新作「混浴露天風呂で出会った美しい人」を出版しました

リアル系TSでラノベBLカテゴリーの小説「混浴露天風呂で出会った美しい人」を出版しました。

最初の舞台は雪深い湯西川温泉にある「薬研の湯(やげんのゆ)」という混浴野天風呂です。

主人公は桜沢菜緒という卒業間近の男子大学生です。主人公は薬研の湯で幻の美女と遭遇しますが、メールアドレスの交換もできないうちに幻の美女は闇の中へと去って行きます。

主人公がどのように幻の美女と再会するのか、そしてどんな運命が主人公を待ち受けているのか、それは読んでのお楽しみです。



混浴温泉で出会った美しい人

by 桜沢ゆう

第一章 美しい人

 これほど大量の雪を食べたのは初めてだった。

 真っ白で混じりっ気のない純粋な雪に出会うことは滅多にない。木の枝に乗った雪を指ですくって口に入れると、かき氷よりもずっとふわふわしていて、口の中でさーっと解ける。加糖練乳か、イチゴ味のシロップを買ってくればよかった……。

 僕は潔癖症ではないが、どちらかと言うと清潔好きで、細菌に汚染された恐れがある食品を加熱消毒せずには食べない主義だ。普通の雪は、空気中に漂う埃を絡めながら空から舞い降り、道路、塀、木の枝に積もるとその上に埃が降って来るから、とても口に入れる気にはなれない。

 湯西川温泉の町はずれにあるホテルから温泉街までの道路の端の樹々の枝や塀に積もっている雪は、僕の清潔さの基準を完全にクリアするほど無垢に見えた。周囲の真っ白な山肌が紺碧の空に映えている。

 卒論の提出を済ませ、後期試験も無事終わってほっとした二月五日の日曜日、僕は高校時代からの親友の有村と新宿にある工学院大学前のバス停に集合して、ホテルの送迎バスではるばる湯西川温泉にやってきた。三月二十日の卒業式を経て四月に社会人になるまでの二ヶ月足らずの、学生として最後の充電期間が始まったばかりだった。

 三時にチェックインし、四時ごろホテルを出て温泉街まで徒歩二十分ほどの雪道を歩いた。目指すは温泉街の橋のたもとにある{薬研の湯|や|げん|の|ゆ}という露天風呂だった。僕たちの宿泊するホテルには立派な露天風呂があるが、湯西川温泉街には橋から見渡せる無料の野天岩風呂があるとの情報をネットで見ていたのでトライしてみたかったのだ。

 県道から湯西川温泉街への分岐路を左に入ると、踏み固められた雪が道路の中央まで覆っていた。スマホの地図を頼りに坂道を滑らないように注意して歩き、湯西川を跨ぐ橋に差し掛かった。

「あそこだ。橋から丸見えだぞ」
 橋の斜め下方の河岸を有村が指さした。それは大きな岩の窪みにある湯だまりだった。

「橋を渡ってすぐ左から降りられそうだぞ」
 道と言えるほどの道はついていないが、木に掴まりながら降りることは出来そうだった。

「雪があんなに積もっている場所を降りるのは危険だよ。それに、橋の上から丸見えじゃないか。お湯が透明だから、岩風呂の底まで見えるぞ」
とんでもない、という感じで有村が言った。

「殆ど人通りは無いし、見られても減るものじゃないよ。雪の中をはるばる辺境まで来たんだから入って行こうよ」

「桜山君がどうしても入りたいなら入ればいい。俺はここで見物している」

「じゃあ、僕のα7を預ってくれ。僕が雪の中の岩風呂に入る様子を沢山写しておいてほしい。このカメラなら暗くなっても鮮明に写るから。言っとくけど、勝手に自分のスマホで撮ってSNSに流すんじゃないぞ」

「桜山君のフリチン画像をSNSに流すほど悪趣味じゃないよ」
 有村は僕の冗談に気分を害した様子で言った。

 橋を渡ってすぐの石段を下って右に曲がり、雪で覆われた岩の上を這うように進んだ。岩風呂の横の平らな雪の上にショルダーバッグを置いて、靴と靴下を脱ぎ、その上にコート、セーター、ズボン、下着を重ねて置いた。タオルを首に巻き、橋に背中を向けて湯船に足を踏み入れる。岩風呂の底がヌメっていて滑りそうになる。腰を低くして、雪面に手をついて支えながら何とか転ばずに湯船に浸かった。

 熱い。雪が入ってぬるくなっているはずなのに、熱い湯だった。身体が冷えているせいで余計に熱く感じられるのだろう。

 僕は胸まで浸かった状態で身体を橋の方に向けた。午後四時半を過ぎた灰青色の暗い空をバックに有村の顔が見える。手を振るとカメラを僕の方に向けてシャッターを切った。

「アソコが橋の上から丸見えだぞ。手で隠せ!」

 有村が非難がましく叫んでいる。きっと羨ましいのだ。それなら自分も来ればいいのに……。

 透明な湯なので角度のある高い所からだと見えるのかもしれない。でも、もう少しで日没だ。有村に気を遣って、股間の物を挟み込むように両脚を閉じた。

「それだと女みたいで余計に気持ち悪いぞ」

 気持ちが悪いのなら見なければいい、と悪態をつくのはやめておいた。親友との二泊三日の温泉旅行の初日にケンカを売ることもない。

 母子連れが橋に差し掛かった。母親の視線が一瞬僕の方に向けられ、すぐに橋の反対側の川面へと逸らされた。子供は僕には気づかずに橋を通り過ぎて行った。もう日没だ。河畔の旅館群の明かりが河面を照らし、暗くなった空に橋を浮かび上がらせる。

 その時、細長いシルエットが橋に差し掛かり、有村の横を通り過ぎた。一旦視界から消えた人影が、数十秒後に橋の横の階段から姿を現して、僕の居る岩風呂へと近づいてきた。

 灰色のダウンコートから黒のスキニーパンツの脚が伸びた女性の姿に、僕は焦った。まさか、この岩風呂に入るつもりなのだろうか! 彼女が靴と靴下を脱ぎ、ダウンコートを脱いでその上に置いたので、僕は湯船の中で身体を回して彼女に背を向けた。彼女が服を脱いでいる気配が感じられて、僕の鼓動が高まる。股間の物が痛いほど硬くなり、僕はそれを下方へと押しこみ太股をぴたりと寄せて隠した。

 彼女が湯船に浸かったことが気配で分かった。僕はしばらく背中を向けたまま湯に浸かっていたが、そうしていることが彼女に対して失礼ではないかという気がして、ゆっくりと身体を回して、彼女の方を向いた。

 視線が合う。軽く微笑んで会釈をすると、面長で冷淡さを感じさせる彫りの深い小顔に微笑が浮かび、会釈が返ってきた。長くて白い首とショートボブの髪のバランスが僕をドキッとさせる。僕より何才か年上の美しい女性だった。

 辺りはもう暗くなったが、湯船の中に乳房が揺れるのが見える。長身に不釣り合いな小ぶりの乳房だと思った。

 何か気の利いたことを口に出したかったが、適切な言葉が頭に浮かばなかった。湯西川温泉は初めてですか? 野天風呂はいいですね。混浴風呂にはよく行かれるのですか? ここのお湯は熱めですね……。凡庸な言葉をかけるのは不適切だと思えて、お互いに何もしゃべらないまま時間が過ぎた。僕は目だけで微笑んで彼女の方に顔を向けていた。

 その時、彼女が湯船の中で立ち上がった。おへその下を左手で持ったタオルで覆い、右掌で左乳房を隠した姿が橋を背景に伸び上がった。湯船の外にゆっくりと足を踏み出し、身体の斜め後ろを僕に向けてタオルで身体を拭く。湿りの残る身体に器用に下着を着け、スキニーパンツに足を通す。薄暗い場所で、すらりと均整の取れた身体が川岸の電燈が投げる光に照らし出されている。

 彼女はダウンコートを着るとショルダーバッグを肩に掛けて階段の方へと身体を向けた。

 その瞬間、思い出したかのように彼女が振り向き、優しい笑顔で別れの会釈をした。

 美しい! 雷に打たれた気がした。

 次の瞬間、僕が何も反応を示せないうちに彼女は僕に背を向けて立ち去った。

 僕は呆然として首まで湯船に浸かり大きなため息をついた。現実に起きたのかどうか自分でも確信が持てないほど、夢のような出来事だった。すらりとした美しい身体を僕に見せつけるために現れ、僕が息を飲んでいる間に悠然と立ち去った……。

 岩風呂から出てタオルで身体を拭いた。、火照った身体が冷気に包まれる感覚が新鮮だった。冷えないうちに手際よく下着と服を身に着け、コートを着た。

 階段を登って左に曲がると橋の上に立っている有村が目に入った。有村は岩風呂とは反対の、湯西川の上流方向を向いていた。

「有村君、見たか?」

「見たよ。びっくりした! 俺も桜山君と一緒に入ればよかった」

「オッパイはミニサイズだったけど、相当な美人だった」

「アソコも見えたのか?」

「バカな。暗かったし、タオルで隠していたから見えなかったよ」

「俺が写真を撮っている後ろを通り過ぎたんだけど、すごく背が高かったぞ。百八十近くあったんじゃないかな」

「百八十は言い過ぎだ。僕がお湯に浸かった状態で見上げた感じだと、百七十二、三センチだったと思うよ。女性は数字よりも大きく見えるものだから。しっかり写真を撮ってくれたか?」

「桜山君のヌード写真は十枚以上撮ったよ」

「で、彼女と僕が二人で岩風呂に入っている写真は何枚撮ってくれたんだ?」

「まさか、撮るわけないだろう。本人の了解なしに女性の裸を撮影すると犯罪になる」

「一枚も撮らなかったのか? 僕にとって一生に一度の夢のようなハプニングだったのに! 風呂から上がって服を着た後の写真ぐらいは撮ってくれたよね? せめて後姿でも」

「すまん。ボーっと見送っていたら、あそこの角を左に曲がって行ってしまった」

「しっかりしてくれよ」

「そんなに気になったのなら風呂の中で自己紹介して電話番号かメールアドレスを聞けばよかったのに。彼女とどんな話をしたんだ?」

「いや、裸の女性と風呂で向き合うのは久しぶりだったから緊張してしまって……」

「手の届く距離に居ながら一言も話せなかったのか! 俺を非難する資格はないじゃないか。ところで今『裸の女性と風呂で向き合うのは久しぶり』と言ったけど、前にも混浴温泉に入ったことがあるのか?」

「家族旅行の思い出の話だ。幼稚園に上がるまでは母さんと女風呂に入っていたから……」

 有村と僕はお互いの至らなさについて呆れながら、雪の{夜道|よみち}をホテルまで歩いた。

 ***

 部屋に戻ると浴衣に着替えて大浴場に行った。冷えた身体を内湯で温めてから、その足で食堂に行って夕食のバイキングを楽しんだ。二泊三日、食べ放題、飲み放題、新宿からのバス送迎付きで一万四千円という期間限定激安料金だったが、有村と僕は「食事代だけで元を取ろうな」と貧乏くさい話をして、カニや刺身など量の割に高価な料理を選び、腹の膨れるビールを避けて地酒を飲んだ。

「さすが桜山君、コスパ最高のホテルだね。就職してからも毎年一緒に来ような」

「いや、オフシーズンの日、月、火の二泊三日だから超特価で予約できたわけだ。サラリーマンになったら、三連休とか、皆が休みの時にしか来られない。それに、会社には美人のOLがわんさかいて、新入社員の男性に群がって来るらしいから、来年の冬は彼女と一緒に温泉に来るのが目標だな」

「桜山君のオプティミズムには感服するよ。新入社員男性が入れ食い状態になるなんてエロ漫画の読み過ぎじゃないの? そんな幻想を抱いて入社したら、厳しい現実にガックリ来てうつ病になるぞ。桜山君も、もう少し背が高かったら強気になってもいいんだろうけど」

「身長なんて、有村君とそんなに変わらないじゃないか」

「バカ言うな。俺は百七十だから桜山君より十センチ以上高いんだぞ」

「おあいにくさま、僕は百六十三でした。七センチしか違いませんよーだ。いつもシークレットシューズを履いているし、顔が良いから、有村君よりはモテるつもりだけど」

「桜山君は面白いな。高い靴を履いているのを自慢する男と出会ったのは初めてだ。人間の脳って、自分は実際よりも背が高く感じたり、顔が良いからモテるという幻想を抱いたり、自分を相対的に過大評価するようにプログラムされてるんだな。いやあ、実に興味深い」

 いくら親友でも、腹の立つことばかり言うやつだ。僕がモテるのは事実だし、有村なんかに負けるはずがないが、建設的でない議論を吹っかけるのは差し控えた。

 二人とも酔っぱらって部屋に戻り、横になってテレビを見ていたが、九時半ごろになると酔いが覚め、腹もこなれてきたので、一緒に露天風呂に行った。

 内湯で体を温めてから露天風呂へのガラス扉を開ける。熱くなった皮膚が冷気に晒されて気持ちいい。岩風呂の周囲の樹々の枝にこんもりと雪が積もっているのが、外灯の白い光を受けて黒い空間に浮き出ている。

 身体が急激に冷えて、僕たちはヒィーッと声を出しながら湯船に浸かる。雪はとっくに降りやんでいて、後頭部まで湯船に浸けて空を見上げると、岩風呂の周囲の樹木の枝に囲まれた丸くて黒い空間に星がちりばめられているのに気づいた。外灯の光にも、湯気にも負けず、たくさんの星が輝いていた。

「やっぱ、空気の透き通り方がハンパじゃないよな」
と、有村らしくない的確な表現が耳に入る。

 僕は湯船の中に立ち上がり、岩風呂の奥の、川べりの方に歩を進める。有村も一緒に岩風呂の奥まで来て、雪を抱く枝々を通して、その向こうを流れる川からの水音に耳を澄ます。

「ここの雪も美味しそう!」
と僕は手の届く枝の上にこんもりと乗った雪を手ですくって口に入れる。

 それは口の中でさーっと溶けて、雪とはこんなにふわふわしていたんだ、と改めて実感する。

 二、三度雪を食べると急に体が冷えてきて、「さぶーっ」と言いながら湯船の中に首まで浸かる。

「桜山君って子供みたいだな」
と有村は雪を食べずに、呆れたという表情で僕を好意的に傍観している。

「今食べておかないと、社会人になったら雪を食べられなくなるかもしれないよ」

 本気でそう思ったわけではないが、有村にも雪を食べさせたくてそう言った。

 僕たちは「うーん、気持ちいいな」と言いながら星空を見上げる。

 星を繋げていくと、女性の身体を横から見た姿に見えた。

「あの女の人ってきれいだったよね」

「美人というほどだったかなあ? 背が高すぎるし、なんかこう、デカかったよな」

「デカいだなんて失礼な。すらりとして、すごくカッコよかった。あーあ、有村君がちゃんとシャッターを押していたら画像をスマホに落として今晩じっくり見られたのに」

「僕は百六十二、三ぐらいまでで、オッパイの大きい女がいいな。それにしても世の中はよくできてるよな。百五十センチも無いほどミニな女を好む男もいれば、桜山君みたいに見上げるほどデカい女に憧れるマゾな男もいるんだから」

「僕がマゾだなんて、勝手に決めつけるな!」
と抗議をしたが、自信があったわけではない。僕には加虐的な嗜好が全くないことは明らかだから、人類をサドとマゾに二分類したら、僕は後者に属するかもしれないと思う。

 しかし、自分より背の高い女性を好む男性をマゾだと考えるのは間違っている。概して背の高い人間は背の低い異性を好み、背の低い人間は背の高い異性を好むものだ。身長が低いほどマゾというのでは理屈が通らない。

「さっき、あの女性を食堂で見かけなかったということは、このホテルの宿泊客ではないということだ。湯西川温泉のどこかの宿に泊まっているんだろうな……」
と僕は彼女のことを思いながらつぶやいた。

「明日、かまくら祭りを見に行くのに、早めに行って橋の上で待っていたら、また通るかもしれないぞ。桜山君がそれほど心残りなら付き合ってやるよ。でも、明日はちゃんとメルアドを交換しろよ」

「有村君、ありがとう。僕、がんばる!」
 さすが親友だと感激した。

 ***

 翌日は雪が降っていて、ホテルから{薬研の湯|や|げん|の|ゆ}の上に架かる橋まで歩いて行くのは無理なので、ホテルのバスでかまくら祭りの会場まで送迎してもらった。かまくら祭りの会場は人もまばらで、憧れの長身女性の姿は見えなかった。

「気を落とすな。四月に入社したら、もっと背が高いOLと巡り合えるさ。お前が入る会社には女子バレーボールチームとか無いのか?」

「あのねえ、背が高けりゃ誰でもいいってことじゃないんだから」
と僕は力なく抗議した。

 東京に帰ってから二、三週間は、毎晩幻の長身女性のことを思い出しては恍惚とした気分になっていたが、社会人になるころには彼女のことはすっかり頭から消えていた。


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