新作「草食男子」を出版しました

新作「草食男子」が出版されました。今回の主人公は某商社の電子材料部で働く二年目社員の寺川瑠衣です。

電通社員の自殺事件が大きく取り上げられてから早や半年が過ぎましたが、瑠衣が働く会社で「WLB委員会」が立ち上がりました。WLBとはWork Life Balanceの頭文字で仕事と生活のバランスを改善するための委員会です。

WLB委員会立ち上げの二週間後に発表された具体策は社員全員が目を見張るほど斬新な内容でした。

WLB委員会が提案した『草食男子育成計画』とは?

これは、男女の生き方について再考を促す、桜沢ゆうらしいタッチのラノベ・エンターテインメント小説です。



草食男子

by 桜沢ゆう

第一章 プロポーズ 

 五時半になって会社から帰ろうとしていたら、美和から「ちょっと話があるから来て」と大きな声で言われた。

 課長や先輩たちの視線が僕に集まる。

 美和が苦虫を嚙みつぶしたような表情をしているので僕は心配になった。僕は何か美和を傷つけるようなことを言っただろうか? もしかしたら、別れ話ではないだろうか! もしそうなら、どうしてわざわざ皆の見ている前で僕を会議室に連れていくのだろう……。

 戦々恐々として美和について行く。小会議室の六人掛けのテーブルの真ん中に向かい合って座る。

 美和は真剣な面持ちで僕に命令口調で言った。

「左手を出しなさい」

「は、はい」
 同期入社なのに、つい敬語で答えてしまって左手をテーブルの上に置いた。

「目を閉じて十からカウントダウンしなさい」

「英語で?」

「そうよ、さあ、早く」

 Ten, nine, eight, seven, six, five, four, three…

 その時、美和に左手を乱暴につかまれて、僕の薬指に無理やり金属製の輪がはめられたのを感じた。

「目を開けなさい」

 キラキラとしたダイヤモンドがついたプラチナのリングが僕の薬指に輝いていた。

「必ず幸せにするから、私についてきて欲しい」

「こ、これってもしかして……」

「そう、プロポーズよ」

「でも、まだそんな……」

「私のことが好きだったんじゃないの?」

「好きだ! というより、心から尊敬してる」

「やったー! 思い切ってプロポーズしてよかった。昼休みに宝石店に取りに行ってきたんだけど、もし断られたらどうしようかと思っていじいじしているうちに夕方になってしまったの」

「どうして僕なんかに……」
と言いかけた時にドアが乱暴にノックされた。

「本田、ロンドンとのテレビ会議が始るぞ!」

「はい、すぐ行きます」
と言って美和が立ち上がり、僕の手を握る。

「プロポーズをOKしてくれてありがとう。今日はバタバタしてるけど、明日の夜は空けといて」
と言い残して美和は僕を残して出て行ってしまった。

 僕はまだ返事をしていないのに美和は勝手にイエスと解釈してしまった。まあいいか、僕も美和と結婚できればいいと思っていたし、美和の方からプロポーズしてくれて助かった。本来僕が指輪を買って美和に差し出すのが筋だが、貯金もないし、勇気も不足していた。

 待てよ、僕がこのダイヤのリングをつけるのは不自然じゃないだろうか。これは女性が身につけるべきリングだ。会社の人たちに見られたら、オトコ女とか言われないだろうか? いや、オンナ男だったっけ? 指輪を外そうとするが間接に引っかかって抜けない。サイズが小さすぎる。

 その時、会議室のドアが開いて、隣の課の上条美紀が入って来た。続いてうちの課の一般職の須賀順子、ロンドンとテレビ会議をしているはずの都築課長も入って来る。そして更に、女性社員が何人も入って来る。

 全員が右手にダイヤのリングを持って、口々に「寺川君、左手を出して」と言いながら僕に迫って来た。

 ウワァーッ! 

 僕は床に押し倒されながら悲鳴を上げた。

***

 ベッドの上で目が覚めた。パジャマの衿がびっしょりと塗れるほどの汗だった。

 夢だったのか……。

 会社で急にモテるようになって、最初は我が世にもついに春が来たと喜んでいた。中学二年の修学旅行以来モテ期というものが無かった僕は、女性からチヤホヤされことに憧れていたが、実際にモテ男になってみると、とても心地よい状況とは言えかった。

 モテすぎるのはもうコリゴリだ!


都築を読みたい方はこちらをクリック


 

★ 未発表作品に関する情報はTwitterで発信します! ★

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です