有田が自慢話を始めた。

「今朝八時ごろに、また同じオカマを見たぞ。通学路の秋津公園の遊歩道に入ったら、あいつがコンビニの袋を持って何十メートルか前を歩いていた。俺は足を速めて距離を詰めたんだが、やつは遊歩道から木立を抜けて駐車場に入っていったんだ。俺は無音カメラのアプリを立ち上げて、気づかれないように後を追った。やつは駐車場の隅のワゴン車のドアを開けて入って行った。これがその写真だ」

 有田は自慢げにスマホを見せた。

「メタリックグレーのハイエースだな。オカマは映っていないじゃないか」

「シャッターを切る前にドアが閉まってしまったから……」

「なんだ、自動車の写真だけでは面白くも何ともないよ」

「じゃあ、明日、実物を見せてやろう」

「どうやって? そのオカマが何日の何時に公園のどの場所に現れるのか、分かるはずがないだろう」

「いいや、多分あいつは秋津公園に住んでいるんじゃないかと思うんだ。ハイエースを改造してキャンピングカーとして使っている人は多いらしい。今朝は公園の駐車場で目を覚まして、コンビニに朝ご飯を買いに行って帰ってきたところだったんじゃないかな」

「明日の朝早く駐車場に行けば見られるってこと?」

「その通りだ。土、日と駐車場でゆっくりするんじゃないかな。七時四十五分に公園の秋津交差点側の入り口に集合しよう」

 土曜日に早起きしてまでオカマを見に行きたいとは思わなかったが、もう有田がその気になっていたので仕方なく応じた。

 ***

 七月二十二日の土曜日の朝、七時四十五分に公園の南東入口で有田と落ち会った。早朝なのに木立の間から夏の太陽が頬を差す。公園内の歩道を野球場に向かって歩く。ずっと向こうに犬を散歩させている女性が歩いている他には、人影は見当たらなかった。

「あいつはここから駐車場に入って行ったんだ」
と有田は木立の間を指さした。歩道から木立の間を通れば駐車場に行けそうだ。

 広い駐車場には二台の自動車があるだけだった。有田のスマホの写真で見たのと同じメタリックシルバーのハイエースが左の奥に停まっている。

「この公園は夕方五時から翌朝まで駐車場が閉鎖されているんだ。オカマの車とあそこにある白いワゴン車が昨日の夜から停まっていたということだな」

 その時、ハイエースのドアが開くのが見えた。

「出てくるぞ! 隠れろ!」
と有田が言って右手前に停まっている白いワゴン車の後ろまで走って隠れた。白いワゴン車の陰からオカマの行方をうかがった。

 その人物が女性ではないことはひと目で分かった。白地に黄色い模様のあるニットのワンピースは膝上十五センチの短さで、胸は普通ならあり得ないほど前に突き出ていた。背中までの長さの栗毛の髪は不自然に細くてつややかだった。大柄なしっかりとした体躯とは余りにも不似合いで、誰の目にもかつらだと分かる。

「女装というより『オカマ装』と言う方が適切だろうな。もっと女性らしい服装にすればいいのに」

「それにしても大柄なオカマだな」

 僕たちがささやき合っているうちに、オカマは木立の間を通って歩道へと歩いて行った。

「すごいものを見させてもらったよ。さて、これからどうする? 新習志野駅のモールにでも行こうか?」

「何言ってんだ? 折角のチャンスなんだから、探検しよう」
と言って有田はハイエースの方へと歩いて行った。

「あいつはドアをロックしなかったぞ。車の中がどうなっているのか覗いてみよう」

「バカなことをするな! あのオカマが帰ってきたら泥棒と思われるぞ!」

「ここから一番近いコンビニは湾岸道路を越えたところにあるファミマだから、往復するのに十分はかかる。急ごう!」

「それはマズイよ、有田君。やめとこうよ……」

 僕が引き留めるのを無視して有田はハイエースまで歩いて行ってサイドドアのノブに手をかけた。

 有田の予想通りドアは開いた。有田はハイエースの中に足を踏み入れた。

「やめようよ、マズイよ……」

「男だろう! 一緒に来い!」
 有田に引っ張り込まれた。

「ドアを開けたままでは目立つ」
と言って有田はドアを閉めた。

 ハイエースの後部半分は、腰の高さのベッドになっていた。その下が収納スペースのようだ。サイドドアの前は、いわゆるリビングスペースで、座って食事できるようになっている。

「一人なら快適に住めそうだな」
と有田がくつろいだ様子で腰を下ろした。

「もうオカマが戻って来るかもしれないよ。早く出ようよ」

「まだやっと歩道橋に差し掛かったぐらいさ。勇気が無いやつだな」

「悪いけど、僕、先に行くからね」
と言ってドアを開けた。

 目の前にデカいオカマが立っていた。
「誰だ、お前たち!」
と男声で一括されて僕たちはすくみ上った。

「すみません、ちょっと覗いてみただけなんです」

「他人の車に乗り込んで『覗いてみただけ』だと? 警察で話を聞こうか」

「だからイヤだって言っただろう、有田君!」

「有田君というのか。朝、あの辺りですれ違った記憶がある顔だ」
とオカマは歩道を指さした。

「キミたちが下着泥棒だったんだな。先週車の中に干してあった私のブラジャーとショーツを盗ったのは有田君、キミだったんだな?」

「違います、誤解です! オカマの下着なんか触りたくもありません」

「学生のようだから警察に言う前に、学校に届けた方が良さそうだな。キミたちは高校生か? 大学生なのか?」

 僕はオカマの横をすり抜けて逃げようかと隙をうかがった。

「逃げても無駄だ。車内の様子は録画してある。動画をユーチューブにアップロードした上で警察に届ければ、すぐに身元がバレて捕まるぞ」

 オカマは僕を有田の横へと押し込み、ドアを閉めて僕たちの正面にデンと座った。有田はオロオロして泣きそうな顔をしている。

 僕たち二人の写真がテレビに出て、僕の好きな女子アナの夏目三久さんが「これがオカマの下着を狙った外語大生です」と言うシーンが頭に浮かんだ。

「警察に行く前に反省の言葉があれば聞いておこう。何が目的で侵入したんだ?」

「すみませんでした。大柄なお姉さんが早朝におめかしして駐車場から出てくるのを二度見かけたので、車の中で一人暮らししてるのかな、と興味が湧いて、中を探ってみたんです。つい出来心で……。でも、中のものを盗るつもりは全くありませんでした。下着泥棒は僕たちじゃありません」

「分かった。じゃあ、もう一人のキミは? まず名前を言いなさい」

「はい、秋野夕鶴(ゆづる)と申します。有田君からオカマを見たと聞いて、見に行こうと誘われたからついてきました。僕、テレビでしかオカマを見たことがなかったので、つい……。僕は車の中をのぞくのは嫌だったんですけど、無理やり引っ張り込まれてしまいました。怖いもの見たさで来てしまいましたけど、僕はオカマには全く興味ないんです。お願いです、許してください」

「面と向かってオカマと呼ばれるのが、オカマ本人に乗ってどれほど傷つくか全然分かってないんだな。学生が悪気なしに侵入したというのが真相のようだから今回は放免しようかなと思っていたけど、やっぱり許すのはやめておく。言うに事欠いて怖いもの見たさとか、全然興味ないとか、プライドをズタズタにされた」

「秋野、お前って本当にデリカシーが無いんだから」

「ごめんなさい……。お姉さんも、ファッションを工夫したら少しは女らしく見えると思うんですよね。昼間出歩くのは無理でも、暗い夜道だけを歩くようにすれば、目の悪い人なら女だと思い込む人も居るはずです。オッパイは今の半分以下の大きさにすべきだし、スカートも普通の女性がはいているようなものにした方がいいですよ」

「自分ではうまく化けたつもりだったのに、私の外観はそれほどひどかったのか……。それにしても女性のファッションに詳しそうだな。秋野君も女装して生活したことがあるのか?」

「まさか! 僕は姉と妹にはさまれて育ちましたから、女性の日常生活について、オカマのお姉さんよりは詳しいだけです」

「オカマと呼ぶのはやめてくれ。私は坂詰勇人、女性名は遥という。遥姐さんとでも呼んでくれ」

「じゃあ、遥姐さん、どうすれば僕たちを許していただけるんでしょうか?」

「君たちの夏休みはいつからいつまでだ?」

「来週の水曜日から、九月十六日までですけど」

「そうか、ちょうどいい。火曜日に学校が終わったらここに集合してくれ。午後五時にここを出発する」

「どこに行くんですか?」

「東北方面だ。実は私は小説家で、全国各地を転々としてその土地の風土や人間と触れ合うことによって、小説の構想を温めているんだ。火曜日の夜、北に向けて出発し、行けるところまで行って道の駅で車中泊する予定だ」

「この車の中で三人も寝られます?」

「多少窮屈かもしれないが運転席と助手席に横長のマットを敷いて一人が寝て、後部のベッドで二人が寝ることになる」

「へえ、結構面白い冒険旅行になるかもしれませんね。でも、僕たちはひと月半もの間何をすればいいんですか?」

「私の話し相手になってくれ。秋野君には女らしく見せるための着こなしなどをアドバイスして欲しい。それに、行く先々でアルバイトをすればいい」

「分かりました。その前に確認ですが、仰る通りに車中泊旅行について行きさえすれば、オカマの車に無断で入ったことは無かったことにしてくれるんですね?」

「水に流してあげよう。但し、今後私をオカマと呼ぶたびに罰金千円を徴収するぞ」

「十回で一万円ですか、そんなには払えませんよ。一回百円にしてください」

「うぅん……。よし、百円でいいだろう」

 遥姐さんとLINEの友達登録をして有田と僕は解放され、二人で新習志野のマクドナルドに行ってソーセージマフィンのセットを食べた。

「今日は本当に危ないところだったな」

「そりゃあ、他人の自動車に勝手に入ったらマズいよ。だから止めたのに」

「秋野があいつの前で俺の名前を呼ばなかったら逃げられたんだぞ」

「車内に侵入したところを動画に撮られたんだよ。名前が分からなくても警察に届けられたら、僕たちはずっと逃げ隠れしなきゃならないことになる」

「車内にカメラなんて見当たらなかったよ。あれはきっとハッタリだ」

「でも、夏休みに冒険旅行に連れて行ってもらえることになってラッキーだったじゃないか。棚からぼたもちってところだね」

「それを言うなら『災い転じて福となす』だろう。でも、俺は行きたくないよ。冬休みにスキーに行くためにバイトをして貯金するつもりだったんだから」

「いまさらそんなことを言い出しても、遥姐さんに行くって約束したんだから、もう遅いよ」

「うぅん……、イヤだなあ」

 マクドナルドを出て別れた時も有田は歯切れが悪かった。今日はどう考えても有田のせいでトラブルに巻き込まれ、僕はとばっちりを受けただけだ。別れた後で有田の態度を思い出して腹が立った。


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