性別という名のセレンディピティ:性転のへきれき新作

新作「性別という名のセレンディピティ」を出版しました。主人公の水上真央は両親の離婚を機に全寮制の栗山セレンディピティ国際学校に入学し、予想もつかない出来事に次から次へと遭遇します。

性別とは何か? セレンディピティが真央にもたらしたものとは? 奥鬼怒山系の大自然の中で、二つの命題について模索する高校生活が始まります。

13万5千文字のシリアスなリアル系長編エンターテインメント作品です。



性別という名のセレンディピティ

桜沢ゆう

第一章 新しい旅立ち

 僕の人生が大きく動き始めたのは中学三年の卒業式の夜だった。
 それまでの僕は周囲から見るとごく普通の中学生だった。「周囲から見ると」と但し書きをしたのは、両親が一年ほど前から離婚協議を進めていたからだ。母は国際的なピアニストで家にいないことが多く、家事は商社マンの父に押し付けられていた。父も多忙で、平日の夕食は宅配弁当になることが多かった。
 父と母が家の中で怒鳴り合うのを聞くのは辛かったが、怒鳴り合いもしなくなると却って不安が募った。中三の秋ごろから両親が殆ど会話をしなくなり、たまに聞く会話の中に「弁護士」とか「家裁」という単語が出てくるようになった。本当に離婚するのだろうか? もし離婚したら、僕と妹は父と母のどちらと一緒に暮らすのだろうかと心配になった。
 父は妹の啓子をネコかわいがりしているが、多分、僕の事は嫌いだ。父に嫌われていると感じていたから、僕も父が嫌いだった。母のことは大好きだが、母は日本にいないことが多い。もし離婚したら、今まで時々帰ってきた母が二度と帰って来なくなるだけで、それ以外の点においては現在と同じような毎日が続くのかもしれない……。
 卒業式の日、久しぶりに母が料理を作って家族四人そろって夕食を食べた。母の得意料理で僕の大好物のエビルライだった。父母が普通の大人どうしのように笑顔で会話するのを見て僕は昔の家族に戻った気がした。よかった。僕の卒業祝いの夕食をきっかけに、父母がやっと仲直りしてくれるのだろうか。
 夕食を食べ終わった時、父が真顔で話し始めた。.
「真央、啓子、話があるんだ。今日、お父さんとお母さんは離婚した。明日から、真央はお母さんと、啓子はお父さんと暮らすことになる」
「イヤよ、離婚なんて! 私はお父さんとお母さんの両方と一緒に暮らしたいわ」
 啓子が泣きながら言った。
 僕は黙ってうつむいた。来る時が来た。僕と啓子が泣きわめいても父母が離婚を思いとどまることはないだろう。
「もう離婚届けは提出済みだ。ここにいる水上潤子さんと水上真央君とは、もう家族じゃない」
 やはり父は僕が嫌いだったのだ。僕は、母と一緒に厄介払いされたのだ。
「真央、カバンに荷物を詰めて私の車のトランクに入れなさい。今夜、家を出るから」
 母は僕の手を引っ張って二階にある僕の部屋に連れて行った。
「今夜家を出るなんて、急に言われても無理だよ。明日は山下たちとディズニーランドに行く約束があるんだから」
「わがままを言わないで。真央は高校生になるんだから、大人の仲間入りよ。真央と私は、今日からこの家に居る権利がなくなったの」
 僕はリュックサックとスポーツバッグにタンスの中の衣類を詰め、母のレクサスのトランクに入れた。
「デスクトップパソコンもコードを外して車に乗せるの? オモチャやコミックを入れる段ボール箱はないかな?」
「身の回りのものだけを持っていくのよ。パソコンはまた新しいのを買ってあげる。高校に行ったらオモチャやコミックどころではなくなるから、そんなものは置いて行きなさい」
 今日持ち出せなかったものは、後で取りに来ることもできるだろうと考えて、毎日使うものだけをバッグに入れた。
 最後に玄関を出るとき、生まれ育ったこの家が自分の家で無くなると思うと、寂しさで一杯になった。本当にこれで良いのだろうか? イヤだ!
 でも大人が決めたことだから僕にはどうすることもできない。
 啓子が玄関に来て母と長い間抱き合っていた。父は無表情に廊下に立っていた。玄関のドアが締まったらすぐ鍵をかけようと待っているかのように……。
 僕は啓子だけに「また会う時まで」と言って母と一緒に玄関を出た。
 レクサスはのっそりと車庫から出て走り出した。母と僕は黙ってそれぞれの思いに耽っている。しばらくして車が高速道路の入り口を通過するのに気づいた。
「どこまで行くの? 新しい家はどこなの?」
「しばらく走ってから、ホテルに泊まるのよ。車の中で寝てもいいけど、お風呂で汗を流したいから」
「あまり遠いところだと、高校に通うのに時間がかかるよね。家はどの駅の近くなの?」
「ごめんね、真央。せっかく合格した高校に行けなくなって」
「そんな! 同じ高校に行く友達と、色々計画しているのに」
「お母さんが海外を飛び回っている間、真央を一人で家に残すことはできないでしょう? だから全寮制の学校を探したのよ。やっと見つかって入学手続きが終わったから、鈴木の家を出る日を決めることができたの」
「僕が行く高校を勝手に決めるなんてひどいよ。まともな私立の入試はずっと前に終わっているから、ロクな高校に入れないはずだ」
「全寮制の高校は限られているんだから仕方ないでしょう」
「高校を出るまでお父さんの家に下宿するという選択肢もあったんじゃないの?」
 母はしばらく僕の質問を無視して運転を続けていたが、東北道に入ってすぐ、大きなため息をついて僕に言った。
「そうよね、真央に隠しておくわけにはいかないわよね。可哀そうだけど、本当のことを話すわ。真央は鈴木さんの子じゃないの」
「水上真央になったからお父さんの家族じゃなくなったってこと?」
「鈴木さんからプロポーズされた時に、真央は既に私のお腹の中にいたの。彼は陽炎のようにはかないピアノ弾きだった。私は彼を捨てて大手商社マンの鈴木さんを選んでしまったの」
「お父さんは、それほどお母さんのことを愛していたんだね。僕は本当の子供ではないから、お父さんから啓子みたいに好きになってもらえなかったのか」
「それは違うわ。真央が別の男性の子だということは、ずっと隠していたのよ。私はAOのA型で、鈴木さんはBOのB型だから、どの血液型の子供ができても鈴木さんには分からないと思っていたのよ。でも去年、鈴木さんがDNA検査関係のベンチャー企業を買収する仕事を担当した時に、真央と啓子の髪の毛を持って行っちゃった。私の浮気を疑っていたんじゃなくて、ベンチャー企業の検査能力を確かめたいと思って家族四人の毛髪を持って行っただけだったんだけど、そのおかげで真央が自分の子では無いことが分かっちゃった」
「だから喧嘩するようになったのか……」
「鈴木さんが真央を啓子ほど可愛がらなかったのは、単に真央がなつかなかったからよ。真央は赤ちゃんの時から男の人にはなつかなかった。パパに抱かれるとギャーギャー泣いて、ママママとわめき続けた。啓子はママよりパパになつく赤ん坊だった。それだけのことよ」
「そうだったんだ……」
「分かったでしょう? 鈴木さんは私と真央をセットで厄介払いしたのよ。もう二度と顔を合わせることはないと思うわ」
「僕の本当のお父さんは今どこにいるの? これからその人の家に行こうとしてるの?」
「その人は生きてるかどうかも不明なの。才能はあるけど根性と運が無い人だった。定収入はなくてフラフラしていた。私が鈴木のプロポーズを受けたことを知って、私の前から姿を消した。風の便りで、麻薬に手を出したとかヤクザに追われているとか聞いたことがあるけど、その後どうなったのかは分からない。彼は私が妊娠していたことは知らなかったから、悪いけど、他人と思った方がいいわ」
「どんな人だったの?」
「性格も外観も真央にそっくりの人だった。真央の身体にはあの人のDNAがそっくりそのまま入ってる。だから真央が大人になったらどんな男性になるのか、私には見えるのよ」
「音楽の才能があったんだよね? 音楽以外の勉強は? イケメンだった? 背はどのくらい? 女にもてるタイプだった?」
「教えない。だって、分かってしまったら楽しみがなくなるでしょう?」
「そんなことを言わずに、ちょっとだけでも教えてよ。歌手か俳優とかで似ている人は居ないの?」
「じゃあ、一番大事な部分だけを教えてあげる。ピアノはあまり上手じゃなかったけど、魂を揺さぶる音色だった。彼はとても美しい人で、私は彼の横顔を見ている時が幸せだったわ」
「その人と結婚していたら良かったのにね」
「鈴木さんと結婚したことは後悔していない。別に、経済面だけを理由に彼を選んだわけじゃないのよ。鈴木さんはリーダーシップのある立派な人で、いつも家族を守ってくれた。結婚相手としてはどう見ても鈴木さんの方が数段上だったわ。それに鈴木さんと結婚しなければ啓子は生まれなかったもの。もし結婚前に真央が別の男性の子だと打ち明けていても、鈴木さんは結婚してくれたと思う。私みたいに家を空けまくる妻に我慢できる男性はいないものよ。よく十五年も持ったわ」
 きっと母は離婚が僕のせいではないと言い聞かせようとしているのだ。
「お母さんを責めないの? 真央を自分の子だと思わせるように鈴木さんをだまして、結局は放り出されたのよ」
「世界一大好きなお母さんが良いと思ってしたことだもの。僕が責めたりするわけないよ」
 母が泣きじゃくり始めたので、交通事故を起こさないか心配になった。
「ホテルに着くまで、会話はストップだよ。運転に集中して!」
「真央はしっかりしていて嬉しいわ。あのピアノ弾きの子だとは思えない」
 母は僕の本当の父のことを高く評価していないようだ。ピアノ弾きなのに上手ではなく、美しく、結婚相手としては父より数段下、麻薬に手を出しヤクザに追われたとか……。母の情報を総合すると「美しい」以外には喜べる点が見当たらない。そんな男性に生き写しだと言われると、自分の将来に不安を覚える。
 母が運転するレクサスは宇都宮インターを出てしばらく国道を走り、側道に下ると、派手なホテルへと入って行った。これは大人がエッチなことをするための場所だ! 
「お母さん、これ、ラブホテルじゃないの?」
「真央と私は世界一愛し合ってるんだから、ラブホテルに行って何が悪いの?」
 母とこんなところに入るのを見られるのは恥ずかしい。母はまだ三十六才のすらりとした美人だ。友達から「お姉さんと思った」と言われて誇らしい気持ちになったことは二度や三度ではないが、それだけに二人でラブホテルに入るのは躊躇してしまう。友達に見られても言い訳できるが、知らない人は僕たちを見てどんな関係だと思うだろうか? 
 チェックインをして二人で部屋に入った。シャンデリアの下に、見たことがないほど大きいベッドがあるきらびやかな部屋だった。
 母はドアを閉めると僕に向かい合って立ち、僕の肩の上に両手を置いた。
「まるであの時に戻ったみたい」
 母は元彼と僕を重ねている……。突然抱きしめられて、僕はなすすべを知らなかった。僕は目を閉じ、抱かれるままに立っていた。母の息が耳にかかり、腰から足にかけてジーンとしてくる。頚動脈がドク、ドクと音を立てている。改めて僕は母が世界一大好きだと実感する。でも、こんなことをして良いのだろうか……。
 母は僕を抱いていた腕を緩めて、右手で頭の髪を撫でてくれた。顔中に鳥肌が立つ。
「お母さん、大好き」
 僕は唇を丸くして目を閉じた。
「ぷっ」
 母が吹きだし、僕の顔に唾がかかった。
「私も真央が大好きだけど、キスはしないわよ。真央、もしかして、変なことを考えていたんじゃないわよね?」
「な、なんだよ。口笛を吹こうとしていただけさ。僕、先にお風呂に入るから」
 服をベッドの上に脱ぎ捨てて、パンツだけの格好で風呂のドアを開けた。
「一緒に入ってあげようか?」
 母の言葉を聞いて顔が真っ赤になった。僕は母の質問を無視して、母に顔を見せないようにして浴室に入り、ドアをロックした。
 僕がシャワーを終えると入れ違いに母が浴室に入り、僕は備え付けの白いガウンを着て大きなベッドの左端に寝た。しばらくすると母が胸にタオルを巻いた姿で出てきた。僕は母と反対の方向に横向きになって、母を見ないようにしていた。母がドライヤーを使った後でベッドに来てシーツにもぐりこんだ時、僕の胸は心臓が飛び出すのではないかと思うぐらいドキドキしていた。
「こんなに広いベッドなんだから、もっと真ん中に来なさい」
 母は僕の肩に手をかけて母の方を向かせた。
「私と真央の愛は一生変わらないわ」
 母は僕の唇にそっとキスをしてから、僕を抱きしめた。もうどうなっても良いと思った。母となら地獄に落ちても構わない……。僕のアソコは多分生まれてから一番大きく硬くなって、母の下腹部に圧迫されている。
 次に起きることを待ちながら僕は母の手足の冷たさに震えた。何があっても一生この人を守っていくぞ、と思った。
 でも、何も起きなかった。母と抱き合った僕は幸せの絶頂の中で眠りに落ちたのだった。


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