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僕はネコである(会社の中の境界線R18続編) 新作発表

会社の中の境界線R18続編:僕はネコである

会社の中の境界線R18続編「僕はネコである」が出版されました。

「僕はネコである」は「会社の中の境界線」を読み終えた方のための続編です。本編を読んでいないと面白さが半分になりますので必ず先に本編をお読みください。「読んだけど忘れちゃった」という方は再読後に読まれるようお勧めします。

性転のへきれきシリーズ・会社の中の境界線を読まれた方は主人公の青葉麻有が既に性転換手術を受けて女性になっているということをご記憶かと思います。「僕はネコである」の中で主人公は子供の時からのクセで自分を僕と呼んでいますが、主人公は根っからの女性になっているので、「僕はネコである」はTS小説とは言えないと思います。なお、登場人物は名前のない脇役以外は全員が女性です。従いましてAmazonのアダルト分類の中では「サブカルチャー」に細目分類されるはずです。(LGBT的にはMTF-Lesbianに分類されると思います。)

思想的にも性転のへきれきシリーズとは趣の異なる、M度が高い小説です。(危険な誘惑のR18版と趣を共有する小説です。)読者をM的な性行に導く可能性があると思い、アダルト分類で出版しました。18歳未満の方は18才の誕生日以降にお読みください。

さて、本編のおさらいを兼ねた内容紹介ですが、前の恋人に監禁されていた主人公の青葉麻有(マユ)は香月たちの手によって解放され自由の身となり、会社勤めを再開しました。マユには新社長のアシスタントへの異動命令が出ますが、密かにマユを好きだったチームリーダーの香月はマユを新社長に奪われると心配し、社内異動の歓送会の席でマユにプロポーズします。

「マユ、私と結婚しなさい。今日限り会社を辞めて私だけの子猫ちゃんになりなさい。」

香月のプロポーズを受諾して退職し、香月のアパートに住み着いたマユは、今後香月だけの子ネコとして暮らすよう命令されて厳しい規則を突き付けられます。それは、前の恋人のペットだった時よりも更に過酷なものでした。

毎日二十四時間、この規則に一生の間従う。
言語はネコ語のみ。人間の言葉は厳禁。
着衣禁止。
二本足歩行禁止。
手を歩行以外に使用することの原則的禁止。
トイレは砂場で
餌はキャットフードを皿から直接口で食べる
飲み物も皿から直接口で飲む
スマホ等はすべて廃棄

マユは香月に言われるまま「香月だけの子ネコちゃん」として暮らすことになったのでした。

香月のプロポーズを受諾して命令に従う事が、自分の人生にとってどれほど重大な事なのかをマユが本当に理解しているのかどうか、ちょっと心配です。マユはこのまま人間の言葉を捨てて四つ足での一生を送ることになるのでしょうか。


このページはGoogleより「アダルトコンテンツへのリンク(多分AmazonでR18分類された作品のページを指すと思われます)を含むと判断されたようですので、Amazonのリンクを外しました。ご興味のある方はAmazonで作品名により検索してください。


 


【性転のへきれき 新作】会社の中の境界線

会社の中の境界線性転のへきれき 新作「会社の中の境界線」が出版されました。

表紙画像を見て「ラノベだな」という印象を受ける方が多いと思いますが13万文字弱(400字詰め320枚ほど)の長編です。

軽いタッチで始まりますが、そのうちに主人公の青葉麻有と同期入社の柳大悟郎の2人はズルズルと深みに引き込まれて、段々ある種の「恋の奴隷」的な状態に陥って行きます。

最初の1、2章は表紙画像的のように軽い雰囲気ですが、章が進むにつれてM度が高くなります。シリーズの中でも「危険な誘惑」に次いでM度の高い小説になっていますので、Mな内容に不快感を感じられない方にのみお勧めします。


 


会社の中の境界線

トランスボーダー

第1章 入社

夏休みに帰省した時にまだ就職が決まってなかった僕は肩身の狭い思いをした。

高校時代の仲間とお盆の飲み会で集まったのだが、内定が出ていないのは僕と佐知子の2人だけだった。佐知子は内定が取れなかったら父親の会社の事務を手伝うと言っていた。僕は友人たちの前では平静を装っていたが、僕のお尻に火が着いていることは誰の目にも明らかだったと思う。

実家の家族は僕が何十社も訪問して全部落とされたことを知っており、家では僕に気遣って就職関係の話題は出なかった。夕食時のテレビで景気回復の結果就職内定率が昨年より2割上昇したというニュースが報じられた時、妹が黙ってチャンネルを変えた。僕は余計に落ち込んだ。皆が僕の為にこんなに気を使っているなんて・・・。

一番ショックだったのは、僕が東京に帰る日に玄関で靴を履いていた時に母に言われた言葉だった。

「麻有、ごめんね。もっと背が高くて男前で押しが強くて頭の良い子に産んでいたら就職で苦労をすることもなかったのに。」

母に悪気はなく慰めてくれていることは分っているが、揺らぎかけていた僕のプライドが崩れそうになった。一番の味方と思っていた母が僕をそんな風に思っていたのかと落胆した。

僕は自分の容姿が人より劣ると思ってはいないし、頭が悪いとも思わない。背が低いのは父のDNAだから仕方がないが163センチという身長は極端に低いということもない。女の子には結構人気がある。自分では美少年系と思っているのに「男前で無い」などと意味不明な尺度で決めつけられると腹が立つ。一流大学に入れなかったのは高校生活を楽しみ、いわゆる受験術に興味が無く、そこそこの勉強で楽に入れる大学を選んだだけであって、頭の良しあしとは無関係だと思っている。それに、押しが強いと言われるタイプの人間になりたいとは思わない。

9月になって僕は就職活動を再開した。大半の企業は事実上採用活動を終えているので、僕としては「残り福ねらい」だ。客観的に考えると企業側から見ても優秀な学生はソールド・アウトなので企業側も「残り福ねらい」ということになる。お互いに残り福としてマッチングすればハッピーだ、と思うと気持ちが軽くなる。

卒業まで半年もある、と長期戦を覚悟で臨んだ就職活動だったが、9月に入って3社目の企業訪問で僕はあっさりと内定をもらった。

それは「トランスボーダー・インク」という従業員数十人のIT会社だった。3年以内の上場を目指しているという説明も気に入った。社長は50代の温厚な男性で、それまでの企業訪問で鼻についた「上から目線」が全く感じられなかった。「この会社はまさに残り福だ。僕もこの会社にとって残り福だったと思われるように頑張るぞ。」と思った。

アパートに帰って真っ先に母に電話した。先日失礼なことを言われて少し引っかかりが残ってはいたが、父に電話するのも気恥ずかしい。やはりこんな場合には母と話したくなる。

「母さん、取れたよ、内定が。トランスボーダーと言う会社だ。」
母の喜ぶ顔を頭に浮かべながら自慢した。

母は浮かない感じの声で「ホテルでお客さんの荷物運びをするんだね。お前のような華奢な身体で務まるのかね。」と言った。

「母さん、それはポーターだろう。内定したのはトランスボーダーだよ。」

「どちらにしても運送関係の仕事なんだろう?大丈夫なの?」

「あのねえ、母さん。それはトランスポートだろう。僕が就職する会社はホに点々で、ポじゃなくてボ。トランスボーダーという社名だ。」

「トランスボーダーってどういう意味なの?」

「ボーダーとは国境とか境界線を意味する言葉だ。トランスボーダーとは境界線を越える・跨ぐという意味の新しい言葉だよ。」それは会社訪問の際の聞きかじりだった。

「麻有はその境界線を跨ぐ会社でどんな仕事をさせてもらえるの?」

「それは就職してみないと分からないよ。とにかくトランスボーダーという会社はIT企業なんだ。IT企業って分かるだろう。グーグルとかヤフーとか楽天とか、その手の最先端分野の会社だよ。」少しホラ吹き気味になったが母にはこの程度言って丁度良いのではないかと思った。

「ブラック企業じゃなければ良いんだけど。」

「母さん、就職が内定したんだよ。祝ってくれるの、ケチをつけてるの?」

「勿論祝ってるのよ。おめでとう、麻有。」

「父さんたちにもちゃんと伝えといてよね。」

いやはや、悪意は無いのだろうが、親とは面倒くさい存在だ。母は心配性なのか、物事を悪い方へ悪い方へと考える傾向がある。僕は細かいことは気にせず、どんな場合でも、きっとうまく行くだろうと気軽に構えられる方だ。僕は多分父方のDNAをより濃く受け継いでいるのだろう。

* * *

4月4日の月曜日、僕は就活を始めた際に買った黒のスーツと白の無地のカッターシャツに紺色のネクタイでビジネスマン風にバッチリと決めて入社式に臨んだ。4月1日は創立記念日のため休みだった。毎年度の初日が休日という、余裕のある会社だ。入社式と言っても、今年の新入社員5人が会議室に集まって社長から訓示を受けただけだった。その部屋のドアには第1会議室という表示があったが中に入ると6畳ほどの小部屋で、椅子も机も無く、中央にスタンドバーのような丸テーブルが立っているだけだった。

驚いたことに社長は赤いポロシャツにヨレヨレのズボンにビーチサンダルというちぐはぐな姿で現れた。新入社員側も正装しているのは僕だけで、もう1人の小柄な男性は社長に負けない程ヨレヨレで膝に穴の開いたジーンズを履いていた。残りの3人は女性で2人がジーンズ・パンツ、もう1人はパンティーが見えそうな短いキュロット・パンツをはいている。女性全員は圧倒されそうなほど背が高く、しかもやたらと高いハイヒールを履いていた。

「今日からトランスボーダーの社員になった諸君、ようこそ!」
結構固いイントロだったが、社長が50代とは思えない軽いノリで話したので僕は実際に歓迎されていると感じた。

「トランスボーダーという社名はご存知の通り境界を跨ぐ、超えるという意味だ。私たちを取り巻く社会を見てみると、至る所に境界があり、そして様々な制約や制限がある。まず国境。日本と韓国のように海という物理的な境界で隔てられている場合もあるが地続きの国境も多い。国境のこちら側とあちら側では言葉も生活習慣も異なる。

物理的な境界線を伴わないボーダーも多い。例えば男性と女性、若者と老人、大卒と高卒、管理職と非管理職、総合職と一般職、職場と家庭、成人と未成年。私たちは毎日ボーダーにぶつかるたびに、自分は右側か左側かを考えて自分の側に相応しい行動をすることになる。

境界の存在は私たちの思考や行動に制限を加え、自由な発想や創造的な行動を困難にすることが多い。私は境界の無い社会、境界による壁が低い社会、境界を跨いで交流しやすい社会を作れないものだろうかと考えた。そこで先祖伝来の田畑を売り払い私財を投げうって、トランスボーダーという会社を作った。いいか?ボーダーレスではない、トランスボーダーだ。境界は必ずしも悪ではなく、社会の秩序を守るというメリットがある。

例えば男性と女性という境界を完全に撤廃するとトイレも共通、結婚も恋愛も男性同士や女性同士も当たり前という、少なくとも私にとって居心地の悪い状況になる。誤解しないように言っておくが、私はLGBTなどのセクシュアル・マイノリティ―を差別するわけでは無くむしろ暖かく保護する立場だ。しかしそれは例えば男性しか愛せない男性でも気兼ねなく働ける会社を作るということであり、性的にノーマルな社員にホモを推奨するということではない。

私が作りたかったのは、男性だからこうすべきだとか、女性だからこうしろとか、旧来の常識にとらわれずに男女が自由に自己表現できる会社だ。私は社員の採用に関しては女性はリーダーシップがあって体格が良い人、男性は小柄で見栄えが良く従順なタイプを優先してきた。男性はどうあるべきか、女性はどうあるべきかという固定観念を打破した採用をすることによって、男女の垣根が低く、自由な発想が出来る職場ができたと自負している。

性別だけではなく、年令や職級についても同様の考え方だ。当社では管理職、非管理職、総合職、一般職などの区別は無く、社長、管理部長、営業部長以外は全員が標準職だ。ちなみにソフトウェアの製造・開発・企画は社長である私の直轄となっている。標準職社員はプロジェクトに応じてチームを組み、その中でリーダーが自然に決定される。人事考課及び給与は、各社員の実績、チームでの仕事ぶりなどにより、社長と各社員が1対1で考課面談を実施して決定する。従って、一般企業でありがちな上司の顔を見て仕事をするような風潮はあり得ない。私の評価だけは気にしてもらわなきゃならないがね、アッハッハ。」

僕は社長の話が予想以上に進歩的なことに感銘を受けた。テレビドラマやネット上の記事でよく見かけるのは、若い社員が配属された部署の直属の上司とか、無能で偏見だらけの課長や部長にいじめられ、虐げられるという話だ。トランスボーダー社の場合はこの温厚で包容力がありそうな社長が全てを握っているわけだから、万一虐めや非道な扱いを受ければ社長に直訴すれば解決してもらえそうだ。母がブラック企業ではないかと心配していたが、ここはホワイトどころか透明な会社だ。僕としては社長に嫌われないことだけに気を付けていればよい。元々人懐こくて要領が良いと言われてきた僕にはピタリの会社だ。

「何か質問はあるかね?」

「フラットな組織ということは、出世も無いわけですか?管理部長か営業部長になれない限りは一生新入社員と横並びなのですか?女性がリーダーシップを発揮できる会社と言われて入社したのですが。」
颯爽としたジーンズパンツの女性が質問した。随分強気な発言をする人だなと思った。

「管理部長は管理のプロ、営業部長は業界で百戦錬磨の営業のプロだ。君たちが管理部長や営業部長になる可能性は少なくとも20~30年は無いと思ってくれ。いずれ分かると思うが、当社にはリーダーやスターが沢山いる。能力、人格、業績などの要素によって、社員からリーダーやスターと認識される人物が自然に出てくるんだ。そんなリーダーやスターはプロジェクトに応じて自然にチームを率いるポジションになる。当社の給与水準は業界平均並みだが、リーダー、スターは20代でも平均の数倍になる場合も多い。だから君のようなリーダー志向の強い女性にとっては非常に働き甲斐のある職場だと思うよ。」

「あのう、リーダーやスターになれない場合は10年選手でも新入社員と同じ扱いになるんでしょうか?」
風采のさえない男性が自信なさそうな表情で質問した。名札を見ると柳大悟郎という見かけにそぐわない名前が書かれていたが、僕は笑いをこらえた。

「私は人事考課において経験、技能など、蓄積による部分の評価も重視している。10年選手は経験に応じた技能を持っているから新入社員と横並びということにはならない。勿論、向上心が無く勉強もしなければ、給与も上がらず、自然に篩い落とされていくだろう。それはどこの会社でも同じじゃないかな。」

何も質問をしないと消極的だと見られないかと考え、僕は「ハイ」と手を挙げて質問した。

「配属部署はいつ教えて頂けるんでしょうか?どんな仕事をさせて頂けるのか早く知りたいのですが。」

早く仕事をしたがっている前向きな新入社員と思ってもらえると期待したが、社長の反応は冷淡だった。

「配属は無い。つまり、管理部・営業部ではなく、私の直属の部下のクリエイターということになる。どんな仕事をさせてもらえるか、という受け身の考えは捨ててくれ。青葉君、君は自分で仕事を作るのだよ。」

僕は社長に受け身と言われて気まずい思いをしたが、いきなり自分で仕事を作れと言われても困る。だが、これ以上下手に質問をしていきなり社長の印象を悪くすると致命的だと思って口をつぐんだ。

「自分で仕事を作れと言われて、それ以上質問は出ないのかね。」
社長が僕の目を見て言った。しまった、テストされていたんだ。何と答えたらいいのだろう・・・。

「プロジェクトは与えられるのではなく、私たちが創造するわけですね。それではチームも割り当てられるのではなく、自由に組めると考えてよろしいですか?」
僕にとって助け舟のような質問をしたのは先ほどの颯爽とした女性だった。

「その通りだ。他のチームに所属していない人員がここに5名いる。新しいプロジェクト、それに必要な新しいチームを作る好機が君の目の前にある。」

「ありがとうございます。」
この女性は何に対してお礼を言ったのだろうか?僕には意味が分からないが彼女は顔を輝かせていた。

「入社式はこれで終わりだ。自由に仕事に取り掛かってくれ。困ったことがあったらいつでも相談に来なさい。」
社長は僕たち5人を会議室に残して出て行った。

「仕事に取り掛かれと言われても困るよね。」
柳大悟郎が独り言のように言った。

「この会社って何をしている会社なんだろう。さっき社長がソフトウェアの製造・開発・企画とか言ってたよね。」
と僕は思っていることを口に出した。

「君、青葉麻有という名前なのね。」
さきほど社長に「ありがとうございます」と言った威勢の良い女性が僕に言った。名札を見ると香月翔と書かれていた。

「マユじゃなくてマユウと読むんだ。男だから。」

「マユちゃんでもマユウくんでもどちらでもいいけど、君はトランスボーダーがどんなソフトウェアのメーカーか知らずに入社したの?」

「すみません。ソフトウェアってよく分からなくて。」
香月は「ふうっ」とため息をついたが、バカにしている様子ではなく優しい口調で説明してくれた。

「現在のトランスボーダーの売り上げの70%は社名と同じ名前のゲームソフトよ。トランスボーダーという少女漫画のヒット作品をゲーム化したもので、プレイヤーがゲームの構成を変えられる自由度が高いのが特徴なの。トランスボーダーは女性戦士が主人公で、美少年を捕まえて女性化することによってパワーアップするのよ。私たちの世代の女子なら誰でも知ってるゲームだけど、君は知らなかったのね。」

「知らなかった。女性戦士が主人公のゲームなんて僕たち男子には縁が無かったもの。でも、美少年を捕まえて女性化するとは変態ゲームみたいだね。」

3人の女性が声を揃えて笑った。

「よりによってキミがそれを知らずにトランスボーダーに入社するというのが笑いのポイントなんだけどな。」
名札に三枝琴子と書かれたミニのキュロットの女性が僕をからかうように言った。

「社長は元々ゲームソフトのプログラマーだったけど、トランスボーダーをゲーム化する権利を取って独立して、ひと山あてたわけよ。さっきの社長の演説は随分理屈っぽかったけど、女性戦士が活躍して美少年に性別の境界を越えさせるというのがトランスボーダーの本質よ。それ以外の理屈は後付けでわざとらしい気がしたわ。」

「じゃあ、僕たちはゲームを作れば良いんだね。」

「勿論そうよ。当社の強みはジェンダーが交差するゲームだけど、少女漫画の読者層という境界から離脱できていない。その境界を乗り越えることをチームのコンセプトとして、新らしいゲームソフトを企画しようよ。」と香月翔が答えた。

「アダルト・ゲームにしてしまうとトランスボーダーの良さが消えてドロドロしたつまらないものになる可能性があると思う。」と三枝琴子。

「私もそう思う。メイン・ターゲットは20~30代の女性でいいんじゃないかな。」と言った女性の名札には近藤秋絵と書かれていた。

「そうね、ターゲットとして男性層を意識したゲームにすると、トランスボーダーを読んで育った既存顧客基盤から離れることになって不利だわ。」と三枝。

「でも、メイン・ターゲットの20~30代の女性の趣味趣向に賛同し追随する男性、例えば彼氏、夫などを引き込めれば市場規模が大きくなるわよ。」と香月が言った。

「賛成、その方が面白いわね。それで行こう。」

3人の女性はやる気満々と言った感じだ。

「僕もそんなことができればいいんだけど、ソフトウェアの作り方も知らないし・・・。僕ひとりで他に仕事が作れるはずも無いし、どうしよう・・・。」
能力の無い人間はこんな形で篩い落とされて失業者~フリーター~ホームレスという道をたどる運命なのだろうか。

「コードは書けるの?」と三枝が僕に聞いた。

「コードって何?」

「プログラム言語は何が得意なの?」

「???」

「C言語は出来るわよね?」

「ごめんなさい、僕、言語は日本語以外は英語が少しわかるだけで・・・。」

「まいったなあ、どうしてこの会社に応募したのよ?よく採用されたわね。」三枝は僕を見放したようだった。

「・・・」

「大丈夫よ。コードを書けなくても色々仕事はあるわよ。」
香月が天使に見えた。

「僕も入れてくれるの?」
僕は3人の女性の顔をひとりひとり見て「イエス」の答えが返って来ることを祈った。

「まあ、トランスボーダーのゲームの中から抜け出したような子がアシスタントとして加わっても邪魔にはならないわよね。会社が青葉君を採ったのはそういう考え方なんじゃない。」
近藤秋絵が言って香月と三枝が「ウフフ、そりゃそうね。それに、異なる感性を持った人をチームに入れるのは良いことよね。」と賛成した。僕はひとり除け者にされる恐れが無くなって思わず「やったあ!」とガッツポーズをした。チームの中での位置づけはアシスタントでも、技能が無いのだから仕方がない。

「柳君はどうするの?」
僕は柳大悟郎ひとりが仲間はずれにされないかと他人事ながら心配した。

「僕は3Dレンダリングでお役に立てると思うよ。」
と柳がボソッと言った。

「ええっ!やっぱりあなたがあの伝説の柳大悟郎さんなの?」と三枝が素っ頓狂な声を上げた。近藤と香月が「ウソでしょう!」と息を飲んだ。

「この方、3Dゲームでは世界的に有名な方なのよ。」
香月が僕に教えてくれた。

「じゃあ、これで決まりね。良いチームが出来そうだわ。」
香月が目を輝かせて言った。

「リーダーは言い出しっぺの香月さんね。よろしくっ!」
近藤が言って全員が賛同した。


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支配する女:女性上司の妻になった男・性転のへきれき

 支配する女(女性上司の妻になった男)が出版されました。

本郷咲良(サクラ)は23才の美少年系で国際営業部営業第2課の社員です。

直属の上司は小芝玲央という元ミス東京で1位を逃した35歳の長身美女で、超一流大学卒、TOEICも920点です。最年少課長になるのも近いと噂されているエリートです。

部下は新入社員の藤丘慶子。帰国子女でちょっと生意気。大学は小芝玲央の後輩で英語はペラペラ、小芝と同身長の美女で、話していても賢いのがミエミエ。本郷咲良は、数年もすれば慶子の方が自分の上司になって自分は慶子に敬語でしゃべる羽目になるのではないかと内心気が気ではありません。

これは性転のへきれきシリーズの長編小説ですので、本郷咲良が慶子にこき使われる立場になりそうなことは読者にとっては一目瞭然。シリーズの他の作品にもありましたが、OLにされそうな予感が・・・。

でも、そんな単純な話では終わらないのがこの作品です。最後までやきもきさせられる長編エンターテインメント・サスペンスです。


 


女性上司の妻になった男

第1章 美しすぎる上司

うちの会社には七不思議と言われていることがある。

その一つは公式の七不思議で社長が今年の抱負として年始に披露したものだ。20年前の創立以来、うちの会社が赤字になったことは3回だけだが、赤字の翌年は必ず記録的な黒字を達成したそうだ。「これは当社の七不思議であり、業界では都市伝説とも言われている。」と社長は胸を張って全社員を鼓舞した。社員の20人に19人は「なあんだ、つまんない。」と思ったはずだが、表情には出さずに黙って聞いていた。

七不思議の中でも非公式な不思議には結構興味深いものがある。その代表が僕が所属する部の小芝怜央に関する不思議だった。小芝は超一流大学卒で学生時代にミス東京の1位を惜しくも逃したことがあるスーパー美女だ。バドミントンでインターハイに出たというから、まさに文武両道だ。35才になっても独身で浮いた噂は全く無いし、過去に社内外に彼氏がいた形跡も無いらしい。173センチの長身でもあり、男性が気後れして声がかかりにくいという不利があるのかも知れないが、性格は明るくサッパリとしていて非の打ち所がない。しかも営業成績は群を抜いており、TOEICも920点で、近々最年少で課長かニューヨークの部長になるのではないかと噂されている。

小芝怜央にはレズビアン説も流れていた。性格の良い美人に男っ気が無い原因としてレズビアン説には説得力があるが、小芝が女性と付き合っているとか、うちの会社の女子社員が小芝に誘われたという形跡は全くない。運輸管理部の吉澤美津子という30代前半の女性が「忘年会の後で小芝さんとカラオケに行った時に肩に手を回されてドキッとしたことがあったわ。小芝さんってレズっ気があるんじゃないかしら。」と言っているのがレズビアン説の発信源らしい。しかし吉澤美津子は派生BLコミックのファンで長身美女に憧れている亜流腐女子という噂がある。吉澤の顔と名前が結びつく人は「あれは吉澤さんが夢を語っているだけだ。小芝さんがレズなら他の女性を誘うだろう。」と言っている。レズビアン説がガセであることはうちの部の人なら誰でも分かっていた。

僕はそんな清廉潔白な小芝が課長代理をしている海外営業第2課の入社2年目の総合職社員だ。小芝のアシスタントのような立場であり、去年までは社内で勉強をしながらもっぱら電話番をしていたが、2年目になって小芝の客先訪問にも連れて行ってもらえるようになった。「本郷君、良かったわね。頑張って行って来てね。」僕が初めて小芝に連れられて客先訪問することになった時、小芝と同期入社で海外営業第2課の一般職をしている柳原浅子に励まされた。柳原はうちの課でお姉さんというよりはお母さんのような存在で、僕は入社した時からずっと柳原に可愛がられている。

営業第2課の総合職は50才の温厚な能上課長、小芝課長代理、28才の毒島五郎、2年目で23才の僕と、入社したばかりの藤丘慶子の5名だ。藤丘慶子は1浪で10月生まれだから実年齢は僕より5ヶ月上だ。小芝と同じ超一流大学卒で小芝並みの長身だ。中学から高校にかけて親の転勤の関係でニューヨークに住んでいたらしく英語力は小芝に負けないほどらしい。慶子は一年上の僕に対して少なくとも表面的には敬意を払って敬語で話してくれるが、小芝が僕と慶子を連れて客先を訪問する時とか、エレベーターに3人で乗ったり、立ち話をする時には、10センチも身長が高い小芝と慶子が僕の頭越しに話をするので僕は居たたまれない気持ちになることが多い。

ある日、小芝と僕の2人で午後4時に渋谷の客先を訪問し、5時半ごろに客先のオフィスを出た。小芝が「今日は帰社せずに、直帰しようか。」と僕に言ってから課長にその旨電話した。

「本郷君、これから空いてる?たまには晩メシでもご馳走するわ。」

「はいっ、ありがとうございます。」
上司と言っても小芝はミス東京クラスの抜群の美人だ。そんな女性と一対一で食事できるなんて夢ではないかと思った。

小芝が連れて行ってくれたのはイタリアン風のワインレストランだった。

赤のハウスワインのデカンタと「今日のお勧めアンティパスト」がテーブルに届いて、とりあえず乾杯した。仕事を離れて向かい合う小芝には普段とは違う魅力が感じられて、何も言葉を交わさなくても胸がドキドキした。

「本郷君、今日は折り入ってキミに相談があるの。個人的なことなんだけど聞いてくれる?」
突然そんなことを言われて天にも昇る気持ちだった。

「何でしょう。小芝さんから個人的な相談を受けるなんて光栄です。ご遠慮なくおっしゃってください。」

「ありがとう。じゃあ、言い難いけど言うわね。実は、明日、富山から両親が上京するの。本郷君に私のフィアンセとして両親に会って欲しいの。」
僕は驚きの余り椅子からずれ落ちそうになった。頭に血が上って、こめかみにドクドクと脈が打つのが感じられた。

「も、もしかして、それはプロポーズなんでしょうか。」
僕は胸の高鳴りを押さえながら小芝の目を見て聞いた。小芝は僕の真剣な表情に気づき、大きな目で僕を見た。徐々に小芝の表情が緩んできて微笑を湛えた表情になった。次の瞬間、小芝は「プッ」と吹き出した。

「ごめん。説明不足だったわね。実は、私の両親は私が35才になっても彼氏の気配もないことを心配して時々見合い写真を送って来るんだけど、私が全く興味を示さないから、私はレズじゃないかと心配しているのよ。しょっちゅう電話がかかって来てうるさくて仕方ないの。だから、本郷君が去年入社してから付き合い始めて、最近結婚の約束をしたということにして両親に紹介したいのよ。ね、いいでしょう?」

「小芝さんの婚約者の役なら光栄ですけど、本当に僕なんかで良いんですか?もっと年齢が近くて、背の高い人じゃないと、ご両親も本気にしないと思いますけど。」

「私は昔から年下で可愛い系の男子が好きで、両親もそれはよく分かっているのよ。だから両親が送ってくる見合いの話も、その手の男性が多いんだけど、レベルが低すぎてお話しにならないの。レベルが数段違う本郷君を両親に見せれば、私が何故これまでの見合いを断ってきたが一目瞭然だから、当分静かになると思うわ。」

「レベルが数段違うだなんて・・・。」
僕は恥ずかしさと誇らしさで自分の顔が紅潮するのが分かった。

「やってくれるのね。」

元気に「はい。」と答えて大きく頷いた。テレビドラマや小説の世界なら、こんな経緯で婚約者の代役を引き受けた場合には、必ずそれがキッカケで恋が芽生えたり、結婚することになるというのが最もよくあるパターンだ。僕にもチャンスが回って来たぞ、と思った。

小芝はテーブルの上で僕の両手を掴んで「ありがとう、恩に着るわ。」と言った。

会社では駆け出しの僕が、12歳も年上のエリート上司と恋に落ちる、ということには若干の不安要因が残ることが否定できない。普通に考えると僕と小芝ではどう見ても恋人同士として釣り合わない。身長は小芝の方が10センチも大きい。もし僕たちが付き合っていることが会社の人に知られたら逆転カップルと噂されるのは確実で、僕は婦唱夫随願望とか、専業主夫志望とか、倒錯チビなどと言われて後ろ指を指されるのがオチだ。結婚しても僕が小芝にタメ口をきくことは考えられないから、一生敬語で話すことになるだろう。でも僕は耐えられる。背の高い女性は僕の憧れだし、こんな美人と一緒になれれば実家の両親や高校時代の友達に対しても自慢できる。

小芝と一緒の夢のような時間はあっという間に過ぎた。

「両親とはこのレストランで集合する約束なの。一緒に来るところを見せたいから、先に私のアパートに来てくれる?私のアパートで一緒に入念なリハーサルをしておきたいから、午前10時ごろ来てくれるとありがたいわ。土曜日に早起きさせて申し訳ないけど10時で良いかな?」

「勿論です。午前7時でも8時でも大丈夫ですよ。」

「じゃあ10時に来てね。私のアパートの場所はGoogle Mapのリンクを送っておくわね。」

小芝が勘定を済ませてくれた。女性と食事をして全額払ってもらうのは生まれて初めてだった。いくら収入に2倍の開きがあっても、一緒に食事をして小芝に払ってもらって良いのだろうか?でも小芝は自分が払うのが当たり前のように振舞っていた。もしこの話が発展して今度は恋人としてデートをしようということになったら、少なくとも割り勘で払いたいと意思表示をすべきかなと思った。

満たされた気持ちでアパートに帰り、翌日の仮想デートを楽しみにしながら眠りについた。

第2章 偽装のカップル

土曜の朝、早起きしてスーツとカッターシャツにアイロンをかけた。朝シャンをしてからハード気味のジェルをつかって男っぽい髪型を作った。買い置きしていた新しいトランクスと半そでシャツの上にカッターシャツと濃紺のスーツを着て赤系統のネクタイを締めた。鏡の前に立つと、絵にかいたような若手ビジネスマンが出来上がっていた。これなら小芝のご両親に、見合い写真より数段上の違いを見せつけることが出来そうだ。一番底の高い革靴をクリームを付けたスポンジで磨いた。

電車に30分ほど乗って、スマホを頼りに小芝のアパートを探した。それはテレビのCMにも出てくるブランドのマンションだった。入口で小芝の部屋番号を入力すると「はーい」と小芝の声が聞こえた。「本郷です」と言うと玄関の自動ドアが開いた。「流石、格が違うマンションだな。」と感心しながら自動ドアを通ってエレベーターで7階まで行き、小芝の部屋の玄関のボタンを押した。

「おはよう、入って。」
テレビドラマに出てくるようなしゃれたデザインのリビングルームに通された。

「一人暮らしにはちょっと広すぎるんだけどね。」
という小芝の言葉を聞いて、「もうすぐあなたと2人暮らしになるから。」と示唆された気がした。

「せっかく背広にネクタイで決めてきてくれたけど、着るものは私が用意してあるのよ。着替える前にシャワーとシャンプーをしてもらっていいかな?」

「僕、朝シャンをして来ましたけど。」と言うと「髪についたムースを落としてほしいの。」と言われて、「はい、分かりました。」と答えた。小芝の家でシャワーを浴びるというのはドキドキものであり、歓迎すべき状況だと思った。将来付き合い始めたら「一緒にお風呂に入りましょう。」と言われるのだろうか。

風呂にはTSUBAKIのシャンプーとコンディショナーが置いてあった。毎晩小芝が使っているシャンプーを僕が同じ風呂場で使うのだ。ウキウキしながらシャンプーをして、普段は使わないコンディショナーを使った。風呂場の床の排水口に引っかかっていた僕の抜け毛を指で取り、風呂場の外のゴミ箱に入れてから洗面所で指を洗った。小芝が用意してくれていたバスタオルを使って身体を拭いた。「ヘアドライヤーでブローしておいてね。」と声がかかり、僕は言われた通りにした。僕の髪はマッシュだが髪の毛の量が多いので整髪料を付けないと髪が女性のようにふわふわに広がってしまう。

「すみません、整髪料を持ってきてないんですけど。」と叫んだところ「そのままでいいわよ。私が仕上げをしてあげるから。」と言う小芝の声が聞こえた。

僕が風呂の手前の床に畳んでおいたはずの服が見当たらないので探していると、「バスタオルを腰に巻いてリビングに来て。あなたの着る服はこちらにあるから。」と声が掛かった。僕はバスタオルを腰に巻いた。上半身が裸の姿を小芝に見せるのだと思うとドキドキして、おへその下に不自然な盛り上がりが出来てしまった。

「早く来てね。」と言われ、僕は両手で前の膨らみを覆いながら居間に行った。

「今日はちょっと事情があって、本郷君には私が用意した服を着てもらわなきゃならないの。勝手を言って申し訳ないけど私の我がままを聞いてくれる?」

「勿論です。小芝さんが用意された服ならどんな服でも喜んで着させていただきます。」と答えた。

「じゃあ、あれを着て。」
小芝に示されたのはソファーの上のワンピースと下着だった。小芝が後で着替えようとして置いてあるのかと思っていた。

「あれは小芝さんの服ですよ。僕のはどこですか?」

「あれを本郷君が着るの。我がままを聞いてくれて本当にありがとう。」

「ちょっと待ってください。僕に女性のフリをしろと仰るんですか?」

「違うわ。私の婚約者の役だから当然男性として両親に会ってもらう訳よ。でも、どうしてもこの服を着た姿じゃないと駄目なのよ。」

「そんな無茶な。着ると約束した後で恐縮ですけど、理由を説明してください。」

「そりゃそうよね。説明しなきゃ納得できないわよね。」と言って小芝は説明し始めた。

「私がレズじゃないかと両親が疑っているという話をしたわよね。両親は私の行動を探るために私立探偵を雇って調べさせたのよ。私もうかつだったんだけど、私が金曜の夜に若い女性を連れてアパートに帰って、土曜の朝にその女性がアパートから出て来る写真を撮られたのよ。その写真をレズの動かぬ証拠として親から突き付けられたわけなの。」

「女性の友達が一泊した写真だけを証拠にレズと言うなんて、ご両親も乱暴ですよね。」

「そうでもないのよ。土曜の朝、玄関でディープキスをしている写真と、ご丁寧に動画まで撮られてしまったから。」

「ま、まさか。小芝さんはレズだったんですか?」

「一言で決めつけないでよ。私は性別で人を差別しないわ。女でも男でも好きと思った相手が好きなのよ。」

「バイセクシュアルなんだ・・・。」
僕はため息をついた。

「本題に戻りましょう。僕がその服を着なきゃならないという説明をまだうかがっていません。」

「それはキスシーンの時に沙羅が来ていた服よ。元々私が買い与えた服だから、先週沙羅が出て行った時に取り返したの。本郷君に代役を頼む理由は本郷君が沙羅とそっくりだからよ。顔もスタイルも。」

「先ほど僕は男性としてご両親と会うと仰いましたよね。その服を着るという事は女性に化けるという事になりませんか?そこらへんがどういう風につながるのかが呑み込めないんですけど。」

「こんな簡単な理屈が分からないかな?私の親は私がレズで写真の女と肉体関係にあると思って乗り込んでくるのよ。ディープキスの動かぬ証拠まで抑えられてる。レズ疑惑を逃れる方法は一つしかない。確かに写真の人と一夜を過ごしました、でもその人は男性ですと開き直るわけよ。良い考えでしょう!」

自分のアイデアに酔っている感じはあるが、確かにグッドアイデアだ。僕が男性であることを知った両親は出鼻をくじかれて引き下がるしかない。

「レズ疑惑を解くアイデアとしては有効だと思います。でも、普通の親なら、娘の婚約者が女装して現れたらドン引きしますよ。」

「それは私に任せておいて。私の親はそんじょそこらの親とはちょっと違うんだから。まあ楽しみに私の劇作家兼主演女優としての才能を見ていてくれればいいのよ。」

「協力するんですからそのシナリオを僕にも教えてくださいよ。」

「筋を知ってしまうと素人の俳優はどうしても意識して不自然な演技をしてしまうものよ。ぶっつけ本番の方が驚いたりオロオロしたりする表情が自然に出るから観客に対する訴求力が上がるの。プロデューサー兼ディレクターの私だけが筋を知っている状況がベストだわ。」

「僕はこんな恰好をして驚かされたりオロオロさせられたりするんですか・・・?」

「さあ、準備にかかりましょう。まずそのペチャンコの胸を何とかしなくちゃ。」

小芝は肌色の円盤状のゴムのようなものをベトベトした感じの裏側を上にしてソファーの前のガラステーブルの上に置いた。

「シリコンのヌーブラを3枚重ね盛りするのよ。」
小芝は僕の脇の下から乳首にかけ皮膚を無理やり引っ張るような感じで1枚目のシリコンゴムを貼りつけた。

「お乳の真ん中に貼るんじゃないんですか?」

「私が長年かけて完成させた超絶テクニックよ。1枚目は乳首がやっと隠れるぐらい横にずらすのがコツなの。2枚目は厚いのを真ん中に貼る。」
そう言いながら小芝は僕の両胸にベトッとしたシリコンゴムの円盤を貼りつけた。小芝もヌーブラで胸を大きく見せているのだろうか?

「最後の仕上げがこれよ。」
ずっしりとした疑似オッパイのような3枚目のシリコンゴムを全体を覆うように貼りつけ、中央方向に引っ張ってホックで留めた。その上に熱いパッドが内装されたブラジャーをすると、僕の上半身は本物の女性のようになった。

「すごい・・・。」
僕は自分の胸を見下ろして息を飲んだ。胸がドキドキして下半身がムズムズしてきた。

「その場でピョンピョンしてみてごらん。絶対に落ちないから安心よ。」
言われた通りに、トントンとジャンプしたところ、胸が上下に揺れた。引っ張られる感じが生々しくて、本物のオッパイが自分の胸に生えたような錯覚に陥った。

「私もあなたほどじゃないけどペチャパイだから、このヌーブラ・テクニックが無ければミス東京には出られなかったわ。」

「そうだったんですか・・・。」

「だから相手はオッパイの大きめの子が良いのよ。」

「やっぱり、レズだったんですね・・・。」

「私のことはどうでも良いから、ブラとおそろいのショーツをはきなさい。でも、気持ち悪いものが真ん中に突っ立ってるわね。折るとか切るとか、何とかならないの?」

自分の胸や女性物の下着に興奮して、僕のおへその下の棒は滅多にないほどギンギンに立っていた。小芝がその棒を忌まわしくて汚いもののような言い方をしたので驚いた。性別で人を差別はしないとか言っていたが、男性を嫌悪していることは明らかだ。小芝は真性のレズだったのだ。僕はガッカリして気持ちが萎えてしまった。小芝に対する気持ちが覚めると同時にギンギンだった棒がだらりと下がって小さくなった。

「おしっこしてきなさい。しばらくトイレに行けないから、水分は出来るだけとらないでね。」
トイレから帰ってくると僕のおチンチンは小さくなっていた。小芝は数十センチの長さの布張りの強力なガムテープの端を僕のおへその下に貼ってから、僕のおチンチンをお尻の方に引っ張りながらガムテープで固定した。最後に余ったガムテープの端を力任せにお尻の上の方まで引っ張り上げてしっかりと貼りつけた。

「これで絶対に外れないわ。」

「これでは本当におしっこは不可能ですね。洩れそうになったらどうしましょう。」

「我慢するしかないわ。」

その上にブラジャーと同じデザインのショーツをはいて、さらに太ももからおへその上まである強固なガードルをはかされた。さらに黒の補正タイツを2枚重ねにしてはかされた。

「これだけ重ねたらレイプ犯に誘拐されても大丈夫よ。脱がすのに何分もかかるから、あっはっは。」

スリップを着て、その上にワンピースのドレスを着た。

次に小芝は僕を洗面所に連れて行き鏡の前でブローしながらブラシで髪を整えた。前髪を写真の女性と同じように目と眉の間で切りそろえると僕の顔の感じがガラリと変化した。髪の裾を少しカットして完成だ。僕は写真の女性そっくりになった。

「これじゃあ別人だとバレるわね。」
僕は完璧だと思ったが小芝は不満そうだった。

「やはり眉がポイントね。」

小芝は毛抜きとハサミで僕の眉をしばらく弄っていた。鏡の中の僕は昨日までの僕ではなくなっていた。女性らしい細い眉になると顔の性別が変わるのだと知った。

「どうしましょう。明後日こんな顔で会社には行けません。」
僕は泣きそうだった。

「明日は明日の風が吹く。今日の会食だけに神経を集中しなさい。」

小芝がこれほど独りよがりで自分勝手なレズ上司だったとは・・・。

「私のサラが戻って来たのね。」
小芝は僕の肩に手を置いて、それまで見せたことのない愛情に満ちたまなざしで僕を見下ろした。右手で後頭部を包まれ、小芝の唇が近づいてくると背中が蕩けるような気がした。甘い、美しいキッスだった。腰からお尻を撫でられて太ももから胸が電気のしびれによって優しく覆われた。胸を揉まれると、ヌーブラで盛り上がった胸が僕の本当の胸であるかのようにジリジリと感じた。

「咲良はサラとも読めますけど、サクラが正しいんです。」
男性の場合は咲良と書けばサクラとしか読まないのに・・・。サラは女の名前だ。

「サラ、私のサラ。」
小芝は僕の抗議を無視して愛撫を続けた。僕はもうサラと呼ばれてもよいと思った。

「こんなことはしていられないわ。今夜ゆっくり愛し合いましょうね。」

小芝は僕を離して僕に化粧水と乳液を使わせた。洗面所の鏡の中の僕の後ろに立つ小芝の姿はスラリとして女神のようだった。僕は今夜この人に抱いてもらえるのだったら何をしても良いと思った。小芝はBBクリームを僕の顔に薄く延ばし、アイメイクとチークを手早く施した。小芝のプロのような手つきで仕上げられた僕の顔は写真の女性そっくりになった。小芝はもう一度僕をサラと呼んで後ろから強く抱きしめた。僕はハッとあることに気づいた。小芝は僕を抱いているんじゃなくてあの女性を愛撫しているつもりなんだ。

僕がリビングのソファーで半分放心して待っていると、小芝が黒のパンツスーツに着替えて戻ってきた。細長い美しいシルエットを見て僕は思わず立ち上がった。

「サラ、愛してるわ。」小芝の甘い声を耳元で聞いて胸が熱くしびれた。でも、「本郷君」ではなく写真の女の名前で呼ばれたことが悲しかった。小芝が愛しているのは写真の女であって僕ではない。それでも僕は「小芝さん、大好きです。」と心の底から言った。

僕の足は写真の女が置いて行ったというハイヒールに寸分たがわずフィットした。役人が持ってきたガラスの靴に足を入れた時のシンデレラのように誇らしい気持ちだった。小芝の肘に腕を差し込んで恋人同士のように歩いた。今日の僕は小芝の恋人というだけではなく婚約者なのだ。

初夏の風がスカートの中を吹き抜ける。オブラートのように軽いプリントのフレアースカートがふわりと舞い上がったので、思わずスカートの前を両手で抑えた。レストランの黒っぽいガラスに小芝とサラの姿が映っている。例えレズを毛嫌いする人でもうっとりさせるほど完璧なカップルだ。

「ガラスの中を覗かずに私の目を見て。奥の席から両親が私たちを見ているのよ。私の首に腕を回してキッスしなさい。リップが崩れないように気を付けてね。」

あの写真の女として両親の見ているところでキスシーンを演じるのには抵抗があった。でも小芝とキッスできることの喜びの方が遥かに魅力的だった。

「今私とサラが愛し合う現場を見せることで両親は写真の女がサラだということに何の疑いも抱かなくなるのよ。さあ、本番よ。」
小芝は僕の手を引いてレストランに入った。

「小芝ですけれど。」
受付の女性に言うと「はい、お連れ様がお待ちです。」と言って奥の静かなコーナーにあるテーブルに案内された。

「お父さん、お母さん、お久しぶり。」
60前後の身なりの良い夫婦の視線は小芝ではなく僕に向けられていた。何か忌まわしいものを見るような視線だった。

僕が「本郷サクラと申します。花が咲くの咲に優良の良と書いてサクラと読みます。」と自己紹介をしようと口を開きかけた時、小芝が「これは私の婚約者のサラよ。」と言ったので僕はただ「よろしくお願いいたします。」と言ってお辞儀をした。隣の席に座っていた中年のカップルが大きな口を開けて小芝と僕を繰り返し見比べていた。

「あなた、人前で何てことを言うの!」眉間に皺を寄せたお母さんが押さえた声で叱るように言った。

「お母さんったら、サラが可哀想よ。サラは背広にネクタイに着替えたいと言ったけど、私が普段の姿を親に見せたいからと言って無理やりこの恰好で来させたんだから。」

「服装の問題じゃないでしょう。こんな女の子が男装して来たら益々目立って世間に恥をさらすだけよ。」

「もしかしたら、お母さんたち誤解してるんじゃないの?私、生まれて初めて結婚したいと思える男性を見つけて、一生懸命にアタックしてプロポーズしたのよ。」

「だ、男性ですって?このお嬢さんが男性なの?」お母さんは声を押し殺して聞いた。

「サラは私の会社の部下なの。去年入社して私の課に配属された23歳の男性よ。本名は本郷咲良。花が咲くの咲に優・良の良と書いてサクラだけど、サラと読む場合もあるでしょう。見かけが女の子みたいだから小さい時からサラと呼ばれているのよ。私の好みの顔だったからチャンスを見てナンパしたんだけど、その時にキスしようとしたら吐き気がしたのよ。こんなに可愛い顔の男の子でも、近づくと吐き気がしたのよ。やっぱり私はレズとして一生を送るしかないんだと自殺を考えたわ。でも思い直して試しにサラにお化粧させて女装させてみたの。サラは凄く嫌がって逃げようとしたけど私が力ずくで女装させたのよ。そうしたら全然吐き気がしないじゃない。それで会うたびに無理やり女装させて私好みに調教したのよ。」

「あなた、それじゃあ犯罪じゃない・・・。」

「犯罪を犯すより自殺した方がましだったとでも言うの?」

「そんなことは言ってないでしょう。サラさん、ごめんね。娘が酷いことをしてしまって。」

僕は小芝のストーリーの奇抜さにただ驚き圧倒されていたが、お母さんから謝られてどう返事したらよいのか困惑した。助けを求める視線を小芝に送った。

「サラが嫌がったのは当初4、5回だけよ。サラの潜在意識に隠れていた女性化願望が段々開花してきて、最近は骨の髄まで女になって来たわ。サラは今はまだ会社では男性として働いているけど、早くOLの制服で働きたいと言っているのよ。会うたびに制服を着たいとサラにせっつかれて困ってるのよ。」

「本当なの、サラさん?」
お母さんはまだ半信半疑のようだった。自分に女性化願望があるなどと言われて肯定したくなかったが、テーブルの下で小芝に足を強く蹴られたので、「はい、最近は男性の服装で働くのが嫌で嫌でたまらなくなってしまいました。」と苦しそうに答えた。

「あなた、玲央が連れてきたのが女性じゃなくて良かったじゃない。これで小芝家を断絶させずに済むわ。」

「し、しかし、どう見てもサラさんは女性にしか見えないぞ。娘が嫁を連れて来たら親戚やご近所にどう説明すればいいんだ?」

「私たちの常識を押し付けて娘が自殺したら元も子もないわ。孫の顔が見られるだけでも良しとしましょうよ。」

「そ、そうだな・・・。」

「分かってくれてありがとう、お父さん、お母さん。」

「無条件で許可するとは言っていないわよ。とにかく子供を早く作って頂戴。これが絶対条件よ。それから、こんなサラさんが背広にネクタイで働くというオカマみたいにな状況は一日も早くやめさせてちょうだい。サラさんが男装すれば玲央は吐き気がするということは一生女性の姿で居ることになるわけよね。それなら早く紛らわしいことはやめて365日、24時間きっちりと女性として過ごしてもらいなさい。」

「分かったわ。月曜日に人事部に行って相談してくる。」

「ま、待ってください。私はまだ実家の親に小芝さんとのことを話していないんです。もし女装していると知ったらショック死すると思います。」

「サラさん、あなた玲央と一緒になりたいんじゃないの?」

「はい、勿論そうです。」

「それなら目先に不安や不満があっても乗り越えなきゃ。玲央を信じてついて行くのよ。」

「はあ・・・。」

「じゃあ、これで合意成立ね。進展があり次第連絡するから、お父さんお母さんは安心して富山に帰ってちょうだい。」

「そうするわ。もし、これがお芝居じゃないと証明されたらね。」

お母さんの言葉に心臓が止まりそうになった。やはり小芝から頼まれて僕がお芝居をしていることがバレたのだ。僕の言動に不自然なところがあったのだと思う。後で小芝から叱られて二度と相手にしてくれなくなるだろう。でも、小芝と両親の話が現実的な方向に進み過ぎて、僕も抜き差しならない破目に陥らないか心配になっていたので、正直なところほっとした気持ちもあった。

「今の話で納得できるのはサラさんが本当に男性だった場合に限るわ。玲央のことだから女性を連れて来て”この人は実は男性だ”と嘘を言ってこの場を凌ぐということも十分あり得るもの。」

「あははは、私って信用無いのね。良いわよ、お母さん、自分で確かめてみたら?」

「サラさん、おトイレに一緒に来てちょうだい。」
僕はお母さんについて女子トイレに入った。

「スカートをめくって頂戴。」
僕は両手でスカートの裾を肩の位置まで上げた。お義母さんは僕の股の下を指で触ったが、わずかに盛り上がっているだけだったので「ほら、やっぱり。ゴムか何かを挟んであるだけじゃない。」と言った。「もっとよくご覧ください。」タイツを太ももまで下ろすにはお母さんの力だけでは無理だったので僕が手を貸した。2枚目のタイツも下ろしたが、「どこにおチンチンがあると言うの?」と言われた。

僕は仕方なくガードルを下ろした。ショーツからはみ出してお腹からお尻に荷造りテープが貼られているのが見える。

「なにこれ?割れ目にゴムのソーセージのおもちゃか何かを乗せて、その上にガムテープを貼ってあるだけじゃない。」

「全部剥がしたら見えますから。」

「こんな茶番に付き合ってる時間は無いわ。」
お母さんは吐き捨てるように言ってトイレから出て行った。

「ま、待ってください。」
僕は仕方なくガードルを上げて、渾身の力でタイツを1枚ずつおへそまで持ち上げた。

テーブルに戻ると立ち上がって帰ろうとする両親を小芝が必死でなだめようとしているところだった。

「サラ、どうしてちゃんと中まで見せなかったのよ。」
まるで僕のミスのせいであるかのように言われた。

「お母さん、嘘じゃないから、もう一度よく見てよ。お願い。」

小芝は何とかお母さんをなだめることに成功した。先に小芝と僕がトイレに行き、2分後に来てもらうことになった。僕は小芝についてトイレに入った。

小芝はしゃがんで僕のタイツをすごい力で引き下ろし、ガードルも難なく下ろした。ショーツを下げてから「もっと足を拡げなさい。太ももをくっつけたままじゃ荷造りテープを剥がせないから。」と言われたが、補正タイツ2枚と厚手のガードルで引き寄せられた足は少ししか広げられなかった。

「仕方ないわね。」と言ってからおへその下を引っ掻いて何とか荷造りテープの端を剥がし、一気に真下に引き下ろした。

「ヒェーッ!」荷造りテープの接着力が強すぎて、どんな拷問よりも強い痛みが走った。殆どの毛が荷造りテープに貼り付いたまま抜けてしまった。小芝はお尻の方に手を回して、荷造りテープを後方に引っ張ろうとした。

「ま、待って、あれが抜けちゃうから引っ張らないで!」僕の叫びもむなしく、小芝は荷造りテープを一気にお尻の上まで引きはがした。前を剥がされたときの3倍の痛みが僕に襲い掛かった。抜けたのかと思った。皮が剥がれて血だらけになっていないかと下を見たが、幸い傷は無かった。ここ数年で見た中で最も萎えて縮んだ状態のおチンチンが惨めにぶら下がった。

お母さんがドアをノックして入って来た。
「どう、お母さん。ついているでしょう。」

お母さんは指でおチンチンをつまみ上げ、上下左右に引っ張って本物であることを確かめた。

「これ、女性の身体に手術で肉片をくっつけただけじゃないの?形も不自然だし、こんなに小さい大人のおチンチンがあるはずがないわ。」

「どんなに貧相でも本物は本物なのよ。」
小芝は母親の往生際の悪さに辟易していた。

「仮に本物だとしても、こんなおチンチンでは到底子供は出来ないわよ。」

「どこまでケチをつければ気が済むのよ。」
手を洗ってトイレを出て行くお母さんを小芝は追いかけた。僕は便器に腰かけて一杯になっていた膀胱を解放した。

僕がテーブルに帰ると、小芝と両親の議論に決着がついたところだった。お父さんが合意内容を総括していた。

「結論としてお前は今度の連休に沙羅さんを連れて来る。その際に沙羅さん本人が戸籍上男性であることを示す確実な証拠、例えば戸籍謄本と運転免許証を持参する。そして子供を作る能力があることの証明として、沙羅さんの本名が記載された冷凍精液の保管証の原本を持ってきなさい。もう一つ、沙羅さんが男女紛らわしい生活から足を洗ったことの証拠として、お前の会社の女子事務員の制服を着て、女性と書かれた社員証を持ってくること。この条件で合意したと考えて良いな?」

「その通りよ。その条件を満たせば、2度と私の人生に文句を付けないと約束してくれるのね。」

「約束しよう。お前はサラさんと結婚して幸せになれば良い。」

「小芝さんちょっと待ってください。来週中に女子社員の社員証を取ると言うのは無理じゃないですか・・・。」

「私に任せて黙ってついてきなさい。」

小芝がその気になれば一般職の制服を誰かに借りることはできるだろう。でも社員証の偽造は万一バレれば懲戒ものだ。小芝にとってもリスクが高すぎる。この場でこれ以上は議論できそうにないので、ひとまず「はい、小芝さん。」と答えた。

「サラさん、せっかく男に生まれたのに玲央に見初められたばかりに大変なことになったわね。でも、一緒になると決めたからには、どこに出ても恥ずかしくない女性になりなさい。女のたしなみについては姑になる私がじっくりと教えてあげるから。あら、娘の結婚相手と私でも嫁・姑と言えるのかしら?おほほほ。」

上機嫌のお母さんたちがタクシーに乗るのをレストランの前で見送った。


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女性が主流の会社への就職・性転のへきれき新作

女性が主流の会社への就職性転のへきれき新作「女性が主流の会社への就職」(玲菜の場合)を1月1日に出版しました。

主人公は入社するまでプロモクリエイト社が女性が主流の会社とは知りませんでした。新入社員60人のうち、玲菜(主人公の男性)を含む総合職3人、一般職3人がFPU部門に配属されました。FPUは総員30名ですが玲菜は「白一点」です。

玲菜は配属されるまではFPU部門長にも特別にひいきされていると感じていましたが、職場では同期の総合職2人は名刺を持たせてもらえたのに玲菜はもらえませんでした。

職場の会議でも玲菜は途中で退席させられ、お茶を入れるよう命令されます。総合職どうしでも玲菜だけは特別扱いで、同期社員にコピーやお茶出し、使い走りを指示される毎日が始まります。

この小説の見どころは同期の総合職女性2人が玲菜を奪い合う話です。2人には共通点がありますが性格は正反対、愛し方も違います。家族の状況や世界観も異なり、2人の対比は見ごたえがあります。

最終的に玲菜は2人のうちどちらと結びつくことになるのでしょうか・・・。

 

 

第1章 新入社員

今日は僕の運命が決まる日だ。

そういうのは大げさすぎるだろうか。今日は入社研修の2日目。午後から人事部長の総括の後で新入社員の配属部署が発表になる。華やかでクリエイティブな仕事がしたいからこの会社に入社したのに万一経理部にでも配属されたりしたら予定が狂ってしまう。

僕が入社したのはプロモクリエイトという準大手の広告代理店だ。新感覚の企画を次々に提案して急成長している会社だった。今年の新卒採用は60人で大手に引けを取らない人数だ。60人の内訳は総合職36人と一般職24人。総合職のうち男子は12人、女子は24人で、一般職は全員が女性だから、新入社員の中で男子は5人に1人という、超売り手市場だ。

広告代理店の中でプロモクリエイトを選んだのは、女性比率が高く、男子社員はモテモテでハーレム状態を楽しめそうだからではない。正直なところ、十数社の広告代理店に応募して僕に内定を出してくれた企業がプロモクリエイトだけだったからだ。トップの電通、博報堂は僕なんか全くお呼びで無いという雰囲気だったが、中位以下からも結構冷たくあしらわれた。

一流とは呼べない私立大学の経済学部を卒業予定だった僕は、まともに対応してくれる段階まで進むのが一苦労で、人事担当者との個別面接の段階でアウトになった。正式には後日お祈りメールで断りが届くのだが、僕の場合は面接の際にもらうコメントやアドバイスを聞いて不採用と分かった。

「覇気がない。」
「根性が見えない。」
「ライバルを蹴落としてでも前進するという気迫が感じられない。」
「体育会系でない。アピールできる活動歴もない。」
「男性らしい力強さが感じられない。」

最も失礼だと感じたのはマスコミ系の中堅の広告代理店だった。女性の人事担当者が出てきて開口一番「君、身長と体重は?」と聞かれた。「162.7センチ48キロです。」と答えたところ、「ふーっ」とため息をついて、「OLなら理想的な数値だけど。」と言われ、後はまともに質問もしてもらえなかった。身長・体重で選考するなら受付票に記入欄を作るべきだ。そうすれば、こんな不愉快な面接のために来る必要も無かったのにと思った。

その点、プロモクリエイトの場合は採用ウェブサイトであらゆる情報を記入するようになっており、極めて合理的だった。身長、体重の他に男女とも肩幅、胸囲(バスト、アンダーバスト)、ウェスト、股下、足、頭囲、首回りまで記入欄があるのには驚いた。写真は前、左斜め前、左横、右斜め前、右横、全身像が3つの角度と、合計8枚の画像をスマホで撮ってアップロードするようになっていた。好きな本、雑誌を10冊ずつ。好きな男優・女優を10名ずつ、最近見た映画を10本、過去数年に気に入ったテレビドラマを10本、等々、応募者のプロフィールが露わになるほどの圧倒的多数の項目に記入するようになっていた。

質問項目が多すぎて面倒なので応募は後回しにしていたが、ほぼ全社からお祈りメールが届いた時点で記入して送信しておいたところ、3日後に面接のための出頭要請メールが届いた。人事担当者との10分ほどの懇談の後で人事部長との数分間の面接があり、次に社長を含む役員面接があってその場で内定をもらった。社長を含め面接相手は全員女性だった。

学生を問い詰めたり試したりする口調は全く無く、穏やかで甘い雰囲気の面接だった。こんなに楽に内定をもらって大丈夫なのだろうかと心配になったほどだ。入社研修の休み時間に、隣り合わせた2、3人の女性にその話をしたところ、「私の面接は厳しい質問を次から次へと浴びせかけられて冷や汗をかいたわ。」とか「あの面接は今でも夢に見るほど厳しかった。」と言っていたので、人によって事情が異なるということが分かった。

そんな経緯もあって、僕は入社初日からプロモクリエイトへの愛社精神に溢れていた。入社研修は、広告代理店とは何をするところか、という話から始まって、さまざまなケーススタディーやグループディスカッションを実施したが、ディスカッションには複数のユニット長が加わっていた。プロモクリエイトは分野・テーマによって数名から数十名のビジネスユニットがあり、各ユニットの「ユニット長」が役員会の直下に位置する。事実上、ユニット長は社長の直接の指令の下で即断即決することができ、自分のユニットの従業員に対して絶大な人事権限を持っているのだそうだユニット長は一般的な尺度だと部長と課長の中間というところだが、権限や機能からすると、社長直結の分社長といえる。

後で分かったことだが、社内研修はスカウト会議を兼ねており、ユニット長がディスカッションなどを通して自分のユニットにとって役立ちそうな新入社員を選ぶ場として重要な位置を占めているとのことだった。

人事部長からの総括の後で、予定表には書かれていなかった社長のスピーチがあったので僕たちは緊張した。

「私は大企業でOLをして結婚退職し出産した後、2人の子供を育てながら広告代理店を立ち上げました。女性が女性らしさを生かしながら女性のライフスタイルの中で自己表現できる会社がプロモクリエイトです。」

男性を軽視するスピーチだなと感じた僕たち男子社員がお互いに顔を見合わせたことに気づいて、社長が一言付け加えた。

「勿論、男性にも不利はありません。常識や既成概念にとらわれず、男性でもやる気があれば女性のように個性を生かすチャンスが与えられる会社、それがプロモクリエイトです。」

それでも若干、女性が主役のようにも聞こえたが、この程度なら許容範囲だ。

「今年は実験的に各ユニットに過剰採用を促しました。例えば2名増員したいユニットは3名採用するわけです。但し、それは試験採用であり、3ヶ月後の6月末に3名のうち2名だけが正式採用されます。なでしこジャパンでも同じですが、競争により組織の緊張感と向上が得られます。正式採用されなかった1名は2軍落ちということになるでしょう。」

新入社員全員はお互いに顔を見合わせて震えあがった。総合職36名のうち生き残れるのは24名ということになる。他社の入社面接で「ライバルを蹴落としてでも」と言われたのを思い出した。プロモクリエイトの採用面接は僕にとって蜂蜜のように甘い面接だったが、結局僕は他社以上に厳しい非情な会社に入ってしまったのだった。

社長のスピーチの後、一人一人の名前が呼ばれて辞令を手渡された。

僕は「有村玲菜」と社長に呼ばれて「はい」と答えて辞令を受け取りに行った。周囲からクスクスと笑い声がした。レナと聞いて女性を想像したのに男性だったので笑っているのだ。僕は子供の時から名前を呼ばれる際に笑われることには慣れていた。

「私の姪にはレオという男性的な名前の子がいるわ。有村さんはレナという名前に負けない美しい男性だから恥ずかしがることは無いわよ。」
社長がニコニコしながら僕に辞令を渡した。

辞令には「フィーメイル・プロダクツ・ユニット総合職試験採用」と記されていた。

辞令の配布後、ユニットごとに集合した。FPUと表示された場所には「ユニット長:坂口七恵」という名札を付けたアラフォーの長身の女性が立っていた。ディスカッションで一度同席した女性だったが、物静かで優しい中に「デキル」というオーラを漂わせた人物だ。坂口の周囲に、私服の女子2名、一般職の制服の2名と僕の合計5人が集合した。

「FPUユニット長の坂口です。FPUは当社の中でも3年連続で売り上げ成長率トップスリーに入っている元気なユニットです。フィーメイル・プロダクツ・ユニット、すなわち女性向け商品のアドバタイジング企画を提供する部門だけど、女性向けといってもランジェリーとか生理ナプキンなどの女性専用分野じゃなくて、例えば女性を主なターゲットにしたお菓子とか、女子会に向いたレストランとか、男性も対象となる幅広い商品が対象です。そういう意味で女性だけの感覚で物事を捉えることによる弊害を防ごうと考えて、初めて男性を試験採用しました。有村玲菜さん、30人中で”白一点”だけど気遅れせずに頑張ってね。」

僕は「はい、頑張ります。よろしくお願いします。」とお辞儀したが、僕以外の全員が女性と聞いて戸惑った。売り手市場とかハーレムなどと言ってはしゃいでいられる状況ではなさそうだ。

坂口ユニット長は説明を続けた。

「FPUには6つのチームがあります。

ヘルス・アンド・ビューティ・ケア
ウェッディング・アンド・スペシャル・オケイジョンズ
フード
ファッション
リビング
ワーキング・ライフ
一応、対象商品によってチームの名前を決めていますが、厳密な分類ではありません。例えば化粧品とサプリメントとランジェリーを販売するお客様の場合、1,3,4のどのチームがアプローチしてもよいわけです。つまりチーム同士もライバル関係です。チーム間の交通整理は私が行います。

総合職の松岡亜希子さん、芹沢由紀奈さん、有村玲菜さんは3名ともFPU-1、すなわちヘルス・アンド・ビューティ・ケアチーム、略称ヘルス・チームの所属となります。三木リーダーの下でお互いに切磋琢磨してください。一般職の吉岡亜也さんはファッション・チーム、水原沙希さんはフード・チームへの配属です。」

総合職は3人ともヘルス・チームの所属と聞いて3人はライバル同士の露骨な視線を交わした。社長が言っていたように3人のうち1人は6月末で篩い落とされるのだから、まさに真剣勝負だ。

「いいわね、この緊張感。プロモクリエイトの女性はこうやって競争の中で強くなっていくのよ。」

何故女性のことしか言わないんだろう、と怪訝な目で坂口ユニット長を見上げたら、「男性もね」と付け足しのように言われた。ユニットの従業員30人のうち29人が女性だから、女性向けの発言になりがちなのは仕方ないが、今後しょっちゅうこんな思いをすることになるのだろうか。

その時、人事部の担当者からアナウンスがあった。
「各ユニットは適宜ダイニング・フロアに移動してください。」

ダイニング・フロアとは最上階にある交流スペースで昼食時は社内食堂、夜間は居酒屋的に使用されており、パーティなどにも活用されているそうだ。

「軽く飲みながら自己紹介でもしましょう。」
坂口ユニット長についてエレベーターで最上階に行った。

「皆、とりあえず生ビールで良いかな?亜也ちゃん、沙希ちゃん、生ビールの中を6つと枝豆とナッツを買って来て。」
坂口ユニット長は吉岡亜也にID兼用の社内デビット・カードを渡した。亜也と沙希の2人では持てないだろうと思い、僕も一緒にカウンターに行き、3人で生ビールを両手に持って席に戻った。その後、亜也が枝豆とナッツを取りに行った。

「気が利くのね、玲菜ちゃん。一般職の2人に頼んだのに。」
坂口ユニット長が僕を笑顔で見て褒めてくれた。3分の2の生き残り競争に先行したような気がした。

「ご両親がどうして玲菜ちゃんに女の子の名前をつけたのか、経緯は知ってる?」
僕にとってユニット長のこの質問はしょっちゅう聞かれる事なので、無難な答えをいつも準備している。

「父がアメリカ出張の際に、レナード・バースタイン指揮のニューヨークフィルの公演を聞きに行って感動したので、レナードの略でレナという名前にしたそうです。」

「お父さまはクラシックがお好きなのね。」
亜也が僕に好意的な視線を向けながら言って、沙希も「いいわね」と言った。

松岡亜希子が悪戯っぽい表情で口を挟んだ。
「レナードは語源的にはレオナルドだから略すならレオになるわ。レナというのは元々エレナかヘレナの省略形だから100%女性の名前よ。晶子や恵子と同じぐらい女性的な名前だわ。」

「それ、本当なの?」
レナード・バーンスタイン説にケチをつけられたのは初めてだった。自分の名前がエレナかヘレナと同じだと言われてショックだった。エレナ、ヘレナが女の名前ということぐらいは僕も知っている。

「顔やスタイルと似あう名前だからいいじゃないの。」
芦沢由紀奈が言って4人がクスッと笑った。僕は芦沢に軽い敵意を感じた。

「玲菜ちゃんの身長と体重はどのくらい?」
坂口ユニット長にストレートに聞かれたので答えざるを得ない。小柄な男性にとって皆の前で身長を言わされるのは最も恥ずかしいことの一つなのに、意外に無神経な人だなだと思った。

「162.7センチ、48キロです。」

「勝った、私は162.8センチよ。」と亜也がガッツポーズをした。

「私は162.3センチ。体重は内緒だけど。私たち3人はわずか5ミリの範囲に収まってるのね。」と沙希。

「私は171だけど、松岡さんは私より高いわね。芦沢さんは私と同じぐらいかな。」
坂口ユニット長は亜也、沙希と僕をファーストネームでちゃん付けで呼ぶのに、なぜ松岡亜希子と芦沢由紀奈だけを苗字で呼ぶのか疑問だ。

「174です。」松岡がうつむき加減に言った。女性としては身長が高すぎることが恥ずかしいのだろうか。

「私は170です。」と芦沢が言った。

「対外折衝の多い私たちにとって長身であることは武器になるわ。顧客側でも、特に管理職は男性が多いから、こちらが小柄だとつい甘く見られちゃう。」

「では、玲菜ちゃんは大変ですね。」
芦沢が薄ら笑いを浮かべながら言って、僕を見下すような表情を向けた。芦沢は3人に1人の誰を集中的に蹴落とすか、ターゲットを絞ったのだと思った。

「私たちはチームで動くから、人それぞれ個性を生かせばよいのよ。ねえ、玲菜ちゃん。」
坂口ユニット長は僕の肩に手を置いてやさしく言った直後に「オット、いけない。肩を触るとセクハラになるんだったわ。」
と笑った。他の4人の女性も一緒に可笑しそうに笑っていた。

「玲菜ちゃんが加入したから、各チームのリーダーにコンプライアンスの徹底をリマインドしておかなくちゃ。色々大変だわ。」
坂口ユニット長に悪意が無いことは分かっているが、そんな発言自体が僕にとってはセクハラと同じぐらい居心地が悪いものだと気付かないのだろうか。

坂口ユニット長と芦沢のビールのジョッキが空になった。ユニット長は僕にデビット・カードを渡して「ビール2つね」と言った。どうして僕なんだろう、と不満だったが、僕はカウンターでビールを買ってきて、ユニット長と芦沢の前に置いた。

ユニット長は「サンキュー」と言ってジョッキに口をつけた。芦沢は「ありがとう、怜奈ちゃん。」と、ちゃん付けでわざとらしくお礼を言った。

それから、松岡から初めて左回りに、ひとりひとりが簡単に自己紹介をした。「プロモクリエイトを志望した理由も説明してね。」と坂口ユニット長から言われて、松岡は広告代理業の使命と役割という点でプロモクリエイトのコンセプトが自分の考えに最も近かったからだと答えた。しっかりした考えを持っていて立派な発言ができる人物だなと感心した。

芦沢はエラが張っていてお世辞にも女性らしいとは言えない顔だ。坂口ユニット長、松岡、芦沢の長身女性3人の中で身長は一番低いが、骨格が太いので最も大柄に見えた。プロモクリエイトを志望したのは過去3年の成長率が業界トップクラスだからということだった。言葉の端々に攻撃的なガッツが見える重戦車のような人物だ。

亜也と沙希は聡明な女性らしさを備えた美人で、2人と同じ部に配属される僕は相当ついている。どちらにアタックすべきか、迷うところだ。

僕は就職活動で他の企業から全部落とされた後、プロモクリエイトの面接で内定をもらった経緯を面白おかしく話した。僕の話を面白そうに聞いていたのはユニット長と亜也、沙希の3人だけで、松岡と芦沢は時々顔をしかめていた。特に芦沢は何度も面談を重ねた結果やっと採用されたようだった。

開始が早かったので懇談会がお開きになったのは午後7時だった。

「よし、カラオケでも行くか。」
坂口ユニット長が言いだして、僕たち5人は断るわけにもいかないので、ついて行った。松岡と芦沢はユニット長の両側に密着して、広告代理業務について難しいことを話しながら前を歩いている。僕は亜也と沙希と一緒に好きなテレビドラマについて楽しくおしゃべりしながら数メートル後ろをついて行った。カラオケに着くとユニット長は奥の隅に座り、僕は隣に座らされた。ユニット長は先ほど肩を触ってセクハラ注意について発言したばかりなのに、お酒が回っていて、僕の肩に手を回して時々太腿にも手を置きながら、僕の趣味とか家族関係などパーソナルなことを色々聞いて来た。何度もデュエットを一緒にさせられて、僕はまるでユニット長付きのコンパニオンのようだった。

カラオケを出たのは9時半だった。

「玲菜ちゃんは私が送っていくから。」

「まだ早いですから電車で帰らせてください。」と断ったが、坂口ユニット長はタクシーを拾って僕を押し込んだ。松岡と芦沢は勿論、亜也と沙希も呆れたような、非難の混じった視線を僕に向けた。僕は電車で帰りたいのに、どうして非難の目を向けられなければならないのか、割り切れない気持ちだった。しかし、坂口ユニット長が僕を特別にひいきしてくれているのは確実であり、6月末の生き残りのためには、男であることをある程度武器にするのも辞さない覚悟が必要だと思った。

 

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新作・逆転父母(性転のへきれき・葵の場合)

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耐震性データ偽造事件の責任を取って辞職した枕崎薫は、社会的批判や損害賠償が家族に及ぶことを回避するため、離婚し資産は全て妻に譲渡した。無職・無一文となった枕崎薫は、妻の家に居候させてもらう身となった。

その日を境に、枕崎薫と葉山有希子(元妻)の関係は180度変わった。

 

父と息子ダブルのTS長編小説(12万語+)。これをリアルな話と思うかどうかは読者のM度次第かも知れません。

 

逆転父母
性転のへきれき(葵の場合)

第1章 耐震性データ改ざん事件

「耐震性データ改ざんか?」

新聞に出た小さな記事に父の勤務する会社の名前が書かれていた。

それは耐震性データの改ざん疑惑という明らかに不名誉な内容の記事だったが、父の会社の名前を父以外から見聞きするのはその時が初めてだった。

「お父さんの会社って全国版の新聞に名前が出るような立派な会社だったんだね。」
と母に聞くと、
「その分野では力のある会社らしいわよ。」
という答えが返って来たので僕は父を少し見直した。父が帰宅したらどんな会社なのか詳しく話を聞きたいところだが、父は前日からシンガポールに一週間の出張に出たばかりだった。

それから2日間、父の会社の耐震性データ改ざんに関する報道は鳴りを潜めていたが、次の日の新聞の第1面の右下に前回より大きな活字で記事が出た。

「耐震性データ改ざん事件は会社ぐるみか?」

その記事を読むと、父の会社では以前から耐震性データの改ざんが行われていたと断定したうえで、改ざんが経営陣の指示によるものかどうかを調査中であると書かれていた。会社では経営陣の関与は無く、現場の暴走によるものであると釈明しているとのことだった。

その記事を読んで、僕たち家族は父の会社が困った事件に巻き込まれたことは認識したが、それが会社経営を左右するほどのインパクトを持つ事件だとは思わなかった。事件によって父の給与やボーナスが下がるのではないかという心配さえ、僕たちの頭には浮かばなかった。

しかし、その翌日の報道を見て僕たち家族は仰天した。

「耐震性データ改ざんは現場の暴走、責任者が辞任。」という見出しで、技術部の枕崎部長が責任を認めて辞任したと書かれていた。

「枕崎部長ってお父さんのことだよね。お父さんが悪いことをしたの?」
僕は母に聞いたが、母は何も言わずに首を横に振るだけだった。

辞任の記事の経緯から推測すると父は既にシンガポールから帰国しているはずだ。家には帰れずに空港から直接出社してホテルで缶詰めにでもなっているのだろう。父が帰宅したのはその翌々日のことだった。やつれ果てた顔と窪んだ眼が父の苦労を物語っていた。

「お父さん、私たちはお父さんの味方よ。」
それが帰宅した父に対する母の第一声だった。

「先にお風呂に入ってくつろいでらっしゃい。」
母の優しい言葉に促されて父は風呂に入り、パジャマ姿で食卓についた。

「おビールになさいます?」
母が父のコップにビールを注ぎ、父はそれをひと息に飲み干して「ハァーッ」と満足の溜息をもらした。

「有希子、ありがとう。今回の事件について説明をさせてくれ。皆も聞いてくれ。」
父は僕たちを見回して話し始めた。

「会社で耐震性データの改ざんがあったのは事実だ。当初現場での改ざんが発覚した際にそれを隠蔽して常態化させたのは、俺の前の部長で、現在の常務だ。俺は昨年末に部長を引き継いで間もなく耐震性データの改ざんが常態化していることを知り、経営陣に訴えたが、問題が大き過ぎるので当面静観するように指示された。今回、内部通報によって問題が表面化したが、俺が部長就任後に耐震性データ改ざんを知った上で承認印を押したのは隠しようのない事実だ。問題を起こした部門の責任者として引責辞任するのがベストだと判断した。」

「悪いのは常務なのに、どうしてあなただけが責任を取らなきゃならないの。」

「経営陣が関与したとなると、会社の存続が危うくなる。現場の暴走という形に収めるのが、こういった場合の常道なんだ。」

「会社はあなたに対して経済的な補償はしてくれるの?」

「引責辞任する俺に補償をしてくれるわけがないだろう。但し、会社が今回の事件に関連して俺個人に対する損害賠償請求をしないということについては一筆を取ってある。退職金は返上で、俺は今日から完全失業状態だ。この社宅からも出て行かなきゃならないが、子供達の学校の都合もあると言うことで3月末まで猶予を貰った。」

「いずれにしても私はもうこの社宅には居たくないわ。新聞記事が出てからは、ご近所から犯罪者の家族を見るような視線を感じるもの。ここで居ると子供たちも辛い思いをするのが目に見えている。」

「その点については俺も考えた。そこで提案があるんだ。離婚しよう。有希子は旧姓の葉山を名乗り、子供たちも有希子の子供として葉山姓に変更するんだ。その上で千葉か埼玉にでも引っ越せば、お前たちが今回の事件の加害者の家族として辛い目に合うのを避けられる。最近は株主代表訴訟もあるし、被害を受けた会社が加害者側の責任者個人に賠償請求する可能性があるから、責任を家族に及ぼさないためにも離婚するのが得策だ。俺の預貯金は明日全部おろして有希子名義の口座に預けよう。数千万円しかないが、当面の暮らしは何とかなる。」

「お父さんは離婚した上に一文無しになるということ?」
僕の姉で高3の彩花が質問した。

「しばらくは再就職も出来ないだろうな。ホームレスになるのは嫌だから、母さんの家に居候させてもらうさ。」

母は腕組みをしてじっと考えていた。数分間の沈黙の後、母は大きく頷いて僕たち全員を見回した。

「あなたが部長就任後にずるずると悪事を放置したのは大きな誤りだった。社内の事情、秩序や慣習とかあなたにも言い訳はあったんでしょうけど、もし私ならどんな波風を立てても、例え首になっても不正を放置したり、張本人の常務を庇って引責辞任するようなことは絶対にしない。悪しき男性社会にどっぷり浸かっていたから、あなたは正しい判断ができなかったのよ。」

母が父のしたことを真っ向から断罪したことに驚いた。父は唇を震わせながら俯いていた。

「あなたが稚拙な判断によって家族に迷惑をかけたことについて、離婚と預貯金の放棄の形で責任を取るというのは、とても潔い、あなたらしい提案だと思うわ。だから私はあなたの提案を受け入れることにする。預貯金を私の名義にすることは当然よ。あなたのような人にお金を持たせたら、いつまた他人に保証をするとか愚かなことをしでかすかわかったものじゃないから。」

「厳しいな、でも有希子の言う通りだ。」

「明日、離婚届を出して、預貯金を私の口座に移すのよ。早めに引っ越し先を探して子供たちの転校手続きを取りましょう。」

「僕たち、転校しなきゃならないの?引っ越した後も時々友達に会いに来られるかなあ?」

「苗字を葉山に変えて別人のように暮らすのよ。引っ越し先や新しい苗字は友達に絶対に知られないようにする必要があるわ。」
彩花が解説を加えた。

「ほとぼりが冷めたらお父さんと再婚する形を取るのね?」
僕の妹で中3の彩実が質問した。

「日本の法律では女性は離婚したら半年間は再婚が出来ないのよ。だから一番早いケースで半年後に再婚してお父さんを葉山の戸籍に迎え入れることになるわ。」

「じゃあ、お母さんが戸籍筆頭者で世帯主になるのね。」
と彩花。

「そうよ。これからは私が一家の主人として働くから、お父さんを含めて私の命令に従ってもらうわ。今日は、枕崎家として最後の晩餐よ。」

母の宣言はテレビドラマのストーリーのように響いた。本当に起きていることのようには思えなかったが、それは確かな現実だった。父はビールを何度もお代わりし、彩花が「お父さん、これまでご苦労さま。」と言って肩を揉んだりしてサービスを尽くした。僕と彩実も父を責める気持ちは無く、父に普段以上に優しく接した。

第2章 新しい葉山家

翌日、学校に行くと今までとは全く違う一日が待っていた。親友の駿介が「大変だな」と声を掛けてくれた以外、僕に話しかける同級生は一人もいなかった。今まで話をしたことも無い同級生や、顔もよく覚えていない隣のクラスの男子までが、僕を犯罪者のような目で見て、視線が合うと目を逸らされた。新聞に名前が小さく出ただけなのに、僕が「あの枕崎部長」の息子だということを誰かがわざわざ言い広めたのだろうか。あからさまな虐めは無かったが、このままだと虐めが始まるのは時間の問題だと思った。

家に帰ると運送会社から段ボール箱が沢山届いていた。

「引っ越し先はもう決まったの?」

「まだよ。でも、夏物から片付けを始めなさいとお母さんに言われたわ。」

平日の午後4時半なのに父が家にいるのを見て、何となく気まずい思いだった。父も気まずそうにしていた。

「薫、ちょっと来て。」
母が父を薫と呼び捨てにするのを聞いて僕は腰を抜かしそうになった。

「お姉ちゃん、今の聞いた?」
僕は小声で彩花に聞いた。

「今日離婚届を出しに行ったみたい。お母さんが、夫婦じゃなくなったからお父さんと呼ぶのは止めると言ってたわ。結婚する前は薫、有希子と呼び合ってたんだって。」

母に薫と呼ばれて、父は少しバツが悪そうに母の所に歩いて行った。
「何だい、有希子。」

母は新聞広告を一枚、父に渡した。
「今私が電話して予約を取っておいたから、ここのエステに行ってきなさい。顔と手と脇のレーザー脱毛のお試し3回が2万円で受けられるキャンペーンをやっているから。」

「どうして俺がレーザー脱毛なんて受けなきゃならないんだ。」

「ひげ面を何とかしないと、すぐに薫だと分かるからよ。明日、美容院の予約も取っておくわ。会社の人に見られても枕崎部長だと分からないぐらいに変身してもらわなきゃ困るのよ。」

「いやだなあ・・・。」

「はい、この2万円を持って、すぐに行きなさい。」

「クレジットカードで払うからいいよ。」

「ばかねえ、もう薫の銀行口座に現金は無いのよ。薫の名義のクレジットカードは明日全部キャンセルするわ。公共料金の引き落とし用の普通預金口座だけを残して銀行や証券の口座は全部解約するのよ。」

「とほほほ。」
父はガックリと肩を落として脱毛エステに行った。

父が帰宅したのは夕飯が終わりかけた時で、僕たちがお茶を飲み始めた時だった。うちの食卓は長方形で、一家の主人である父が奥にデンと座り、左右に子供たちと母が座っていた。しかし今日は母が奥の席に座っていた。

父は当惑した様子で末席に座った。

「薫の分は食卓に置いてあるから適当に食べなさい。」
母はそう言ってから、父の顔を見て笑い出した。

「何よ、その顔。薫の顔って脱毛すると感じが全く変わるのね。」

父は赤面した顔で恥ずかしそうに俯いた。父は163センチしかないが、男性的な濃い顔立ちをしていて小柄で細身ながら威厳のある風貌だった。毎朝剃っても、まるで髭を生やしているかのように見えるほど髭が濃かった。頬から顎に斜めに走る青く濃い髭の形は落武者を連想させた。

脱毛クリニックから帰宅した父の顔は原形をとどめないほどに変貌していた。僕はそれまで父が彫りの深い男性的な顔をしていると思いこんでいたが、父の顔の陰影は濃い髭に起因するものであり、実は女性的な卵顔の骨格だったことに初めて気づいた。僕は母に似て体毛が薄く女性的な卵型の小顔であり、身長と体型だけが父に似ていると言われてきたが、僕の遺伝子は実は体毛以外は大部分が父から受け継いだものではないかと初めて思った。

「眉だけが太くて、少年漫画のキャラクターみたいね。後で眉の形を整えてあげるわ。」
と母が言うと、姉の彩花が自分がやると言いだした。

「眉は私が得意よ。流行の形に仕上げさせて。」

母が「いいわ」と許可を出した。

「じゃあ薫、食べ終わって食器を片付けたら彩花に眉を整えてもらいなさい。」
と母が言って席を立った。

「俺がひとりで食器を洗うのか?」
父が不満そうに周囲を見回した。

「ここは私の家よ。薫は居候だから言われる通りにするのよ。」
そう父に言ってから僕たちを見回して付け加えた。

「あんたたちの仕事は勉強だから家事は手伝わずに自分の部屋に行きなさい。」

「今までも食器を台所に持って行くぐらいは手伝ってたよ。」
と僕が言うと、母が「そうね。葵は男子だから食器を台所に運ぶ手伝いをしなさい。」と言った。

何故男子だから父の家事を手伝うという理屈になるのかは理解できなかったが、父が気の毒だったので僕は母に言われた通りに食器を台所に運び、一人で夕食を食べていた父にお茶を入れた。

「ありがとう、葵。お前は心の優しい子だ。」
父がご飯を食べながらしんみりとした口調で僕に言った。

「脱毛ってどんな風に抜くの?」
どうすればこれほど劇的に髭が薄くなるのか、とても興味があった。

「まずカミソリで髭を剃ってツルツルにするんだ。次にレーザー光をパルス状に照射して髭の皮膚の中に残った部分と毛根を焼き切る。このぐらいの大きさの照射ヘッドに開けられたスリットから一定間隔でバシッ、バシッとレーザー光が出るんだが、照射ヘッドは冷却ヘッドを兼ねていて潤滑ジェルが塗られている。脱毛した皮膚を冷却することによって火傷を防ぐんだよ。」

「焼き切るということは痛いの?」

「バシッ、バシッとレーザー光が照射される度に、ビンタで殴られるぐらいの痛みがあるよ。俺も泣きそうだった、あはは。」

「一度レーザー照射すると、もう毛は生えなくなるの?」

「毛周期は80日と言われていて毛を焼き切っても再び生えてくるんだが、毛根が完全に死ぬと再生しない。レーザーは黒い毛に吸収されるわけだから、今日の時点で休止期だった毛根からは毛が生えてくる。だから何度もレーザー照射を繰り返さないと、毛は薄くなってもまた生えてくるんだ。髭剃りが不要になるほど完全に脱毛するには半年から1年もかかるそうだ。」

「女の人の肌みたいになるってこと?でもお父さんは男だから、そこまで完璧に脱毛する必要はないよね。」

「そうだな、でもどこまで脱毛するかは母さん次第だな。俺は言われた通りにするしかないから。」

「でも、いきなり食事の座席まで変えるなんて、お母さんも横暴だよね。」

「仕方ないさ。俺が悪いんだから。それに、俺が今まで横暴にしてた通りに母さんが俺を扱ってるわけだから文句は言えないさ。」

「お父さん、くじけないで頑張ってね。僕、お父さんの味方だから。」

父はうっすらと目に涙をためて優しい笑顔を返してくれた。食べ終えた父の食器を台所に運ぼうとすると、「葵、もういいよ。そこまで手伝わせたら、俺、母さんに叱られるから。」と言われた。

僕は勉強部屋に行って宿題をした。予習と復習をしようと数学の教科書を開けたが、今日学校で経験した疎外感が蘇って、勉強をする気にはなれなかった。数学は2ヶ月ほど前によく理解できないことがあったが、それが尾を引いてその後教わった事が全部あやふやだった。最近の月例テストでは数学は殆どあてずっぽうの答えしか書けなかった。まだ返してもらっていないが、散々な結果になるのは確実だった。

しばらくして隣の部屋から「キャーッ、可愛い!」という彩実の奇声が聞こえて来た。この社宅は父母の寝室以外には子供部屋が2室しかなく、1室は姉と妹の共有で、1室を僕が使っている。先ほど母から言われた通り、食器を洗い終えた父が姉の部屋に行って眉を整えてもらったのだろう。

「完成よ、ママに見てもらおうよ。」
姉の彩花の声がして、父が居間に行く気配があった。僕も見に行こうと部屋を出た。

「ぎゃははは。可愛すぎるわ。彩花、やりすぎじゃない。」
母が父の顔を見て手を叩いて喜んでいた。

「そんなことないわ。今、こんな眉が女子大生やOLの間で流行してるんだって。お父さんの場合は地毛がものすごく広範囲に生えていたから、描き足さなくても、抜くだけで完成したのよ。すごい量の眉だったわ。」

父は鏡を見て、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「女みたいじゃないか。俺、こんな顔で人前に出られないよ。」

「これでいいのよ。人が見て枕崎薫とは思わないように変装するのが目的なんだから。それにしても薫の顔って女顔だったのね。」

「変装が目的だったら、お化粧させようよ。この顔だったら絶対に女の人に見えるわよ。お父さんは離婚して家を出ていって、代わりに親戚のおばさんが住むようになったといえばいいじゃない。」
彩花が父の気持ちを全く考えずに酷いことを言うのを聞いて腹が立った。

「いくらなんでも、いきなりお化粧は可愛そうでしょう。でも、お父さんは離婚して家から出て行ったというのは名案ね。皆もこれからお父さんと呼ぶのは禁止よ。薫と呼びなさい。」

「いいわね。でも薫は私たちをどう呼ぶのよ。」
母は結婚前から父を薫と呼んでいたのだからそれで良いが、姉が呼び捨てにするのは不自然だと思った。

「彩花さん、葵さん、彩実さんで良いわ。でも薫が葉山家の主人である私を有希子さんと呼ぶのは不自然よ。ご主人さまと呼ばせるのも人に聞かれると変だから、葉山さんと呼びなさい。」

「薫さんが僕をさん付けで呼ぶのは変だよ。葵と呼び捨てにして欲しい。」

「まっ、とりあえずそんな感じでいいんじゃない。さあ、皆、これから色々大変だからお風呂に入って早く寝ましょう。今日からは私が一番風呂よ。薫は最後に入って掃除しなさい。」

「とほほほ。」

「この程度でとほほじゃないでしょう。明日からは掃除、洗濯は全部薫の仕事なんだから。」

父はガックリと肩を落として一人で寝室に行った。寝室には父が家で仕事をするためのデスクがありパソコンや本が置いてある。そこは父の隠れ家だった。しかし父は1分もしないうちに慌てふためいて居間に戻って来た。

「な、ない。パソコンから俺のアカウントが消えてしまった。本や書類も無くなってる。」

「何を言ってるの。ここは私の家よ。パソコンから薫のアカウントは消したし、あの机には私のものしか置いていないわよ。私にとって不要なものは全部捨てたから。」

父はその場にへなへなと座り込んだ。

「あんまりだ。ネットやメールはどうすればいいんだ・・・。」

「薫がネットを検索しても見たくない記事ばかり目に入って気が滅入るだけよ。現時点で薫に届くメールには返信してプラスになるものは無いわ。薫は当分この世から痕跡を消すぐらいで丁度良いのよ。当分ネットは禁止よ。仕事も無いからデスクは不要。これからは台所が薫の部屋よ。」

「・・・・」

母の言うことに確かに一理はあるが、父があまりにも気の毒で見ていられなかった。

* * *

翌朝起きると台所には父が立っていて、母や僕たちの朝食を作っていた。

「薫、コーヒーはまだなの。」

「薫、早くミルクを取ってよ。」

母と彩花が父に横柄な口を聞いている。妹の彩実は僕と同様、父に気を遣って、自分のことは自分でしようとしていた。

夕方学校から帰宅すると、えんじ色のジャージーを着た小柄なショートヘアの女性が母の横に立っていた。

「こんにちわ。」
と挨拶をするとその女性は恥ずかしそうに俯いた。

「葵、よく見なさいよ。これは薫よ。」
母に言われてよく見ると父だった。えんじ色のジャージーは以前姉が着ていたものだった。髪がチョコレートブラウンの女性らしいショートヘアになっていた。小柄な女性に見えたのは、173センチある母の横に立っていたからだった。

「今日美容院に連れて行ったのよ。レーザー脱毛と眉カットのお陰もあって別人のようになったわ。今の薫を見て枕崎部長だと思う人は居ないでしょうね。人前で声を出さないことが大事だけど。」

「葵、学校はどうだった?俺の事件で虐められたりしていないか。」
父が僕に聞いた。

「うん、みんな僕と口をきくのを避けてるみたいだ。まだ、面と向かって酷いことは言われていないけど、心の中では色々思ってるんだろうな。でも、お父さんは離婚して家から出て行ったと親友の駿介に言ってからは何となく僕に対する皆の反感が薄らいだような気がする。」

「そうか。俺の為に申し訳ないな。」
父がしんみりと言った。

「薫、折角女性っぽい見かけになったんだから、俺は止めなさい。これからは私と言って、女言葉でしゃべりなさい。」

「ま、ま、待ってくれよ。俺じゃなくて私と言うのは了解するけど、女言葉でしゃべるというのは勘弁してくれよ。いくらなんでもあんまりだ。」

「お母さん、お願い、お父さんを虐めないで。もう少し優しくしてあげて。」

「お父さんじゃなくて薫でしょ。それに私は虐めてるわけじゃないのよ。枕崎薫の痕跡を消すことが薫にとっても私たちにとっても望ましいから、そうなるように指導しているだけよ。」

「ごめんなさい。お母さんが虐めてるだなんて言ってしまって。でも、女言葉でしゃべらせるのは可愛そうだから許してあげて。お願い。」

「葵がそこまで言うなら今日のところは女言葉は取り下げるわ。そのかわり丁寧な言葉でしゃべるのよ。私には必ず敬語で話しなさい。もし一度でも男っぽい言葉でしゃべるのを聞いたら、その時点で女言葉にさせるから、それでいいわね。」

「はい、葉山さん、ありがとうございます。葵、私のことを助けてくれて本当にありがとう。」

「薫、なにをぐずぐずしてるの。まだアイロンがけが残ってるわよ。」

母は僕が父の味方をすると苛立った口調になるようだ。父は「はい、葉山さん」と言って、居間の隅でアイロンがけをし始めた。

僕は何となく父のそばに居てあげたかったので、学校のカバンを居間に持ってきてソファーに座って宿題をした。数学の宿題は演習問題が1つだけだった。先生から、教科書に出ているのと同じパターンの基本的な問題なので目を閉じていても解けるようにしてきなさいと言われていた。教科書の同じパターンと思われる問題とその解法を何度も読んだが、なぜそうなるのか意味が分からなかった。もう諦めようかなと考え始めた時、横に母が立って僕を見ているのに気づいた。

「葵、ここからここまでが分からないんじゃないの?」
母は教科書の中の2、3行を指で示した。

「そうなんだよ、どうして分かったの?」

「高校になって成績が急低下する子によくあるパターンだからよ。この部分が分からないということは、その前に習ったことが理解できていないからなのよ。」
母は教科書を数ページ戻って、ある公式を指で示した。

「そうなんだ。そこがチンプンカンプンだったんだ。」

「じゃあ、多分その前のここも分かってなかったんじゃない?」
一つ前のページの赤線で囲まれた部分を指さした。

「お母さん凄い!僕がどこが分からないかを魔法のように言い当てるなんて。」

「葵、初めに分からなくて困った時に、どうして相談してくれなかったの?4月に高校の数学が始まってすぐに習った公式を理解できてないから、その後が全部あやふやになったのよ。私が4月に遡って教えてあげなきゃならないわ。」

「お母さんが数学が得意だなんて知らなかったもの。お父さんはずっと忙しくて勉強を教えてもらえる雰囲気じゃなかったから。」

「薫に聞いても無駄よ。薫は理科系は全くだめだったから。葵は頭が薫に似てしまったのね、可哀そうに。」

「お母さん、薫さんのことを勉強が出来ない人みたいに言うなんて酷いよ。」

「葵、酷くないんだよ。葉山さんの仰る通りなんだ。私は国語と英語の2科目だけで受けられる3流の私立大学の経済学部に入ったんだ。葉山さんはろくに勉強もせずに難関大学に余裕で受かった秀才だから、葵は勉強に関する質問があればお母さんに聞かなきゃだめだよ。」

「お母さんがどこの大学を出てるか教えてくれたことはないけど、難関大学なの?」

「葉山さんは福岡の医大を卒業なさったんだよ。その医大は今は私立大学の扱いになってるけど、国策で設立された医大で、葉山さんが通っていらっしゃった時代は学費は全額免除だった。葉山さんはお医者さんとして生きて行くことも出来たのに、私と結婚する時に専業主婦として子育てに重点を置いた人生を歩む決意をなさったんだよ。私はそれに甘えて来ただけなんだ。」

「薫、そんな卑屈な言い方はしないで。私は好きなことをさせてもらったんだから、薫には感謝してる。これからは産業医として自立した半生を送ることになるけれど、それもある意味で薫が辞職したお陰だもの、うふふ。これからは私が主人として薫を守ってあげる。」

僕は頭がくらくらし始めた。耐震性データ改ざん事件を理由に母が父に取って代わり、今まで父が威張っていたのを根に持っていた母が逆に父を虐めているのだろうと推測していたのに、父と母の会話にそんな雰囲気は全く感じられなかった。元々母の方が頭脳的に遥かに優秀なのに、子育て中心の人生を選び、父が稼いで母が従うという「夫婦ごっこ」をしていたというのだろうか?自分より遥かに優秀で、医者の資格を持っていて、身長が10センチも高い、普通に考えると手の届かない女性を妻として従わせてきたというのだから、男としての父の実力は尊敬に値する。

「本来は私が葉山さんに命令されて当然なのに、20年近くも逆の人生を歩んできたんですものね。」
父はまるで中学生の女子が初恋の先生を見上げるような目で母を見ていた。

「これから正常な関係が始まるのね。なんだかこそばゆい気がするわ。でも薫、あなたは本当に何もできないんだから、これから私の言う通りに一生懸命に努力するのよ。わかってるでしょうけど、少しでも私の言うことに従わない場合は主人である私に家から追い出されてホームレスになるのよ。さあ、次は夕食の支度。ゴボウの剥き方を教えるからエプロンをして台所に来なさい。」

「はい、葉山さん。」
父はエプロンをして嬉しそうに母の後を追った。

僕は父が不幸でないことを知ってほっとしたものの、母が父に対して全く容赦する姿勢が無く、まるで絶対的な主人であるかのように振舞っていることに疑問を感じた。父と母しか知らない特別な理由があるのだろうか。

母は台所で父に料理の仕方を教えて色々指図をした後、僕の所に来て数学を教えてくれた。教科書の1ページ目から、僕が分からないところを丁寧に教えてくれて、夕食の時間になると僕は夏休み前までに習ったのに理解できていなかった点が、すっかり分かるようになった。

「明日、続きを教えてあげるわ。きっと明後日には授業に追いつけるようになるわよ。」

「お母さん、本当にありがとう。お母さんがこんなに賢い人で、僕はラッキーだったな。」

「ごめんね、ラッキーとは言えないわ。葵の頭が彩花や彩実のように私と似ていたら、こんな簡単なことは数分で理解できたのにね。でも葵はお父さんから良いところを沢山受け継いでいるわ。可愛い顔で、素直で優しくて、食べてしまいたいくらいよ。彩花や彩実とは違った幸せな人生を送れるようにしてあげるからね。」

母は僕の肩に手を回して優しい声で言った。僕は姉妹と比べて頭脳レベルが格段に劣ると決めつけられたような気がして傷ついたが、母が僕を愛してくれていることが感じられたので幸せな気持になった。

夕食の後、母に並んで居間のソファーに座りテレビを見ていると、彩実が中学の制服のスカートを持って母に相談に来た。
「ねえお母さん、私のスカートを見て。皺がひどいでしょう。テカテカが益々ひどくなるのは嫌だからアイロンもかけたくないし、新しいのを買ってくれない?」

「もう少しで卒業なんだから今更新しいスカートを買うのは惜しいわよ。毎晩布団の下に敷いて寝なさい。」

「受験勉強で忙しいのにそんな面倒くさいことをしてられないわよ。」

「それもそうだけど・・・。薫、ちょっと来なさい。」

一人台所で立っていた父が母に呼ばれて来た。

「彩実のスカートの皺を伸ばすために、薫の布団の下に敷いて寝てあげなさい。これから彩実は学校から帰ってきたらスカートを薫に渡しなさい。薫は毎朝彩実が起きる前にスカートを部屋に届けるのよ。」

「薫さんに毎日敷いて寝て貰うなんて、私申し訳ないわ。それに、毎朝大人の男性がスカートを届けに部屋に入ってくるなんて嫌よ。」
彩実は話の成り行きに当惑しているようだった。

「彩実が制服を大切にしないからそんなことになるんじゃないか。」
僕は彩実のお陰で父がまたそんなことを言いつけられたことに心を痛めていた。

「なによ、スカートをはいたことがないくせに。制服のスカートは扱いが面倒なのよ。」

「そりゃあ男だからスカートのことは良く分からないけど。薫さんだって同じだよ。彩実が自分で敷いて寝ろよ。」

「私は葵と違って勉強が大変なのよ。薫さんにさせたくないんだったら、どうせ暇なんだから葵が私のスカートを敷いて寝てよ。葵なら毎朝スカートを届けに部屋に来てもどうってことないし。」

「ばーか。」

「彩実のアイデアも一考に値するわね。じゃあ葵、今日からあなたが彩実のスカートを布団の下に敷いて寝なさい。スカートについて知る良い機会だわ。」

「ちょ、ちょっと待ってよ。僕、彩実のでかいスカートなんて触りたくもないよ。」

母は僕の抗議を無視して彩実のスカートを持って立ち上がった。
「葵、来なさい。スカートを布団の下に敷いて寝るやり方を教えるから。」

母は嫌がる僕を連れて僕の部屋に行った。ベッドの上の敷き布団をめくり上げて、スカートをベッドの上に丁寧に置き、プリーツが正しく折れていて皺になっていないことを確かめながら敷き布団を上に乗せた。

「やり方、分かったわね。じゃあ自分でやってみなさい。」
母は折角きれいに敷いたスカートを取り出して僕に持たせた。僕は小さい時から姉妹のスカートを身近に見ながら育ってきたが、こんな風に手に持つのは初めてだった。スカートがこれほど重いとは知らなかった。ズボンよりもずっと広い面積の布で出来ているから当然のことなのだろうが、その重みが僕をドキドキさせた。

「うふふ、彩実のスカートは葵には長すぎるわね。ロングスカートになっちゃうわ。」
母はスカートを僕の手から取り上げて、僕の腰に当てた。

「折れば葵でもはけるかな。ちょっとはいてみる?」
母が意地悪そうに僕に聞いて、僕は耳の付け根まで真っ赤になった。僕は母からスカートを取り返し、ベッドの布団を半分上げて、先ほど教わったとおり、プリーツがちゃんと折られていることをチェックしながら布団を上に乗せた。

「上手ね。彩実も葵みたいに家庭的だったらいいんだけど、期待できそうにないわ。じゃあ葵、毎朝起きたらすぐにスカートを彩実に届けてね。」

その夜、敷き布団を介して僕の身体がスカートに接していると思うと、身体が熱くなって寝付けなかった。僕は普段妹の彩実の裸を見ても何とも思わないし、彩実も気にしないのに、何故彩実のスカートを敷いていることで自分が興奮するのか、自分自身理解できなかった。結局僕は久々にオナニーをしてやっと眠ることが出来た。


 

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「男が妊娠・出産する世界 」性転のへきれき(純弥の場合)

Amazon 男が妊娠出産する世界(性転のへきれき)純弥の場合

新作「男が妊娠・出産する世界 」が性転のへきれき第12弾(純弥の場合)として7月10日にAmazonで出版されました。

主人公(僕)は3人の仲間と卒業旅行に出かけるのですが、旅行の企画と手配は彼女に任せます。彼女は未来シミュレーターによる別世界での体験に関するブログ記事を見かけ、未来シミュレーターの代理店で旅行を手配しました。

3月27日出発の卒業旅行のメンバーと4月1日からの就職内定先は以下の通りです。

  • 大沢純弥(僕) 中堅メーカーの総合職
  • 原口玲央(彼女) 超一流企業の総合職
  • 水口 弦(親友) 証券会社の総合職
  • 沢尻真理(弦の彼女) 商社のOL

彼女が手配した旅行は別の惑星への旅行でした。その惑星では日本語を話していて、一見日本と同じように見えたのですが、主人公達はすぐに根本的な違いがあることに気付きます。その惑星では「根本的な」女性上位で男性は徹底的な支配下におかれています。その原因は、妊娠・出産するのが女性ではなく男性である点にあるようだったのです。

未来シミュレーターシリーズの「危険な誘惑」を読んだ方は未来シミュレーターの仕組みについて詳しくご存知と思いますが、「危険な誘惑」をまだ読んでいない方のために、簡単にご説明しておきたいと思います。

未来シミュレーターは東京都千代田区の秋葉原の本通りから一本西に入った裏通りで、ツクモ電機の手前を左に曲がって少し行った小さなビルの5階にある施設です。受付のマシンに必要な情報をインプットし、その奥の左の入り口から小部屋に入ると、そこから別世界に飛びます。

「危険な誘惑」では、未来シミュレーターが被験者の脳を潜在意識の領域まで隈なくスキャンして、願望、欲望、欲求、妄想などの情報を読み取った上で、被験者(および同伴者)を、その願望が実現された別世界に連れて行きました。

未来シミュレーターは受付のマシンで被験者が乖離度を設定することができます。願望が実現された別世界に行く訳ですが、その別世界が現実世界からどの程度乖離しているかについて乖離度を1から5の範囲で設定できるのです。ちなみに推奨設定は乖離度2となっています。「危険な誘惑」では主人公が乖離度1の旅を2回と、乖離度5の旅を1回選択しましたが、乖離度5を設定した時はマシンから「危険です」との警告が出ましたが主人公が警告を無視して乖離度5を選択したので極度に異常な世界に飛ぶ結果になりました。また、乖離度1でも性の転換が起きたほどですので侮れません。今回のストーリーでは被験者が乖離度4を選択する予定であり、現実世界との乖離度は相当なものとなるはずです。

もうひとつの重要事項としては、別世界での滞在時間があります。別世界での滞在がどんなに長くても、滞在時間が終了すると、元の世界では出発時の数分後に帰着します。別世界での滞在時間は支払う料金によって長くも短くも設定できます。千円で2時間、2千円で4時間、3千円で8時間、4千円で16時間、すなわち「n千円」払うと「2のn乗時間」だけ別世界で滞在できます。例えば1万円だと2の10乗で1024時間(約42日間)、2万円だと2の20乗で約120年間(一生より長い)となるわけです。別世界で死ぬまで過ごしても、その後は元の世界(数分後)に戻ることになります。

「現実からの乖離度を設定した上で、近未来の別世界をリアルに疑似体験させてくれる」のが未来シミュレーターということになりそうです。他人事のように申しましたが、作者自身、まだ未来シミュレーターについて真相を十分には知らないのです。

未来シミュレーターは「被験者と同伴者の脳内だけで体験される架空の世界」であるというのが、第1弾の「危険な誘惑」を読んだ上での認識でした。つまり、リアルではない想像だけの世界、と思っていました。しかし、今回の被験者は未来シミュレーターの実態がそのような単なるデジタル・システムではなく、遥かに複雑かつ壮大でリアルなものであるかも知れないということを実感することになるのです。

 

【試読コーナー】

第1章 お手軽な卒業旅行

「ねえ、3月末に卒業旅行に行かない?できれば海外に。」
そう言いだしたのは玲央だった。今日はもう3月15日で、大学生という自由な身分もあと2週間で終わりだ。

玲央は僕の彼女で、僕の親友の弦と、その彼女の真理を含めた4人は大学入学直後から何かにつけて一緒に行動している仲間だ。僕、大沢純弥は4月1日から江東区にある中堅メーカーの社員になるし、他の3人も都内の企業への就職が内定している。

僕の彼女の原口玲央は4人の中で断トツに成績が良く、僕や弦が留年せずに一緒に卒業できるのは玲央のお陰と言っても過言ではない。玲央は身長167センチの長身の美人で、4月には日本を代表する超一流企業に総合職として就職予定のエリートウーマンだ。玲央という名前は漢字で見ると女の子の名前に見えるが、アルファベットで書くとLEOで、男子でしかありえない名前だ。僕がそのことを玲央に冷やかすと、「純弥はジュンヤじゃなく、アヤミと読む場合の方が多いこと知らなかったの?普通、男なら純也と書くわよ。今日からアヤミちゃんと呼ぼうかな。」と反撃した。

僕は玲央に頭脳的に遠く及ばないだけでなく、身長も4センチ低い163センチで、玲央に勝る点といえば視力がマサイ族並みに良いということぐらいだが、玲央は僕を見下すこともなく、2人は結婚を前提に付き合う仲だった。

玲央と僕の組み合わせとは対照的に、水口弦と沢尻真理のカップルは大柄で男性的な弦と、女性らしい真理の組み合わせだ。弦は証券会社への就職が内定しており、真理は容姿を武器に六本木の商社に一般職として入社予定だ。

「僕は明日から福島に帰省して3月25日に高校の同窓会があるから、東京に戻れるのは3月26日になるよ。海外は無理だな。」
僕は玲央に率直に答えた。

「26日以降なら私も大丈夫よ。入社前に日焼けしたくないからその点だけは配慮してね。」
都内の実家に住む真理が僕の次に答えた。真理は肌をベスト・コンディションにして4月1日のOL初日を迎えたいのだ。

「俺も26日以降は空いてるけど、4月1日の出社前日はゆっくりしたいな。30日までに帰れるようにしてくれる?」
と弦が最後に答えた。

「じゃあ3月27日と28日の2日間を私に預けてくれる?予算は1人1万円で海外旅行を手配してみるから。」
玲央の話に耳を疑った。

「1人29,800円の韓国旅行というのは聞いたことがあるけど、1万円は無理だろう。羽田発の深夜便で釜山に飛んで、空港の食堂でビビンバを食べてすぐに早朝便で羽田に戻るとか、ひどいツアーじゃないの?燃料サーチャージで別途2万円取られるとか・・・。」
弦のコメントに、真理と僕も「うんうん。」と頷いた。

「深夜発の早朝着でも楽しいんじゃない?卒業前の地獄ツアーとして一生思い出に残るし。」
僕が言うと弦と真理も賛同した。玲央が必ず1万円で仕上げると自信をもって約束し、結局僕たちは財布から1万円札を出して玲央に預けた。

「じゃあこれから手配に取り掛かるわ。3月27日の集合場所とかはメールで流すから。」
玲央にまかせて僕たちは卒業旅行を楽しみに待つことになった。

「卒業旅行手配完了」と題したメールが玲央から届いたのは3月20日だった。

「海外旅行が手配できました。3月27日正午にJR秋葉原駅の電気街口の改札をAKBカフェ方向に出た所に集合してください。

出発日:3月27日
帰着日:3月28日
行き先:サプライズツアー
業者名:未来シミュレーター
服装:カジュアル、着替えは不要
その他:パスポート不要、手ぶらでOK
費用:追加費用は一切ありません。

騙されたと思って気軽に来てね!玲央」

海外旅行が手配できたと言いながらパスポート不要と書いてある。集合場所も空港ではなく秋葉原ということは、隅田川で遊覧船に乗るのをシャレて「海外」と言っているのかも知れない。それとも、深夜バスツアーで「海外」という名前の安ホテルに行って宴会・宿泊するという企画ではないだろうか。いずれにしても人を驚かせるのが好きな玲央の考えそうなことだ。しかし、着替えが不要と書いてあるのが腑に落ちない。女性なのだから、ホテルで1泊するなら「下着のみ持参」とでも書くはずだ。1万円ということは、深夜バスで大阪に行って、翌日の深夜に長距離バスで東京に帰るなどという地獄のバスツアーかも知れない。玲央のように体力の有り余っている人種は、時々とんでもない行動を平気でするから、ついて行くのが一苦労だ。とにかく、今となっては玲央のシャレに乗っかるまでだ。

僕は玲央のメールに書いてあった通り、3月27日正午の集合時間の10分前にJR秋葉原駅の電気街口に手ぶらで行った。白いスラックスと、ラコステのポロシャツに薄手のジャケットという軽装だった。

既に玲央と真理が来ていた。玲央は手ぶらで、白っぽいジーンズ・パンツ、グレーのティーシャツの上にシンプルなジーンズ・ジャケットというボーイッシュな服装だ。いつもと同じように格好良い玲央を前にして僕の胸がキュンとなった。

真理はパフスリーブでチェックのコンビワンピースという真理らしいフェミニンな装いだった。どう見ても強行日程のツアーに行く格好ではなく、真理も玲央の企画を何かのシャレと受け止めていることが窺える。

弦はダークグリーンのコットンニットのセーターとジーンズを着て、約束の時間の15秒前に姿を現した。

「全員時間通りに来てくれたのね。じゃあ、これから説明会をしてから出発よ。」
玲央はすぐ前の角のビルの右手の階段を上がって2階のダイニングバーに行き、僕たちは後を追った。

「ランチ代は1万円に含まれているからご心配なく。それに、ソフトドリンクは飲み放題だから。」

僕たち4人は窓際の奥の席に陣取って、日替わりランチを注文した。

「ねえ玲央、何時にどこから出発するの?こんなところでゆっくりしていて大丈夫なの?」
真理が僕たちを代表して質問した。

「出発は2~3時間後で、出発する場所はここから歩いて5分ぐらいかな。中央大通りを超えた1筋目を右に曲がって、ツクモ電機の手前を秋月電子の方向に左折したところの左側にあるビルの5階から出発するのよ。」
玲央が理解不可能な回答をした。

「浅草まで歩いて隅田川の観光船に乗るか、深夜バスに乗るのかと思ってたよ。」
僕が言うと、弦が「俺もそう思ってた。」と言った。

「秋月電子の手前の道は知っているけど、駐車場は右側だよ。左側には小さいビルが並んでいるだけだと思うけれど。」
そこで受付をして、右側の駐車場に停めてあるレンタカーでどこかに行こうという趣向だろうか。

「まあ、私の説明をよく聞いてちょうだい。
飛行機、バス、船、自動車などの輸送手段は使わずに、その5階にある未来シミュレーターの施設から別の惑星までテレポートするの。その惑星で旅行を楽しんだ後で、またテレポートで同じ所に戻って来るのよ。今日の4時に出発する場合、帰還は今日の4時5分になるわ。その後で、打ち上げ会をする費用まで含めて1万円。28日に帰還と書いたのは旅行らしく見せるためで、実は今日の夕方に解散するというスケジュールになってるわ。」
玲央の話を聞いて3人に落胆の表情が広がった。

「じゃあ、未来シミュレーターとかで5分間旅行の夢を見て、その前後に食事をするだけという企画なのか。」
弦がつぶやいた。

「地球の時間で言うと5分後に帰るわけだけど、テレポート先の惑星では何日も滞在できるのよ。私たちは相当長い旅行を体験するけれど、帰ってみれば5分しか経っていない、ということになるの。」
玲央の真剣な表情を見ると、冗談を言っているのではないことが分かった。もし、玲央以外の人が、特に僕か弦が同じことをしゃべったとすると「バカなことを言うな、お金を返せ」と言われるのが必須の内容だった。

「いいじゃない。他の誰も聞いたことが無いような卒業旅行の思い出を4人で作るんだから。」
真理の言葉に「そりゃそうだけど」と弦が賛同し、「玲央に任せたんだからついて行くだけだ。」と僕が続けた。

「でも、その未来シミュレーターというのは、一体どこで見つけたの?」

「ネットで、未来シミュレーターによる不思議な体験についての記事を読んだのよ。秋葉原のビルの中にあるタイムマシン的な装置で別世界に飛んで40日後に帰って来たという話なんだけど、ある程度の希望条件をインプットすると、その条件に合う世界に移動するんだって。その人は設定を間違えたばかりに首輪をつけられて犬のように鎖につながれたりして大変な経験をしたらしいわ。

これは面白いと思って、ネットで一生懸命検索した結果、未来シミュレーターの代理店のウェブサイトが見つかったのよ。メンバーズサイトになっていて、そこに入るパスワードを見つけるのに苦労したけど、何日目かに入ることができたの。英語のサイトだけどね。

それで希望条件をインプットして、クレジットカードで未来シミュレーターの料金と代理店手数料の合計で24,000円を払ったら、このカードが届いたの。」
玲央は財布から深いロイヤルブルーの色をしたプラスティックの薄手のカードを僕たちに見せた。小さな文字で出発場所として東京都千代田区外神田1丁目の住所が記されていた。

「もし嘘だとすれば手の込んだ詐欺だな。ところで玲央はどんな希望条件をインプットしたの?」
玲央の話をまだ信じていない弦の言葉を聞いて、玲央は少し腹を立てていた。

「万一詐欺だと判ったらその24,000円は私が負担するわよ。」
と玲央が言ったので、僕は、
「僕たちは玲央に任せたんだから、どうなっても4人全員の責任だよ。」
と玲央をサポートした。

「希望条件は、漢字4文字よ。内緒にしておきたかったけど、どうせその惑星に着いたら分かるから教えようかな。あててみて。」
玲央が元気を取り戻して言った。

「漢字4文字か・・・。わかった、美男美女、じゃない?」
「ブブー、はずれ。」
「無病息災、てなことないわよね。」
「ないない。」
「快眠美食?」

「ゲスするのは無理ね。じゃあ教えてあげる。女性上位よ。女性が上位な世界という希望条件をインプットしたの。」

「げえっ・・・・。上司が全員女性だけの会社に勤めるってこと?」
と弦。

「夫婦の力関係が逆みたいな世界かしら?」
と真理。

「僕と玲央は普段から女性上位だから、同じことだけど。」
と僕が言うと、残りの3人が「そりゃそうだ」と笑った。

「具体的にどのように女性が上位なのかは行ってみないと分からないわ。私たち来週には企業という男性上位の社会に飛び込むわけじゃない。私もある程度は覚悟が出来ているけど、就職する前に、逆に女性が上位の社会を経験できれば面白いと思ったのよ。別に純弥に対して偉そうにしたいというわけじゃないわよ。そんなこと、その気になればいつでもできるから。」
玲央の発言の最後の部分が少し引っかかった。

「滞在日数は何日なの?」
真理が質問をした。

「2の6乗時間で64時間、つまり2日と16時間のはずなんだけど、説明を読んでも良くわからなかったのよ。料金計算が1人当たりなのか、4人分なのかによって計算が違うんだけど、説明は難しい英語だし、結局よくわからなかったの。」
玲央にとって難しいことなら、僕たちに分かるはずがない。

「そこで何日いても、同じ日に帰れるんだからどうでもいいんじゃない。サプライズということで。」
弦の言葉に全員が同意した。

ウェイトレスが日替わりランチを配り、僕たちはコーヒーと紅茶だけの飲み放題バーに何度も足を運びながら話をした。女性上位がどんな形で盛り込まれた世界に行くのか、ということがメインの話題になった。

「パートナーの男性の毎日の服装は女性が決めて、男性は従わなければいけないの。私は弦にショートパンツで白いストッキングの王子様の恰好をさせるつもりよ。」
真理が想像の世界について語った。

「純弥には毎日ヒラヒラのスカートをはかせるわ。それもノーパンにして、純弥がエッチなことを想像したらスカートの真ん中がピーンと前に立ってバレるようにするの。面白いでしょう。それから、赤ちゃんが産まれたら、純弥のオッパイが大きくなって、家事と子育ては純弥がするのよ。私は命令するだけ。想像するだけでも楽しいわ。」

女性上位のアイデアに関する発言は玲央と真理に偏りがちだった。僕と弦には陳腐なアイデアしか浮かばず、例え突飛なことを思いついてもアイデアとして提案するのは恥ずかしい気がする。男性2人は少しマゾヒスティックな感傷に浸りながら聞き手に回った。玲央は発想が豊かなだけに、次から次へと恐ろしいアイデアを思いついては披露した。

ソフトドリンク飲み放題に時間制限は無かったが2時半を過ぎると、ウェイトレスが早く出ていって欲しそうなそぶりを何度も見せるようになり、僕たちは3時過ぎにそのダイニングバーを出て中央大通りを渡り、東京ラジオデパートの前を通って秋月電子の方向に歩いて行った。

ツクモ電子の手前を左折して少し行った左側のビルの狭くて急な階段を5階まで上った。ギャラクシー・コスモスの真上にあるそのショップはいたってシンプルな造りで、ロイヤルブルーに白抜きで「未来シミュレーター」と書いたロゴのあるガラスの自動ドアを通ると、正面に銀行のATMのようなマシンがあった。マシンの左側に「入口」と表示された自動ドアがあり、右側には「出口」と表示された自動ドアらしきものが見える。無人のショップのようだ。

「会員番号を入力するかサービスカードを挿入してください。」
という女声の合成音声が聞こえて、カードの挿入口に赤いランプが点滅した。

玲央は代理店から送られてきたロイヤルブルーのプラスチックカードをそこに挿入した。すると、マシンの画面に「あなたの会員番号は19xxxxxxLHです。緑の点滅をご覧ください。」と表示された。画面の上の緑の点滅を見つめると、約2秒後に点滅が消えて画面に「虹彩の登録が完了しました」と表示された。

「事前登録により乖離度は4に設定されています。変更を希望しますか?」
と画面に表示され、玲央が「いいえ」のボタンをタッチした。

「事前登録により女性上位の世界が条件として設定されています。変更を希望しますか?」
と画面に表示され、玲央が「いいえ」のボタンにタッチした。

最後に「料金は事前決済ずみです。乖離度4のサービスが13.5単位提供されます。左の入り口からお入りください。」と表示された。

マシンの左側にタッチ式の自動ドアがあり、「開く」と書かれた場所をタッチするとドアが開き、4人が中に入るとドアが閉じた。それは真ん中に長いソファーがあるだけの小部屋で深いロイヤルブルーの単一色で塗装されていた。入口のドアだろうと推定される接合部分があることは分かったが、出入り口も何もない、約2畳の完全に閉鎖された空間だった。

奥から真理、弦、玲央、僕の順にソファーに腰を下ろした。座る以外の選択肢は思いつかなかった。その部屋は無機質で誰かに見られているような感覚は一切なく、僕たちは何かが起こるのを待った。

段々と4人の緊張が高まるとともに、部屋が暗くなってきた。ドヴォルザークの新世界を編曲した交響曲が静かに流れ始め、部屋が真っ暗になった時点では身体全体が揺さぶられる程の大音量になっていた。バイオリン奏者の一人一人がどこにいるかが認識できるほどのリアルな音響と臨場感だった。オーケストラの指揮者の後ろに奏者と向かい合わせにソファーが置かれているような気がした。

僕の頭の中に引っかかっていた不安や期待を大音響が跡形もなく吹き飛ばし、コントラバスの響きが背骨を震わせ、木管楽器から流れるメロディーが僕の身体全体と共鳴した。それは至高の安らぎの空間だった。これを味わうだけでも玲央について来た価値があったと思った。玲央がダイニングバーで言っていた女性上位の世界のイメージが突然頭に浮かび、脇の下を擽られるような感触を覚えた。隣に座っている玲央を見ると、丁度玲央も僕を見て、2人で笑顔を交わし、僕たちはつないだ手をしっかりと握り合った。

まもなく、軽いしびれが全身を包み、身体が空中に浮いている感覚があった。完全な漆黒の闇の中に、何もかもがきらきらと光り輝いていた。

クライマックスの後、音量が徐々に低下し、しばらくすると静かになった。それは耳の中のキーンという音が大きすぎると感じられるほどの完全な静寂だった。僕たちは静かな暗闇の中でしばらく放心状態に置かれた。

その時、真っ暗だった空間から僕たちは一瞬にして明るい日差しの中に投げ出された。気がつくと、そこは切り立った渓谷の底にある河原で、僕たち4人は川岸の小石の上に横たわっていた。

「ここはどこでしょう?本当にテレポートしたみたいよ。」
真理の言葉を聞いて僕たちはお互いの存在を確認し顔を見合わせた。

「目的地は地球外の惑星のはずだよね。どう見ても長野県辺りの山の中じゃないかな。日本みたいな気がするけど。」
と僕は周りの景色を見た印象を口にした。

「やっぱり、あの代金では別の惑星は無理だよね。」
と弦。

「日本アルプスのどこかの山の谷間で、宇宙旅行したつもりになれってことかな。意外と楽しいかも。」
玲央が言った。

そこは切り立った崖に挟まれた30~50メートルの渓谷で、深緑色の淵が延々と続いていた。僕たちの居る川岸は赤褐色の光沢のある石が敷き詰められたような平坦な場所だったが、上流方向も下流方向も数十メートル先で川幅が広がり、川岸は岩場になっている。川伝いにそれ以上先に行くことは不可能だ。この谷間から脱出するには、山側の斜面を登るしかない。

「それにしても美しい渓谷ね。深い緑と赤褐色と、葉っぱの緑が、透き通った空気の中で輝いている。私は登山好きな父に連れられて百名山の半分は登ったけれど、こんな色彩の渓谷はどこにも無かった。本当に、ここは地球じゃないかも知れないわね。」
と玲央が言った。

「地球じゃなくて、別の惑星とすると、もし無人の星ならこの谷底からどこに行けば良いんだろう?食料も無いし、もうすぐ日が暮れるよ。地球外の猛獣が襲ってきたらどうする?」
と僕。

「そうだな。この裏の崖を上って山中で夜を迎えるのは危険だ。今夜はこの河原で過ごして明日の朝早くここから脱出しよう。」
実戦モードに入るとスポーツマンの弦は力になりそうだ。

「脱出して、どこを目指すの?もしここが地球じゃなくて私たちだけしかいない星なら、どこまで行っても山や森が続くんじゃないかしら?ここならまだ水があるだけマシじゃないかしら?」
と玲央。

「雨で増水したらどうするの?それに、食べるものが無くなったら、ここで何を待つの?」
真理の発言は僕の頭にあった心配と同じだった。

僕たち4人の頭の中に「死」という言葉が浮かび、僕たちはブルっと震えた。僕たちは手持ちのお菓子を出して1か所に集めた。食べられるものはスナックとチョコレートだけで、今夜分けて食べたらそれでおしまいだ。釣り道具は無いが、川の中に魚や蟹など食べられるものがいないかと目を凝らしたが、生き物は全く見当たらなかった。そういえば、昆虫も、ハエも、蚊も、鳥も全く見ていないことに気づいた。鳥や動物の鳴き声も聞こえず、植物以外の生命体の気配は無かった。少なくともこの河原とその周辺には。

弦のジャケットのポケットにタバコとライターが入っていたのが救いだった。僕たちは枯れ枝を集めて積み上げた。今夜、猛獣を遠ざけるために火を燃やしておきたかった。もし夜になって気温が下がれば暖を取るのに必要だ。

でも誰か一人は見張りをした方が良い。じゃんけんで順番を決めて、2時間ごとに次の人を起こして見張りをバトンタッチすることになった。

日が暮れて、たき火を囲んでスナックとチョコレートを食べながらキャンプファイヤーの気分で楽しく盛り上がろうとしたが、共通の気がかりな話題に行きついた。明日、この裏の崖の上には一体何があるのかということだった。考えても仕方のないことだ。ぐっすりと寝て体力と気力を取り戻すのが一番だ。

一人目の見張りは僕だ。一人、二人と寝息を立て始めた。皆、疲れているからこんな場所ででも寝られるのだろう。僕は全く眠くない。ちゃんと見張り番をしよう。

そう思ってから1分もしないうちに、急に睡魔に襲われて僕はあっという間に眠り込んでしまった。


危険な誘惑・MTF版(犬になった女)性転のへきれきバージョン

危険な誘惑・MTF版(犬になった女)性転のへきれきバージョン(凛子の場合)が6月25日に出版されました。

危険な誘惑MTF版

これは「危険な誘惑・未来シミュレーターシリーズ」のMTF版です。

原作の「危険な誘惑」は未来シミュレーターシリーズの第1弾で「凛子」という28歳のOLが主人公の作品です。

原作は女性の感覚により描かれた官能性とM度の高い小説ですが、ジェンダー・スワップが絡んでいるので、性転のへきれきの読者の方にも十分楽しめる作品だと思っていました。

しかし、性転のへきれきを全作品読んだという愛読者の方から、「あくまで凛子という女性の視点で書かれており、女性の友人が男性に性転換する小説なので、感情移入できなかった。面白いストーリーなのに残念だ。」とのコメントを頂きました。他にも似たような反響がありました。

そこで、危険な誘惑のMTF版を書き下ろし、「性転のへきれき・凛子の場合」として出版したのがこの作品です。「性転のへきれき」の従来の読者の皆様に感情移入して読んでいただける内容になっています。

主人公の凛子が凜太郎に置き換わったことで、前半の凛子と優樹菜の濃厚な変形レズシーンが成立しえなくなった結果、18禁ではなく、一般書としての出版となりました。

若いサラリーマンの凜太郎と恋人の優樹菜が奇妙な世界に送り込まれて、極限的な状況の中で一生忘れることのない体験をするお話しです。

 


衝撃の新作「危険な誘惑」は未来シミュレーター・シリーズの第1弾です

未来シミュレーター・シリーズの第1弾「危険な誘惑」は2015年5月26日にAmazonで発売されました。危険な誘惑(未来シミュレーター)

【危険な誘惑のあらすじ】
あなたのファンタジーや深層心理にある願望がひとつひとつ実現されたら・・・・。

主人公の28歳のOLはある日、未来シミュレーターと出会い、自分の小さなファンタジーがコミカルな形で実現された世界に飛び込みます。

それは親友の女性を巻き込む結果を招き、2人の女性は新たな世界に送り込まれてしまいます。

その奇妙な世界は主人公の潜在意識に潜んでいた願望が危険な形で実現された世界でした。

ストーリーが進むにつれて、未来シミュレーターによって主人公が送り込まれる3つの別世界と現実の世界は境界が薄れ、重要度の差がなくなってきます。

最後に送り込まれる世界で、主人公は完全に未経験でチャレンジングな状況に置かれますが、しっかりと前を向いて未来へと羽ばたきます。

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危険な誘惑は28才のOLの目を通して、女性にとっての快感とは何かという質問に対する答えを究極まで問い続ける、新しい形のシリアス・エンターテインメント作品です。

秋葉原を舞台として軽快なタッチで始まるストーリーを楽しく読み始めると、あっという間に未来シミュレーターが展開する世界に引きずり込まれてしまいます。

あなたは、どんな現実よりも現実的なその世界に足を踏み入れると、身動きできなくなってしまうことでしょう。

元々Mな女性読者を想定して書かれた作品ですが、男性読者の心に潜む願望を思わぬ方向に開花させる可能性がある衝撃の作品です。

ストーリーの後半では性同一性障害の本質が白日の下にさらされます。

官能小説として書かれた小説ではなく、シリアスな作品ですが、結果的に性に関する記述が多くなったためAmazonではR18扱いでの登録といたします。

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